G-Star 2009現地レポート

世界の一流クリエイターが講演を行なう、開発者向けカンファレンス「ICON 2009」
「Blade & Soul」、「タワー オブ アイオン」の開発秘話も飛び出した講演をレポート

11月26日~27日開催

会場:釜山国際展示場(BEXCO)2・3階


 

「icon 2009」は開発者向けのカンファレンス。参会者には、将来のクリエイターを目指して勉強中の学生が多かった。

 韓国で開催中のG-Starの期間にあわせ、26日、27日の両日に開発者向けのカンファレンス「国際コンテンツ・クリエイター会議(International Contents Creator's Conference。以下、ICON 2009)」が同時に開催されている。「ICON 2009」は文化コンテンツ事業に携わる世界の一流クリエイターを講師に迎え、コンテンツ開発やコンテンツビジネスについてプロの視点から専門的な講演を行なうカンファレンスで、今年で3回目。ゲームだけではなくアニメなど映像コンテンツについての講演も行なわれる。受講料は1日券で24,800ウォン(学生16,000ウォン)からとなっている。

 今年は、3本の基調講演の他、ゲーム、アニメ、ビジュアル、アカデミーの4分野に分かれた講演が行なわれた。その中から、NCsoftの「Blade & Soul」開発プロデューサー&ディレクターのペ・ジェヒョン氏による「『Blade & Soul』に基づく様々な体験の創造」という基調講演と、同じくNCsoftの「タワー オブ アイオン」のアートディレクター、キム・ヒョンジュン氏の講演を取材した。

 参加しているのは、大学生や将来コンテンツビジネスに携わりたいと考えている若い人が中心で、女性の姿が多いのが印象的だった。最新のMMORPGがどんな思想をベースに作られているのか、その一端に触れることができる「ICON 2009」という貴重なチャンスを、レポートを通じて共有して欲しい。



■ 出発点となるテーマ“グラフィックスの強化が「次世代」なのか?”

NCsoftの「Blade & Soul」のプロデューサー&ディレクターのペ・ジェヒョン氏がトップを切って基調講演を行なった

 NCsoftのペ・ジェヒョン氏は「『Blade & Soul』に基づく様々な体験の創造」というタイトルで講演を行なった。ペ氏が最初に提示したのは「“次世代”とは何か?」という疑問だ。新しいゲームが出るたびに“次世代”という言葉が使われるが、その言葉はゲームの何を指してそう呼んでいるのだろうか? 高解像度で、たくさんのポリゴンやテクスチャーを駆使し、シェーダーの技術を使って美しいグラフィックスを再現したゲームを“次世代”のゲームと呼ぶのは、間違っているわけではないが、その美しさ自体が“次世代”の本質ではない、とぺ氏。

 

 その疑問を提示したうえで、ペ氏は、TRPGから始まるロールプレイングゲームの発展の中で生まれてきた“次世代”について述べた。ロールプレイングゲームの原点であるテーブルトークロールプレイングゲーム(TRPG)は、集まった人がそれぞれに役割を決めて言葉のやり取りでストーリーを進めていく。我々が今RPGと聞いて想像する、コンピューターロールプレイングゲーム(CRPG)はTRPGを元に生まれた。しかし、初期のコンピューターは言葉の持つ想像力の広がりを再現するにはいかにも力不足だった。言葉は、人間の想像力のぶんだけ広がっていく。初期のコンピューターは技術的な限界という制限から、言葉が持つ想像力をすべてを再現する事はできなかった。


■ 技術の発展は、カタルシスや快感をプレーヤーに与えるため使われるべき

壁を猛スピードで走るキャラクター

戦闘シーンには、武侠ものらしい様式美が貫かれている

 技術の進化により、表現の幅は増加している。では、現在のハードウェアを使って、開発者は何を表現すればいいのか? 1つの答えは「気分」だとペ氏。「Blade & Soul」はいわゆる“武侠”と呼ばれるジャンルのゲームだ。ペ氏は「Blade & Soul」で、プレイする人が武侠の大家になったような気分になれるようなゲームを目指した。ペ氏いわく、人は無意識の中でスーパーヒーローになりたがるそうだ。だから武侠ものでは、超人やスーパーヒーローになりたいという願望を満たしてあげるような表現が必要となる。そのため「Blade & Soul」では、プレーヤーキャラクターは壁を走ったり、形式美に彩られたオーバーアクションで攻撃をしたりして、普通の動きはしない。

