フロンティアワークス/フロントメディア、クリエイティブRPG「蒼空のフロンティア」制作発表会を開催
テーブルトークRPGをWEBで提供する新しい形のオンラインゲーム

5月17日開催

会場:東放ミュージックカレッジ


会場には報道陣約30名、招待されたクリエイター約50名の計80名ほどが詰め掛けた

 株式会社フロンティアワークスと株式会社フロントメディアは、5月17日、クリエイティブRPG「蒼空のフロンティア」の制作発表会を開催した。クリエイティブRPGとは両社の造語で、かつて流行したテーブルトークRPGをWEBベースで提供しようというもの。言うなれば「テーブルトークRPGをインターネット経由、多人数でプレイできる」サービス。同じテーブルを囲む代わりに、WEBページを介してプレーヤー達とマスターが情報をやりとりすることで、マスターが提供する物語を体験していく、古くて新しいオンラインエンターテインメントだ。

 同様の試みは主にテーブルトークRPG業界で、マスターとプレーヤーを郵便でつなぐPBM(Play By Mail)や、同じくWEBサイトを通じてつなぐPBW(Play By WEB)として行なわれてきた。「蒼空のフロンティア」はそうしたPBWを核に、コンピュータPRGプレーヤーにとっても魅力的に映る要素を付加して大規模に行なう事業といえる。

 コンピューターゲームに欠かせないビジュアルイメージやボイスは、リストアップされたイラストレーターさんや声優さんを指定して注文できるというのが大きなウリとなっている。果たして、既製品のストーリーとパターンオーダーのキャラクターに馴染んだコンピュータRPGプレーヤーや、ファンタジー小説の愛好者にもマッチする、プレミアムサービスとなれるだろうか?



■ ゲームマスターによって書き継がれる小説としてプレイするRPG

開発元である株式会社フロントメディア所属で、「蒼空のフロンティア」チーフプロデューサーを務める雑賀 寛氏
作品の各部について突っ込んだ説明を行なった「蒼空のフロンティア」チーフディレクター 栗田真樹生氏

 発表会の冒頭では「蒼空のフロンティア」のイメージを伝えるプロモーションムービーが上映され、続いて同作品のチーフプロデューサーを務める雑賀寛氏が登壇し、「蒼空のフロンティアではプレイを通じてシナリオ、物語がプレーヤーの手元に作り上げられていくのみならず、自分のキャラクターのイラストやボイスを、オーダーメイドの注文を通じて手に入れられるのです」と、同作品が“クリエイティブRPG”たるゆえんを簡潔に語り、「ゲームの世界自体が、参加者のアイデアや行動で変わっていきますので、極めて高いライブ性があります」と、一般的なコンピュータRPGとの違いを強調した。

 続いて、チーフディレクターの栗田真樹生氏が登場、ゲームの仕組みや背景世界について説明した。「蒼空のフロンティア」の舞台は現代日本で、そこに突如出現した浮遊大陸パラミタに存在する豊富な資源を手にすべく、若者達が開拓に乗り出していくという筋立てのフュージョンファンタジーとなっている。プレーヤーはその若者達の1人として、まずはゲーム世界に用意された6つの学校のいずれに属するかを決めるところからキャラクターメイキングがスタートするという。

 そうした設定にした理由について栗田氏は「いまの自分の目線で物語がスタートし、かつ自由な展開を実現するため、あえてごちゃまぜの世界観を選んだ」と説明した。また、浮遊大陸上に国を築いていくという全体的なストーリー展開は、「クリエイティブ要素をストーリーの上でも展開しようというもの」なのだそうだ。

 栗田氏の説明によると、設定上用意された6つの学校は、ハイテク指向だが比較的オーソドックスな「蒼空学園」、魔法使い達を養成する「イルミンスール魔法学校」、軍人を育てる「シャンバラ教導団」、不良達によってすっかり崩壊した「波羅蜜多実業高等学校」、少なくとも「外見性別」が女性でないと入れない「百合園女学院」、それと反対に男子校で、やたらと派手な生徒ばかりの「薔薇の学舎」という内訳。このあたりはテーブルトークRPGや既存のPBMが発展させてきた文化を引き継いでいる印象だ。


