China Digital Entertainment Expo 2009現地レポート

中国Winking Entertainment、「アンリミテッドハーツ」開発者インタビュー
2009年後半にペット合成とボスや神になれる変身システムなどを導入

7月23日~26日(現地時間)

会場:上海 新国際博覧中心

 

 台湾Gamaniaおよびガマニアジャパンがサービスする、横スクロールタイプのオンラインアクションゲーム「アンリミテッドハーツ」の開発は、台北および上海に拠点を持つ唯晶科技(Winking Entertainment)が手がけている。ChinaJoyの会場取材と並行して、Winking Entertainmentの本社を訪ね、「アンリミテッドハーツ」の開発経緯と今後の展開についてインタビューした。

 「日本版ではストーリー要素とアバター要素を重視しているが、アバターに関するガマニアジャパンからの要望で、いままでとくに驚いたことはないですね」と、手慣れたローカライズ/カルチャライズセンスを示す制作担当プロデューサーの黎裕釗氏が、真に驚いた日本プレーヤーからの要望とは何だったか? そんなエピソードを交えつつ、「アンリミテッドハーツ」の今後の展開についてお伝えしよう。




■ 「アンリミテッドハーツ」の基本設計はWinkingの手元で企画段階から国際仕様

「アンリミテッドハーツ」の開発プロデューサー、唯晶上海 第二研発中心 研発高級経理 黎裕釗(Jeff Lai)氏
ChinaJoy会場の禹碩(YuShuo)ブース
中国大陸サービスの簡体字中国語版ゲーム画面
日本サービスでは、協力プレイを重視してボスのAIを高度にしていると黎氏

編集部: Winkingは自主開発とアウトソーシング受注の両方を手がける会社ということですが、そもそも「アンリミテッドハーツ」は台湾Gamaniaに依頼された作品なのでしょうか、それともWinkingの提案作品でしょうか?

唯晶上海 第二研発中心 研発高級経理 黎裕釗氏: 「アンリミテッドハーツ」は、Winkingが企画提案したものです。2年前の時点で、Winkingは横スクロールアクションゲームの将来性は大きいと判断し、この作品のプロジェクトをスタートさせました。

編: 「アンリミテッドハーツ」はもちろん、台湾と日本でサービスが始まっていますが、そのほかにどこの国でサービスが行なわれる予定でしょうか? とくに、中国大陸でのパブリッシャが気になるところです。

黎裕釗氏: すでに運営されているのが、台湾と日本に加えて、東南アジアのマレーシアとシンガポールです。今後、ベトナムとタイでもサービスが開始されます。中国サービスの開始時期は8月で、パブリッシャーはアニメーション作品の制作事業なども手がけている禹碩(YuShuo)です。今年の後半にはアメリカにも進出予定です。

編: 中国で開発され、中国以外の地域でサービスが先行するのは、それほど珍しいことではありませんが、中国大陸でのサービス開始が日本よりも後になっているのは、少し意外でした。基本的に各国へのライセンシングはGamaniaグループが行なうのでしょうか?

黎裕釗氏: いいえ。大元のライセンスはWinkingが持っていますので、各国サービスにおけるライセンシングはWinkingが行ないます。それと、実は中国大陸で1番先にクローズドβテストを行っています。そこでの検証結果に基づいて、台湾サービスに向けた開発にまず注力した、という順番になりますね。

編: なるほど。オンラインゲーム開発でよく言われる、中国大陸のテストベッドとしての有用性を活かした形ですか。中国大陸には多くの人がいますから、プレイテストにも負荷テストにも向いているという……。それでは、そもそもこのゲームの企画を立てたとき、どこの市場を中心に考えていましたか?

黎裕釗氏: 企画段階で特別に意識した国はありません。Winkingは最初から、1本のゲームをさまざまな国でサービスする前提で開発するからです。最終的にはそれぞれのサービス国に合わせて、ゲームを拡張する見通しで開発を行なっています。

編: では現時点で、台湾バージョンと日本バージョンにはどのような違いがありますか?

黎裕釗氏: 日本バージョンは台湾バージョンに比べて、メインストーリーを構成するストーリーラインが1本多くなっています。そして、ヒロインとして王女が追加されています。また今後、着物などといった日本独自のアバター要素もリリースしていきます。

 プレイ内容全体で言うと、台湾バージョンではGvG(ギルド対抗戦闘)を重視しているのに対し、日本バージョンは協力プレイによるボス討伐に重点を置いています。例えば日本バージョンにおけるボスのAIは、台湾バージョンより倒すのが難しい設定になっていますし、それは今後さらにAIを高度なものにしていく予定です。また、プレーヤー同士が協力し合うことなしには使えないスキル、チェイン・アタックの種類がより充実しています。

編: これから始まる中国サービスで、中国大陸に合わせたプレイ要素や独自のサービス内容は予定されていますか?

