Game Developers Conference 2009現地レポート
マイクロソフトの次期主力OS「Windows 7」関連レポート
OSが替わることでPCゲーミングがどう進化するのか!? 最新オンラインサービス「GFW - LIVE 3.0」もレポート
毎年GDCで大きな存在感を示すMicrosoft。2日間かけて行なわれたチュートリアルでもXNAやDirect X 11に関する技術情報を公開し、多くの技術者を集めた。3日目以降も数多くのセッションの開講が予定されている。その中で最大のトピックは何かというと、Xbox 360でもWindows Mobileでもない。2009年1月にβ版の提供を開始した次期主力OS「Windows 7」だ。
Windows 7については、2008年に同社がその存在を公式に認め、正式サービスに向けて様々な情報提供が行なわれている。2009年1月にβのリリースを開始したとはいえ、OSの場合、βが公開されてからが長く、リリース時期については依然として不透明だ。一説には2010年初頭と言われているがそれを裏付けるアナウンスは行なわれていない。ちなみにリリース時期については、GDCでも語られることはなかった。
今年のGDCでは、MicrosoftのセッションでWindows 7が初めて取り扱われ、ゲームOSとしての基本情報が公開された。また、Windows 7とは直接関係ないが、同社が提唱するゲームプラットフォームブランド「Games for Windows」のオンラインサービス「Games for Windows - LIVE」の最新版「3.0」の開発情報も披露された。GDCでの情報公開であるため、ターゲットはいずれもエンドユーザーではなく、パブリッシャーやデベロッパーだったが、複数のセッションを聴講することで同社の狙いがわかってきたのでここにまとめておきたい。
■ Windows 7は、ダウンロード機能を強化したGames Explorer Ver.2.0を搭載
Windows 7は、現行OSであるWindows Vistaをベースに、Vistaに搭載された新機能とのトレードオフで露見した数々のウィークポイントを全面的に克服したメジャーアップデートとなる。一例を挙げると起動時間の短縮化、パワーマネジメント機能の強化、メモリの有効活用などがある。なお、Vistaと同様に32bitと64bitの2つのバージョンが用意されるが、クライアント向けWindowsフランチャイズとしては初めて64bit版がメインストリームとなる予定だ。
Microsoftによれば、現在、Windows Vistaの64bit版のシェアが急速に伸びており、そしてまたゲーム開発環境への適用も増えてきているという。今回、開発者に対しては、Windows 7向けを含むトータルのゲーム開発環境として、Windows Vista x64が改めて推奨され、Epic GamesやEA DICEでの実装事例が紹介された。Windows 7世代のPCゲームは、64bit環境がエンドユーザーにも浸透してくることで、メインメモリの制限の撤廃など64bitOSのメリットを活かしたゲーム開発も現実味を帯びてきた。
さて、本題である「ゲームOSとしてのWindows 7」の機能についてだが、こちらもOSの基本コンセプトと同様に、Windows Vistaの機能をベースに、いくつかの新要素を追加したものとなっている。実装される機能としては、Games Explorer Ver.2.0、DirectX 11、Multi Touchの3点だ。
Games Explorer Ver.2.0は、Windows Vistaのゲーム機能の目玉として実装されたGames Explorerのメジャーアップデートとなる。Games Explorer Ver.1.0は、「プログラム」内に散らばる無数のゲームアプリケーションを一元管理し、その上でメーカー名やレーティングなど、各タイトルのベーシックな情報を提供するというゲーマー向けの専用サービスを提供していたが、ゲーマーにとって必須となる機能や使いたくなる機能はなかっため利用率は極端に低い。Ver.2.0では、こうした形骸化された現況を払拭するために、ゲーマーが欲しい機能、特にオンラインサービスの拡充に力点が置かれている。
基本的な画面構成はVer.1.0から大差ないが、大きな変更点としてはゲームタイトルの一段上の階層としてゲームプロバイダーが追加されたことが挙げられる。これによりVer.2.0からはメーカーごとにゲームタイトルがぶら下がる形となる。これにはもうひとつ大きな意味があり、ゲームプロバイダーから、Microsoftをはじめとした各ゲームメーカーが提供するオンラインサービスにアクセスすることができる。
オンラインサービスについてはWindows Vistaにおける自動アップデートの仕組みと非常に似通っており、個別のタイトルのアップデートの有無がGames Explorer上からリアルタイムで確認できるだけでなく、アップデートがある場合の自動ダウンロード、自動インストールの可否などをGames Explorer側で設定することができる。また、RSSでメーカーの最新情報を引っ張ってきたり、メタデータ(ゲーム評価)やスタティスティックス(勝敗数などの個人的な統計データ)を表示させることもできるなど、情報面でもパワーアップしている。なお、Games Explorer Ver.2.0は、Windows Vistaには提供されない。これを切り捨てと見るか、移行を促すための差別化と見るかは、現時点では断定できないが、ゲーマーとしてはWindows Vistaに留まる理由は特に見あたらない。
2点目のDirectX 11は、Windows 7とDirectX 11対応ハードウェアを搭載したPCによって実現される次世代の3Dグラフィックステクノロジーの総称である。その具体的な内容については、本誌連載「3DゲームファンのためのDirectX 11講座」で詳しく取り上げているのでここでは繰り返さないが、こちらもまたWindows Vistaで搭載されたDirectX 10および10.1のスーパーセット(互換性を備えた上位バージョン)となる。
なお、DirectX 11は、正確にはWindows 7専用の機能ではなく、Windows Vistaにも無償提供される。提供時期もWindows 7のリリース前になる見込みだ。余談だが、DirectX 11は、Windows XPには提供されない。Windows 7とWindows Vistaの両方に提供されるDirectX 11は、DirectX 9に替わるメジャーAPIとなることが予想されており、Windows XPとDirectX 9.0cの名コンビは、DirectX 11とWindows 7のリリースを機に、ゲームOSとしての役割を終えることになりそうだ。
