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JAGMO、夏の定期公演「伝説の交響組曲」を開催

「スーパーマリオ」、「MOTHER」、「サクラ大戦」! ゲーム史を彩る名曲がフルオーケストラで蘇る

8月13日、14日開催

会場:サントリーホール

 日本唯一のゲーム音楽交響楽団「JAGMO」は8月13日、夏のフルオーケストラ公演「伝説の交響組曲 -THE LEGENDARY SYMPHONIC SUITE-」を開催した。

JAGMOの奏者

 JAGMOはゲーム専門の交響楽団として、メーカーやタイトルをまたがる形で様々なタイトルのフルオーケストラ演奏を一度に楽しめるのが最大の特徴となっている。2015年の定期公演開始以降、常にチャレンジを続けることでも知られており、新しいメーカーの新しいタイトルを積極的に曲目として取り入れるだけでなく、編曲家深澤恵梨香氏、松澤国夫氏のアレンジは、毎回と言っていい頻度でリファインが行なわれたり、ファンファーレと共に曲自体がレベルアップしていく「レベルアップ交響曲」を披露するなど、常に新鮮味のある公演が楽しめる。

 2016年に入ってからは、通常のアレンジ、メドレーの枠を超えて、複数の楽曲を混ぜ合わせて、完全に1つの曲目として演奏するという新しい取り組みが行なわれ、JAGMOの定期公演でしか聴けない新アレンジとして新たな目玉となっている。こうした新たな取り組みが奏功して、観客動員数は増え続け、今回は名門のサントリーホールで4公演という過去最大規模で行なわれることになった。

【サントリーホール】
「伝説の交響組曲 -THE LEGENDARY SYMPHONIC SUITE-」は名門コンサートホール サントリーホールで実施された

 なお、5月に行なわれた「幻想郷の交響楽団」で初めて起用された指揮者 永峰大輔氏が今回も起用されていた。JAGMOによれば、永峰氏は無類のゲーム好き指揮者ということで、JAGMOの活動に理解があり、新たな取り組みの一環として起用したという。今回のセットリストは以下の通り。

スーパーマリオブラザーズ(作曲:近藤浩治 編曲:深澤恵梨香)

「地上BGM」
「スターBGM」
「地下BGM」
「水中BGM」
「城BGM」

MOTHER(8月13日(土)昼・夜 限定演奏)(作曲:鈴木慶一/田中宏和 編曲:深澤恵梨香)

「Eight Melodies」
「Pollyanna(I Believe in You)」
「Bein' Friends」
「Saturn Valley」
「摩天楼に抱かれて」
「SMILES and TEARS」

スーパーマリオカート(8月14日(日)昼・夜 限定演奏)(作曲:岡素世 編曲:深澤恵梨香)

「オープニング・タイトル」
「レーススタート」
「マリオサーキット」
「ファイナルラップ」

サクラ大戦(作曲:田中公平 編曲:深澤恵梨香)

「御旗のもとに」
「檄!帝国華撃団」

キングダムハーツ(作曲:下村陽子 編曲:深澤恵梨香)

「Dearly Beloved」
「Roxas」
「Tension Rising」
「The 13th Struggle」
「Vector to the Heavens」

クロノ・クロス(光田庸典 編曲:深澤恵梨香)

「CHRONO CROSS〜時の傷痕〜」
「疾風」
「死線」
「勝利 ~春の贈り物~」
「星を盗んだ少女」
「夢の岸辺に アナザー・ワールド」
「運命に囚われし者たち」
「龍神」

FINAL FANTASYシリーズより(作曲:植松伸夫/中野順也 編曲:深澤恵梨香)

<13日(土) 昼>
「ビッグブリッヂの死闘」(FINAL FANTASY V)
「ゴルベーザ四天王とのバトル」(FINAL FANTASY IV)
「閃光」(FINAL FANTASY XIII)
「Force Your Way」(FINAL FANTASY VIII)

<13日(土) 夜>
「ビッグブリッヂの死闘」(FINAL FANTASY V)
「ゴルベーザ四天王とのバトル」(FINAL FANTASY IV)
「ハンターチャンス」(FINAL FANTASY IX)
「J-E-N-O-V-A」(FINAL FANTASY VII)

<14日(日) 昼>
「閃光」(FINAL FANTASY XIII)
「Force Your Way」(FINAL FANTASY VIII)
「ハンターチャンス」(FINAL FANTASY IX)
「J-E-N-O-V-A」(FINAL FANTASY VII)
「ブラスdeチョコボ」(FINAL FANTASY X)

<14日(日) 夜>
「ビッグブリッヂの死闘」(FINAL FANTASY V)
「ゴルベーザ四天王とのバトル」(FINAL FANTASY IV)
「閃光」(FINAL FANTASY XIII)
「Force Your Way」(FINAL FANTASY VIII)
「ブラスdeチョコボ」(FINAL FANTASY X)

<全プログラム共通>
「風の追憶 ~悠久の風伝説~」(FINAL FANTASY III)
「Melodies Of Life」(FINAL FANTASY IX)
「Eyes On Me」(FINAL FANTASY VIII)
「Kiss Me Good-Bye」(FINAL FANTASY XII)
「素敵だね」(FINAL FANTASY X)

「ザナルカンドにて」(FINAL FANTASY X)
「シーモアバトル」(FINAL FANTASY X)
「Otherworld」(FINAL FANTASY X)
「召喚獣バトル」(FINAL FANTASY X)

