Game Developers Conference(GDC) 2010現地レポート

Independent Games Summitレポート小さな世界を描く「SPIDER」、バイクアクション「Joe Danger」など
少人数チームのユニークで深い作品群

3月9~13日開催(現地時間)

会場:サンフランシスコMoscone Center


 Independent Games Summitは少人数の独立系デベロッパーによる作品の作り方、ビジネスの方向性、少人数ならではのゲームへのアプローチが語られる。対象となるプラットフォームもiPhone、Xbox Live Arcade、PC、ニンテンドーDSなど様々だ。

 GDCではGame Developers Choice Awardsの前に「Independent Games Festival & Awards Ceremony」が開催されているため、開発者達のIndependent Games Summitに対する注目は高い。今回も広い会場のほとんどが埋まるほどの盛況だった。Independent Gamesはアイデアを前面に押し出した画面作り、ゲーム性で惹きつける強いインパクトを持った作品だ。本稿は魅力的なタイトルを紹介する講演をピックアップしていきたい。



■ Independent Gamesの注目タイトルが持つ、間口の広さとユーザーを引き込む“深さ”

Tiger StyleのOwner and Game DesignerのRandy Smith氏。数多くのタイトルの特徴と課題を紹介した
ゲームが持つわかりやすく強い魅力と、ユーザーを魅了する深さ。両方を併せ持つことで熱心なプレーヤーを獲得できる
Smith氏が手掛ける「SPIDER」。iPhoneの画面をなぞるだけで蜘蛛が這い、飛び、巣を張る

 Independent Games Summitでは少人数でどうやってユニークなゲームを作るか、どうゲームをアピールするかなど、制作とビジネス両面で様々な意見が登壇者から語られた。今回はその中のSummit KEYNOTEとして、Tiger StyleのOwner and Game DesignerのRandy Smith氏が語った「Increasing Our Reach: Designing To Grab and Retain Players」を紹介したい。10を超えるタイトルの特徴を紹介しながら、ユーザーに向かってどうアプローチするか、という姿勢が語られた。

 Smith氏はTiger StyleでiPhone向けのタイトル「SPIDER: THE SECRET OF BRYCE MANOR」(以下、「SPIDER」)で大きなヒットを生んだ。「SPIDER」は蜘蛛を主人公にしたアクションパズルでプレーヤーが画面をタッチすることで蜘蛛が移動し、線を引くとその通りにジャンプし、糸を張って巣を作る。その巣で虫を捕まえて得点をゲットするというゲームだ。

 スピーチは「SPIDER」を中心にしながらも他のヒットゲームを細かく分析しユーザーへのアプローチを語るというものだった。さながらIndependent Gamesのヒット作品のカタログ、という印象を受けた。本稿でもSmith氏の分析による様々なタイトルを紹介していきたい。

 最初に紹介されたのは「CANABALT」。FlashでPCやiPhoneでプレイできるゲームで、高速スクロールするビルの屋上を駆け抜ける。ジャンプボタンしか使わないシンプルな操作で、誰でも簡単にプレイでき、すぐルールを覚えられ、ミスしてもすぐにリトライできるリズムの良さがある。一方でゲーム性としては失敗しやすい部分がある。

 次に紹介したのが「Flight Control」空港に近づく飛行機をスムースに着陸させるiPhone向けゲームで飛行機をタッチしてから、目的地をなぞるように指示していく。管制塔の仕事を指1本で体験できるゲームだ。こちらはシンプルでありながら、プレイを重ねることで習熟していく「学習性の高さ」が魅力だ。

 さらにゲームを紹介していく。ジェル状の目玉のある黒い玉をつなげ、様々な地形を突破していくアクションパズル「WORLD of GOO」、地面を掘り進めながら宝物を掘り当てていく「I Dig IT」、球形の大地が何個もあるフィールドで、赤い生き物を転がすことでゴミを吸収して大きくなると言う「塊魂」の2D版のようなゲーム「Gomi」。「Gomi」に関してSmith氏はゲーム性が1度のプレイでは見えにくいこと、ゲームスタートまでに9回クリックしなくてはならず、画面も切り替わる点が難点だという。

 ニンテンドーDS用のユニークなアクションゲーム「Scribble Nauts」は単語を書くとアイテムとなってキャラクターに渡され、キャラクターがそのアイテムを使ってマップを進んでいくというゲーム。ゲーム性やオリジナリティ、インパクトで非常に面白いが、しかし単語を入れていくというゲーム性は敷居が高い。ここでSmith氏は「Game TOY」という視点を提供する。ゲームをおもちゃのように目的が見てすぐわかりやすく、楽しむことができるものにする、というアプローチだ。「SPIDER」はこの「Game TOY」の考えにもとづいて作っているという。

