「dangoプラットフォーム」開発者インタビュー
ソーシャルゲーム参入を助けるdangoの仕組みと狙い
ここ1年ほどの世界のゲーム業界を見ると、新しいプラットフォームの台頭が目に付く。まず思い浮かぶのがiPhoneだ。全世界での販売台数は1,800万台を超えてさらに伸びているといわれ、ユーザーだけでなくゲーム開発者からも大きな支持を得ている。
そしてもう1つの大きな動きが、FacebookやMySpaceといったSNSを中心としたソーシャルゲームである。ソーシャルゲームとは、ユーザーコミュニケーションを活性化させるために作られた社交性の高いゲームのことで、億単位のユーザーを抱えるSNSで展開されたことから、急激に規模を拡大した。ただ、日本では海外発のSNSが国産のものに比べて低調なこともあり、ソーシャルゲームの認知度は低く、北米など海外との温度差が著しい。
その現状について警鐘を鳴らしているのが、ブレークスルーパートナーズの赤羽雄二氏。ゲーム開発者向けの講演でも、ビジネスチャンスを訴え続けてきた。今回のインタビューでは、赤羽氏から最新の状況を聞くとともに、日本のゲーム開発のどこにソーシャルゲーム進出の可能性があるのかをより具体的に伺った。
さらに、赤羽氏も参画している株式会社dangoが制作している、Facebookなどへの進出をサポートする「dangoプラットフォーム」についても話を聞いた。これについては実際に開発を担当しているdango代表取締役社長の三並慶佐氏と取締役副社長の石橋広在氏にも同席していただき、基本的な仕様からビジネスの狙いについて尋ねた。
■ Facebookの現状と日本からの参入の可能性
――OGCでの講演から現在までに、Facebookなどの新プラットフォームで動きはありましたか?
dangoでは取締役を務める赤羽雄二氏。昨年のCEDECから、ソーシャルゲームの可能性の高さを訴え続けている |
赤羽雄二氏: 講演の時点では、Facebookの月間アクティブユーザー数は1億5,000万人と出ていましたが、最新のデータでは2億人と発表されています。毎週500万人ほど増えており、現在はおそらく2億2,000万人くらいに達していると思われます。ものすごい勢いで伸びていて、MySpaceとは全くスピード感が違います。
これをさらに加速させている要因として、「Facebook Connect」があります。Facebookの友達情報が、提携している外部の数千のサイトに提供され、それらのサイトからFacebookの情報や加入が容易になりました。これはiPhoneにも対応しており、Facebookの友達情報が提供できるようになりました。まだアプリケーションは少数ですが、今後FacebookとiPhone、Android、BlackBerry、ノキア携帯などがシームレスに繋がる先鞭をつけたといえます。これによりFacebookのモバイル利用が一層簡単になり、ユーザー数増加にも繋がります。
それからもう1つの動きとして、Facebookに刺激されてmixiも動きを加速しつつあります。動きそのものはまだまだですし、「mixi Connect」もまだ公開されていない状況ですが、Facebookの影響は顕著に受けているようです。ただ根本的に実名制でないことと、Facebookでは平均120人いる友達が、mixiの場合は25人ですので、バイラルマーケティングとしての広がりのスピードは全然違うと思われます。また最も大きな違いは、Facebookには60万のデベロッパーが登録しているのに対して、mixiの場合は数百程度しかいないということです。ただ、ここ最近はデベロッパーの間でも急激に関心が高まり始めている状況ではあります。
――Facebookというのは、SNSにWEBのアプリケーションが集まったものというイメージですが、WEBゲーム自体は以前からあります。Facebookにゲームを乗せる利点はどこにあるのでしょうか?
赤羽氏: 決定的に違うのは、他人とのコミュニケーションを前提とした「ソーシャルゲーム」であるということです。ただ他人と遊ぶだけでなく、平均120人の友達にどんどん誘いをかけたり、一緒にゲームをやることによって、ゲーム中での自分のパワーが上がったりする仕掛けも作れます。そういった社会性の強さがあるので、一旦人気が出始めると、成長のスピードが極端に早いのです。1週間に数十万、さらには100万以上の月間アクティブユーザー数の増加が、ゲームやアプリによっては容易に起こります。集客の点でも、話題性のあるアプリは集客の必要がなく、手間がありません。それから、1つ目のヒット作を出すのは大変苦労するのですが、2つ目、3つ目のゲームだと、1つ目のユーザーから導線を引けるので、急に有利になります。
――例えばiPhoneでは、人気が出たためにアプリケーションが増えすぎ、今から参入しても間に合わないといった声も聞かれ始めています。Facebookに関してはいかがですか?
