Game Developers Conference(GDC) 2010現地レポート

“RPG屋”のBiowareが「MassEffect 2」で本格シューターに挑戦した軌跡を紹介
「Where Did My Inventory Go? Refining Gameplay in Mass Effect 2」


3月9~13日開催(現地時間)

会場:サンフランシスコMoscone Center



 GDCでは毎年、その前年にリリースされた新作タイトルに関するセッションが数多く開催される。スポンサーセッションの関係で、若干プラットフォーマーのファースト/セカンドパーティータイトルが目立つ傾向はあるものの、そのセッションの数に応じて、前年の大体のトレンドや傾向が伺える。

メタスコアは2010年最高の96。Xbox 360では「Halo 3」や「Gears of War」の94を上回る。ちなみに前作は91。まずまずの好成績だが、この数字に満足しなかったところが偉いところだ

 たとえば今年だとGame Developers Choice Awards 2010でGame Of The Yearを受賞した「Uncharted 2: Among Thieves」(Naughty Dog)を筆頭に、「ファイナルファンタジー XIII」(スクウェア・エニックス)、「God of War III」(SCEA)、「PlayStation Home」(SCE)、「Forza Mortorsports 3」(Microsoft)、「Bioshock 2」(2K Games)あたりが挙げられる。これらのタイトルは、主催者側が、開発者に伝える価値があると判断したタイトルであり、言い換えればゲームファンとしてもぜひ押さえておきたいタイトルということになる。

 そうした中でPS3の「Uncharted 2」の対抗馬として輝きを放っているのが、Xbox 360/PC「Mass Effect 2」だ。2010年1月に発売されたばかりのSFアドベンチャー大作で、発売直後ということで残念ながらGame Developers Choice Awards 2010のノミネートには漏れたが、metacriticのスコアは「Uncharted 2」と同じ96であり、2010年最高の数字となっている。また、前作の91を大きく上回っている点でも話題を集めている。

 GDC 2010では、そうした世間の注目の高さを裏付けるように会期最終日に、「Mass Effect 2」関連の2つのセッションが開催された。ひとつは前作の反省をどう続編に活かしたかを語った「Where Did My Inventory Go? Refining Gameplay in Mass Effect 2」。もうひとつはストーリーテリングの技法を語った「Get Your Game Out of My Movie! Interactive Storytelling in Mass Effect 2」。本稿では前者のセッションを中心にお伝えしたい。



■ 前作を超えるゲームをユーザーに届けるためにRPGからシューターへの大胆な方向転換

講演を行なうBiowareのChristina Norman氏
スライドを飾る「Mass Effect」シリーズ主人公のジョン・シェパード。宇宙中の荒くれ者たちを力と知性の両方でねじ伏せていく彼の荒々しさは、北米人が好むヒーロー像として人気が高い

 まず、「Mass Effect」と「Mass Effect 2」の違いについて紹介すると、「Mass Effect」は老舗のRPGメーカーであるBiowareが開発したアクション要素のある新世代のRPGである。バトルシーンはサードパーソンビューによるリアルタイムシューティングになっているが、敵への攻撃の正否は、正確で素早いエイミングではなく、Biowareらしくオートエイムをベースに後は一定の計算式により導き出される。つまり、ゲームの本質はシューティングではなく、あくまでRPGとなっているわけだ。

 このスタンスは、往年のBiowareファンにとっては定評のある計算式に身を委ねて、あたかもハードコアFPSのようなアグレッシブなバトルが堪能できるRPGとして高い評価を得たものの、見た目から入ったシューティングファンにとっては、バトル中にポーズをしてスキルを切り替えたり、カバーリングが緩慢としていたり、カバーリング時の攻撃がやたらに当てにくかったり、あるいはしっかり敵に狙いを付けているにも関わらずパラメータが低くて攻撃が当たらないといった部分は単なるストレスにしかならなかった。

 そこで続編「Mass Effect 2」を開発するにあたり、膨大な数のレビュアーやファンからのフィードバックをベースに、前作を上回るゲームを作ることをモチベーションに開発をスタートさせた。

 具体的には、まずバトルシーンについてはシューター(アクションシューティング)の要素を全面的に取り入れ、リアルタイム性を第一に、エイミングやカバーリング、射撃時の手応えなどを十分に感じられるように改良を加えた。インベントリーについては、GUIが扱いにくかったり、不要なジャンクアイテムで溢れがちだったため、直感的かつ、必要なアイテムにアクセスしやすいように変更した。

 また、武器に関しては、前作では、“武器はそこらへんに落ちているものを拾って使う”という雑な扱いを受けていたが、「Mass Effect 2」では独自の武器の強化システムを取り入れ、自分の銃を扱う、そして育てるという感覚を芽生えさせた。防具に関しても、同様にカスタマイズ要素を取り入れ、どんどん着替えていくのではなく、自分好みの装いにこだわれるようにしている。


【「Mass Effect」と「Mass Effect 2」】
「Mass Effect」はアクション要素のあるRPG、「Mass Effect 2」はRPG要素のあるシューティングアクション。つまり「Mass Effect」シリーズは1と2でゲームジャンルが変わっている



