市販ロボット使いナンバー1を決める「第一回ROBO-ONE Light」&
軽量級バトル「第17回 ROBO-ONE」レポート
「第17回ROBO-ONE」で優勝した「ひろのっち」さん |
3月20日と3月21日、小型二足歩行ホビーロボットによるバトル大会「ROBO-ONE」が行なわれた。初日には市販のキットと1kg以下の軽量自作ロボットのみのバトル大会「第一回ROBO-ONE Light」が行なわれ、杉浦機械設計事務所の「TINYWAVE」で出場した韓国からの挑戦者「fruit」さんが優勝。2日目には3kg以下の軽量級自作ロボットバトル大会「第17回ROBO-ONE」が行なわれ、「ひろのっち」さん製作の「スーパーディガーII」が優勝し、賞金100万円とベルトを手にした。
この記事では「第一回ROBO-ONE Light」と「第17回 ROBO-ONE」、2つの大会の様子をレポートし、現在のホビーロボットの状況を伝えたい。
以前の「ROBO-ONE」は無差別級でのバトル大会だったが、最近は制作者によって自作二足歩行ロボットも大きさにかなりの差が出て来たため、重量を制限する軽量級大会が行なわれるようになっている。第17回となる今大会も3kg以下限定の軽量級大会だ。また今回は、規定演技そのほかによる「予選」はなく、「ROBO-ONE委員会」によって認定された、各地方で行なわれている競技会で優秀な成績を収めて選ばれたロボットと、これまでの成績から判断され「ROBO-ONE委員会」が指定したロボットによるトーナメントの「決勝」のみが行なわれた。
そして、予選のない「第17回ROBO-ONE」に先立ち、3月20日(土)には、初めての試みとしてほとんど無改造の市販キットによるバトル大会「第一回ROBO-ONE Light」が行なわれたというわけだ。まずは、これについてレポートしたい。
■「第一回ROBO-ONE Light」
出場したロボットたち |
何度も繰り返すが、「第一回ROBO-ONE Light」は、初めての試みである。二足歩行ホビーロボットのバトル大会として「ROBO-ONE」が2002年に始まってから、丸8年が経ち9年目に入っている。当時は個人が二足歩行ロボットを作ること自体が考えにくく、最初のころは出場できたロボットも数歩歩行するだけがやっとだった。ところが技術レベルはあっという間に上がっていった。昨年の「ROBO-ONE」ではついに、人を乗せて歩けるロボットまで登場した。
また「ROBO-ONE」から派生、あるいは別リーグとして運営されている中小のロボット競技大会も、各地方在住のロボットユーザーたちによって企画運営されており、活発に活動している。バトルだけではなく、サッカー大会も行なわれている。だが新たに二足歩行ロボットに手を出しても「ROBO-ONE」そのものには出場すら難しくなったのが現状だ。バトルに勝つためにはコスト、技術、時間、操縦トレーニング、そしてチューンする根性など様々なものが必要になっている。また「ROBO-ONE」のルールも複雑化しており、見るほうにも馴れが必要だ。
「ROBO-ONE」から生まれたものは地方大会だけではない。2004年6月に近藤科学から二足歩行ロボットキット「KHR-1」が発売されたのを皮切りに、「ROBO-ONE」参加者たちの開発技術を活かした形で、2006年頃から各メーカーから二足歩行ロボットキットも発売され、しかもどんどん充実してきている。最近の機種では歩いたり起き上がったりはもちろんのこと、片足バランスや逆立ち、連続ジャンプなども、キット単独、そして付属のサンプルモーションのみで実現可能になっている。ロボットキットで本当に大変なのはそこから先なのだが、サンプルモーションを動かすだけなら、価格は張るが、プラモデルを作るよりも簡単だ。
「ROBO-ONE Light」は、このような市販のロボットキットを組み立ててサンプルモーションを基本に楽しんでいるライトなユーザーたちにも門戸を開くエントリークラスとして企画されたものだ。キットには色を変えたり布切れをつけるといった簡単な外装の改造しか認められておらず、キットのままであれば審査なく出場ができる。ROBO-ONEで必ず必要とされてきた「規定演技」も必要ない。ちゃんとロボットを作り、モーションを作りこんだり、操縦テクニックを磨いていれば、上位入賞が望める。
今回の大会では62台が出場した。3分1ラウンド3ノックダウン、2分間のサドンデス方式の延長戦ありというルールは変わらない。
「ROBO-ONE」には歩行中の転倒を意味する「スリップダウン」という独特のルールがあるが、今回はエントリークラスなので、スリップダウンは取らない。「ROBO-ONE」は1回戦は打撃戦、2回戦は組み技のみというルールだが、「ROBO-ONE Light」では何をやっても良い。ただしロボットの体当たりである「捨て身技」は1回しか使えない。
「ROBO-ONE」はもともと自作機によるバトル大会である。「ROBO-ONE LIGHT」は市販機によるバトルであり、基本的には改造は認められない。オプションも委員会が認定したものしか認められない。となると、あまり差が出ず、面白い大会にはならないのではないかと思うかもしれないが、さにあらず。意外なほど差が出て、なかなか盛り上がる結果となった。
