最新ニュース
【11月30日】
【11月29日】
【11月28日】
【11月27日】
【11月26日】

CESA Developers Conference 2009現地レポート

グローバル時代のゲーム開発に挑む「安い、早い、美味い」の3原則
カプコン竹内氏が目指すさらなる組織改革、世界と戦うための「総合力」とは何か?


9月1日〜3日開催

会場:パシフィコ横浜



 2009年に入って「バイオハザード5」、「モンスターハンター3(トライ)」を発売し、国内、海外の市場で着実にヒットタイトルを積み重ねつつあるカプコン。この躍進を支える立役者のひとりであるカプコンのCS開発統括編成部長、竹内潤氏は、昨年9月に行なわれたゲーム開発者向けカンファレンス「Gamefest Japan 2008」にて、「海外戦略に向けた販売体制の構築」と題した講演を行なった(弊誌レポート記事)。その講演で竹内氏は、開発者本位の組織改革、そして世界で戦うための開発基盤作りについて語っている。

 そして今回、CEDEC 2009の場にて再び、竹内氏がカプコン流のゲーム開発体制を語るセッションが設けられた。演目は「グローバル時代のゲーム開発」。内容としては、言わば昨年行なわれた講演の続きに相当し、カプコンで行なわれた組織改革についてより具体的に説明され、現在のカプコンを支える独自の経営哲学が披露された。

 数々のヒットタイトルを手掛けるプロデューサーとしてだけでなく、多数の開発スタッフをまとめ、組織改革を実行してきたオーガナイザーとしての顔も持つ竹内氏。その組織論の背景にある考え方はごくシンプルで、わかりやすく、それと同時に実現には多くの困難をともなうものだ。果たして、カプコンの現在における成功はどのように達成され、これからどの方向に向かうのか。竹内氏の講演をご紹介しよう。



■ 世界で戦うためのキーワードは「早い、安い、美味い」
 シンプルな言葉の中に集約された、カプコン流ゲーム開発哲学

カプコンCS開発統括編成部長の竹内潤氏
議論を象徴するキーワードをひとつづつ提示しながら講演が進められた

 カプコン竹内氏による講演の会場となったのはパシフィコ横浜のメインホール。収容人数1,000名の会場内には多数の聴講者が詰めかけ、業界関係者からの関心の高さがうかがわれた。

 講演にあたり竹内氏は、「自分たちがビジネスしているマーケットがどういう構成なのか知っておいた方がいい」ということで、カプコンが日ごろ気にしているという市場分析データを披露。昨年の「Gamefest」にて公開したデータに若干の視点変更を加えたものとなるが、それによれば、やはり全世界的にみると日本の国内市場規模は大きくない、というのが竹内氏の評価だ。

 その上で竹内氏は、「海外市場をどう狙っていくかが会社が成長していく上でのポイントになります。人口比で考えても今後この構図は変わらないでしょう。したがって、5、6年くらい前から、北米に向けたゲームを作ろうと会社的に判断して頑張ってきました。その点をベースにして弊社の考え方を披露したいと思います」として本題に入った。

 そこでまず主題となったのが、企業としての「戦略」と「戦術」というキーワード。「戦略」は経営サイドの考え方で、たとえば「海外シェアを10%とろう」といったもの。対する「戦術」は、戦略目標を与えられた現場サイドが実現のためにどう答えるかという部分にあたる。

 ただ、漠然とした戦略目標を経営サイドから与えられても、そう単純には事が運べないのが現場サイドの現実だという。「市場の拡大を狙いたいという単純な戦略を与えられても、即わかりました、拡大しましょう!なんて言えるものじゃないですよね。そんな簡単だったらみんなやってますって」と竹内氏。

 しかし、与えられた目標が達成可能なものであれば、実現のために何とかするのが現場としてのプライドだ。竹内氏は現場を率いる編成部長として、「海外シェアを取る」という戦略を遂行するための「戦術」立案を引き受けた。そして、戦略がシンプルであるなら、戦術もシンプルであるべきという考え方でひねり出したのが「安い、早い、美味い」という3つのキーワードだ。

 「ゲーム開発に必要なことを、地道にやっていくことが大事じゃないかというのが結論でした。そこで発生する瑣末な問題を処理していくためには、基礎的な体力を見直す必要があります。それがこの3つの言葉に集約されています」。

 はじめ現場スタッフにこの言葉を説明したときには「うちはファーストフードとちゃいまんねん」と反発もあったそうだが、そこに込められた「深い意味」をきちんと説明して理解してもらってからは、開発現場でもこの言葉が率先して使われるようになったという。

 では、「安い、早い、美味い」の深い意味とは何だろうか?

