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どうすればモバイルVRは儲かるのか? OculusがGEAR VRの蓄積データを披露
ワイヤレスコントローラー「GEAR VR Remote」でモバイルVR体験を深化
2017年3月3日 16:36
昨年のGDCと比較してもっとも大きな違いは、デベロッパーのVRに対する熱の冷め方だ。VR関連のセッションの数は、昨年と同等か、むしろ多いほどだが、参加者の数はザッと半分以下で空席が目立つ。理由は簡単である。VRは儲からないからだ。
とりわけ“VRの大本命”と目されながら、Oculus RiftやHTC Viveなどと同様に、様々な問題から足踏みが続いているモバイルVRの分野。GDC2017では、GEAR VRを擁し、モバイルVRの先駆者であるOculusから、モバイルVRのプラットフォーマーの立場からモバイルVR成功のための貴重なノウハウが公開された。
セッションスピーカーを務めたOculus Exective ProducerのRade Stojsavljevic氏は、Westwood Studiosを皮切り、Electronic Arts、Activision、SCEA、その後モバイル関連のデベロッパーと、時代のトレンドを生き抜いてきた人物。
Stojsavljevic氏は、セッションの最初に、「モバイルVRで儲けられるか?」の自答に、短い回答として「イエス」、長い回答が「このセッション」だと語り、OculusがモバイルVRのプラットフォーマーとして得てきた知見を披露していった。
プラットフォーマーとしてのビジネスの柱となるGEAR VRは、これまでに500万台を出荷している。売ったと言うよりは、Samusungの対象スマートフォンを買えば無料で配布していたりしたため、半ば配ったと表現したほうがいいかもしれないが、500万台というのは1つのプラットフォームとしては十分な数字だ。
しかし驚かされたのは、利用率の低さだ。ユーザーの利用率は、1週間にわずか2回ほどに過ぎない。毎日熱心に利用している人も存在することを考えれば、全然使われていないといっていい惨憺たるデータだ。
理由はモバイルVRが普及していない理由そのものだ。コンテンツがない、利用する時間がない、バッテリーの消費が激しすぎる、そして熱を持ちすぎる。
では、利用している人は、どのような使い方をしているのか? これも予想を覆すデータが明らかにされた。PS VRのように自室で熱心にVRコンテンツを利用するのではなく、携帯性の高さを活かして、フレンドに見せたり、ソーシャルイベントに持ち込んでみんなで楽しんだりなど、ソーシャル性の高い利用の仕方をしている人が多かった。Oculusとしては、他の人に見せる使い方について、プラットフォーマーサイドで支援するような取り組みを考えているという。
次に、コンテンツについてはどうだろうか。コンテンツについては、ゲームに代表されるインタラクティブコンテンツと、ビデオに代表されるノンインタラクティブコンテンツに大別されるが、利用率は53%対47%で、ノンゲーマー層もかなり利用している実態が明らかになっている。
ノンインタラクティブコンテンツは、360度フォト/ビデオといったVRコンテンツのみならず、NetflixやSamsung Video、Oculus Videoなど1080pビデオをバーチャルシアターで視聴するためのデバイスとして活用されている。
一方インタラクティブコンテンツはというと、やはりゲームが中心で、「Ocean Rift」や「Face your Fears」などの仮想体験系、AltspaceVR、vTimeなどのソーシャル系も出てきている。新たな潮流としてはミュージックビジュアライザー「GrooVR」が紹介された。好きな曲とテーマを選ぶと、サウンドに合わせて世界が反応する360度ビジュアライザー空間に没入できるというもの。
そうした中でメジャーヒットとなったのがTurtle Rock Studiosが開発したホラーゲーム「Face Your Fears」だ。自分はイスに座ったままで動かず、周囲の変化を楽しむというカプコンの「KITCHEN」のようなホラーゲーム。開発は「Left 4 Dead」や「EVOLVE」を手がけたTurtle Rock Studiosが手がけているだけにそのクオリティは折り紙付きで、モバイルVRの分野では最高記録となる110万ダウンロードを記録。ゲーム内課金の利用率も高く、そしてユーザーの平均利用時間も39.8分と長く、GEAR VRタイトルの中で大成功と言えるタイトルとなっているという。
「Face Your Fears」の成功から導き出された答えは、ホラーのようなVRの特性にあった、見せびらかしに向いたコンテンツであること、1サイクルが5分程度で遊べるサイズであること、クオリティの高いグラフィックスであること、そして手軽に試せるようにFree to Playを採用し、その上で気に入った人にコンテンツを買って貰う、IAP(In App Purchase、ゲーム内課金)モデルを採用すること。いずれも言わば当たり前の話であるが、特徴的なのはプレイ時間の短さで、もはやゲームセンターのワンコイン以下のプレイ時間となっている。
その一方で見えてきた課題は、平均プレイ時間の短さだ。「Face Your Fears」ですら、過半数のユーザーが1時間足らずで離れてしまう。どうすればスマートフォン利用者をモバイルVRに引きつけることができるのか。
ネックになっているのは、GEAR VRを準備し、アプリを起動し、すべてをセットして初めて遊べるようになるアポイントベースのプレイからの脱却だ。しかし、これはモバイルVRの構造上の弱点とも言え、克服は簡単ではない。
やはりブレイクスルーとして期待されるのは、魅力的なゲームコンテンツだ。Stojsavljevic氏は優良なタイトルとして、Oculus RiftとGEAR VRでクロスプラットフォームプレイに対応したオンラインカードバトル「Dragon Front」を紹介した。
通常のオンラインゲームのようにマルチプレイに対応し、定期的なアップデートを提供することで、プレーヤーの継続率も高い。その反面、モバイルVRタイトルとしてはダウンロードサイズが大きく(500MB以上)で、マッチメイキングの面でも課題があるという。
最後にStojsavljevic氏はOculus自身の今後の取り組みとして、GEAR VR用のワイヤレスコントローラー「GEAR VR Remote」を紹介した。2月にスペインで行なわれたMobile World Congress(MWC)で発表されたばかりのデバイスで、今春発売される。今後はGEAR VRに同梱して出荷される予定で、このワイヤレスコントローラーが、GEAR VRの標準デバイスとなる。「GEAR VR Remote」は、タッチパッドとトリガーの機能を備えた、ミニリモコンで、この新デバイスでGEAR VRは新たなVR体験を提供していくという。
そのほかにも、Samsungが今後リリースする新たなスマートフォンへの対応や、ソーシャルプレイ、そして新たなジャンル/メカニクスを搭載したゲームをリリースすることで、モバイルVR市場を盛り上げていく方針を語ってくれた。正直な所、モバイルVRが儲かる根拠としては甚だ弱いと感じざるを得なかったが、Oculusは今年も引き続き、GEAR VRとSamsungとのパートナーシップを通じてモバイルVRの普及を目指していく方針は明確になった。モバイルVRが今後どのような進化を見せていくのか引き続き注目していきたい。