差はどのくらいかというと、ものの数歩、ロボットを歩かせたところでどちらが勝ちそうか何となく「気配」でわかるくらい、かなりの差があった。歩き方だけでもしっかりとキットを組んでいるかどうかがわかる。「ありもの」を組むだけのキットといってもロボットキットはまだ最近のプラモデルほどの完成度はない。どうしても、ある程度の「ばらつき」が出る。そしてそのばらつきは、ロボットに対するユーザーの取り組み方によって生まれるわけだ。当然のことながら、ロボットへの向き合い方が真剣であり、なおかつロボットのことをよく理解している人のほうが、バトルでは強い。
そう、見ていて良くわかったのが、自分が使っているロボットのことを、ちゃんと理解しているかどうかに関する差だった。たとえばもっとも良く使われているロボットキットの1つである近藤科学の「KHR-3HV」は、腕が短くランドセルがある。そのため、背中側に回られると弱い。また腰高なので下から掬い上げられるような攻撃には弱い。だがジャイロがけっこう効いていて、直撃攻撃でなければ耐えることができる。
自機のどこが弱いかを理解していることは重要だ。例えば背中を守りたければリング際に敢えて立ってしまえば敵は背中側に回ることはできない。どこが弱いかわかっていれば、そこを守るようにロボットを動かしながら、また逆に、弱点をつくような攻撃もできるのである。そう、「ROBO-ONE Light」はキット同士の対戦なので、自機と同じロボットと対戦することも多いのだ。自分の弱点は攻めどころである。「ROBO-ONE」の「バトル」は倒し合いなので、いかに素早く位置取りをして、バランスを崩しやすいタイミングで攻撃を繰り出すかが重要になる。
近藤科学「KHR-3HV」で出場した大塚実さん(右)とセコンドの梓みきおさん(左)。ロボットサッカーではベテランの2人組だ。2人は休刊した「Robot Watch」のレギュラーライターでもあり、今回もイベント取材を兼ねて参加 |
以上のようなことを理解して、それなりのパワーを持っている機体と操縦者が強い。またできればリング上の状況を見渡して、的確な位置取りを指示できるセコンドがいればなおさら良い、ということになる。これらがわかりやすかったのが、優勝した「fruit」さんもさることながら、準優勝した大塚実さんによる「バンボー(KHR-3HV)」によるバトルだった。
大塚さんはバトル初体験で、モーションもサンプルモーションのみ。攻撃技はほとんど1つだけ、前方への突きのみで準優勝まで勝ち上がった。バトルは初体験の大塚さんだが、ロボットサッカーでは優秀な成績をおさめている。その経験が見事に活かされた形だ。
では、いくつかの対戦をビデオでご紹介する。以上のようなことを踏まえてご覧頂ければ、まったく同じロボットキット、まったく同じソフトウェア、まったく同じモーションの組み合わせであっても、製作者、操縦者によって動きが異なることがよくわかると思う。大自由度を持った二足歩行ロボットのバトルならではだ。なお今大会では杉浦機械設計事務所の「TINYWAVE」(約1.5kg)、ROBOTISの「BIOLOID PREMIUM Kit」(約2kg)、そして近藤科学「KHR-3HV」(約1.5kg)で出場する選手たちが目立っていた。
優勝した韓国の「fruit」さん |
優勝した韓国の「fruit」さんは、勝利の感激で思わず落涙。集中が一気に溶けたのだろう。いっぽう、対戦した大塚さんは「もう1度やれば勝てる(笑)」と笑いながらも悔しさをにじませた。
今回は「BIOLOID」や「TINYWAVE」を使った韓国からの挑戦者が多かったわりに、大阪方面からの参加者が少なく、大阪の大会では良く見かけるヴイストンの「Robovie-X」やJR PROPOの「RB2000」などでの出場選手が少なかったことが、観客の1人としては残念だった。今大会が比較的盛り上がったことから、「ROBO-ONE Light」は今後も行なっていきたいとの意向を「ROBO-ONE委員会」は示している。開催形式を工夫することで、次の大会では大阪など各地方からの参加者が増えることを期待したい。
キットを買うだけで参加できる「ROBO-ONE Light」。ロボットホビーへの新たな参加者が増えるきっかけになるだろうか。
特別解説として参加した俳優の渡洋史さん。「宇宙刑事シャリバン」、「時空戦士スピルバン」などの作品で知られる。「トリック」のスピンオフドラマ「警部補 矢部謙三」にも出演するとのこと | 「HAL東京やればできる子」チームの「はるか」VS 「ROBOT POWER」チームの「ROBOT POWER」のバトル | 磯子工業高校の高校生による「磯工GUARDIAN」。初心者とは思えぬ巧みな操縦を見せたが大塚「バンボー」に敗れた。倒れているのは「robartist」チームの「genesis」 |
