次世代FPS「Crysis 2」開発者&シナリオライター特別インタビュー
ナノスーツ2、謎の私兵、マルチプレイ、3D対応など、気になる話が盛りだくさん!
インタビューは海外のメディアとの合同で行なわれた |
米Electronic Artsは現地時間の4月6日、米国ニューヨークにて「Crysis 2」のワールドプレミアを行なった。「Crysis 2」はドイツのCrytekがWindows/PS3/Xbox 360向けに開発している新世代のFPS。「Crysis」シリーズ最新作であると同時に、いまや世界を代表するゲームエンジンの1つとなった「CRY ENGINE」の最新版「CRY ENGINE 3」の初実装タイトルとして、全世界のメディアから高い注目を集めた。
本稿では、プレミアの翌日に行なわれたCrytek CEO Cevat Yerli氏と、シナリオを担当する小説家のRechard Morgan氏へのインタビューの模様をお伝えしたい。インタビューはイタリアとスペインのメディアとの合同で、時間的にも非常に短かったため、細かい部分の質問はできなかったが、作品に対する想いや哲学をたっぷり語っていただいた。
このため内容的には技術的なことよりも、むしろ作品の見どころや製作秘話が中心になっている。両氏の言葉から、少しでも「Crysis 2」の面白さを感じてほしい。
■ ニューヨークは感情的にも技術的にも「Crysis 2」の舞台にふさわしい
CrytekのCEO、Cevat Yerli氏 |
ニューヨークの摩天楼が高低差の激しいアクションを提供してくれる |
「Crysis 2」の舞台は大都市ニューヨークだ。これまでの作品はすべて南方の架空のジャングルが舞台だっただけに、大きな方向転換となる。Cevat Yerli氏はニューヨークを舞台にした理由について2つ挙げてくれた。
1つは、「ニューヨークが世界の対立を象徴している非常にシンボリックな都市で、それをエイリアンとの戦いという形で置き換えることができるから」というものだ。「Crysis」のローンチ後のフィードバックで、ストーリーやキャラクターの弱さを指摘する声が多く寄せられた。そこで、そういった部分を強化するために人の多い場所を舞台にするというアイデアが生まれ、多くの都市が候補に挙がった。その中で、最も面白いストーリーと、面白いプレイを提供できる場所としてニューヨークが選ばれたという。
舞台は主にマンハッタンだ。ニューヨークへはスタッフとともにYerli氏も訪れ、そこでどの場所がかっこいいのかを聞いて回り、キーロケーションを選んだ。その後、その場所は破壊してもいいのかどうかの法務的な検討を行ない、最終的に問題のないものが決定された。
同時多発テロの舞台にもなったニューヨークは、世界情勢の確執や利害関係を象徴する街でもある。そういったニューヨークのイメージが、「Crysis 2」のメッセージ性に合っているというのが主にストーリー面からの理由だ。
もう1つは、「CRY ENGINE 3」のエディターツールである「Sandbox 3」の能力を表現するためにニューヨークという都市構造が適していたというテクニカルな理由だ。「Crysis」では多少の高低差があったものの基本的には前後左右という2Dのマップが採用されていた。それが「Sandbox 3」では比較的手軽に3Dマップを作れるようになったため、吊り橋や高層ビルなどが多いニューヨークの景観は、前後左右上下という3Dマップを表現するのにうってつけというわけだ。
平面のマップに高さを足すのは「簡単そうに聞こえるけれど、とても大変」(Yerli氏)なのだそうだ。「例えば、地上で相手を撃った時、ビルの屋上にいるキャラクターが仕返しのためにビルを下りてくる」)、そういう三次元のAI挙動を実現するために実に1年半もの期間を費やしたという。
また、物理演算によって壊れるマテリアルについても、以前は木や草という有機物だけだったが、「Crysis 2」ではガラスや鉄まで壊す。しかもただ壊れるだけではなく、変形したり、タイルがはがれたりといったシミュレーションも可能になっている。
そんなニューヨーク マンハッタンでどのようなアクションが楽しめるのか、というのもプレーヤーにとっては気になるところだ。「Crysis 2」は、「3D空間の中で自由度の高いプレイを提供している」とYerli氏。「Crysis」の後半部分や「Crysis Warhead」は1本道のゲームだった。Yerli氏は「Crysis」ではユーザーがスピードに固執して選択することを良しとしなかったと言う。この場合のスピードは、ユーザーが先を急ぐプレイをするといった意味だろう。
「Crysis 2」では、もちろんスピードも保障するが、選択することで得られる楽しさを提供していくという。この選択は二次元だけではなく三次元方向への選択もあるということだ。どうやら「Crysisi 2」ではニューヨークという箱庭を縦横に移動して、プレーヤーが道を選べるようなシステムになるようだ。