 キャラクターの着ている服にも、そんな表現が顕著に現われている。「Blade & Soul」では、攻撃をするときに衣装や尻尾がなびく。また、10本の刀を投げて攻撃したり、敵に馬乗りになって殴る事もできる。こういった動きは、カタルシスや快感を与え、プレーヤーがキャラクターに感情移入するために欠かせない。しかしこれらの動きをネットワークを介して行なうには色々な難題が付きまとう。

 例えば、馬乗り攻撃は、1対1で戦う格闘ゲームでは、登場するキャラクターの数が20人、40人と限られているので、そのキャラクターの分だけアニメーションを作ればいい。だがMMORPGではMOBの数だけでも100種類以上、多いゲームだと500種類にも及ぶ。更に多くのキャラクターが登場するので、それらすべてをアニメーションで作ろうとしたら莫大なコストがかかってしまう。技術があれば、それを計算で実現する事ができるのだ。MMORPGは多くのプレーヤーが自分のキャラクターに感情移入できるように作らなければならない。それはゲーム内に登場する多くのNPCに対しても同様だ。

 「Blade & Soul」では多くのNPCがプレーヤーに何かを訴えてくる。それらのNPCにプレーヤーが感情移入するには、NPCと感情を分かち合わなくてはならない。人は脳の機能の多くを、コミュニケーションのために使う。そして感情を分かち合うには、対象と過ごす時間が必要だ。「Blade & Soul」では、NPCをただのクエストベンディングではなく、感情を分かち合う対象とするために、いろいろな仕掛けをしているのだそうだ。




■ インターフェイスを制限することで生まれる、新しい遊びの可能性

派手な戦闘システムは、プレーヤーの超人願望を満たしてくれる
クエストをくれるNPCが、プレーヤーにとって大切な存在になるかも?

 “次世代”を語るためのもう1つの要素は「制限と除去」だとペ氏。日本では、対戦格闘ゲームが、スティックとボタンというインターフェイスの制限のなかで発展した。また、FPSの名作「Halo」がコントロールパッドで動くコンソール機用に開発された事で、FPSはマウスを使った細密な照準ではなく、大きな照準を使ったよりカジュアルな方向へと発展した。今回の主題であるRPGについても、最初期のPC上で動くゲームでは、キーボードから単語を打ち込むことで操作をしていたが、日本でファミコンが生まれると、より簡単なコマンド入力方法として「メニュー」が誕生した。アナログスティックや、タッチスクリーンなど新しいインターフェイスが出るたびに、ゲームは進化してきた。

 既成のMMORPGでは、たくさんのスキルを1~12個のスキルスロットに入れて使用するものが多い。スキルスロットはたいていいくつかのページに切り替えることができ、そこにアイテムや、釣りや、ドアオープンなど様々な技能を入れて使用している。だが「Blade & Soul」では、それを意図的に制限している。8つのスキルスロットと、WASDをはじめとしたいくつかのキーに制限したらどうなるかという試みを行なっている。ペ氏と彼のチームでは、意図的にUIを制限する事で、カジュアルで面白いゲームを作りたいと思っている。

 もう1つの要素「除去」は、「面白くない要素を除去する事で、面白いものを作ろう」という考え方だ。面白くないものの例として、ペ氏は、勝てない戦争や、BOTがいる場所、簡単に勝てるボスなどを挙げた。そして参加者に対して「新しいものを作るには、執念と執着を持って、たくさん悩んでたくさん作って、一生懸命働く事です」とエールを送った。

 講演後の質疑応答では、BOT対策についてどう考えているかという質問も出た。ペ氏は「数字でシステムを作ると、人は本能的に効率を追求してしまう。数字に関係のない楽しさを表現する事で、効率を考えないようなゲームにでれきばいい」と答えた。そして、過去の素晴らしい先輩が作り上げてきたインターフェイスを踏襲して作り、自分が悩まないようでは、結局過去にあるものと同じようなゲームになってしまう。韓国の開発者が見逃している部分は、そういったインターフェイスに対する考え方、そして面白いものに感動するプレーヤーの感性に対する配慮であると締めくくった。