ガンプラの外装をそのまま使ったTEAM Aeroの「Aerobattler G」。対するは電気通信大学ロボメカ工房の「ピクルス」 | 自作ロボットのmacoさん「MK-09」VS KHR-3HVを使ったCAP-Bチーム「THKR-3」 | 「MK-09」はKHR-3HVが大きく見えるスリムなロボットだ |
■ロボットキットと「ROBO-ONE」に出場する自作ロボットの差
さて、「ROBO-ONE Light」にて3位までの成績をおさめたロボットには、自動的に、翌日に行なわれた「第17回ROBO-ONE」への出場権が与えられ、上位3台が出場した。だがこれは無謀である。ROBO-ONE出場ロボットと、ロボットキットのロボットとの間には、超えられない大きな溝がある。ハンデもなしに勝てるわけもなく、なぜこんな組み合わせになっているのか不思議に感じるほどだった。もし次回も同じことをやるのであれば、なんらかのハンデやルール改正をすべきではなかろうか。たとえば奪取しなければならないダウン数を変えたり、相手のロボットにウェイトを背負わせたり、「捨て身攻撃」の回数制限を変えるなど、できることはあるはずだ。あるいは委員会が用意した自作ロボットでの操縦権を与えるといった形のほうが良いかもしれない。でないと一品物とキットとでは、そもそもバトルにならない。
【動画】「第17回ROBO-ONE」での「ガルー」 VS 「バンボー(KHR-3HV)」。キットではROBO-ONEロボットには歯が立たない |
キットと自作ロボットの違いをもっとも象徴した試合が、「ガルー」 VS 「バンボー(KHR-3HV)」である。「ガルー」は「くぱぱ&くまま」さんというベテランチームによる強豪ロボットで、優勝経験もあり、操縦のうまさとその速度には定評がある。前日、見事な操縦テクニックで観客を唸らせた「バンボー」は、あっさりと「ガルー」に放り投げられた。比喩ではない。「ガルー」の腕でひっかけられた「KHR-3HV」はポイと空中に放り投げられてしまった。まるで「人間 VS 恐竜」のようで、これは話にならないと感じた。
今回は他にも中国からの出場選手特別枠という扱いでヴイストンの「Robovie-X」でROBO-ONEに出場していた選手達もいたが、キットそのままでは「ROBO-ONE」に出ても試合にはならない。モーションを作り込んだとしても、モーターのトルク、スピード、機構、いずれも自作とキットでは大きく違う。こうして、キットだけでは楽しむことが難しいと感じた人は、自作ロボットへの道を歩むか、ロボットから離れるかして、いずれにしてもキットから卒業していくのである。ホビーロボットのユーザー数を増やすためには、ある程度限られた枠内でも楽しめるような仕掛けが必要だ。
■第17回ROBO-ONE
優勝した「スーパーディガーII」と制作者「ひろのっち」さん。 |
「第17回ROBO-ONE」では1回戦が打撃のみ、2回戦が「投げ技」のみ、そして3回戦以降は何でもありの総合格闘技ルールで行なわれた。今回、この両者のバランスを守ることが難しかったようで、強豪のロボットも途中で敗退してしまった。
そんな中、見事勝ち上がって初優勝したロボット、「ひろのっち」さん製作の「スーパーディガーII」は、九州方面のホビー二足歩行ロボットユーザーの集まり「九州ロボット練習会」の強豪ロボットの1つ。肩と脚部付けねのダブルサーボとリンク脚、そして両腕のハンマーが特徴の、スタンダードなストロングスタイルのロボットだ。足は福岡市でロボットキットを扱っているショップの1つ「クラフトハウス」が発売している二足歩行ロボット用アルミフレームキット「メリッサ」向けの平行リンク脚セット「マーキュリー」である。巧みな操縦テクニックと下からのパンチを得意としており、これまでに各地区での大会でも活躍、着実に力をつけてきた。
試合終了後、今回の勝因について、「ひろのっち」さんは、「ぜんぜん緊張していなかった」と振り返った。セコンドについていたクラフトハウスの栗元一久社長も「動きにキレがあった。こちらの声もちゃんと聞こえていたようだ」と語った。無駄な力みがなく、力を巧みに出し切った結果であったと言えそうだ。
いっぽう、惜しくも準優勝となったのは飛騨神岡高校「Neutrino」。高校生たちによるチームだ。ロボットの上半身と下半身、全身を大きく使った「投げ技」を繰り出し、順調に決勝戦まで勝ち上がってきた。決勝戦でもまず1ダウンを先行して奪ったものの、その直後に操作ミスでバンザイポーズを出してしまい、ダウンを食らった。これであせってしまったのだろう、その後、手数は多く出したが結局攻めきれず、逆にさらにダウンを奪われて、「スーパーディガーII」に敗退した。決勝戦はじめ、いくつかのバトルを動画でお届けする。
今回のROBO-ONEを見ていて感じたのは「投げ技」のわかりにくさだ。直感的にわかりにくいのである。次のROBO-ONEまでには改善を望みたい。次回の「第18回ROBO-ONE」は新潟県新発田市で、8月28日、29日に行なわれる予定だ。
対戦相手のロボットの不調をみんなが協力して直す。ROBO-ONEならではの風景 | 日本、韓国、中国の3チーム対抗による特別親善試合も行われた。 | 出場ロボットたち |
(2010年 3月 31日)