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JAGMOのクリスマス公演「英雄達の譚詩曲」が開幕
ついに完成した「サクラ大戦」メドレーと、和楽器を取り入れた「大神」で新境地へ
2016年12月23日 20:24
ゲームミュージックに特化したオーケストラ楽団JAGMOは12月23日より、年内最後となる定期公演「英雄達の譚詩曲」を開催した。会期は12月25日までで初日含め全5公演が行なわれる。
2016年は、「闘会議」への参加を皮切りに、名門サントリーホールでの最大規模の公演、そしてNHK音楽祭へ参加、TV出演と、2014年のJAGMO設立以来もっとも忙しい年となったが、都合8回目の定期公演となる今回は、クリスマス時期に合わせて実施された。
もともとの日程は12月24日と25日の2日間が予定されていたが、TV放送がきっかけで高い注目を集めた結果、チケットがすぐ完売となったため、急遽追加公演を決定。前日23日にも公演を行なうことが発表されるなど、“ゲームに特化したオーケストラ”という試みは大きな成功を遂げつつある。セットリストは以下の通り。
【12月23日セットリスト(演奏順)】
「ICO」(作曲:大島ミチル 編曲:深澤恵梨香)
「ICO-You were there-」、「Castle in the Mist」
「ワンダと巨像」(作曲:大谷幸 編曲:深澤恵梨香)
「プロローグ~古えの地へ~」、「黒い血」、「開かれる道~巨像との戦い~」
「荒ぶる邂逅~巨像との戦い~」、「蘇る力~巨像との戦い~」
「儀式の終焉~巨像との戦い~」、「陽のあたる大地」
「MOTHER」シリーズより(作曲:鈴木慶一/田中宏和 編曲:深澤恵梨香)
「Eight Melodies」、「Pollyanna(I Believe in You)」、「Bein’ Friends」
「Saturn Valley」、「摩天楼に抱かれて」、「SMILES and TEARS」
「クロノクロス」(作曲:光田庸典 編曲:深澤恵梨香)
「CHRONO CROSS ~時の傷痕~」、「疾風」、「死線」、「勝利 ~春の贈り物~」
「星を盗んだ少女」、「夢の岸辺に アナザー・ワールド」、「運命に囚われし者たち」、「龍神」
「ワイルドアームズ」(作曲:なるけみちこ 編曲:松崎国生)
「荒野の果てへ」、「街」
「アトリエ」シリーズ(作曲:浅野隼人・柳川和樹 編曲:深澤恵梨香)
「紫電清霜」(新・ロロナのアトリエ)
「Red Zone」 「GO GO TOTORI」(トトリのアトリエ)
「雲雀東風」(ソフィーのアトリエ)
「小手鞠」「Stella ~その2~ 」「Sweep ~その3~ 」「雲烟飛動」(シャリーのアトリエ)
「疾翔」(フィリスのアトリエ)
「サクラ大戦」シリーズより(作曲:田中公平 編曲:深澤恵梨香)
「檄!帝国華撃団」(サクラ大戦)
「御旗のもとに」(サクラ大戦3)
「地上の戦士」(サクラ大戦5)
「俺の屍を越えてゆけ2」(作曲:樹原孝之介 編曲:松崎国生)
「序章」「旅立ち」「勝負」「鬼神」「阿部晴明」「夜鳥子」
「鬼頭」「晴明と式神」「阿修羅」「決戦 破」「終結」
「大神」(作曲:近藤嶺・上田雅美・山口裕史 編曲:深澤恵梨香)
「タイトル」「太陽は昇る」「プロローグ」「オイラのテーマ」
「妖怪退治」「ウシワカ演舞〜ウシワカと遊ぶ」「常闇ノ皇」「Reset」
今回の楽曲は、JAGMOが設立以来、得意としてきた「ファイナルファンタジー」シリーズや「ロマンシングサガ」、「キングダムハーツ」といったスクウェア・エニックスタイトルをあえて排し、JAGMO公演参加者に対して実施しているアンケートで要望が多かった曲目を採用。結果として新曲だらけの公演となり、新生JAGMOを印象づける公演となった。
今回初採用されたタイトルは「ICO」(SIE)、「ワンダと巨像」(SIE)、「ワイルドアームズ」(SIE)、「俺の屍を越えてゆけ2」(SIE)、「アトリエ」シリーズ(コーエーテクモゲームス)、「大神」(カプコン)の6タイトルで、すべて初演奏となる。1990年代後半から、現代までにかけてリリースされた比較的新しいタイトルが多いのが印象的で、若いゲームミュージックファンが着実に育ってきており、彼らが選曲に大きな影響を与えていることがわかる。
その上で「サクラ大戦」や「MOTHER」、「クロノクロス」といった定番タイトルが脇を固める。と言っても、どれひとつとして前回と同じ演奏はなく、「サクラ大戦」は「サクラ大戦V」の主題歌「地上の戦士」を新たに取り入れていたり、「MOTHER」や「クロノクロス」は、毎回参加していないとわからないほど細かい部分でリアレンジを施しておいる。