赤羽氏: iPhoneはアプリケーションが非常に増えていると言われていますが、それでも話題性のあるものやユニークなものは上位になり、数千万円の収入になるということがいまだに次々に起きています。App Storeができた頃のように、どんなアプリケーションでも儲かったということはなく、企画勝負になっています。Facebookも同じで、やはり斬新なゲームが人気です。とはいえ、Facebookのソーシャルゲームはまだまだ偏りが大きく、創意工夫次第で、特に日本のゲームの強みを活かせば、まだまだ未開の地がたくさんあると見ています。
――日本のデベロッパーの動きはいかがですか?
赤羽氏: 少し動きがでてきた気はしています。去年9月のCEDECで講演した際は、皆さん目を白黒させておられましたが、そこから動きが出始めています。今年2月のOGCでプレゼンした後には、大手のゲームメーカーの方々が何人も名刺交換に来られて、格段に関心が広がっているのを感じました。ただ残念なことに、私の講演を聞かれるような方は元々感度が高いのですが、上司と相談したものの取り合ってもらえなかったという話も聞きました。大手ゲームメーカーでゲームを作っていた方が独立されている中から、Facebook向けのアプリケーションを開発し始めたところが何社か出ているのは知っています。
関心はずいぶん高まっていますし、Facebookに刺激されたmixiアプリの動きで、相当数の人がFacebookへの関心を持ち始めているだろうと思います。mixiアプリとFacebookアプリの比較も始めているようですので、これからは加速度的に広がると思っています。
――その講演の中で、日本のデベロッパーがFacebookに出て行く際、米国をターゲットにしてやりましょうという話をされました。しかし日本のゲームの海外進出は、ここ数年大きな課題になっており、成功例はまだ多くありません。その上に、Facebookという未知のプラットフォームに展開するのは、ダブルでリスクを抱えることになるとも言えます。その点についてはどうお考えですか?
赤羽氏: 私はダブルのリスクではないと思います。英語はある程度使える必要はありますが、英語ができる人が1人いればいいのです。現在はソーシャルゲーム性という世界中の人にとって未知の領域で知恵比べしている段階です。そこで日本のゲーム開発経験者が、長年培われたゲーム性の知恵や、見た目のインパクトを出すノウハウを使えば、私はむしろ優位だろうと思います。国内にしか目が向いていなかったことや、英語が苦手だということなど、比較的簡単に越えられるはずのことで引っかかっているのが残念です。
――具体的には、どんな要素において日本のゲーム開発者が有利だと考えられますか?
2009年2月時点でのFacebookゲームランキング。Playfishのゲームが多数ランクインしている |
赤羽氏: Facebookでは、Playfishが1作目から他よりもかなり質の高いゲームを出しています。それなりにお金をかけて作っていて、他と違うのがひと目でわかります。他のゲームも今までのような質のものでは駄目だということで、徐々にアップグレードし始めています。そうなってくると、日本に強みのある領域に入ってくるのではないかと思います。もちろんソーシャルゲームであることは大前提です。
それからFacebookの場合、米国ユーザーの割合がどんどん下がって3割程度になっており、世界化が進んでいます。そうすると、より普遍的なソーシャル性が求められます。私はそこに日本のゲームのデザインの秀逸さや、アニメなどでも世界的に優れているように、キャラクター性の高さが活かされると思っています。アバターやアイテム課金の仕組みも優れていますから、その辺りをもっと打ち出していくのがチャンスだと思っています。
■ ソーシャルゲームに日本式チューニングを加えて世界と戦う
――日本のゲーム開発者である石橋さんと三並さんは、Facebookというプラットフォームでのゲーム作りについてどう感じていますか?