竹内氏が紹介した世界の市場データ。プレイステーション 3、Xbox 360ではサードパーティタイトルが強い。また、北米、欧州での各機種に対する購入意欲のデータも提示されている。「市場規模について、日本が100、アメリカ200、北米150とすると、カプコンのシェアが10%だとすれば海外進出することで売り上げは3倍になる。普通はそんなふうに単純にははじき出さないと思うんですけど、実際、そんな目論見を堂々と立てた」と竹内氏。こうしてカプコンの海外進出作戦が始まった



■ 「安い、早い、美味い」をスローガンに実行したドラスティックな組織改革

・安い=効率化

竹内氏らカプコン3人の「部長」達による昼飯会議でひねりだされたキーワード、それが「早い、安い、美味い」

 「安い」は、制作にまつわる無駄なコストを排除しようということだ。カプコンでは当時、チーム単位で異なるエンジンを作り、別々に運用しているケースが目立ったという。似た表現のゲームがなぜ同じエンジンでできないのか。竹内氏は、会社が大きくなるとこういった問題が起きがちだという。特にコストのかかる技術開発に関しては、属人的な状況を変えて共通規格化することに大きな効果がある。組織改革にあたって、まずゲームエンジンを一元化しようとしたわけだ。

 「ウチではそのための必殺技が『MTフレームワーク』です。どうも最近は評判が独り歩きして、凄いグラフィックスエンジンがあるらしいなと言われているようですが、本質はグラフィックスではありません。肝は、これを全社で使うということです」。

 また、竹内氏はこうも言っている。「ゲームエンジンを作れる人間はそうそういません。そういった希少なスタッフを一極集中することでクオリティを高めることができます」。こうして、それまでは各部署それぞれにコストがかかっていた研究開発や制作パイプラインの仕組みを1本化し、開発における「安い」が実現された。

・早い=組織化

 「バケツリレーに例えると、リレーをする人間が滞りなく水を受け渡すことで『早い』が実現されます。バラバラになっていたり、途中で人が欠けていれば水は運べません。そこで、単純に開発期間を削るという発想ではなく、開発をいかに組織化するかということを課題にしました」。

 最新のプロジェクトのひとつである「バイオハザード5」では、120人のスタッフが開発に関わっていた。その120人がバラバラに動いていては収集がつかないので、適切な単位でリーダーを置いていく必要がある。また、必要な人員の多寡というのは開発の進捗状況によっても変わってくるので、別のプロジェクトチーム間でスタッフが流動的に動ける環境も必要だ。

 それを実現するために竹内氏が繰り出した「必殺技」は、「開発の1本化」。7つあった開発部をまず2つに減らし、最終的には1つにまとめたという。それ以前は開発部が細かく分かれていたために情報の共有や人員の融通が滞り、バケツリレーに例えれば「バケツを落としまくって会社が水浸しだった」という竹内氏。それを脱却するために会社の全員が大きくひとつのチームとして動ける環境を整備した。

 これには「安い」につながるメリットも多数あった。まず、総体的な管理コストが減り、固定費も下がる。出張などの手続きが一元化できる。技術共有、機材やスタッフの融通もスムーズになる。そのおかげで、カプコンの「行動のスピード」は明らかに上がったのだという。

・美味い=面白いゲーム

 「最初の2つは会社側の都合ですが、これだけはお客さんの都合です。客商売なので本当に大事なことですが、いろいろな会社さんと話をするときに、この部分をきちんと話せるところが意外と少ない」という竹内氏。面白さは感覚的なものだけに、明確なノウハウは立てにくい。そのため売り上げや利益の話に終始する企業が多いということだろうか。