演奏は各タイトルごとに行なわれ、複数の楽曲を1つの曲目として聞かせるJAGMO独自のメドレースタイルになっている。この部分については、ゲームミュージックファンでも評価の分かれるところだと思われる。メドレースタイルにすると、各曲の演奏が短くなり食い足りなさを感じる一方で、それをシームレスに繋げて演奏することで全体として大きなハーモニーとなり、大きな感動が生まれる。
この点でもっとも高い完成度を見せていたのが「サクラ大戦」だ。同作は、2015年10月の定期公演「伝説の音楽祭 勇者たちの饗宴」で初採用され、「サクラ大戦」の主題歌「激!帝国華撃団」のみが単独演奏されたが、全体として音のバランスが悪く、サビで大きな盛り上がりを作ることができていなかった。2016年8月の公演「伝説の交響組曲」では、「激!帝国華撃団」に、「サクラ大戦3」の主題歌「御旗のもとに」を加えてメドレースタイルで演奏されたが、奇しくも「サクラ大戦4」の主題歌「激!帝~最終章~」が、オリジナルのメドレー曲となっており、強い印象を残すことができなかった。
そこで筆者は「伝説の交響組曲」のレポートで、「サクラ大戦」のメドレーをやるなら、「サクラ大戦V」の「地上の戦士」を採用するべきと書いたが、今回の公演はそれが現実のものとなった。
演奏の順番は「激!帝国華撃団」、「御旗のもとに」、そして「地上の戦士」となっていた。主旋律はシンプルにハッキリ強くなり、出だしからもの凄い迫力だ。新曲の「地上の戦士」は、ほとんどアレンジは加えず、前2曲に比べるとオーソドックスな内容だったが、途中、高速スウィング風のジャジーな間奏パートも取り入れ、見事に演奏しきっていた。後半は再び「激!帝国華撃団」、「御旗のもとに」に立ち返り、「御旗のもとに」でフィナーレ。演奏、アレンジ、繋げ方、どれをとっても素晴らしく、本日初の「ブラボー」が飛び出した。音楽監督で「サクラ大戦」の編曲を担当している深澤恵梨香氏の1年間の取り組みの成果が出た1曲だった。
新規採用されたタイトルについては、どれも素晴らしく、初めて耳にする楽曲、久しぶりに聴いた楽曲、すっかり忘れていた名曲、色々あったが、ゲーム体験を豊かにしてくれるゲームミュージックはやはり素晴らしいし、「FF」、「ロマサガ」、「クロノトリガー」といった十八番を封印してまで新曲に挑み続けるJAGMOもまた素晴らしいと思った。ゲームミュージックコンサートの理想郷に近づいてきているという印象を受けた。
とりわけ衝撃を受けたのは、最後に演奏された「大神」だ。JAGMOのフルオーケストラに加えて、和服を着た演者が現われ、大小の和太鼓に尺八、三味線を演奏。和楽器で演奏される原曲の良さを100%活かしながら、ときおり、和楽器の演奏ならではのかけ声も織り交ぜながら豊かで広がりのあるオーケストラアレンジを展開し、万雷の拍手を受けた。もちろんこちらも「ブラボー」連発だ。
しかし、これだけ多くのジャンルから公演タイトルが選ばれると、パトロンとしてJAGMOの定期公演に熱心に通っているJAGMOファンでも未知のゲームミュージックが増えてくるのではないかと思われる。それを補う取り組みが公式パンフレットのプロデューサー山本和哉氏によるプログラムノートだ。
これは要するに演奏曲目の解説文だが、山本氏はこの解説を書くためにすべてのゲームを遊び直し、遊び手の立場から演奏される曲目について思い入れたっぷりに語っている。山本氏は「2万字以上ありますよ、僕はゲーム好きなので全部遊んで自分で書きました」と語ってくれたが、特に未知のタイトルが多いゲームファンにとって関心を喚起しやすい内容になっており、未知のタイトルのサウンドトラックを初めて聞いたときは、自身の解釈が正しいかどうかわからないため居心地悪さが残るが、このプログラムノートにはどこでどういう目的で流れる曲なのか、場合によってはゲームシステムまで踏み込んで解説が行われているため、そのゲームのファンでも「ああそうだった」と思い出しながら楽しんで読むことができる。公演参加者はぜひパンフレットを入手して一読を勧めたい。
アンコールはクリスマス公演らしい演出で、少々あっさりした内容だったものの、最後まで楽しむことができた。JAGMOは「FF」、「ロマサガ」頼りから完全に脱却し、ファンの支持を力に、新たなタイトルによる新たな楽曲提供、新アレンジ、新たなスタイルでの演奏というチャレンジを続けている。引き続き2017年もJAGMOの取り組みに注目していきたいところだ。