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【特別企画】HAL大阪に「BISHAMON」世代のゲームクリエイターの萌芽アリ!

Unity、UE4を加え「第6回エフェクトコンテスト」は次のステージに

12月2日取材

取材協力:学校法人・専門学校 HAL大阪

大阪駅目の前にあるHAL大阪

 マッチロックが提供しているミドルウェア「BISHAMON」。国産でありながらエフェクト特化という、他にあまり例を見ない異色の存在だ。そんな同社は、本誌でもたびたびご紹介しているように、ゲームエフェクトコンテスト(主催:マッチロック/共催:アグニ・フレア)という独自の取り組みを行なっている。また、同社の「BISHAMON」エバンジェリスト後藤誠氏を中心に、勉強会や展示会といったイベントに積極的に参加して、「BISHAMON」の布教活動を行なっている。

 後藤氏自身、いくつかのゲーム専門学校で講演活動も行なっているのだが、それらの学校のなかでも「BISHAMON」をカリキュラムに取り入れて、エフェクトの授業を行なっている学校がある。学校法人・専門学校 HAL大阪(以下「HAL大阪」)だ。

 今回、エフェクトコンテストの開始に先駆け、後藤氏と共にHAL大阪を訪問し、両者のエフェクトデザイナー育成に対する取り組みについて、お話を伺う機会を得た。それぞれが予想以上に成果を上げているという、この取り組みの内容をご紹介したい。

オープン化するエフェクトコンテストに込められた“想い”

マッチロックで「BISHAMON」を担当する後藤誠氏

 「とにかく、エフェクトを担うクリエイターを増やさないと何も始まらない」と後藤氏は語る。一般的に、ツール、ミドルウェア、ゲームエンジンなどが、専門学校等に対して、特別に低廉なアカデミック版を用意したり、産学協同と称して学校のカリキュラムに取り入れてもらうように便宜を図るのは、それら“製品”の販売促進が目的だ。

 ゲームを中心とする業界への就職に強いHAL大阪の取り組みに協力するのは、当然そういう意図ですよね、という趣旨の、少々意地悪な筆者の問いかけに対して、後藤氏は率直に答えてくれた。損得勘定抜きの誠実な“想い”が込められた言葉である。後藤氏の言葉には、いやらしいところが微塵もなく、こちらの方が本当にそれでいいのかと心配になるくらいだ。

第6回エフェクトコンテスト(協力:エピック・ゲームズ・ジャパン/ユニティ・テクノロジーズ・ジャパン合同会社)には2大ゲームエンジンも協力する

 その言葉を裏打ちするように、6回目となる次回のゲームエフェクトコンテストでは、応募のレギュレーションが大きく様変わりする。「BISHAMON」で製作したエフェクトのみならず、他社のゲームエンジンのパーティクルエフェクトシステム、つまり「Unity」の「Shuriken」や「UE4」の「Cascade」で製作したエフェクトであっても応募可能になるのだ。製作したエフェクトの公開が、他社の著作権規定に抵触しない限り、「Unity」、「UE4」本体に含まれる機能に留まらず、その他のミドルウェア、アセット、プラグイン等を用いた作品であっても良い。一企業が主催するコンテストで、ともすれば競合する製品をも許容するというのは画期的だ。

 次回のルールについては、レギュレーションの変更に異論を唱える他の意思決定者を説得して実現したと後藤氏は言う。オーソドックスに考えれば、「BISHAMON」の販売増に直結しない施策である。そこまでやるのかと、社内で反対意見が出るのも当然だろう。

 とはいえ、まずはエフェクトを作る喜びやその魅力を知ってもらわなければ、確かに“何も始まらない”のだ。ゲームに携わるアーティストのなかで、エフェクトが“できる”と胸を張って言えるほどの技能を持った人材は、本当に少ない。筆者の知る限り、きちんとした学習や業務で担当した経験がないことから、プロであっても「できません」と口にするアーティストの方が圧倒的に多数を占める。プロを志す学生に至っては、エフェクトという担当分野が存在することすら明確に認識していないことだろう。