「蒼空のフロンティア」のサービス全体を図示したスライド資料(右)と、独特の魅力を箇条書きで示したスライド(左)

背景設定を説明するスライド。あえて現代日本を舞台にしたのは、プレーヤーと同じ目線の世界とするため、だそうだ

プレーヤーキャラクターは、ゲーム内に6つ設定された学校のいずれかひとつに所属する


■ テーブルトークRPGが培ってきた方法論を、コンピュータゲーム愛好層に

中核コンテンツである「マスターシナリオ」は、プレーヤー(複数)とゲームマスターの、情報のやりとりで進行していく一種の小説である

 さてゲーム世界では、プレーヤーキャラクターは浮遊大陸の住人と、ある種の契約を結ぶことで、初めて大陸に侵入できる。その契約相手を「パートナー」と呼び、プレーヤーキャラクターはパートナーと一緒に冒険を繰り広げることになる。栗田氏はその実例として、吸血鬼、ヴァルキリーというオーソドックスな異種族のほかに、「ゆる族」なるオリジナル設定のパートナー種族を紹介した。なんでも「世のゆるキャラ達は、すべてこのゆる族でした」という設定なのだそうで、「パートナーを自由に設定、アレンジできることを象徴する種族」だと説明した。なお、パートナー種族は初期段階で9種類用意され、その後随時増えていくとのことだ。

 そしてゲーム本編、つまりテーブルトークRPGのプレイに当たる部分は「マスターシナリオ」と呼ばれる。

    1.ゲームマスターが提示したシナリオ小説(テキストストーリー)を、サイト上で読む
    2.そこで自分のキャラクターがとる行動をサイトのフォーム上で書いて送付する
    3.それを受け、ゲームマスターがシナリオと照らし合わせて書いた、物語の続きが小説として追加される

 というプロセスを経ながら、プレーヤーとゲームマスターの間で物語が進むという説明がなされた。そうしたストーリー要素と並んで提供されるのが「イラスト注文」と「ボイス注文」のサービスだ。この作品ではプレーヤーキャラクターやパートナーのイラストを、好みのイラストレーターに描いてもらうサービスが用意される。同様にキャラクターボイスについても、リストアップされた声優さんを指定して注文可能で、シナリオの感動的名シーンや、キャラクターの決めセリフなどを声にできるのだ。

 また、この作品ではマスターシナリオと対をなす形で「キャラクターシナリオ」というものが用意されていて、こちらはソロプレイで既成品のシナリオに挑戦し、自キャラのレベルや能力をアップさせるミニゲームとなっている。注文/購入したキャラクターのイラストやボイスは、こちらでも使えるという。  栗田氏は最後に、今後のサービススケジュールを確認した。先述のように正式サービス開始は6月で、7月にはイラストの受注開始、8月にはボイスの受注開始、9月にキャラクターシナリオ追加と、各要素は逐次追加されていく予定のようだ。
キャラクターや物語への思い入れを深めるための道具として、グラフィックスやキャラクターボイスを注文できるのも大きな特徴

コンピューターRPGのような画面でソロプレイし、キャラクターを成長させる「キャラクターシナリオ」(左)と今後のサービススケジュール(右)。「手書きブログ」とのコラボレーションについては、このあと語られる


■ 落合祐里香さん、maoさんなど豪華キャストが作品に参加

ボイスキャストとして出演が決まっている、声優の落合祐里香さん
「声の演技のとき、顔を見られるのは恥ずかしいんですよ」と顔を隠す、落合さん
「蒼空のフロンティア」のイメージビジュアルを担当するイラストレーター、FBCさん
作品主題歌「小さな翼」を熱唱する、maoさん

