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日本esports促進協会、ChinaJoyで日本のeスポーツの課題を多数指摘

「PCゲームが盛んでないという問題」とは? 「神田明神カップ」はJEFのサポートと判明

【ChinaJoy 2019】

8月2日~5日開催

 日本で今年5月に新たなeスポーツ団体が設立されたことをご存じだろうか。「日本esports促進協会(JEF)」といい、2018年に設立された統一団体 日本eスポーツ連合(JeSU)とはまったく別軸で、独自の活動をしている一般財団法人となる。

 理事長には、2010年に担当した上海国際博覧会(上海万博)の海外顧問および日本政府館のプロデューサーを務め、中国にパイプを持つ、イベントプロデューサーの牧村真史氏が務め、副会長には「ChinaJoy Cup」の主催団体であるGAGE e-sports CEOの沈梅峰氏が就任するなど、日本という名前が付いていながら極めて中国色の強い団体だ。そのJEFがChinaJoyと共催された「2019 Global eSports Conference」で講演を行なった。

【2019 Global eSports Conference】
中華人民共和国70周年記念イベントという扱いになっている
紹介される日本esports促進協会理事長の牧村真史氏

 スピーカーを務めたのは牧村氏。この講演は、5月の設立発表以来、あまり活動実態がよくわかっていないJEFの海外活動ということで、理事長の牧村氏自身が登壇するということもあり、個人的に注目して聞いていたが、その内容の激しさと、中身のなさに同じ日本人として衝撃を受けた。

 牧村氏の講演は、1983年のファミリーコンピュータからはじまり、そこを起点に日本のゲーム史がスタートし、様々なゲームプラットフォームの変遷を経ながら大きな発展を遂げ、近年はゲームが単なる娯楽から競技性を持つように変革していったことを語った。牧村氏は「日本でもアジア大会、オリンピック、パラリンピックといった大規模な国際大会で、eスポーツが種目になることが大変な話題になっている」とやや拡大解釈した表現で日本でのeスポーツの盛り上がりを語り、日本でもeスポーツに関する話題、認知が急ピッチで進んでいることを報告した。

スピーチを行なう牧村氏
コンソールゲームで占められてきた日本のゲームの歴史
ビデオゲームはエンターテインメントからコンペティションへ
日本で実施されている大会の例。JeSU公認大会は除外されている

 ただ、牧村氏によれば、日本のeスポーツは“様々な課題”を抱えているという。以下、牧村氏の発言に基づいて箇条書きでまとめてみたい。

【JEFが指摘する日本のeスポーツの課題】
・「League of Legends」、「オーバーウォッチ」、「Dota2」などのグローバルなタイトルに触れる機会が非常に少ないという課題
・世界のユーザーの中心となっている「国際ゲーム(編注:上記のような海外のeスポーツ大会で採用される種目を指すと思われる)」と少し異なった形で、日本のeスポーツは進んでいるという課題
・コンシューマー文化に根ざした日本は、PCを使ったゲームが盛んではないという問題
・社会的なインフラ、インフラとしての施設、とりわけ教育施設にかなり遅れがあるという問題
・eスポーツについて一般的な認知、関心を作りにくいという環境がある

【日本のeスポーツの問題点】
中国語で書かれた日本のeスポーツの問題点。大会の少なさ、知名度の低さ、環境の不十分さの3点について指摘している

 かなり異論反論が出てきそうな問題提起ばかりだと言わざるを得ないが、特に指摘しなければならないのは「コンシューマー文化に根ざした日本は、PCを使ったゲームが盛んではないという問題」だろう。そもそもが事実ではないし、百歩譲ってそうだとしても、それの何が問題なのかがさっぱりわからない。

 たとえば、弊誌でも、JeSUの公認タイトルの中に、海外eスポーツにおけるTier1タイトルが含まれていないという指摘は何度かしているが、だからといってJeSUが公認した「ストリートファイターV」などのコンソールタイトルを排除すべきだとはまったく思わない。日本の、日本が得意とする、日本で人気のタイトルを、日本の団体としてしっかり日本で根付かせ、日本発のeスポーツタイトルとして世界に押し出していこうというのは当然の話であり、そのことと、もっと海外の有力なeスポーツタイトルも公認・支援して、より多くの日本人アスリートが日本や世界で活躍できる環境を構築して欲しいという話は、まったく別軸の話である。仮に日本のeスポーツ団体の公認タイトルが「League of Legends」や「オーバーウォッチ」、「Dota2」だけになったら、それこそ何のための団体か分からないだろう。

 このほか「『League of Legends』を日本で触れる機会が非常に少ない」というのもまったく意味不明な発言で、全体的に牧村氏は本当にわかってて発言しているのか怪しいところがあると感じた。別に団体が複数に分かれること自体は、必要性があればそういう選択肢もあっていいと思うが、こういうピントのズレた発言をしている限り、日本のeスポーツアスリートや、eスポーツファンから支持を得ることは難しいのではないだろうか。

 また、中国eスポーツ団体との協業という観点からも、主張そのものがややズレている印象がある。というのも、すでに中国ではPCゲームではなく、モバイルゲームがeスポーツの主戦場に移っており、であれば日本にも「モンスト」や「パズドラ」をはじめ、ユニークなモバイル向けeスポーツタイトルが多数存在することをあげて、「一緒にモバイルeスポーツを盛り上げていきましょう」というストーリーの方が中国の来場者には馴染んだのではないかと思う。

 このJEFは、秋葉原最大のイベント「夏葉原」を主催する夏葉原実行委員会と共同でPCプラットフォームを扱ったeスポーツ大会「神田明神カップ」を開催するほか、今後も定期的に大会を開いていくことで、eスポーツに関わりのない層も含めた、eスポーツユーザー人口の拡大を目指していくという。

【神田明神カップ】
日本のeスポーツの課題克服のための具体的な施策の1つが「神田明神カップ」だという

 また、副理事長の鴨志田由貴氏がマンガ学科の学科長を務める京都造形芸術大学と提携し、選手のみならず、解説者、技術者、映像配信者など、eスポーツ産業に必要な人材を育てられる教育インフラを構築していきたいとしている。その教育プログラムは将来的には高校生、中学生、小学生にも広げていきたいということで、この教育に関してはJeSUがまだたどり着いていない分野だけに、その取り組み、その成果が注目されるところだ。

【京都造形芸術大学との連携】
eスポーツ業界に必要な人材を育成していくという

【JEFのビジョン】
日本語版は公式サイトにも記載されているが、選手名鑑や資格発行、違法対策、交流会の開催など、ユニークな施策が多い。今後の具体的な展開に期待したいところだ