 ゲームのユーザー体験におけるエフェクトの重要性に比して、担い手がいないという悩ましい状況は、10年前、20年前から今に至っても、あまり変わっていないように感じる。エフェクトを取り巻く現況を何としても打破したい。これこそが後藤氏の真意であり、中長期的視野でエフェクト開発者の裾野を広げ、多くの人々を巻き込んで、ゲーム開発における“エフェクト”という領域を確立したいという信念の表れだろう。

「BISHAMON」を活用したエフェクト専門授業で成果を上げるHAL大阪

学校法人・専門学校 HAL大阪ゲーム学部ゲームデザイン学科教官の川端宏直氏

 そうした後藤氏の“想い”は、具体的な形で結実しつつある。ゲームエフェクトコンテストにおいては、前述したレギュレーションの変更に伴って、「BISHAMON」以外のエフェクトデザイナーからの参加が見込まれ、前回以上の盛り上がりが確実視される。また、オープン化したことで、エピック・ゲームズ・ジャパンやユニティ・テクノロジーズ・ジャパン合同会社からも審査員に名を連ねるといったことが実現できた。加えて、「BISHAMON」の解説書籍も出版され、学生部門においても質の高い応募作品が増えているという。

 そんな学生部門において、第4回、第5回と、2回連続で最優秀賞の受賞者を輩出しているのがHAL大阪だ。HAL大阪では、後藤氏による特別講演を実施するに留まらず、冒頭で触れた通り「BISHAMON」を採用したエフェクトの授業を正式なカリキュラムとして取り入れている。他のゲーム専門学校でもエフェクトをグラフィクスの授業の一環として取り扱うことはあるだろうが、エフェクトのみを取り扱うカリキュラムを常設する事例は、まだまだ少ないのではないだろうか。

 この先進的なカリキュラムに加えて、HAL大阪では、学習環境面でも学生をバックアップしている。150台超のワークステーションが設置された大型のマシンルームが3室あり、学生は授業実習だけでなく、自主的な創作活動にも自由に利用できる。プロとしても活躍するエフェクトに精通した教官・講師を擁しており、その指導内容も実践的だ。

【HAL大阪の教室】
実習を行える3つのマシンルーム。この他、座学用の教室にサウンドのための防音ルームやモーションキャプチャルーム、図書館などもある

 その実践性は、とりわけツール環境に「BISHAMON」を採用したことが大きい。現場で採用されている制作ツールを導入しないでエフェクトを教えようとすると、授業の内容は抽象的なものに留まってしまっていただろう。エフェクト製作ツールとしての「BISHAMON」エディタには、当然のことながらミドルウェアとしての「BISHAMON」と同等のプレビュー機能が存在するため、ゲームの実行環境が整っていなくても、ツール単体でエフェクトを視覚化することができるのだ。

 「BISHAMON」が得意とするゲーム中のオブジェクトの動作や衝突といった事象に華を添える系統のエフェクトは、3Dモデルやビルボード、パーティクルといった複数の構成要素を統合して、発生源となる動作物のアニメーションのタイミングに合わせて、エフェクト自体をアニメーションさせることで実現する。

 完成形のイメージを持ちながら、エフェクトを構成する細かい要素にひとつひとつ分解し、それぞれの要素をどういった手段で具現化するかにアタリをつけて、各要素に最適な素材を用意するには、一定の知識と経験が必要とされる。また、要素ごとに一定の完成をみても、それだけでひとつのエフェクトが完成する訳ではない。用意したすべての要素を組み合わせて、それらの色、形、位置が小気味良く変化するようにアニメーションさせるには、幾度となく試行錯誤を行なわなければならないばかりか、動作物のアニメーションとのバランスをも取らなくてはならない。