取締役副社長の石橋広在氏。コンピュータ・メディアアートを取り込んだ、独創的なゲームソフトを手がけてきた経歴を持つ |
石橋広在氏: Facebookなどのソーシャルゲームで1つ思っているのは、ゲームが主体ではないということです。ゲームは必ず2の次で、コミュニティが最初に存在して、そのコミュニティの人達が何をするかを考えなければいけないのです。ゲームの開発者をずっとやっていると、このゲームだからユーザーさんはこう遊ぶ、というようにゲームが主語になってしまいがちです。そうではなく、そこにいる人達がどういう属性で何をしたいか、というところから提案をしていくというように、考え方が逆だったというのを感じています。
私も今、ソーシャルゲームを1つ作っているのですが、その葛藤が日々ある状況です。どうしてもゲームを作りたい、面白さとはこういうものだというルールで包み込んでしまうのです。ゲームのシステムがあって、スコアシステムが存在して、そこに対応したフィードバックがある……というのはあくまでも機械との対話です。ソーシャルなものだと、1対1ではない可能性もありますから、人の輪の中でのルールや方向性に考えをシフトさせなければいけないので、これまでの常識を覆していく必要があります。パッケージゲーム的に作ったところを突っ込まれると、「ゲームとはこういうものだ」と言いたくなることもありますが(笑)。そうやって同じところに留まっていても進歩しません。
代表取締役社長の三並慶佐氏。「dango」フレームワークの作者で、Windows用オンラインゲーム「Magician Master II」を手がける株式会社ハイファイネットの社長も務めている |
三並慶佐氏: 日本のゲームが培ってきたのは、ワンパッケージいくらで買ってもらって、遊んでみたらその値段以上に時間をかけて遊べた、といった形のものだと思います。その後で出てきたオンラインゲームは全然違って、まず初めに派手な花火を上げて人を呼ぶだけ呼んで、中でコミュニティを作って遊んでもらうという世界です。ではソーシャルゲームはというと、初めにコミュニティがあり、そこで遊んだらもっと面白いということでゲームが出てきた、というものだと思います。
今はゲームを作り慣れていない人がソーシャルゲームを作っている感じがします。コミュニティが初めにあり、そこで遊べるというところまではできています。その後の、遊び続け、お金を落としてもらう、というところにいけるのは日本のゲームなのではないかと強く感じています。
石橋氏: いわゆる中毒性ですね。ゲームは繰り返し遊んで面白い期間を長くしないとお金を払ってもらえません。このゲームは面白いから続編を買おうとか、そういうジャンルを買おうとか、そういったユーザーを引き込む技術があります。今のソーシャルゲームを作っている人達はゲーム業界以外の人で、コミュニティのことは知っていても、ずっとのめりこんで遊ぶようなところがなく、あっさりしています。そろそろユーザーも飽きてきているので、新しいものを出すチャンスなのです。日本には何十年とやっている手馴れた人達がたくさんいますから。
三並氏: そのノウハウとは何かという答えは、チューニングという単語に集約されます。任天堂さん、特に宮本茂さんがその最たる人だと思いますが、テストして遊んで面白くない、という感覚で作品を磨き続けたのです。それをやり続けたから、日本のゲームは楽しく遊び続けられるものができあがっていると思います。
――ソーシャルなゲームができただけで、その先のユーザーをもっと楽しませるためのチューニングが足りない。そこに日本のノウハウが十分活かせるというわけですね。
石橋氏: 私が作ったゲームが欧米でも発売されまして、ユーザーの反応をメディアやブログなどで調べたのですが、感じ方は日本人とたいがい一緒でした。人が面白いと思える感覚は、あまり人種に関係ないというのがわかって、これまで培ってきた方法論はどの世界でもいけるというのが体感できました。日本人が築きあげたものが、自分達で面白いと思ったら、外国人もきっと面白い。基本的に自分達が面白いと思うものを作っておけば間違いないと思っています。
ゲームをやり込んでいる人達なら、Facebookの人気ゲーム「Mob Wars」の欠陥を一瞬で見破れると思います。上位ランキングを見ると、スコアがものすごい桁になっています。まだ1年も経っていないのにそんな状況になるのは、その先の遊び方が用意されていない証拠です。まだそれだけ隙があるので、ゲームをやり込んでいる日本のユーザーや開発者なら「ここはこうすればいいのに」ということが、やればすぐわかるはずです。最近はアーケードゲームにもオンラインでプレイするものがあるので、その辺りの方法論も使えます。我々も、「こんな隙だらけのものが売れているなら、ここは取れるのではないか」と考えるのが楽しいです。
■ Facebookにおけるプロモーション手法とは?