 「SPIDER」はわかりやすいインターフェイス、遊びを繰り返すことでプレーヤーが“できること”が明確にわかってくる濃密なゲーム性と、失敗が少なく緊張感の少ないルールで間口の広さを持たせている。それでいながら、38面というボリューム、24のプレーヤーが挑戦できる「実績」、17の隠し要素、7つの虫のタイプと4つのゲームモードとやりこみ要素を持たせている。Smith氏は間口の広さを「IMMEDIACY」、やりこみ要素を「DEPTH」と表現し、プレーヤーの心をつかむゲームデザインとして提示する。

 iPhone向けのゲーム「Hook Champ」はかわいらしいキャラクターが鞭のようにロープを振り、天井に引っかけてターザンのように移動していくというアクションゲーム。面が多くあり、スピード感が楽しく、プレーヤーが失敗から学び、より向上できる「DEPTH」を持っている。プレーヤーをより深みへ導くためのゲーム性はどう与えていくべきかを、Smith氏は会場に問いかける。

 それは簡単なステージからゆっくりとしたスピードで難易度を上げていく、という方式だ。この誘導に関してはゲームデザイナーは慎重に、「戦術性」を意識してレベルデザインをしていく。より難しく、やりがいのあるレベルまでどのようにユーザーを誘導していくか、そこに求められるのは「戦略性」である。理念と目標を持ってユーザーへのガイドラインを考えて、1つ1つは戦術的にレベルデザインをしていく。「SPIDER」の場合は次の面に移行するという形でユーザーを誘導し、目標を持ってユーザーに学習を積ませていく。

左から、屋根を飛んでいく「CANABALT」、指で管制官になれる「Flight Control」、黒い謎の液体を操作する「WORLD of GOO」
地下を掘り進み宝を探す「I Dig IT」、ゴミを食べて大きくなっていく「Gomi」、単語を入力してアイテムを呼び出す「Scribble Nauts」
【SPIDER】
昆虫世界の視点が楽しい「SPIDER」。右は実績でプレイの目標となる

 続いて「DEPTH」にフォーカスが当てられた。iPhone向けの「Ragdoll Blaster」は人間の形をした大砲の玉を撃ちだし、パズルを解いていくという物理エンジンをゲーム性に活かしたゲーム。大砲から打ち出された人間が、ぐにゃりと床に積み重なっていくというシュールなゲームだ。この人形の玉で壁を壊したり、積み重ねた重さで仕掛けを動かすというのが面白い。

 PC向けの「VVVVVV」はプレーヤーがいつでも重力の向きを変えられるアクションゲーム。触れるとミスになるとげの生えた地面を素速く重力を入れ替えて空中浮遊のような感覚でわたったり、通常のアクションゲームとはひと味違う操作感を持っている。iPhone向けの「GALCON」は雨のようにミサイルを発射し連なる惑星を自軍の支配下に置くという壮大なコンセプトのゲーム。攻撃場所をタッチするだけというシンプルな操作性ながら、どの星から攻撃するかと言うところに戦略性とテクニックを求められる。

 これまでのタイトルの特徴をまとめた形で、「DEPTH」をもう1度解説する。プレーヤーのスキルを緩やかに向上させ、いくつもの方法でプレーヤーができることを提案していく。ゴールを追求させることをとぎれさせず、そのためのサポートを厚くしていく。また中間くらいの難易度を繰り返させ達成感を高めさせることも大事だという。

 Smith氏は最新注目タイトルとして、2つのゲームを上げる。「Captain:Forever」は宇宙空間に浮かぶブロックのような宇宙船を操作し、敵戦艦を破壊していくゲーム。敵は攻撃されるとブロックがはずれていき、中央のコアを破壊することでバラバラになる。プレーヤーは敵戦艦のブロックを吸収し大きくなっていくのだ。信じられないくらい大きくなったり、ハリネズミのように武装させることも可能だ。

 「Spelunky」はアイレムの「スペランカー」を彷彿とさせる地下迷宮探検ゲーム。探検家としては「スペランカー」よりはるかにタフで、石像を持ち上げて敵にたたきつけて倒したり、美女を出口まで誘導するとボーナスが得られたりと多彩なゲーム性が詰め込まれている。

 このセッションに限らず、Independent Games Summitは受講者のノリがいい。講師に声援を送り、タイトルが出ると惜しみない拍手を送る。講師もジョークを交え、軽妙に語り、スライドも面白いデザインが多い。次々とタイトルが紹介されるこのSummit KEYNOTEは特に盛り上がった。最後にSmith氏「独立系は優勢である!」と宣言すると、大きな拍手が上がった。

 独立系デベロッパーの作品で優れたものはコンセプトが明確で、ファーストインプレッションに強い魅力を感じる。シンプルであるからこそファンの心をつかむと思う。今回Smith氏の講演を聴くことで、制作者側の強いこだわり、コンセプトだけでなく、プレーヤーを誘導するための深い方法論の一端を知ることができたように感じた。


ロープを引っかけ高速で移動していく「Hook Champ」、人間型の球を打ち出す「Ragdoll Blaster」、重力を反転させて進んでいく「VVVVVV」
【Captain:Forever】
宇宙船を操作し、敵のパーツを奪って大きくなっていく「Captain:Forever」。うまく生き残れば無敵の宇宙戦艦を造ることも可能
【Spelunky】
「スペランカー」を彷彿とさせる「Spelunky」。主人公は虚弱ではなく、力強く洞窟を進み、美女も助ける



