Game Developers Conference(GDC) 2010現地レポート
GDC Mobile/Handheldセッションレポート
Androidなど“対iPhone”プラットフォームの動向を見る
例年のGDCでは、初日と2日目に行なわれるチュートリアルデイで、「GDC Mobile」として集中的にモバイルゲーム関連のセッションが行なわれている。ところが今年はその様子が一変している。
契機となったのは昨年のGDC 2009の「GDC Mobile」だ。セッションの数こそ減少していたものの、iPhone関連のセッションはほとんどが満席となり、その熱の高さを感じさせた。そこで今年はiPhoneのセッションを「iPhone Game Summit」として1カテゴリを新設し、従来の「GDC Mobile」には携帯ゲーム機の話題も含めて「GDC Mobile/Handheld」とされた。
さらに今年は、近年大きな盛り上がりを見せているソーシャルゲームに関するカテゴリ「Social & Online Games Summit」も新設されている。モバイルゲームにおいてもソーシャルゲームは重要なジャンルである(常時所持し、オンラインである携帯端末こそが、友人との繋がりで楽しむソーシャルゲームに向いているとも言える)ので、「GDC Mobile」からはその部分のネタも持っていかれた格好だ。
大きな要素が次々に独立してしまった「GDC Mobile/Handheld」は、ネタがないかというとそうでもない。iPhoneだけでなく、AndroidやWindows phoneといった新プラットフォームや、Nokia、Samsungといった端末メーカーが、それぞれに新たなマーケットプレイスを立ち上げ、世界規模での群雄割拠時代が到来している。ゲーム開発者は、iPhoneの次に来るプラットフォームはどれなのかと目を光らせていることだろう。今回はそういった新プラットフォームについての話題を扱うセッションが目立った。
ちなみに、従来の携帯電話を使ったモバイルゲームについての話題は、今年はほとんど見られなかった。日本ではまだまだモバイルゲームが元気で、新作ゲームも次々と配信されている。それがいいか悪いかという議論は不毛だが、日本と欧米の温度差は以前より大きくなっていて興味深い。
■ Google JapanのPruett氏がAndroidについて講演。年間2,000万台ペースで販売中
Google JapanのChris Pruett氏 |
「GDC Mobile/Handheld」のセッションの中から、いくつかピックアップして紹介していこう。まずはiPhone対抗勢力の筆頭であるAndroidについて、Google JapanのChris Pruett氏が“Bootstrapping Games on Android(Android用ゲームの起動)”と題した講演を行なった。Pruett氏は過去に日本でもAndroidについての講演を行なっており、今回の講演では、Android端末の現状や技術仕様を一通り紹介した。
Android端末は現在までに26種類の端末が49カ国で発売され、1日6万台のペースで販売されているという。今のペースを保って伸びるとすれば、1年で2,000万台以上のAndroid端末が販売されることになる。この端末のうち、2008年10月から発売され、400MHzまでのCPUやAndroid 1.5/1.6などを搭載した初期仕様の端末を第1世代、2009年12月から登場し、600MHzから1GHzのCPUやAndroid 2.1を搭載した最新仕様の端末を第2世代と呼び、現在までに市場のAndroid端末のうち21%が第2世代になっていると述べた。
Android端末のゲームを開発する上で、最も気になるのが端末ごとの性能の違いだ。特に液晶の解像度は、第1世代ではHVGA(480×320ドット)だが、第2世代ではWVGA(800×480)と、高解像度でかつ縦横比も異なっている。これについては、QVGAからWVGAにスクリーンサイズを変更する方法として、APIで多数のツールを用意しており、さらにサイズが合わないものはマーケットプレイスでフィルタリングして表示しないようにしているという。
ボタンやキーボードの有無などインターフェイスの違いについては、入力に対するスタンダードAPIを用意しているという。なお端末仕様として、タッチスクリーン、加速度センサー、方位センサーは全ての端末に搭載されている。またグラフィックスについては、Android 1.5の基本仕様から、1.6で複数の画面解像度をサポートし、2.0ではOpenGL ES 2.0をサポートする。
その後は、Android用アクションゲームアプリ「Replica Island(ワンダのレプリカ島)」を題材に、ソースコードを見せながらゲーム開発のポイントを解説した。
Android端末の初期のものを含む第1世代。現在はAndroid端末の78%を占める | 2009年12月から登場した第2世代。今は全体の21%だが、今後伸びていくことになる |