■ すべてのプラットフォームで最高の品質を届けるという、負けられない戦い
「すべてのプラットフォームで最高級の品質を提供するという期待に応えるため戦っている」とYerli氏 |
「CRY ENGINE 3」は、シリーズ初となるマルチプラット展開を行なうところが大きな特徴となっている。「Crysis 2」はWindows、PS3、Xbox 360の3プラットフォームで発売が予定されているが、その中でも「PS3の開発は難しい、だがそれをするだけの価値はある」とYerli氏は言う。Yerli氏自身もPS3のファンで、「PS3のパワーを引き出すことが使命だと考えている」のだそうだ。
Crytekでは「どのプラットフォームで何ができるか、ということを考えない」代わりに、「どうすれば表現できるか」を考える。「自分の頭にリミットはかけない」と語るYerli氏は、コンソールでの開発の難しさを「戦争だ」と表現した。
現在のPCの能力ならできて当然となる表現でも、全く同じレベルのものをコンソールで表現するのは難しく、「Windows版が1番よく見えるのは間違いありませんが、それぞれのプラットフォームで1番良いものを作るのがゴールです」と言う。ただしその目標は「できるかどうか」というものではなく「どうやって達成するか」という。達成できなければ負けで、その戦いが「戦争」というわけだ。
また、Windows版ならパッチやアップデートで素早く対応することができるが、コンソールの場合は買った直後のインプレッションが重要だと言い、甥っ子がコンソールのゲームを第一印象でそのゲームを嫌いになってしまい、すごい開発費がかかっているんだと説明しても「嫌なものは嫌」で終わってしまったのだと、体験談を紹介した。
■ 「ナノスーツ 2」はプレーヤーが自分好みにカスタマイズ可能
ナノスーツの強化に使うアイテムが何かは、言葉を濁して教えてくれなかった |
「Crysis 2」では、主人公が着る「ナノスーツ 2」で同時に2つの機能を使えるようになる。使える能力は防御力を高める「アーマー」、力を強くする「パワー」、姿を隠す「ステルス」のほか、前作にあった「スピード」がなくなり代わりに「タクティカル」というモードが導入されている。どうやらスピードやジャンプといった要素は「タクティカル」の中に含まれているようだ。
これらを組み合わせることで「もっとゲームに戦術を与えたい」とYerli氏は言う。さらに、今作ではナノスーツを成長させることもできるようになった。「アップグレードシステム」というこの成長要素は、「あるものを集めてアンロックさせることで、ナノスーツの機能を強化することができる」というもの。
強化する能力は自分で選ぶことができるので「ナノスーツはさらにパーソナルなものになるでしょう」という言葉通り、自分だけの性能を持ったナノスーツを作ることができるようになる。今作ではプレイを「プレーヤーに選択させることを意識して作っている」のだそうで、この成長要素も選択肢の1つとなるわけだ。
スーツの機能を複合的に使うことになるため、操作は前作よりもわかりやすくシンプルなものへと変更される。前日のムービーでは、前作にあったホイール状の選択画面は出てこなかったので、新たなUIが用意されているのだろう。
■ 敵はエイリアンと謎の私兵。マルチプレイも現在製作中
プレミアの会場にも飾られていた謎のスーツ姿の私兵は、プレーヤーを見つけると襲ってくる |
本作にはエイリアン以外にも、謎の黒いスーツを着た敵の一団が現われる。彼らは前作の敵だった北朝鮮軍ではなく、誰かが雇った「私兵」だ。「私兵」たちは、エイリアンと戦っているが、主人公を見かけると襲ってくる。プレーヤーは、なぜ攻撃されているのかを考え、究明していくことになる。
「Crysis 2」の世界で、人間は善でも悪でもない。「人間はなるべくリアルに描こうとしている」ので、中には自分たちが生き残るために他人を攻撃する側につく人間もいるかもしれない。
気になる主人公に関しては「ノーコメント」で、前作のキャラクターたちがどの程度ストーリーに関わってくるのかは、まだ不明だ。
マルチプレイについては、「全く新しい経験になるだろう」とYerli氏。プレイ可能人数などは「ノーコメント」。「Crysis Wars」のように本編から切り離した別のゲームになるのかどうかも「ノーコメント」だった。
製作に関しては、Crytek自身は最高のシングルプレイゲームを目指しており、マルチプレイ部分は実績のあるスタジオに外注しているとのことだ。外注先を探していた時に、ちょうど閉鎖するスタジオがあり、そこの200人程のスタッフと面接をしてやる気と経験があることを確認し、一緒にやることになったのだという。現在は70名のスタッフがマルチプレイ部分の開発にあたっているのだそうだ。
3D対応をするのかという質問には直接答えず、「いい意味での驚きを用意している」と含みのある答えをしていた。
■ 破壊されたニューヨークで、勧善懲悪ではない物語を