■ シューターに生まれ変わった「Mass Effect 2」。現場で培われた経験は「3」へ

シューターとしてのゲーム性を高めるために行なった実験のひとつ。この実験がゲーム開発にどの程度効果をもたらしたのかは不明だが、いかにBiowareがRPG専業メーカーなのかがわかるエピソードだ
「Mass Effect 2」での経験は「3」に受け継がれる。ジョン・シェパートの旅はまだまだ続くようだ。と、その前に日本での発売を大いに心待ちにしたい

 さて、1から2へのもっとも大きな変更点といえるのは、RPGからシューターになったため、RPGとしてのゲームバランスから、シューターとしてのゲームバランスへと、大きな転換を遂げたことだ。言い換えれば、ゲームジャンルを変えるという荒技を大事なナンバリングタイトルで行なっているわけだ。

 基本的な方向性としては、他のゲームで培ったシューティングスキルが活かせるように、まずはスタッフ間で優秀なTPSタイトルを学び、シューティングやエイミング、スキルのボタンへのアサインなど、いわゆるTPSのデファクトスタンダードをどんどん取り入れていった。またテスティングの専用チームを編成し、デバッグも強化したという。仕上がりを見る限りでは、「Gears of War」シリーズの影響が1番強そうだ。

 そうした取り組みを続けた結果、「Mass Effect 2」では、前作独特のもっさり感や、反応の鈍さ、射撃時の手応え、ゆったりとしたアニメーションといった“RPGなら許されるが、FPSでは許されない”要素は消え失せ、純粋なシューティングアクションゲームといっても通用するような打てば響く俊敏性を備えることに成功した。デモを見れば一目瞭然だが、確かにゲーム性が1と2で大きく変わっている。前作の経験者としてはこれは大きな驚きだ。

 また、俊敏性以外の目に見えにくいRPG的な部分も大胆に改良している。たとえば、前作のバトルにおいて、特定のスキルを使ったコンボ攻撃やシステム的な“穴”により、ゲームバランスが破綻していた部分に関して、スキルの使用にクールダウンタイム(再使用までのウェイト時間)を設けたり、銃器の弾数に制限を付けたほか、クラス間のプレイフィールがあまり変わらないといった、“スキル判定のあるRPGなんだから、FPS的な味付けはほどほどで良いではないか”という悪い意味での甘えを全面的に取り除いていった。

 さらに、FPSならではのゲーム性も高めていっている。武器は19種に増やし、チューニングのバリエーションも108種類に増やしている。先述した武器の強化システムも合わせ、FPSファンが望む自分好みの武器へのチューニングが存分に楽しめるようになっているわけだ。RPGではお馴染みの武器や特性によるレジスト要素についても、どれぐらい効果があり、どれぐらいダメージが軽減されているのかがわかりにくいことから、ヒットポイントバーを、実際の体力とレジスト分の二重構造にして、視覚的にわかりやすくしている。おまけにHPも一定時間で自動回復するようになった。このあたりはまさに北米の国民的タイトルである「Halo」シリーズから学んだのだろう。

 もちろん、フレームレートの安定や、チュートリアルの導入、敵味方のAIの進化、乗り物の導入、オートセーブ機能の追加など、AAAタイトルとして必要不可欠な要素はどん欲に取り入れている。その上で、ゲームデザインの換骨奪胎を行なっているのだから凄いことだ。

 日本だと「Mass Effect」はRPGという先入観を持ってプレイするため、非FPS的な処理をされてもある程度の理解は得られそうだが、欧米では「Mass Effect」がRPGであることに満足できないユーザーがどんどん要望を出すことで、その続編がユーザーの要望通りに変わってしまう。まさしく欧米ならではの風景だが、もっともその代償として、Biowareを支えているRPGファンの一部からは「『Mass EffectはRPGではなくなった」、「Biowareは『Mass Effect』を壊した」といった強烈な批判も寄せられたという。痛みを伴うリファインとなったが、前作以上のヒットが確定したことで、その効果はあったと言えそうだ。

 本セッションで印象的だったのは、今回「Uncharted 2」が、Game Developers Choice Awards 2010でGame Of The Yearを受賞したことも踏まえての感想だが、ゲームファンは常に自分が気に入ったタイトルの続編を求め、しかも前作を上回る内容を期待する。その際に、最大の評価を受けるためには、痛みを伴うイノベーティブな進化をためらわないということだ。

 世界中でリリースされる続編ものを見ていると、守りに入って進化を止めたタイトルは人気作の続編であっても容赦なく見切られる傾向にある。今回のセッションは、続編を育んでいくためにチャレンジすべきことの重要性が良く理解できる、日本のメーカーにとっても参考になる密度の濃い内容だったと言えそうだ。


【キャラクター育成画面の変遷】
左が「Mass Effect」、右が「Mass Effect 2」のキャラクター育成画面。Norman氏は「Fitnessと書かれていてもそれが何なのか分からない。説明を書いていてもそれを読んでくれるとは限らないため、『2』では項目を大胆に削りわかりやすくした」と説明

【RPG→FPSへの改良点の数々】
「Mass Effect」の「まあRPGだから」と妥協しながら遊んでいた部分を、北米のファンは許さなかった。その結果、「Mass Effect 2」では、BiowareのRPGのエッセンスを備えながら、TPSとしてもしっかり遊べる大作に仕上がった。新たな国民的タイトルの誕生といっていいだろう

(2010年 3月 16日)

[Reported by 中村聖司 ]