 発表会後半では、再び雑賀氏が登壇し、サービス内容と関連したプロモーション計画を説明した。それによると、ボイスキャストとしては落合祐里香さん、新谷良子さんといった有名どころの起用が予定されているほか、男性声優さんも含め、数人の有名声優さんと出演の調整が進んでいるという。

 また、作品のイメージビジュアルを担当するイラストレーターとしては、月刊「コミックアライブ」誌上や、「モンスターハンター・トレーディングカードゲーム第3弾」などで活躍するFBCさんを起用、この発表会のスライド資料に添えられたイラストの数々も、彼の作品であることが明かされた。

 雑賀氏によると「『蒼空のフロンティア』に登場する各要素をはっきりイメージしてもらうのに向いた、イラストのタッチ」が、FBCさんの起用理由だという。そして、上記声優さんによるサンプルボイスや、FBCさんによるイメージグラフィックスを、参加者に抽選でプレゼントするといったキャンペーンも考えているそうだ。

 そうした、サービス内容と直結したプロモーションのほかに、雑誌誌面でのタイアップも予定されている。その舞台は飛鳥新社の美少女コンテンツ雑誌「E★2」(えつ)で、こちらでは本作に基づいたコミック連載が予定されているほか、将来的には同誌で活躍するイラストレーター陣を「蒼空のフロンティア」の注文イラストに起用することも考えているそうだ。

 その後、会場にはスペシャルゲストとしてイラストレーターのFBCさん、声優の落合祐里香さんが招かれており、ちょっとしたトークショウが披露された。実のところ発表会場には報道陣のほか、「蒼空のフロンティア」に参加予定のクリエイター陣が50人ほど招かれていた。そうした方々のうち、この作品でデビューする新人イラストレーターさんへのアドバイスを求められたFBCさんは「とにかく楽しんでやることが大切です。そして、楽しむために重要なのが自分の個性を発揮すること。例えばちょっと無茶に思える注文が来たとして、忘れてはいけないのが、自分も発注者もこの作品を良くしようと考えている、ということです。それを常に忘れず、楽しんでいきましょう」と、作品のコンセプトおよび運営の形に沿った、絶妙の回答を提示していた。

 一方声優の落合さんは、「蒼空のフロンティア」に登場する6つの学校のなかで、意外なことに(?)不良学生だらけの「波羅蜜多実業高等学校」のコンセプトがお気に入りだそうで、壇上ではその不良学生の一人をイメージした声を披露した。ちなみにパートナー種族としては「ゆる族」がお気に入りだそうで、「ネコのゆるキャラとかをぜひ作りたいと思いますね~」と、彼女なりのこだわりをアピールしていた。

 さて、先述のとおりこの発表会の冒頭では作品のプロモーションムービーが披露されたのであるが、そのなかで主題歌を担当していたのが、TEAM Entertainment所属のボーカリスト、maoさんだ。ミニトークショウが終わって、本日の催しを締め括ったのは、maoさんによるミニコンサートである。彼女が作詞も担当したという本作の主題歌「小さな翼」ほか2曲を、伸びやかかつソウルフルな声で歌い上げた。ちなみにmaoさんはコンピュータゲームが大好きで、本作についても「興味津々」なのだとか。


プロモーション項目の数々。イラストとボイスについては、作品内で使えるサービスを兼ねるものになりそう


■ シナリオ参加料は500~1,500円と安価、セミプロクリエイター陣の覚悟と心意気が問われそう

「手書きブログ」の運営元、株式会社Pipa.jp 代表取締役 川合和寛氏

 発表会では、業務提携を行なうパートナーも紹介された。会場にはイラストコミュニケーションサイト「手書きブログ」を運営する株式会社Pipa.jpの代表取締役 川合和寛氏が招かれた。「蒼空のフロンティア」では、秋頃に「手書きブログ」の機能を取り入れることが予定されており、プレーヤーは自分のキャラクターイラストとして「手書きブログ」で書いた絵を利用できるようになるほか、例えばイラスト注文時の指定などにも活用できるようになるとのことだ。