■ 少人数ならではのアプローチで作られた、シンプルでテーマ性のはっきりした作品「Scrap Metal」、「Joe Danger」

Slick EntertainmentのPresidentである Nick Waanders氏
Slick EntertainmentのTechnical ArtistでありVice PresidentでもあるKees Rijnen氏
Hello Games Managing DirectorのSean Murray氏

 次に9日に紹介された2本の「Xbox Live Arcade」(「XBLA」)タイトルを紹介したい。1つ目はSlick EntertainmentのPresidentである Nick Waanders氏とTechnical ArtistでありVice PresidentでもあるKees Rijnen氏が作る「Scrap Metal」だ。

 「Scrap Metal」はWaanders氏がプログラミング、Rijnen氏がアートを担当する「Team of Tow」として2人で作りあげたレースゲームである。本作は「XBLA」で3月10日(現地時間)に配信される予定で、日本でも配信予定である。

 「Scrap Metal」は見下ろし型のグラフィックスのレースゲーム。ミサイルを撃ったり、車体に付けたスパイクで串刺しにしたりと過激な妨害でトップを狙うレースゲームで最大4人までの対戦が楽しめる。街のギャングやならず者と戦うストーリーモードも搭載されている。戦車やバギー、ブルドーザーなど重くて強い車で戦っていくのが魅力なゲームだ。

 今回は独立系デベロッパーならではの少人数だから作れる開発体制と、ツールが紹介された。「Scrap Metal」はアート担当のRijnen氏が直接ステージ設定、ゲームバランスの調整までできるように直感的にわかりやすいツールで製作された。木を置くとそのまま当たり判定まで設定でき、車もパーツを組み合わせればそのまま攻撃範囲などが明確にわかる。NPCの挙動はマップに線を引くように設定でき、またその場ですぐ動かしてゲームとしてプレイできるため、製作にかかる諸々の時間が削減できたという。

 ゲームプレイをリアルタイムで確認しながら製作できたために、強調する部分やテーマ性などを試しながら話し合い、2人で楽しくゲームが作れたところも利点だと、両氏は笑顔で語った。

 もうひとつの「Joe Danger」4人のゲームスタジオHello Gamesの開発だ。作品とHello Gamesの戦略を紹介したのはManaging DirectorのSean Murray氏だ。これまでHello Gamesは大きなメーカーの下請けとして作品を作ってきた開発者達4人が集まって作った会社だ。

 独立系には多くの課題がある。まず競合他社が多く、開発をしきれないまま断念するメーカーも少なくない。また他を圧倒するほどの高い才能を持つ人材も多くない。それでも大手メーカーにはない利点もある。製作に対する自由がきき、各人が技術を持ち、フォーカスを当てた投入ができ、なおかつより嗜好のはっきりしたタイトルを作ることができる。大手とは違ったアプローチのゲームを作ることができるのだ。

 その戦略で作っているのが「Joe Danger」というバイクのアクションレースゲームだ。物理エンジンにこだわり、ユニークな地形を自由自在に走り、はねることができる車輪のプログラムを作りあげた。ここからオフロード用のバイクではちゃめちゃな地形を走り抜ける「Joe Danger」を作りあげた。「Joe Danger」はXBLAとPC向けに今春配信される予定だ。

 「Joe Danger」は頭の大きいキャラクター達がジャンプ台やループした板などを走りレースを繰り広げるゲームで、任天堂の「エキサイトバイク」を思わせる。カジュアルなゲーム性と物理エンジンによる独特のゲーム性が面白い。画面分割による対戦も可能だ。面白いのはエディットモード。プレイしながら設定が可能で、ジャンプ台をこのスピードで走るとここに着地するから、ここでトランポリンを……というようにリアルタイムで走りながらコース設定ができ、いつでも走りを巻き戻したり、自由な設定が可能なのだ。ピクサーワークスのようなグラフィックスの質感も楽しく、プレイしてみたくなるゲームである。

 独立系デベロッパーの作品は一見してとにかく触ってみたくなる明確なコンセプトと、そこに注力したゲーム性が魅力だ。幕の内弁当的なコンテンツの詰め込みではなく、「こういうアクションをしたいならこのゲームをやろう!」とタイトルがユーザーを誘う初期のアーケードゲームのような魅力が楽しい。今回、チュートリアルで様々なタイトルを見ることができ、プレイしたいと強く感じた。


【Scrap Metal】
爆弾、体当たり、ミサイルなど様々な武器で相手を邪魔し、破壊する「Scrap Metal」。上段は直感的に操作できる開発ツールの画面
【Joe Danger】
物理エンジンによる操作性と、実際に走りながら細かくエディットできるゲーム要素が魅力の「Joe Danger」。左上が開発ツールだが、シンプルな画面の中を車輪が走ってるのは完成したゲームとはまた違う雰囲気がある

(2010年 3月 10日)

[Reported by 勝田哲也 ]