――日本ではなく世界に向けて展開する際、開発の他に、プロモーションも大きな課題になると思います。これはFacebookだけでなくiPhoneも同様ですが、どう考えればいいでしょうか?
赤羽氏: ここは今まさに研究中です。iPhoneでもFacebookでもそうですが、大きな話題になるほどユニークなものを作れば、プロモーションの費用をかけることなく伸びていくというのは実態としてあると思います。ただそこまでいかない時、どうやってプロモーションするかというのは結構な難題で、YouTubeにプロモーションムービーを掲載したり、関連ブログに採り上げられるように働きかける以外、当面はある程度の広告費をかけるしかないと考えています。
――中小デベロッパーには広告費も大変ですが、それ以上にどうすればいいのかという方法論も課題になると思います。上手くできずに、無数のタイトルの中に埋もれてしまうのがもっとも危惧されるところです。ここは何かポイントはありますか?
赤羽氏: まずiPhoneとFacebookは少し事情が違います。iPhoneの場合、もはや出せば売れるような“第1フェーズ”ではなく、人目を引く企画力が大前提になりました。まずLite版を無償で出して、多数ダウンロードされることを最優先して無料版ランキングの上位に上げ、その上で有償にシフトさせて売りましょうということに尽きます。それはiPhoneでは、上位ランキングを見る以外の簡単な方法が少ないという制約があるからです。
しかし「Facebook Connect」がiPhoneに入ったことで、iPhoneユーザーをFacebookにうまくリンクさせれば、新しいプロモーションの手段になると思います。Facebookにいる平均120人の友達を呼び込むとそのゲームで勝てる、といった何らかのインセンティブを与えることによって、iPhoneゲームを1人が120人に紹介してくれる仕組みになります。本格的な試みはまだあまり見られませんが、プロモーションの手法が今後大きく変わる可能性があります。
Facebookの方は、2つ目以降のタイトルに1つ目のゲームから導線を設けることでプロモーションができるのですが、1つ目のローンチに対してはまだ答えがありません。これは誰にとっても同じです。ZyngaやSGNといったソーシャルゲーム大手は、自らデベロッパーをやりつつ、パブリッシャーもやっています。最初は何でも評判になったのである程度ユーザーがつき、そこに他のゲームのクロス広告を出しているわけです。去年成長したこういったゲームパブリッシャーが圧倒的に有利なポジションを築いていますから、そこに後から参入するのは、とても難しいというのが現実です。
それに対して我々dangoは、後から来たデベロッパーがどんどん乗りこめる場所として「dangoプラットフォーム」を作っています。新たに参入する日本のデベロッパーの方々にここに来ていただければ、Facebookに簡単に参入し、さらにユーザーへのクロス広告を自由にしていただけます。そのための1つ目のタイトルは、我々が開発しています。
石橋氏: サウンドノベルやRPGのようにテキスト量の多いものでなければ翻訳の作業も軽いので、「dangoプラットフォーム」にすぐ移植できると思います。
三並氏: そもそもサウンドノベルやRPGはFacebookで全く見ないですね(笑)。完全に1人で遊ぶものは、ソーシャルではないですから。
■ 開発者がソーシャルゲーム作りに集中できる「dangoプラットフォーム」
「dangoプラットフォーム」が提供する機能。開発者がゲーム作りに集中できるよう、ネットワーク関連の機能を全部用意するというコンセプト |
Facebookやmixiなどに1ソースコードで対応できる。複数のサイトに対応するための工数がかからない |
――ではそろそろ本題の「dangoプラットフォーム」について伺いたいと思います。まずプロジェクトのきっかけを教えてください。
三並氏: 経済産業省の未踏ソフトウェア創造事業で、Flashでオンラインゲームを作るためのフレームワーク「dango」を作りました。これはオープンソースで配布していて、これからお話しする「dangoプラットフォーム」とは別のものです。元々の「dango」は無償で配布してしまいましたので、これはビジネスにならないと(笑)。