 華やかで心地よいエフェクトは、こうした工程を経て完成させるのだが、非常に短い時間軸で変化するものが多いこともあって、統合的な製作ツールがないと、具体的な完成形がイメージしにくいのだ。「BISHAMON」のエフェクト製作環境は、ツールとしてよくできており、学生であってもエフェクトを製作するプロセスが理解しやすいものになっている。ゲームクリエイター志望者が単独で、すぐさま3Dエフェクトの学習に取り組めるツール環境は、「BISHAMON」が唯一無二と言っていい。HAL大阪の「BISHAMON」導入の判断は正しい。

 これらの取り組みを積み重ねてきた結果が、2回連続でのエフェクトコンテスト最優秀賞という実績に繋がっているのだろう。今では、エフェクトに対する関心が、ゲームグラフィクスを専攻する学生全体に波及しており、今期に至ってはエフェクト専科(通常のエフェクト授業にプラスαする内容)の履修者が専攻の半数を超えるほどの人気となっている。

 2連続でのコンテスト最優秀賞の受賞は、単なる偶然や幸運ということではなく、優秀な教員、熱心な学生、ストレスのない学習環境といった条件が合致した結果の必然ということになる。コンテストは、応募者の所属校も名前も伏せた状態で審査されるため、決してHAL大阪とマッチロックとの関係が、審査に影響している訳ではない。果たして、第6回のエフェクトコンテストでもHAL大阪の学生が、最優秀賞を受賞するだろうか。関心と期待を持って見守りたい。

エフェクトコンテスト最優秀賞受賞者が語る「BISHAMON」

第5回エフェクトコンテストで2部門受賞、そして最優秀賞に輝いたHAL大阪の山本和弘さん

 「BISHAMON」のツールとしての秀逸さとHAL大阪の先見の明は、次代を担いうるエフェクトデザイナーを育て上げている。HAL大阪のゲームデザイン学科の4年生として、ゲームグラフィクスを学ぶ山本和弘さんがその人だ。

 前回、第5回のエフェクトコンテストで最優秀賞を受賞した山本さんは、4年制のHAL大阪での就学において、当初2年年までは、それほどエフェクトに関心が高いわけではなかったという。それが後藤氏の特別講演を契機にエフェクトに出会い、今ではエフェクト製作に注力する毎日を過ごしている。

 「BISHAMON」が織りなす繊細で美しいエフェクトの魅力にとりつかれた山本さんは、周囲がエフェクトに対してそれほど関心を示していないなか、エフェクトの授業以外では、プロのクリエイターの作品を熱心に研究し、自分の作品を磨く毎日を過ごしてきたという。元来、細かい作業が好きだという性格も幸いし、3年生の夏ごろから本格的にエフェクト製作に取り組むようになって、第5回エフェクトコンテストに応募。わずか半年で受賞に至ったという。しかも最優秀賞の受賞のみならず、魔法部門、テクニカル部門においても優秀賞を同時受賞したというのだから驚きだ。

 本人の資質と過去2年半のゲームグラフィックデザインの学習という素養があったとしても、わずか半年で成果を出させるというのは、「BISHAMON」とHAL大阪がいかに学習環境に最適であるかを証明している。もちろん、山本さんがエフェクト製作を面白い、楽しいと感じて、熱心に努力したことも忘れてはならない。

 後藤氏によると、山本さんの作品は、他の学生部門の応募作品と比較して、圧倒的に“要素”が多く、一目で違いがわかる手の込んだものだったという。華やかさが重視されるエフェクトにおいて、その評価軸は、ある程度情報量に比例する。60時間ほど費やして作成したという受賞作の回復魔法エフェクトには、キャラクターのモーションアニメーションに含まれる動作すべてにエフェクトが付けられているばかりか、魔法発動前にキャラクターを覆うように包む光の球体の中にも、魔法の波動がうごめく様子をイメージした細かいエフェクトが内在している。情報量の多さは、魔法発動後の余韻に至るまで抜かりなく続いており、後藤氏の評価通り、回復魔法として十分に華やかな印象を受ける。