端末性能の違いが気になるところだが、対処方法や端末の基本仕様を明らかにすることで、開発者の負担を減らせるよう配慮している | ||
アプリ開発例として示された「Replica Island(ワンダのレプリカ島)」。サイドビューのアクションゲームである |
■ 新プラットフォームの現状を分析する2セッション
GAMEVIL USAのKyu C.Lee氏 |
iPhoneやAndroidを含む新たなプラットフォームに対応するには、まずは現状をきちんと把握しておく必要がある。そういったデータを紹介した2つのセッションがあったので、順に紹介していく。
GAMEVIL USAのKyu C.Lee氏の講演“Application Stores: What You Should Know Before You Get Started(アプリケーションストアに参入する前に知っておくべきこと)”では、携帯電話からスマートフォン、コンシューマーゲーム機まで、あらゆるアプリ配信プラットフォームについてのデータが紹介された。
まず端末の数についてのグラフが示された。トップはiPhone OS搭載機で7,000万台を超えている。次いでBlackberry 4.x以降とPSPが並び、Windows Mobile 6.xとニンテンドーDSiが追うという図だ。Androidはまだこれらに比べて桁違いに少ないと見られている。
次に各プラットフォームで配信されているアプリの数を比較した。1位は14万タイトルのApp Store(iPhone OS)で、次いでAndroid Marketの2万タイトル。他は2桁から4桁と大きな差がついている。この数字と端末数の比較から、アプリ開発者の熱狂度が垣間見える。
続いて、各プラットフォームにおける初期費用や、開発環境、画面解像度や最大ファイルサイズといった仕様、アプリの価格帯やレベニューシェアの率といった各種データがリストで示された。これは一長一短といったところだ。
ではどこをターゲットにすべきかと考える指針として、「自らの強みを生かすべき」と述べた。具体的には、ブランド、開発、配信、予算などで、開発力に自信があるなら携帯電話からコンシューマーゲーム機まで幅広く展開し、配信に強みがあるならスマートフォンを含む携帯電話に注力すべきといった指針が示された。
端末の販売数と配信中のアプリの総数。iPhoneとAndroidがいかに注目されているかを示すデータだ | |
各端末や配信プラットフォームの仕様一覧。外見は同じに見えても、中の仕様はかなりの違いがある | |
開発力やブランド力など、自分が得意とする分野を考えて配信プラットフォームを選ぶことを提案した |
Google JapanのChris Pruett氏 |
もう1つは、IMGAのMaaten Noyons氏による“Publishing Mobile Games in a multi-platform, multi-store environment(マルチプラットフォームおよびマルチストア環境におけるモバイルゲーム配信)”と題した講演。こちらもモバイル端末に関連した比較データが示されているが、先のLee氏による講演とは異なる内容になっている。
まず全世界の携帯端末はインストールベースで33億台となっており、うちスマートフォンは1億4,000万台あるという。スマートフォンにおけるシェアは、1位がNokia、2位がRIM、3位がiPhoneとなっている。さらにStrategy Analyticsによる2012年の予想として、PalmOSやSymbianのシェアが落ち、その分Androidが伸びるだろうというデータも見せた。
次にアプリ配信プラットフォームについて触れ、1999年にHandangoのサービスが始まってから、2008年のApp Store公開までの歴史を1ページのスライドで紹介した。そして2009年にはAndroid MarketやNokiaのOvi Storeなど、多数のプラットフォームが誕生し、さらに2010年にはEbayやPaypal、Amazonといった従来とは異なる業種の企業が参入し、一気に配信プラットフォームが増えていく現状を示した。
このほかにも、日米欧3地域で見たレベニューシェア率が日本だけ格段に低いことや、2008年からの無料アプリの増加により、1ユーザー当たりのアプリダウンロード数が急激に増えていること、配信プラットフォーム別のゲームアプリの平均単価はApp StoreとAndroid Marketが極端に低いことなど、面白いデータが示された。
講演の最後には、マーケティングに関する話題も展開され、「無料ゲームは映画のトレーラーのように使うべき」、「ソーシャルネットワークでゲームをプロモーションする」、「値下げは注意して行なう」などのコツが紹介された。
ゲームアプリの平均価格は、App StoreとAndroid Marketだけが際立って低い | マーケティングのポイントも紹介された。無料ゲームの扱いや値下げ戦略など、難しい課題が挙げられている |
(2010年 3月 10日)