ではなぜ作ったかといいますと、私は専門学校でゲーム開発を教えていまして、その中で学生にオンラインゲームを作らせたいという野望を持っているのですが、技術的な敷居が高く、現実的に不可能でした。それをクリアするために「dango」を作ったわけです。
石橋氏: 開発者はただゲームを作りたいのですが、ユーザートラッキング、チャット、ロビー、招待……というように、ゲーム以外で作るもののボリュームが、ゲームより大きかったのです。「ゲームを作りたいのに別のものを作っているのはどうなのだろう」という気持ちがずっとあって、それならそこを提供することにビジネスのチャンスがあるのではないかという話です。
三並氏: どこまで用意すれば、いろんな人がオンラインソーシャルゲームを作れるようになるのかと考え始めました。機能的な話でいうと、今言ったようなユーザーのログインであったりとか、トラッキング、ショートメッセージ、招待、ランキングといったところと、さらにサーバーインフラが必要になります。そこまで全部を用意しないと、ゲーム部分だけを作れる人をオンラインゲームに持っていけないことに気がつきました。こういうオンラインゲームを構成する機能部分があります、というのが「dangoプラットフォーム」の技術的な特徴です。
さらに赤羽の話にあったように、集客をしていくために、Facebookアプリケーションとして配信していくことが大きなパワーになります。後は国内でもmixiアプリなどに出していけます。ここでポイントになるのが、1つのゲームプログラムを書いたら、それが全ての場所で同じように出てくれないと、開発者としてはすごく工数が上がってしまうということです。1ソースコードで全部に配信できる仕組みが必要です。
プロモーションに関して1つはっきりわかっているのは、ZyngaやPlayfishはゲーム内のクロス広告でユーザーを回し始めたということです。私達が1つゲームを作って出したところでまだ弱いのですが、ゲーム群があれば、その1つ1つのゲームユーザーが互いにユーザーを回しあうのです。コミュニティがキープされたままユーザーが流れていくので、とても強いパワーがあります。「dangoプラットフォーム」は、その中でユーザーがどんどん回っていけるというような仕組みを提供していきます。
――イメージ的には、オンラインゲームポータルサイトのFlashゲームバージョンみたいなものですか?
三並氏: デベロッパーさん、クリエイターさんが、Facebookやmixiでユーザーを集めていく際の橋渡しをするのがメインで、並行してdangoゲームサイトも運営します。最近聞いた話では、いまゲームパブリッシャーさんはどこも開発会社からの企画提案を受け付けない状況で、中小のゲーム開発会社さんはかなりきついようです。原因はもちろん不景気ですが、その結果、ゲーム開発会社の中にはやむなく自社開発を始めてしまったところも出始めているそうです。このような状況下なら、開発会社さんにまだ体力があるうちに、ソーシャルゲームのオリジナル作品を作るという投資をするのもありかと思います。
私達はゲームを買い取るわけではないので、すぐに収益の穴を埋めるわけではないですが、「dangoプラットフォーム」により開発会社が比較的低い開発費用で世界デビューするお手伝いをさせていただきます。開発工数はビジュアル面などで手がかからない分、コンシューマゲームの数分の1で作れてしまいます。携帯ゲーム機と比較しても安いと思います。その安い開発費用で、新しい収益源を作れるかもしれないのです。ある会社さんにこういった話をしたら、「もしかしたら、開発会社が生き残る道はこういうところかもしれない」という話をしていただいたこともあります。
石橋氏: 私達自身もタイトルを増やしたいので、あちこちに話をしています。特にゲームに限らなくてもよく、IT系のものでも構いません。色々あることでより盛り上がるし、相互リンクでユーザーさんを回すというところを、今まさに活動中です。
――「dangoプラットフォーム」のタイトル間で相互リンクをするだけで、権利関係には触れないということですか?
三並氏: 一緒にビジネスをしましょうというスタンスで、あくまでレベニューシェアリングで考えています。既にお話ししている方々には、この点にも非常に興味を持っていただけています。
――「dangoプラットフォーム」ではFacebookなどに出力できるということですが、Facebook以外では何に対応するのですか?