黎裕釗氏: 中国大陸でのサービスに当たって、最も重要なのはアイテムショップの運営方法だと考えています。特別な有料アイテムをリリースするケースはそれほどありませんが、価格や販売個数の設定には、中国大陸での現実的な需要を考えて、かなり気を使っています。中国大陸のゲーマーはお金にシビアですから、例えば少ない個数での販売項目をマメに用意する、といったことですね。

編: その中国大陸で、最も重要な有料アイテムはどんなものですか?

黎裕釗氏: 日本市場ではアバターアイテムがたいへん重要ですが、中国大陸ではプレーヤーキャラクターの能力を上げたり、精錬の成功率を上げたりする機能性アイテムが重要です。

編: 日本サービス向けの開発項目などについて、ガマニアジャパンとの間ではどのような話し合いを持っていますか?

黎裕釗氏: ガマニアジャパンとの間に窓口部署を設けていて、日本プレーヤーからの要望は中国語訳したうえですべて読んでいます。ガマニアジャパンとの話し合いは、週に1回TV会議システムで行なっています。

編: では、日本から寄せられた要望の中で、最も驚いた事柄を教えてください。

黎裕釗氏: キャラクターのジャンプアクションについてですね。「ジャンプがもっさりしている」という指摘がありまして、そうした指摘はほかのどの国からも出てきたことがなかったんですよ。つまり、ほかの国のプレーヤーなら気がつかない程度の問題ということになりますが、それを日本のプレーヤーに指摘されて、たいへん驚きました。日本プレーヤーがゲームに求めるレベルが高い、ということですね。早速、調整予定項目に加えました。また、ジョイスティックの操作ボタン設定についての改良は、日本からの要望によりオープンβテストへの移行段階で反映されています。

編: 横スクロールアクションについて、日本人の要求レベルが予想より高かったという話は、確かに説得力がありますね……。日本市場で最も重要だというアバター要素についてはいかがでしたか?

黎裕釗氏: アバター要素に関して、ガマニアジャパンからはいろいろな要望がありましたが、とくに驚いたことはありません。Winkingの美術担当は日本の文化についていろいろ勉強していますので、日本独自のアバターをどうやってデザインすればよいかといった課題では、これまでとくに大きな認識の差は出ていません。




■ ペット合成と、ボスモンスター/サジタリウスへの変身。今年後半から予定される新システム導入

来年3~4月までの間に、3つの大きな新システムを導入すると黎氏は語る
サジタリウスのアートワーク

編: ここまでにお聞きした新アバターやボスAIの強化以外に、今後「アンリミテッドハーツ」にどのような要素が追加されていくか教えてください。

黎裕釗氏: これから、3つの新システムを導入します。その1つめはペットシステムです。普通のペットシステムと違うところは、複数のペットを合成して1匹のよりハイレベルなペットにできる点です。合成したペット同士をさらに組み合わせて、より強いペットにすることも可能です。同一のペット4匹を1匹にするといった合成も用意されています。ただし、合成できるペットの種類と数はあらかじめ決まっていますので、無制限に合成していけるわけではありません。手に入れたペット同士が合成できるかどうかはメッセージでわかりますし、合成した場合のステータスも事前に表示されます。

編: ペットの合成に失敗はありますか? また、合成できる回数は有限ですか無限ですか?

黎裕釗氏: 失敗はありません。ただし合成するためには、両方のペットのレベルが同じである必要があります。システム導入時点で、ペットの合成は4回が上限になっています。ゲームサービスが進み、新しいペットが導入されていくにつれて、新しい合成のパターンを増やし、制限回数は引き上げていく予定です。

 2つめの新システムは、プレーヤーキャラクターがボスモンスターに変身できるというものです。必要な条件を満たすと、プレーヤーキャラクターは一定時間ボスに変身できるようになります。ボスモンスターが持つ固有のスキルも、きちんと使えますよ。ボス戦を前にして自分がボスに変身することも可能ですから、頼りになります。そしてこの新システムは、3つ目の新システムの前提に当たるものです。


【ボスに変身】
ボスに変身して独自のスキルを使うと、こんな感じになるというテスト画面

編: 3つ目の新システムのひとつも何らかの変身なのでしょうか?