 雑賀氏の説明によれば、「手書きブログ」とのコラボレーションのそもそもの動機は「コンピューターやネットワークの知識と個人の創造性は関係ないというポリシーで、そうした知識の有無に煩わされることなく創造性を発揮できるサービスである手書きブログが、作品のコンセプトとよく合致すると考えた」からだという。

 そうした説明に対応した形で、川合氏は「手書きブログ」のサービスに関し「手書きブログの画面では真っ白なキャンバスと16色のパレットが用意されるだけで、PCの操作につきもののコピー&ペーストも、あえて用意していません。真っ白なキャンバスだけを用意することでかえって、創造性が存分に発揮されるサービスなんです」と説明した。

 川合氏は続いて「世の中の大きな流れは“カスタマイズ”から“クリエイティブ”へと進みつつあり、それはコンピュータゲームでカスタマイズが当然の機能として受け入れられるようになったことに続く動きとなる。ペンタブレットなど、入力機器の普及に伴って“クリエイティブ”の要素が取り入れられていけば、非常に面白い相乗効果が生じるはず」と持論を展開した。

 これを受けて雑賀氏は「蒼空のフロンティア」が、企画段階で相談した人から「UGC(User Generated Contents)の新展開となり得る」と評されたことに触れ、パッシブでなくアクティブなユーザーによって構成されるクリエイティブな市場形成に向けた動きとして、同作品の可能性を説明した。

 そして、そうしたクリエイティブワークを担う人材として、現在のところプロ/アマ取り混ぜてゲームマスター(シナリオライター)が60名、イラストレーターが500名、声優が90名起用されていることを言い添えた。


「蒼空のフロンティア」のイメージイラスト

 発表会後の質疑応答を通じて明かされたところによると、イラストやボイスの注文は1件あたり1,000円から3,000円といった価格帯がメインとなり、注文から納品までは7~10日くらいが想定されているという。また、シナリオ、イラスト、ボイスを担当するクリエイター陣は今後も募集と審査を継続して、陣容を強化していく予定という。

 また、会場でディレクターの栗田氏に質問してみたところ、サービスの核となるマスターシナリオは50名から100名の同時参加が可能、プレーヤーとマスターとのやりとりが1回から6回程度のボリュームに設定されていて、そのインターバルは20日間ほど。参加料金はボリュームや、担当するシナリオライターによって代わるものの、だいたい500円から1,500円くらいになるそうだ。

 ただし、マスターシナリオと同じ形で提供されるものとして、作品世界の基本部分、ストーリーの共通部分を体験/理解してもらうための「グランドシナリオ」が用意されていて、こちらは0~500円程度の安価で提供される。そして、パートナー種族に関しては、1プレーヤーあたり3人まで保持できるそうで、これは要するにソロプレイでも最小限のパーティーを編成できるようにというコンセプトのようだ。

 以上のように「蒼空のフロンティア」は、コンピュータゲームに慣れ親しんだ層に向け、一方上のサービスとしてテーブルトークRPG的な楽しみを提供するものといえる。そしてそこにキャラクターイラストとボイスが加わるという仕組みは、近年でいうとライトノベルとそのアニメ化作品に近い。つまりこのサービスは言うなれば“プレイを通してラノベが書き継がれていく”仕組みなのであって、そう考えたときプレーヤーキャラクターがまず学校に属するという設定も、ある種腑に落ちるところがある。

 シナリオは完全に既製、せいぜいプレーヤーキャラクターがパターンオーダーで提供されるコンピュータRPGに対し、シナリオから絵柄からボイスからオーダーメイドとなる「蒼空のフロンティア」のプレミアム性が、果たしてどのように評価されるか。今後の展開が実に楽しみなサービスといえよう。


「手書きブログ」および美少女コンテンツ雑誌とのタイアップは、作り手側、つまりイラストレーターの求人とも連携していきそうな気配だ


(C) 2009 Frontier Works Inc./All Way All rights reserved

(2009年 5月 18日)

[Reported by Guevarista]