 ゲームの企画マンが求められるのは、新しいものを生み出す力だ。グラフィックスの進化はゲームの臨場感という意味で欠かせないが、それはゲーム自体の新しさとは必ずしも直結しない。衝撃を生み出し、次の世代のスタンダードとなるような「仕組み」を生み出す事ができたゲームこそ“次世代”のゲームを名乗るにふさわしいのではないだろうか? ペ氏の講演は、講演を聴く多くの参加者に“次世代”を生み出すための大きなヒントを与えたはずだ。




■ 「タワー オブ アイオン」のアートディレクターが語るMMOのグラフィックスとは?

NCsoftの「タワー オブ アイオン」のアートディレクター、キム・ヒョンジュン氏がグラフィッカーの立場からMMORPG開発について講演した

 初日のicon 2009ではゲームの講演として「タワー オブ アイオン」のアートディレクター、キム・ヒョンジュン氏による「MMOROGのためのグラフィックス」という講演が行なわれた。キム氏はアートディレクターの立場から、MMORPGに必要なグラフィックスとは何かを論じた。参加していた学生の中には、実際にプレイをしている人も多いようで、やはり「3.0」についての興味が最も大きいようだったが、質疑応答でわずかに話題が出た以外には、残念ながらはっきりと「3.0」の手法に踏み込んだ言及はなかった。とはいえ、現在のレベルでも十分はハイクオリティを保っている「タワー オブ アイオン」のグラフィックスが、どのような思想をベースに作られているかは、気になる部分だろう。

 キム氏がここで考えるMMORPGのグラフィックスとは、(1)ストーリー進行が可能で、レベルアップのための広いフィールドと、PvEのためのたくさんのモンスターがいる世界、(2)職業や種族の区別がはっきりしていて、見た目から職業や能力、レベルが想像できるキャラクター、(3)プレーヤーの満足感を満たすための衣装や武器、アクセサリー、などを指す。

 プレーヤーが成長に合わせて満足感を得られるように、「タワー オブ アイオン」では約700種類の衣装アイテムが存在している。プレーヤーの個性を表現したいという欲求を満たすことは非常に重要だが、ベースとなるグラフィックスのスタイルは少なくとも2~3年は維持されなければならないと言う。また、多くのユーザーが集まっても表示されるものを作る必要がある。ユーザーの満足感を満たしつつ、多様性とクオリティを維持するにはリソースの効果的な利用法が必要となる。キム氏は、キャラクター、背景、モーションについて「タワー オブ アイオン」をモデルに、リソースの効果的な利用法の例を説明した。




■ 多様なレンダリング手法を使ってリソースを節約していく

 MMORPGの世界は、モデリングされたポリゴンをレンダリングすることで形作られる。ポリゴンを多用したハイポリゴンのオブジェクトは美しいが非常に重く、表示するにはハイレベルなマシンスペックを必要とするので、多数のモデルを同時に表示するMMORPGでは基本的にポリゴン数を節約したローポリゴンモデルでキャラクターや風景が作られている。それは「タワー オブ アイオン」も変わらない。それでも、本作のグラフィックスが非常に美しく見えるのは、MIPマッピングなどの手法を使ったテクスチャーの技術と共に、レンダリングの方法に工夫を凝らしているからだ。

 「タワー オブ アイオン」ではライトマップを多用して、世界のダイナミズムを表現している。シャドウを入れる事で地形とそこに配置されたオブジェクトを融合させたり、カラーライトや環境光など様々な光を配置することで、空間の密度をあげて風景の臨場感をあげている。

 リアルタイムレンダリングを行なうエンジンが進化して、すべてを計算で行なう事も可能になったが、「タワー オブ アイオン」ではテクスチャーに直接光の映り込みを描くデフューズテクスチャや、炎や爆発などのパーティクルをあらかじめアニメーションで用意するような手法が使われている。リアルタイムシェードを行なうには、オブジェクトの数を減らしたり、テクスチャーの解像度を小さくしなければならないので、すべてをエンジンに頼るとかえってグラフィックスのクオリティを下げる事になる。何を選び、何を諦めるかを選択するのはアートディレクターの重要な仕事だ。