 授業や製作の過程において、何度も繰り返される教官の言葉も忘れてはいない。“タメツメ”、つまり緩急が意識されたアニメーションのタイミングは、学生の作品としてはなかなか見られるものではないという。後藤氏によると、ほとんどの学生作品のアニメーションは、平坦で抑揚のないものばかりで、山本さんのエフェクトは、それらを大きく引き離しているとのことだった。

 とはいえ、手放しで褒められるという訳でもない。プロである筆者の視点から見て、個々の要素の立ち上がりと終息以外で輝度や色味の変化に乏しいこと、加算に頼ってしまっているためエフェクトの情報量が増えるピーク部分では、相応に白い部分が増えてしまい色が減ってしまっていること、キャラクターの動作から若干遅れてエフェクトの放出が始まっていることといった部分に課題が見られる。ただし、これらの課題は、山本さん自身も思い当たるところがあるようで、熱意を持って取り組んでいる限り、今後の経験の過程でクリアできるだろう。

 すでにエフェクト専門職としてカプコンに就職することが内定しているという山本さんは、入社後は「戦国BASARA」シリーズのエフェクトを担当したいとのこと。また、パーティクルやビルボード主体のものだけでなく、流体などのシミュレーションを含んだエフェクトにも挑戦していきたいと抱負を語っていた。

 山本さんにとって、学生部門に応募できる最後のチャンスとなる第6回のエフェクトコンテストに対しては、「BISHAMON」「Unity」「UE4」のすべてのツール環境で、テクニカル部門、フリー部門と合計6作品を応募することを決意している。これほどまでにエフェクト製作に情熱を持って取り組む山本さんなら、カプコン入社後も周囲のプロに揉まれて、さらに技能を高めていくことだろう。

【第5回エフェクトコンテスト学生部門最優秀作品】
動いている状態で見ると良く分かるのだが、キャラクターを包む球体の内部にも多くの要素が詰まっている。映像はこちらで確認できる

エフェクトの未来に貢献する「BISHAMON」

 昨今、日本発のゲームが海外発のゲームに対して遅れをとっていると言われることが多くなった要因のひとつに、内製にこだわって、ごく最近までミドルウェアやゲームエンジンの活用に消極的であったことが挙げられる。これらの活用には、メリットとデメリットがあり、必ずしも内製にこだわることが悪いわけではないのだが、下回りとして上手に活用することで、人的リソースをデータに集中して一定の品質に引き上げられる期待が持てるのも事実だ。人的リソースを投下できれば、比較的担い手の多い3Dモデルやモーションなら、手の込んだものにすることもテイストの違いで差別化することもできるだろう。

 ところが、ことエフェクトにおいては、このままではそうもいかない。人がいない人がいないと日本のゲーム会社が危機感と焦燥感を募らせるなか、後藤氏は、もっと根源的な部分から積み上げていく必要があると思うに至ったのだろう。ことの本質は、人気不人気の問題に起因する需要と供給のバランスの悪さによるものだから、おそらくこの状況は一朝一夕にクリアされる問題ではないが、かといって何もしないわけにはいかない。

 マッチロックは「BISHAMON」そのものと、そして6回目にしてオープン化したエフェクトコンテストを通じて、ゲーム業界全体にエフェクトを担う次代の人材を育成しようとしている。一方で、学生や異業種でデザイン関係の職に就く者、ゲームでエフェクトを主業務としない者にとっても、この状況はチャンスでもある。エフェクトコンテストで評価されたとなれば、層が薄いゲームエフェクト開発の第一線で活躍するチャンスが得られる可能性があるからだ。マッチロックの取り組みは、ようやく実を結び始めていると言える。今後もこの傾向が持続することを期待したい。