三並氏: 当面はFacebookとmixiに対応し、dangoの自社ゲームサイトでも提供します。あとはまだ計画段階ですが、iPhoneとAndroidもやりたいです。方針はある程度絞り込んでいて、1番大きな国内と海外のSNS、そして携帯電話でこれから1番流行るものが、乗せるべき場所であると考えています。
――iPhoneは現状、Flashには未対応ですよね?
三並氏: iPhoneに場合は、さすがに1つのソースコードでは対応できなくなります。ただユーザー情報を引き継げるのが大きいと思います。
「dangoプラットフォーム」のタイトルの中でさまざまなデータを共有できる。Facebookアプリとmixiアプリで相互通信も可能 |
石橋氏: そこが「dangoプラットフォーム」の要だと思います。ユーザー情報やユーザーのログ、セーブデータといったものが引き継げるということは、PS3でセーブしたゲームをWiiでできるようなものです。デバイスが変わることで、例えばGPSがついた機器に向けた体験を用意して、その体験を据え置き機に持ち帰ってまた別の体験ができる、といったことも可能だと考えています。そこに繋がっているデータというのは、ゲームにおいてもソーシャルにおいても、とても重要だと思っています。
三並氏: これは私の個人的なぼやきですが、何で「モンスターハンター」のPSP版のデータを、Windows版に引き継げないのかと。要はそういうことだと思います。
――データの共有ができるということは、相互にリアルタイム通信する機能も乗っているのですか?
三並氏: それは先程の未踏ソフトウェアで作ったフレームワークでも実現しています。
――例えばmixiとFacebookで同じゲームを遊んで、一緒に通信して対戦できるわけですか?
三並氏: はい。例えばこちらは開発途中のチャットプログラムですが、一方はFacebookアプリとして動いていて、もう一方は独自サイトで動かしています。これは1つのソースコードで作っています。チャットに書き込むと、両方で同じものが見られます。こういう機能の基礎実装はされています。
■ ビジネスモデルは“初期費用なし、コンサル付き”
――ビジネス的に言うと、「dangoプラットフォーム」の基本的な考え方は、パブリッシャーになると考えていいのですか?
三並氏: 既存のパブリッシャーとは少しスタイルは違います。裏側に隠れたパブリッシャーです。
石橋氏: 基本的には自動化されていて、ダウンロードしてご自由にお使いいただき、設定してアップロードしてもらえば勝手に出る、というくらいのWEB 2.0向きな形です。
インフラやサーバー、プロモーション等はdangoがサポートし、ゲーム制作に専念できる環境を提供する |
赤羽氏: これまでのゲームデベロッパーの大半は、下請け・孫請けみたいな形での受託開発が多かったと思います。仕事はクリエイティブだけれども、月いくらでやっているだけで、それがヒットしようがしまいがあまり関係ない形が多いのです。「dangoプラットフォーム」はそうではなく、完全にレベニューシェアリングです。中小デベロッパーの方々から見れば、今までの下請け・孫請けだったものが、自分で世界に向けて配信できるようになります。当たれば収入もそのまま比例して増えるし、当たらなければ自分のアイデアが悪かったということになります。ですから、パブリッシャーという言葉が従来のものを意味しているのであれば、それとは全く違う世界です。労働者の解放のような要素があります。
もう1つ大切な点として、実はFacebook向けのゲームを作る上での大きな難関の1つに、“大当たりした時どうするか”ということがあります。ユーザーが殺到した結果、あっという間にサーバー処理が限界に達してしまうのです。高度なサーバー技術を持ったゲーム開発者はあまり多くないのが困るところですが、「dangoプラットフォーム」ではAmazonなどのクラウドサービスを使って、ユーザーの急拡大にも対応できます。クリエイティビティーとゲームデザインに集中していただければ、サーバーについての心配は不要です。
三並氏: Playfishさんのとあるゲームで、もともと30万人だったユーザーが、ある5日間で140万人くらい一気にユーザー数を伸ばしたという例があります。オンラインゲームでは普通ありえない伸びですが、この現象は稀ではなく、他にも起きていることです。インフラの設計論が今までのオンラインゲームと別次元になってしまい、今まで普通のゲーム開発をやっていた方には技術的にも金銭的にも困難なので、そこは任せてくださいという形になっています。
石橋氏: 特に重要なのが、主戦場が米国ですので、サーバーが米国にないと話にならないということです。同期を取るのが遅くてたまらないという問題が起きやすくなります。今はAmazonのクラウドが最も適性が高いということで検討を進めており、ユーザー数の急激な伸びにもすぐに対応できるサーバーを提供します。
――金銭面はレベニューシェアで完結するのですか? 初期費用は必要ないのでしょうか?