黎裕釗氏: はい、神様に変身します。もともとこのゲームの背景には12の神様がいて、プレーヤーキャラクターはそのいずれかに変身できるわけですが、同じタイミングで神様になれるのは1人だけです。そこで、さらに楽しみの幅を広げるために、別の変身システムを用意しました。

編: では次に神様への変身について、あらためて教えてください。

黎裕釗氏: 変身できる神様は半神であるサジタリウス(いて座)のみです。もともと「アンリミテッドハーツ」には、サジタリウスが人類を救うという設定があります。新システムはそれに基づいているのです。そして、従来の神様システムに基づいて神様になるときはキャラクターが大きくなりますが、今回の新システムでは等身大のままサジタリウスになります。サジタリウスへの変身は、物語を一定の段階まで進めれば全プレーヤーに可能です。

編: サジタリウスの姿で戦う場合、やはり制限時間はありますか?

黎裕釗氏: いいえ、ありません。変身が可能になって以降、プレーヤーは戦闘に入ると自動的にサジタリウスになります。

編: その場合、持っていた武器や防具はどうなりますか?

黎裕釗氏: 武器や防具自体、サジタリウス用のものに変化します。結果として元の職業によって、サジタリウスが持つ専用の武器も違ってきます。そして武器も本人も、元のレベルが高いほど強くなります。

編: 誰でもサジタリウスになれるとすれば今後、サジタリウスに変身しないとクリアできないステージなども登場することになりますね。

黎裕釗氏: はい、出てきます。例えばサジタリウスにならないと入れない街なども予定されています。

編: ボスに変身していられる時間はどのくらいですか?

黎裕釗氏: まだ仕様を検討している最中ですが、30分から1時間ほどと考えています。これは、よりハイレベルなボスに挑戦する場合の所要時間が、ひとつの目安となっています。

編: 条件が揃えば、どのボスにもなれるのでしょうか?

黎裕釗氏: それについては複数の段階があります。最初のうちに変身できるのはレベルの低いボスだけですが、次第に増えていきます。レベルのほかにも条件があって、例えばあるボスに変身するためには、当然ながらそのボスのダンジョンを攻略し、ボスを倒してカードを入手する必要があります。ただしカードのドロップは運次第で、これを集めるのも楽しみのひとつといえます。そのうえでさらにモンスターを倒していくことによって、ボスの種類ごとに用意されたゲージをいっぱいにしていき、溜まったら変身が可能です。

編: それぞれの新システムは、だいたいいつごろ導入されますか?

黎裕釗氏: 日本サービスだと、ペットシステムは今年の9月ごろ、ボスモンスターへの変身システムが今年のクリスマスごろ、サジタリウスへの変身システムは来年の3月から4月が予定されています。ただし、これらよりも小さなアップデートは毎月予定していまして、ほかにも日本では、季節ごとの特徴を持たせたアバターや、祭日にちなんだ特別クエストをリリースしていきます。新しいインスタンスマップやそのボス、ボスのAI、新しい武器/アイテムは2カ月ごとに追加します。時限インスタンスゾーン、つまり、一定の時間内にクリアできないと、褒賞をもらえないまま強制的に追い出されてしまうステージの追加も考えています。

編: 最後に、日本の「アンリミテッドハーツ」ファンに向けて、開発者からぜひメッセージをお願いします。

黎裕釗氏: 「アンリミテッドハーツ」は、みんなで協力してボスを倒すことで、最も良い褒賞が得られるゲームになります。このゲームを存分に楽しんでください。

編: ありがとうございました。


 中国大陸で最初にテストが行なわれた「アンリミテッドハーツ」が、まさしく中国大陸でサービスを開始するタイミングで行なった今回のインタビュー。そうした開発経緯自体、中国大陸と台湾に拠点を持つWinking Entertainmentの強みを活かしたものといえる。多国間サービスを最初から念頭に置いて、基本設計のレベルでターゲット国を設定しないという方法論も、彼らのビジネスをよく象徴している。

 その一方で、例えばペット合成システムは明らかに「真・女神転生」シリーズを念頭に置いたものだ。面白いと思ったものを貪欲に、融通無碍に取り入れる部分は、逆に中国の企業ならではのやり方かもしれない。

 そうした、国際的かつ中国的なパワーから生み出された「アンリミテッドハーツ」ではガマニアデジタルエンタテインメントとの緊密な連携によって、日本市場に合わせた「協力プレイ」重視のバランシングもしっかり計算されている。今後、矢継ぎ早に新システムが投入されるとしても、そうしたローカライズ/カルチャライズがしっかり行なわれていくなら、ますます魅力を増していくだろう。


【社内の様子】
「アンリミテッドハーツ」の開発部署。外注事業も含めてアートワークに強い会社だけに、オフィスのカラーリングはシックでちょっとおしゃれ。空席が目立つのはこの時点で19時を回っていたため
社内にはスタッフによるポップアート作品と、過去の開発作品のアートワークが飾られている

(2009年 8月 3日)

[Reported by Guevarista ]