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「WGL APAC シーズン II ファイナル」、中国EL Gamingが完勝

Caren Tigerのメンバーに聞く、EL Gamingの強さの秘密

4月8、9日開催

会場:EcoARK in Taipei Expo Park

 Wargaming.netは4月8日と9日の両日、「World of Tanks」のアジア1位を決めるトーナメント大会「Wargaming.net League APAC シーズン II ファイナル 2016 - 2017」(以下、APAC FINAL)を台湾台北市EcoARKにおいて開催し、中国代表のEL Gamingが7:1で、Team Efficiencyを下して、今年もアジア最強の座を維持した。

【APAC FINAL決勝戦】
昨日7:1で台湾のHorsemenを破ったEL Gamingだが、決勝では台湾のeスポーツファンの大歓声を受けて、感謝のアピール。こういうシーンを観ると、日本より台湾の方がeスポーツが娯楽として浸透しているなと感じられる

控え室で試合を観戦するCaren Tigerのメンバー
ELはTier VIIIの枠に自走砲を投入していた
Maus2枚でRu251のキャップを守るという完璧な布陣で待ち構えるゴーストタウン。こうなると相手は来ざるを得ない。そこを有利な位置から叩く作戦だ
エースであるHarDl1InER(ハードライナー)選手。彼を止めることがEL撃破の鍵を握る
優勝インタビューに応じるEL Gamingのメンバー

 ポストシーズンでは、Team Efficiencyに対して1勝2敗と負け越していたEL Gamingだが、実際に決勝が始まってみると、その力量差は明らかだった。EL Gamingによればポストシーズンの敗北は回線トラブルやマシンのクラッシュなど、他の要因が大きかったようだが、ポストシーズンは本気ではなかったのではないかと思えるほど強かった。

 控え室で試合を観戦していたCaren Tigerのメンバーに、EL Gamingの強さを聞くと、各個人の基本的な能力の高さに加えて、状況判断の速さ、その修正能力だという。自身の動き、状況というのは自分が一番わかっていない。わかりやすい例で言うと、1対1で格闘戦に入ると、周りへの注意がいつもよりおろそかになる。この際に他のチームメンバーが適切なアドバイスができるかどうかが重要で、ELはそれがうまいという。特にオフライン大会では緊張もあって、自分の変な動きをしていることに気づけない。この結果、序盤でダメージを取られたり、作戦がバレたりして、そのゲームは大きく不利に傾いてしまう。

 また、戦闘に入ると、自分と味方の残りHPの注意が散漫になり、出過ぎていたり、カバーリングに入るべき状況でもそのまま戦闘を続けてしまったりすることがある。この点でもEL Gamingは非常にうまいという。Caren Tigerでは、この課題については、前にいるメンバーを後ろにいるメンバーが制御するという方法で処理しているという。

 そのほか、ELが得意としているのがブラインドショット。視界が取れていない状況で、敵のいる位置を予測してダメージを与える。ELのチームリーダーであるFoxTS選手は、APAC随一の自走砲使いだが、彼はブラインドショットで自走砲の榴弾を的確に当ててくるから凄い。もちろん、自走砲以外も全員ブラインドショットを使っており、第六感が機能する前にダメージが発生しているのはブラインドショットが決まっているためだ。

 ちなみにCTにはFoxTS選手を上回る自走砲使いOpelisk選手がいるが、彼を投入しなかった理由は、TEとELとの対戦ではバンピックの時点で、自走砲が使えるマップが絞られることが予想できたためだという。自走砲に特化したOpelisk選手をあえて外し、重戦車もしっかり使える選手をスタメンに選んだ。ちなみにAPAC FINALでは、選手の入れ替えはできず、最初に登録した7人だけが出場できるという。この点についても柔軟に対応してくれても良かったのではということだった。

 自走砲戦術を捨てたCTだが、ELは準決勝、決勝でも自走砲を多用し、相手のMausやIS-7といった重戦車に的確に当てていた。もっとも、榴弾ではMausの装甲を貫けないためダメージは200~300というところだが、履帯を切ったり、搭乗員を負傷に追い込んだり、ときおり当たり所が良く500以上のダメージをたたき出したりしていた。Grand Finalでは、自走砲をダメージディーラーから支援車輌とする仕様変更が導入される見込みだが、それによってELの自走砲戦術がどうなるのか注目されるところだ。

 要所で技が冴え渡っていたELだが、彼らが開幕前日のインタビューでも予告していたように、全体として勝負の決め手となったのは重戦車だ。ただ、彼らが他のチームとやや異なるのはMaus以外の重戦車、たとえば中国の113やフランスのAMX 50B、Type 5 Heavyなどを積極的に投入し、Mausにはない機動力で相手を翻弄していた。とりわけ芸術的にうまいのがHarDl1InER(ハードライナー)選手だ。自国の113を巧みに操り、13ショットで4,676ダメージ、2キルという、ほとんど全弾を当てる活躍でスタッツの上位に食い込んでいた。

 ELを含め、全チームが取り入れる重戦車主体の戦術について、CTのAki00v選手によれば、Mausはもっともタフな重戦車である一方で、機動力に劣り、終盤戦で数輌だけ残るような状況でなかなか活躍ができないという。Mausには物陰から撃ってくれる車輌の存在が必要不可欠で、Bat.-Chatillon 25 tをはじめとした高機動力/打撃力の戦車の重要性は変わっていないようだ。

 Aki00v選手に来シーズンで、ELに勝てる可能性があるのか聞いたところ、「勝てなくはない」という微妙な回答だった。その意味は、「以前は絶対勝てない」と感じていたということで、ひとりのリーダーの存在が大きかったという、そのリーダーが指揮を執ったTier VIII時代は、まさに無敵で、全体を指揮しながら自身もダメージを与えていくというリーダーの理想を体現する存在だったという。そのリーダーが外れてからは、EL Gamingは明らかに実力もモチベーションも下がっており、徐々に実力差が縮まってきていることをポストシーズンでも実感したという。

 ちなみに、ELの優勝インタビューで、ポストシーズンでもっともイヤだった対戦相手を訪ねられ、即座に「Caren Tiger」と答えていたのが印象的だった。ELから見てCaren Tigerは常に罠にはめようとしてきて、その対処が毎回大変だったという。つまり、相手もCaren Tigerの実力を評価しているわけだ。また、反省点として、新メンバーの加入によるチームワークの低下を告白していたのも印象的だった。APAC FINALではまさに漫画のような強さを魅せたEL Gamingだが、彼らも人間であり、無敵ではないなという気がした。

 ELのGFでの目標は、謙虚に「ベスト4」とし、もし組み合わせで早い段階で競合と当たることになった場合は、ダークホースとなれる、つまり金星を挙げられるように頑張りたいということだった。

 GFについて気になっているのは、ELよりむしろTeam Efficiencyのほうだ。彼らはAPAC FINALの活躍により見事初のGF出場を決めたが、ELとの決勝戦では、後半は明らかに戦意を喪失しており、ミスも目立ち、何より勝つ意思が感じられなかった。彼らの戦術がすべて見破られ、打つ手無しという状況だったことが考えられるが、そうだとすれば少々戦術の引き出しが少なすぎる。Caren Tigerを撃破する実力を見せたのだから、1カ月後のGFではAPACの一角としてELと共に活躍してくれることを期待したいところだ。