 竹内氏の考え方では、面白いゲームについて考えるときのポイントは、いわば顧客本位の姿勢に立つ。自分にとって面白いかどうかは副次的なもので、ユーザーが面白いと思うかどうかがあくまで第一義だ。カプコンではそれを開発に伝え、その思いを開発のモチベーションに変えるためにも、新人スタッフを販売店に連れて行き、自分らが開発したソフトが売れていく様子を見せるのだという。

 「理想は、お客さんが面白いと思っているものと、自分たちが面白いと思えるものがいかに一緒になっていくかということです。そうでなくては良いゲームは作れません。ウチでは、入社2年目の子をお店に連れて行って、『お前が作ったものが売れていくで、嬉しいか?』という話をするわけです。そういったことが私達開発者にとって1番うれしい瞬間ですから、実際に伝わるものがあるようです」。



■ 面白い、売れるゲームを作るには「反主流化」を目指せ ──「ロストプラネット」の場合

「反主流化」というキーワード。面白いゲームを作るためには、敢えて流行を避けるべき、というのが竹内氏の岩より硬いポリシーだ

 では、具体的に、面白いゲームを作るにはどうすればよいのか。竹内氏は、明確なノウハウは存在しないとしつつも、カプコン流の考え方として「反主流化」というキーワードを挙げた。流行を追いかけないということであり、ヒット作を真似するようなことをせず、敢えて現在の主流を避けるということだ。また同時に竹内氏は、既存タイトルの類似品を作ることによる、開発者の気持ちの問題にも触れている。

 「同じものを作ってもホンマに売れるわけがないんです。さらに、カプコンがそれを嫌う理由は、モチベーションです。発想の部分でオリジナルに勝つのは至難。しかも狭い発想の中で、開発者はものすごく苦しい思いをすることになります」。

 ちなみにカプコンではいくつものシリーズ作品を抱えているが、「同じシリーズに連続で関わっていると頭を抱え出すスタッフが多い」とのことで、そのために定期的にメンバーを入れ替えているのだそうだ。最近プロジェクトを終えた「バイオハザード5」のチームもすでに解散しており、メンバーはそれぞれ全く違うタイプのゲームに関わっているという。

 竹内氏の語る「半主流化」の好例が「ロストプラネット」だ。世界でミリオンセラーとなった同作だが、企画当初は散々に叩かれたという。

 「なんといっても、ロボット、SF、3人称シューティング。不人気ジャンルの3重苦です。こんなに売れない要素をくっつけたような作品は無い、売れたら大変なこっちゃと言われて、叩きに叩かれました」。

 こうしていったんはボツになりかけた「ロストプラネット」の企画。しかし竹内氏はヒットを確信しており、あきらめなかった。問題は、経営サイドをどうやって納得させるかということだ。そこで、どうしたか。

 「でも、それに対して、アメリカ人はロボットが好き、TPSも好き、SFも好きですよと。これまでは、たまたま売れるゲームがなかっただけで、出せばヒットは確実。こんなチャンスを逃すのは惜しいですよと、かなり強引な理屈で説得しました。そしたらなんと、プロジェクトに許可が出まして」という竹内氏のトークには会場も爆笑。

 そして竹内氏の計算通り(?)、「ロストプラネット」は海外を中心に大きなセールスを上げ、カプコンの強力なIPのひとつとなった。

 「常に流行を追いかけていくというゲームの作り方は、肩が凝ったら肩を揉むという考え方です。ウチの場合は、肩が凝ったなと思ったら、それは腰から、あるいは首から凝りの原因が来ているのではないかと考えて、そちらを治療するという考え方です。あまり良い例えではないかもしれませんが、潜在的な需要とはそういうことです。思いもよらないところにヒットの種があるはずです」。

 講演の途中、現在開発中の「ロストプラネット2」の未公開映像が少しだけ紹介されたので、以下にお伝えしておこう。来る「東京ゲームショウ2009」にて、この映像の完全版が公開予定とされている。

TGS2009で公開予定のトレーラームービーから、少しだけ切り抜いて紹介された「ロストプラネット2」の映像。初代作「ロストプラネット」の、なんとかして経営サイドを納得させるという苦心の初期企画から数年。こうしてカプコンの国際展開を代表する人気シリーズに成長した