三並氏: ビジネスモデルの詳細は検討中ですが、初期費用は今のところ考えていません。
――レベニューシェアの割合はどれくらいですか?
三並氏: インフラ費用を除いてレベニューシェアリングします。割合はまだ検討中です。
赤羽氏: 初期費用を無料として、多くのデベロッパーさんが大きな負担を感じずに入れるようにしたいと思っています。
――商売的には、サーバーインフラを売るという感じですね。
ツールとして提供するだけでなく、ソーシャルゲームについてのノウハウを伝えるなど、dangoが全面的にバックアップする |
三並氏: サーバーインフラだけではなく、ソーシャルゲーム化するプラットフォームやコンサルティングも重要です。例えばフレームワークの使い方などのフォローアップは当然必要ですし、より集客しやすい、課金しやすいというゲーム自体を一緒に企画していかないと、クオリティも上がっていかないと思われます。そこまで全部提供し、レベニューシェアリングしていくという形です。
――コンサルティングについては、技術的なフォローだけでなく、ソーシャルゲームで重視すべきポイントの説明など、ゲームの中にまで踏み込んでお話されるということですか?
赤羽氏: それをしないとどうしてもハズレのゲームが増えます。私達も最初のゲーム、2つ目のゲームと、急速にノウハウを蓄積し、具体的なノウハウを提供していきます。ある程度ノウハウが蓄積され、成功体験が共有されれば、自己学習と新たな創意工夫が始まると考えています。やはりソーシャルゲーム性については、徹底して取り組んでいかなければなりません。ゲームとして工夫する一方で、「ソーシャルゲームというのは刺身のツマなんですけれども大丈夫ですか?」ということは伝えなくてはなりません。
石橋氏: それを言うとみんなムカッとします(笑)。
赤羽氏: そこをムカッとせず、チャレンジを感じる人に限定されるでしょう。あるいは、凝ってはいてもソーシャルではないものはお客さんを集められず、ソーシャルゲーム性を重視したゲームだけが流行るということが起こるだけです。ランキングなどの情報も出しますので、「Facebookなどの世界的なSNSの上で戦うというのはそういうことなのか」ということを前向きにとらえてもらえるような啓蒙活動は継続していく必要があると思っています。
■ 1作目は自社で用意。他社の参入の土台を作る
――今後のスケジュールについて教えてください。
dangoが自社開発する「VSD」のイラスト。3つの種族が戦うタワーディフェンス風のソーシャルゲームになるという |
石橋氏: こちらはいま弊社で作っている「VSD」というゲームです。3種族が出てバトルできるタワーディフェンスのようなものです。
三並氏: プラットフォームの機能を公開しますということだけでは何の価値も生み出せないということがわかっています。私達自身がローンチタイトルを出さなければ説得力もありません。そういうところを重視してこのゲームを作っています。こちらが今のところ5月末を目標に動いています。
――これが「dangoプラットフォーム」に乗ってFacebookに出てくる第1弾のアプリケーションになるわけですね。具体的にはどういったゲームになるのでしょうか?