開場直後にはプレ弦楽四重奏コンサートも実施された
新たに指揮者に就任した永峰大輔氏
サントリーホールはステージの裏にも席がある珍しいデザインになっている
JAGMOはどこまで規模を拡大していくのか、引き続き成長を見守りたい

 今回は、初演の13日昼の部に参加した。開幕は新演奏楽曲となる「スーパーマリオブラザーズ」からスタートし、お馴染みの「地上BGM」から「地下」、「水中」、「城」、「スター」をオーケストラアレンジでメドレーしながら途中から融合させていくというJAGMO独自のアレンジにいきなりグッと引き込まれた。

 マラカスや木琴を大胆に使って原曲のラテン風のノリを活かしつつ、オーケストラに適した「水中」はミュージカルのような派手さで、ときおり、コイン獲得音を織り交ぜるという小技も効かせるなど初演とは思えない完成度だった。“日本ゲーム史上初の国民的ゲーム”である「スーパーマリオブラザーズ」のもっとも壮大で野心的なアレンジと言っていい。

 続いての「MOTHER」は、JAGMO定番になりつつある楽曲だが、演奏順やアレンジを変えていただけでなく、「Pollyanna」と「Bein' Friends」の融合に取り組んでおり、全体の音を極端に落として鉄琴の響きを際立たせる演出など、演奏スタイルもユニークだった。幕開けを「Eight Melodies」、締めくくりを「SMILES and TEARS」にするという初代「MOTHER」と「MOTHER2」エンディングで挟むという技ありの構成も良かった。

 個人的に楽しみにしていたのは「サクラ大戦」は、初代「サクラ大戦」と「サクラ大戦3」の主題歌「檄!帝国華撃団」、「御旗のもとに」の2曲。いずれも作曲家田中公平氏を代表する名曲で、公演でも「スーパーマリオ」と同様、2曲を混ぜ合わせ交互に演奏していくミックスアレンジスタイルが取られていたが、声楽パートが依然として弱く、繋がりもシームレスではなく、「御旗のもとに」の間奏パートからの立ち上がりが重いなど、“融合”という境地には至っていなかったように思う。

 JAGMOにとって不幸なのは、この2曲をベースにした公式アレンジが「サクラ大戦4」に主題歌「檄!帝~最終章(フィナーレ)~」としてすでに存在することだ。「サクラ大戦」ファンとしてはどうしてもこの曲との比較は避けられず、いささか分の悪い話になる。この2曲のミックスアレンジにこだわるなら、いっそのこと「檄!帝~最終章(フィナーレ)~」をベースにするか、クラシックに合うジャズベースの「サクラ大戦V」の主題歌「地上の戦士」までミックスさせて未踏の領域に突入するなど、更なる発展を期待したいところだ。

 後半は「キングダムハーツ」、「クロノクロス」、「クロノトリガー」、そして「ファイナルファンタジー」とJAGMO十八番のスクウェア・エニックスタイトルで埋め尽くし、スクエニファンにはたまらない時間となった。

 今回は「ロマンシングサガ」シリーズをあえて外し、「ファイナルファンタジー」シリーズをボリュームアップするなど若干構成を変えてきたが、ずっと変わらないのは「クロノトリガー」の「風の憧憬」へのこだわりだ。

 「風の憧憬」は、光田庸典氏屈指の名曲で、もともとはスーパーファミコン世代のシンプルな曲調のマップテーマだが、植松伸夫氏、伊藤賢治氏ともまったく異なる曲調で、ゲームファンに鮮烈な印象を与えた名曲。それゆえこれまで無数のアレンジ、オーケストラ演奏が行なわれてきたが、JAGMOの「風の憧憬」が頭ひとつ抜けて良い。

 透明感のある鉄琴とフルートの演奏からはじまり、原曲に対するリスペクトが感じられるコンサートマスター枝並千花氏によるピチカート、続いてバイオリン全体によるストリングス、そして全体演奏へと繋がっていく。その美しさ、広がり、全体としての完成度の高さは他に比類がない。「クロノトリガー」ファンはぜひ一度聞いてみて欲しい。

 トリを飾った「ファイナルファンタジー」メドレーは、初期の公演から演奏しているだけに、まさに円熟の内容だった。2つの曲を混ぜ合わせるミックスアレンジの完成度も高く、「FF」ファンにはたまらない内容だった。

 植松伸夫氏を代表する2曲「ビッグブリッジの死闘」と「ゴルベーザ四天王とのバトル」がシームレスに繋がる感じがおもしろかったし、「FFXIII」のメインテーマ「閃光」と、「FFVIII」の「Force Your Way」という世代の異なる名曲がシームレスに繋がり、後半ひとつに融合する展開も驚きだった。まさにJAGMOでしか聴けないアレンジであり、またひとつ新たな境地にたどり着いた印象がある。

 万雷の拍手を受けて行なわれたアンコールについても実は書きたいことが山ほどあるのだが、ネタバレになるので定番の「FF」メインテーマ……だけではない、というぐらいにしておきたい。JAGMOらしい、JAGMOでしかなしえない素晴らしいアンコールだった。次回公演は10月1日、オペラシティコンサートホールでの開催が予定されている。ぜひ実際に会場に足を運んで自身の耳でJAGMOの名演奏を堪能して欲しい。