■ 個々の力ではアメリカ大企業の「総合力」に勝てない?
 生き残りを賭け、各デベロッパーの「専門力」結集を呼びかける竹内氏

「安い、早い、美味い」は、相互に正のフィードバックを生み出し、開発会社としての基礎体力の強化につながった
「専門力」を結集したものが「総合力」。この関係は1社の中だけでなく、業界全体でも作れるはずだというのが竹内氏のメッセージ

 「安い、早い、美味い」をキーワードに、開発体制の大改革を敢行したカプコン。竹内氏は、その効果がさらに正の相互作用を起こし、さらなる開発体制の強化、ひいてはゲームデベロッパー・パブリッシャーとしての「総合力」の強化につながったと語る。

 「早く作ればさらに安く作れるようになり、安く作ることができればさらに美味しく作ることができるようになります。こういうスパイラルを築いていくことが、カプコンの基礎体力に大きな影響を及ぼしました。これは組織とか、エンジンといった単体では機能しません。全てが合わさることではじめて機能する。そういった『総合力』を企業として付けていくことをイメージされると良いのではないでしょうか」。

 一方、竹内氏は自社パブリッシングを行なわない数多くのデベロッパーに対してもメッセージを送っている。それは、独自の「専門力」を持ち、それを高めることで高い付加価値が発生するということだ。

 「例えばフォント制作をしている会社さんや、モーションキャプチャーのスタジオさんです。カプコンでもちょっとしたことはできますけれども、専門のスタジオさんのほうが早く、良いものを仕上げてくれます。そう考えるとゲーム業界の中に『専門力』はいくらでもあるのではないかと思います」。

 さらに、「モーションキャプチャーからアニメーションの制作までを一括で受注できるという話になれば、アニメーションとしての『総合力』が発生するわけです。そういう会社さんがいれば、ウチとしては是非仕事をお願いしたい。他の分野でも同様に、それが皆さんの会社の戦い方のひとつになるのではないかと思います」。

 とした上で、竹内氏は今後のカプコンが進む道、その中で日本のゲーム業界に期待することを、いわば同業者への決起を促す形で、力強いメッセージを送った。

 「アメリカのEA、UBIといった巨大な企業が日本市場を狙っています。このすさまじい『総合力』に対抗する日本の企業はどうなんでしょうか。我々を含む、これくらいの規模の企業が国内市場で奪い合いをするのは、私はもういいんじゃないかと考えています。業界全体としての、各々の『専門力』という武器を生かして、業界全体の『総合力』で戦う時代が来ているのではないかと。カプコンも、その一部として戦う所存です」。

カプコンにとってのそれは、「常に変わり続けること」であると竹内氏は言う

 また、カプコン自身の将来の展望についてはこう語っている。

 「これからの5年、どうなっていくかを考えた時に、カプコンではゲーム開発会社の組織として何が正解かはまだ見えていません。それに、完璧な組織をお持ちの会社はまだどこにも存在しないのではないかとも考えています。ですから、ウチとしても、ゲーム会社として最適な組織体になるまでどんどん変えていこうと思っています」。

 竹内氏は「変わることを止めれば死んでしまう」と、自社の体質を説明する。現在、次なる開発組織改編の構想を練っており、今後そう遠くないうちに、竹内氏の表現によれば「けったいな組織」を実現に移すそうだ。具体的にどういった姿を目指しているかは、竹内氏の口から表現されることはなかった。しかし、そのヒントは講演の最後に示されている。

 最後のスライドに自身の部署連絡先を表示した竹内氏。「一緒に戦おう、と思った方がおられましたら是非私までご連絡ください。『専門力』という武器をお持ちになった会社さんから順次受け付けておりますので」。会場は爆笑と満場の拍手に包まれて、カプコン竹内氏による講演は終了した。


(2009年 9月 3日)

[Reported by 佐藤カフジ ]



Q&A、ゲームの攻略などに関する質問はお受けしておりません
また、弊誌に掲載された写真、文章の転載、使用に関しましては一切お断わりいたします

ウォッチ編集部内GAME Watch担当game-watch@impress.co.jp

Copyright © 2014 Impress Corporation. All rights reserved.