3点目がWindows 7固有の機能である「Multi-Touch」である。Windows 7では、AppleのiPod Touch/iPhoneのような多点操作(主に2点)に対応したMulti-Touchインターフェイスを標準搭載する。もちろん、DellのLatitude XTやHPのTouchSmartのようなタッチパネル対応のモニタが必要となるが、これをリアルタイムストラテジーやカジュアルゲーム、最先端のアクションゲームに活用してみませんか? というMicrosoftからの提案となる。
Multi-TouchというWindows 7側の機能をわざわざゲーム用の機能として謳う背景には、欧米ではすでに大きな市場になりつつあるiPod Touch/iPhone向けのゲームやそれらを開発する中小デベロッパーを取り込みたいという意向があるものと見られるが、地図や写真の拡大縮小ならまだしも、ゲームに全面的に適用するにはいささかリスクが高すぎる。まずはファーストパーティータイトルの登場を待ちたいところだ。
【Windows 7デモンストレーション】 | ||
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デモといってもGames Explorerを起動してその新要素を見るというシンプルな内容だった。右上の画面では「ZooTycoon 2」のアップデート告知が行なわれている。左下に表示されているオプションで自動設定を決める |
■ Steamの牙城に立ち向かう「Games for Windows - LIVE 3.0」
Windows 7に搭載される「Games Explorer」がOS側のゲーマー向けサービスだとすれば、「Games for Windows - LIVE」は、ゲームプラットフォーム側のオンラインサービス、言い換えればPCゲームにおけるXbox LIVEに当たるサービスとなる。
「Games for Windows - LIVE」は、マイクロソフトのPCにおけるゲームプラットフォームブランド「Games for Windows」の立ち上げに伴い、2007年5月よりサービスが開始された。Ver.1.0では、ゲームクライアント内の一機能として、ゲーマータグやフレンドリスト、チャッティング、実績、クロスプラットフォームプレイなどが提供され、途中でPCゲームの文化を尊重する形でゴールド会員サービスの無料化も行なわれた。
2008年にリリースされたVer.2.0からは単独のアプリケーションとなり、ゲームを起動しなくてもLIVEのサービスを受けることが可能となった。ただ、日本では「Games for Windows」ブランドそのものの浸透が不十分であるだけでなく、普及のカギを握るXbox 360とのクロスプラットフォームタイトルがなかなか出てこないという事情から、「Games for Windows - LIVE」そのものの認知すらおぼつかないのが現状である。
こうした状況を抜本的に変えるために、現在Microsoftが開発しているのが「Games for Windows - LIVE 3.0」である。開発キットの配布は夏期を予定し、年内正式リリース予定となっている。
「Games for Windows - LIVE」は、これまで「Xbox LIVE」の後追いを主なミッションとしてきたが、3.0から抜本的に方向性を転換し、独自の進化を遂げていく。Xbox 360は、2008年11月にNew Xbox Experienceと題してダッシュボードの一新を図ったが、3.0ではその後追いはせず、PCゲームのデジタルディストリビューションの分野ではトップシェアを誇るValveのオンライン配信サービス「Steam」を強く意識した機能を盛り込んでいく。
専用のクライアントからWindows LIVE IDでログインするところまでは2.0と同じだが、ログイン後の内容が全く異なる。具体的には、トップページには利用可能なダウンロードコンテンツ(DLC)のイメージが大きくクローズアップされ、そのままシームレスに、購入、ダウンロード、インストールを行なうことができる。もちろん、このサービスを利用することで、Xbox LIVEのようにDLC分の実績も追加される。購入履歴はアカウントに紐付けられ、購入したアカウントを利用すれば異なるPC間でも何度でもダウンロードを行なうことができる。
課題としては、先に挙げたSteamを筆頭に、ゲームコンテンツのデジタルディストリビューションサービスはすでに数多く存在することだ。たとえば、すでにSteamを利用しているPCゲーマーに取っては、コミュニティもコンテンツも紐付けされたSteamから「Games for Windows - LIVE」に移行するメリットはほとんどない。
この点については、Microsoftでは「Games for Windows」というゲームプラットフォームブランドとしての強みを活かし、プラットフォーム認証やアクティベーション方式による海賊版対策、そしてOS側と連携して、インゲームでのマーケットプレイスの利用や、LIVEアカウントへのゲームのセッティングやセーブデータを保存できる機能の追加などを挙げた。いずれもXbox 360にはない機能ばかりであり、その有効性や差別化の意味でも早期の実装が望まれるところだ。
Steamは、2002年にウォルマートを筆頭とした流通側から猛反発を受けつつも、2009年3月現在では、Valveタイトルのみならず、Electronic Arts、Ubisoft、Epic Games、THQ、Take Two Interactive、スクウェア・エニックスといった錚々たるパブリッシャーが名を連ねる世界最強のゲーム販売サイトになっている。Microsoftが「Games for Windows - LIVE 3.0」により、Steamの牙城にどこまで食い込めるかは未知数だが、勝機があるとすればそれはやはりXbox 360とのオンラインサービスの完全互換だろう。両者の競合がオンラインサービス全体の質の向上に繋がることを期待したい。
http://www.gdconf.com/
□Game Developers Conference(日本語)のホームページ
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(2009年 3月 26日)