石橋氏: 基本的にタワーディフェンスを対戦できる形にしようと考えています。まず最初に人間やオークといった種族を選びます。他の友達も同様に種族を選んで参加すると、バトルフィールドに出現します。例えば、私が三並に対戦を挑みますと、仮想AIのようなゴーストデータの形で対戦が行なわれ、勝った負けたのデータを双方にやりとりをします。その勝ち負けが蓄積して、大枠で種族同士の決戦となり、今回は人間の勝ち、といった形で全体の勝敗が決まります。ミニゲームをやらせつつ、それを全体のソーシャルな仕組みとつなぎ合わせているような形です。
グラフィックスも、Flashのベクター的なものではなく、ファミコンのドット絵のような表現を使っています。「日本のデベロッパーが来たぞ」ということをはっきりわからせようかなと。Facebookアプリを見渡しても、私の知っている中にはこういうものはまだ1つもありません。その上で、ただ単にゲームなのではなく、ソーシャルなところもきちんと押さえているものが出たら、欧米人も注目せざるを得ないのではないかと思います。こういう形で、こちらから攻め込むベストな方法を練っているところです。
――このゲームが出た後、他社さんが「dangoプラットフォーム」に乗せたものを作ってくれれば、このゲームからそちらへのリンクが出てくるわけですね。
石橋氏: そうです。具体的には「dangoUI」みたいなものがあって、そこに各タイトルが入ります。
三並氏: 友達が他の「dangoプラットフォーム」のゲームを遊んでいると、何のゲームで遊んでいるかも出ます。あくまでもコミュニティありきで、そこにゲームを乗せるので、ゲームのタイトルを表示するのではなく、友達個人を表示してそこにゲームを紐付けさせます。
石橋氏: 今まではゲームの中に人がある箱なのですけど、人の中に紐付いたゲームタグがついているような考え方です。あるユーザーが何かで遊んでいたら、そこにみんなが集まるし、別の人が別のゲームを始めたら、またそこに別のユーザーが集まるという感覚です。
――「dangoプラットフォーム」で新しいゲームが出た時は、この中でどういう風にプロモーションをされるのですか?
石橋氏: 今のところはバナーの枠を出して、数が少ないうちは“What's New”といった形で上から順番に出力していく形を考えています。数が増えた時には、UIを整えないと今のiPhoneのような状態になってしまうので、そこは随時新しい工夫を加えていきます。
――ちなみにこのゲームはFacebook専用になるのですか?
三並氏: いえ、Facebookとmixi、および独自サイトの3カ所で出す予定です。
赤羽氏: 「dangoプラットフォーム」に乗っていただくことによって、Facebookで世界に進出しつつ、mixiにも乗り、かつdango独立のゲームサイトでも公開できます。その間は全ての友達情報がやりとりできます。Facebookの次には、MySpaceなど世界の大手SNSをターゲットにしていきます。
三並氏: dango独自のゲームサイトでは、開発者さんが持っているホームページに、YouTubeの動画を貼り付けるような感じで、ゲームをポンと置けます。自分でホームページを持っていたら、そこにincludeタグをいれると、このゲームが入るという形にしていきます。
――その間でも当然通信はできていると。
石橋氏: はい、裏で全て繋いでいきます。
――例えば、ある会社さんが自分でオンラインゲームのポータルサイトを持っているとして、そのポータルサイトとFacebookを繋いだオンラインゲームも可能なのですか?
石橋氏: 技術的にはできます。今時の考え方でそれをやったら斬新ですね(笑)。我々は囲い込みはしませんので、そちらのポータルサイトのほうを開放していただけるなら、私達も全力で協力します。
――では最後に一言ずつ「dangoプラットフォーム」のアピールをお願いします。
三並氏: 開発者の方に対して私が1番言いたいことは、自社の独自コンテンツでお金を稼げる場所ができたので、私達と一緒にやりませんか、ということです。いろんな方が独自コンテンツを作りたいと思っておられるのはよく知っているので、それでお金を稼いでいただきたいと思っています。一般ユーザーさんには、この話自体が理解しづらいと思いますが、mixiアプリが出てくれば、WEBアプリの新しい可能性が見えてくるはずです。そういうところにも興味を持って色々とプレイしていただけると、近いうちに新しい遊び方が出てくるのではないかと思います。
石橋氏: 私からは開発者さんに向けてですが、これは作っていて非常に面白いです。今までに体験したことのないゾーンの開発で、そこはとても手探りなのですが、手探りだからこそ新しいものが発見できたり、新しいアイデアが出たりします。新しくできたものは既存のゲームにもフィードバックできるので、作り手としての楽しさを感じています。新しいもの、より面白いものにチャレンジしたい開発者の方は、ぜひ一緒に挑戦しましょう。
赤羽氏: 私からは繰り返しになりますが、新しい世界が開きましたということです。日本にいながらにして世界にチャレンジできるので、一緒にやっていきましょう。これまでのいろいろな問題点を打開する、新しい方向が見えてきた、と申し上げたいと思います。
――ありがとうございました。
□dangoのホームページ
http://dango-net.com/
(2009年 5月 11日)