SF小説家でシナリオを担当しているRechard Morgan氏 |
ニューヨークのあちこちにある有名な建物や場所が、破壊と殺戮の舞台となる |
シナリオを担当したRechard Morgan氏は、ゲームのストーリー部分の話だけでなく、外部からゲーム業界に関わる立場から意見を語った。「ゲームは物語を伝える新しい方法」というMorgan氏は、「Crysis」の印象を訊かれ、「どんなゲームのストーリーも僕にとっては興味深いが、その中でもSFを題材にした『Crysis』はナノスーツやハイテク機器、エイリアンに興味をそそられた。僕ならこれを使って面白い話を作れると思った」と語った。
小説は真っ白な紙を渡されるところから始まるが、続編となる「Crysis 2」にはすでに決まった設定がある。「用意されたものをいじるのを好まない人もいるだろうが、すでにあるものを使って何かを作ることは非常に挑戦的でもあるし、僕にとっては楽しい仕事」なのだそう。
ストーリーを作るにあたって、氏が強調したのがハイカルチャーとポップカルチャーの融合だ。ハイカルチャーは文学作品など文学的に高尚なイメージ、ポップカルチャーは悪く言えば低俗なイメージの文化で普段は混じりあうことがない。ゲームのシナリオはポップカルチャーだが、最初から低俗なものだと決めつけていては何も生まれない。「ハイカルチャーの持っている価値を、ポップカルチャーの中に取り入れる努力をせずに、たかがゲームというスタンスではそこに価値を生み出すことができない」とは、いかにも小説家らしい言葉だ。
舞台となるニューヨークについては「カタストロフィの美」を語った。「ニューヨークは美しい街だが、破壊されたニューヨークにも、みんなが散策したくなるような美しさがある」とMorgan氏。
物語のテーマは「力を得るにはそれなりの代償が伴う」という事で、ストーリーは単純な勧善懲悪ではない。Morgan氏はストーリーを説明するときに、「complex」という単語を多用した。ストーリーには複雑さが必要で、そのために多くの疑問をいれる。その手法を「グレーストーリーテリング」と呼んだ。
こいつは誰なのか、これは何のためなのかという部分を最初から説明せず、謎のままプレーヤーに提示することがゲームのシナリオには必要で、登場人物がどうなるのか次の展開が気になるようなストーリーにしなければならない。Morgan氏によると、既存のゲームでは「F.E.A.R.」(Monolith Productions)や「ハーフライフ」(Valve Software)にその手法が活かされている。また、好きなストーリーは「アンチャーテッド 2」(SCE)だそうだ。
■ レベルデザイナーと緊密な関係性を作りつつ、最後まで調整する
「もとになるストーリーが面白ければ、どう形を変えても面白い」とMorgan氏 |
物語のプロットは昨年の9~10月ごろに作り上げ、現在はそれを本格的なスクリプトに起こす作業を行なっている。2010年中は、Crytekのあるフランクフルトとレコーディングスタジオのあるロンドンへ行く以外は、ほとんど家にいることになりそうだ、という忙しい毎日だ。
忙しさの理由は、氏がレベルデザイナーと非常に密な連携をとっているためだ。 アメリカのゲーム論評に「ストーリーテラーが月にいて、レベルデザイナーはマリワナ海溝の底にいる」という言葉があるのだそうだが、morgan氏もこの意見を支持すると言う。「レベルデザイナーとストーリーテラーは言い争うのではなく協力すべきだ」というわけだ。
Morgan氏はCrytekと協力して、たたき台となったストーリーを、ゲームデザインに合うよう修正している。書いているものは最後までロックせず、開発の中での変化に対応していくと言う。「音楽をリミックスするようなもので、オリジナルがいいものであることが大切です。ブリトニー・スピアーズの曲はリミックスしてもいいでしょう?(笑)」と笑う。
Morgan氏が手掛けているのはカットシーンと、プレイ内に発生するセリフだ。分量的には同じくらいのボリュームがあるらしい。「Crysis 2」でも、前作同様双眼鏡で観察することで、遠くにいる敵のセリフを盗聴することができるが、そんなセリフの中には、物語のヒントとなる重要な情報も含まれているそうだ。「2週目以降に、違う視点でプレイすると、新しい発見をすることができる」という事なので、すぐに狙撃せずにここはじっくり情報収集も楽しみたい。
(c) 2010 Electronic Arts Inc. Trademarks belong to their respective owners. All rights reserved.
http://www.ea.com/
□Crytekのホームページ(英語)
http://www.crytek.com/
□「Crysis 2」のティザーサイト(英語)
http://www.sosnewyork.com/home
(2010年 4月 9日)