 高クオリティのゲームが増え、どんどんコンテンツが増えていく中、最適化は重要だ。RvRのあるMMORPGならよりいっそうの努力が必要になる。特にキャラクターについては、大人数が同時にプレイするため、クラスやレベルがわかるよう差別化しなければならない。数字で表現されている能力値を、周囲のプレーヤーにもわかりやすいようビジュアル化するのが狙いだ。

 また、キャラクターの個性を出したいというプレーヤーの表現欲を満たすためには、たくさんのバリエーションが必要だ。「タワー オブ アイオン」ではモデリングではなく、レンダリングの方法を改善することでクオリティをあげる方向でがんばっているのだそうだ。G-Starに併せて発表された「3.0」のムービーでは、更にレンダリングの精度があがった映像が紹介されている。

 世界の躍動感を表現するためのもう1つの手法がモーションだ。「タワー オブ アイオン」には、様々なエモーションが存在するが、キャラクターを放置した時のアイドルモーションの多様さは他に類を見ない。寒い場所では震え、暑い場所では扇で自分をあおぎ、雨が降れば草を傘がわりにかざす。環境に合わせて変化するアイドルモーションは、世界を表現する手法として採用されている。

 他にも、効果的な最適化の手法として、モンスターのモデリングを再利用したり、色を変えた衣装を出したり、攻撃モーションを使いまわすなどの手法が紹介された。こうしたカスタマイズは、効率的で効果的なゲーム開発には欠かせない。さらにキム氏は「今後のゲーム開発では、グラフィッカーがプログラマーと協力していくことが必要になるだろう」と語った。


シャドウをつけると、オブジェクトのリアリティが増す
カラーライトを使うことで、空間の密度を増す事ができる




■ 誰も見たことのない、新しいMMORPGを目指して

 「タワー オブ アイオン」の開発裏話は参加者の笑いを誘った。「タワー オブ アイオン」のキャラクター作成は、プリセットだけでなく身長や体型、顔の造作を細かくカスタマイズする事ができる。キム氏は当初、いくつかのプリセットの中から選んでもらうという形を考えていた。その頃チームには約60人くらいのグラフィッカーがいたので、彼らに好みの顔を作ってもらった。ところが、チーム員の1人がどうしてもブサイクしか作ってこない。しかも、彼の中ではその顔が1番の美人なのだと言う。それを見て、色々な人がいるのだから、とカスタマイズできる方向に変えたのだそうだ。

 最後の質疑応答では、先日公開された3.0の最新ムービーでグラフィックス品質の向上を謳っているが、ハイスペックを要求しそうな品質の向上は、リソースの最適化という話とは逆行しないか、という質問が出た。キム氏によると、以前のグラフィックスと新グラフィックスは同居することになるという事なので、どちらかを選ぶ選択式になるのかもしれない。ムービーを見て戦々恐々としていたユーザーには朗報かも?

 NCsoftの2つの大作MMORPGに携わっている2名の話は、立場の違いによって微妙に目指す方向性が違っている印象を受けた。企画マンはグラフィックスを超えた先進性を目指し、グラフッカーは求められる最高の品質を実現するための手法に頭を悩ませる。別々の立場からみると、MMORPGの開発という同じ仕事をしていても、感じ方や考え方に差が出るのだろう。その差をどうにかして埋めようとするあがきの中から、新しいものは生まれてくるのかもしれない。似たようなゲームが多いと批判される事もある韓国のMMORPG産業だが、開発の最前線では新しい地平目指して着実に進化を続けている、そんな真摯な姿が見て取れた。


キャラクターの装備は最もリソースを使う部分。テクスチャーの色を変えるのは、リソースの有効な再利用法だ
キャラクターの多様性や差別化は、プレーヤーの欲求を満足させるための重要な要素となる


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(2009年 11月 27日)

[Reported by 石井聡 ]