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「龍が如く6 命の詩。」で刷新! 新生「神室町」の制作過程

地面、看板、さらにシームレスの屋内。看板のライト数が勝負所!

8月24日~26日 開催

会場:パシフィコ横浜

セガゲームス コンシューマー・オンラインカンパニー コンシューマーコンテンツ事業部 第1CSスタジオ デザイナー 濱津英二氏

 8月24日~8月26日の期間で、パシフィコ横浜で開催されている「CEDEC2016」。この中のセッションでセガゲームスの最新作となる「龍が如く6 命の詩。」に関連して、「龍が如く6における次世代神室町の作り方」という講演が開催された。

 セッションにはセガゲームス コンシューマー・オンラインカンパニー コンシューマーコンテンツ事業部 第1CSスタジオのデザイナーである濱津英二氏と中井友泰氏が登壇して、PlayStation 4での神室町の作り方について講演した。

グレーカードによりホワイトバランスを合わせながらテクスチャを作成
正規の手段の方が間隔で作るよりもクオリティが向上した

 まずは濱津氏より、「龍が如く6」におけるビジュアル面での初期構想が語られた。PlayStation 4での作成に当たっては、説明不要で「変化」、「進化」が伝わるビジュアルを構築したいと考えたとのこと。しかし「『龍が如く』はここ10年くらい作り続けているが、毎年のようにリリースするので、ワークフローの刷新がしづらかった」と濱津氏。

 このため、PlayStation 4で初めて作る「龍が如く」はワークフローを刷新するのにまたとない機会ととらえ、フォトリアリスティックな見た目の追求、ネオンきらめく繁華街という「夜」をベースにすること、見た目の情報量を現実に比肩する水準にすることを目的とした。

 そしてゲーム面では、ローディングのないシームレスなゲーム空間を構築すること、リアクションするオブジェクトを増やすこと、行動範囲を拡張することが考えられた。

 「屋内と屋外をシームレスにしたいということ、バトル中に破壊可能な看板を増やすこと、今までは行けそうで行けないところがあったが、ちゃんと行けるように、プレーヤーの要求に合わせた街を作ることを初期構想とした。この初期構想は最初の1カ月くらいで決まり、以後もブレることはなかった」(濱津氏)。

 背景モデルについては、過去と大差ない分量での頂点数で作成したとのこと。またゲームプレイ中のプレーヤーの目線で見るカメラに近い、看板などのオブジェクトのみ頂点を増やすことで、粗が目立たないリアルさを追求した。

 テクスチャについては、グレーカードとカラーチャートを使用して、標準化されたテクスチャデータを作成することで対応。「グレーカードを使うことで正規化されたテクスチャを獲得できたが、これは過去データの流用ができなくなるので不安もあった。しかし実際の会議室を作って、ゲーム中の実機に出力したら写真のようなクオリティが出せた。自分の感覚により目あわせでテクスチャを作るよりも、正規の手段を使った方が正確な絵を作れるという手応えを感じたのでこちらを採用した」(濱津氏)という。色についてもカラーチェッカーパスポートを参考に基準を決め、それに準拠して作っていったという。

実際の神室町はこのような感じ
神室町を作るにあたっては、金属と非金属、金銀銅における「フレネル値」(反射率)を任意に設定して作り上げた

ワークフローが決定した段階でマニュアルを作成して統一を図った

 同社のチームは作り上げるのが速いといわれることがよくあるそうだが、それは意思決定が早いからだと濱津氏は語る。「これくらいのポリゴン数でいいのかとか、テクスチャのクオリティを上げるよりよいワークフローはあるのではと試行錯誤を繰り返さず、1回くらいの試行錯誤で決定するので、それが速度を支えているのではないかと思った」(濱津氏)。制作の見通しが立った状態でデータの外部発注をし、ワークフローを整備して開発会社に制作の打診を開始するまで半年程度でたどり着けたという。

 また、早い段階で外部発注ができたのは、作るものがはっきりとしていたから。「『龍が如く』だったら自転車を使う、車止めや駐車禁止の看板は絶対にあるでしょという。その辺がシリーズの強み。仕様が決まる以前から確実に見積もれるので、それを優先的に外部に作っていただいた」(濱津氏)。

 3DCGを作り上げるにあたって重要なのはライティングだ。「龍が如く6」ではこの基本構想として、ルクスやカンデラ、ルーメンといった実際の光の単位を利用して組み込めるようにした。「実機上に照度計を作ってもらい、テクスチャの光の強さを計るようにした。照度計も買って実際に計り、実機上のデータと比較して合っていればOKということで進めていった」(濱津氏)。

マニュアルを作成するにあたっても、外注先が迷わずに作れることを考えたという
仕様書もExcelの1枚のシートでほとんどの内容が分かることを心がけた
椅子を作った例。1番左が「Sハイモデル」で最高画質。左から3番目が「ハイモデル」といい、実際のゲーム画面で使われたクオリティ
ワイヤーフレームを外しても、ハイモデルは遜色ないクオリティと判断され、制作が進められた
照度計が組み込まれており、数値データがわかるようになっている
蛍光灯のライティングには「チューブライト」を取り入れ、線で発光するような仕組みを作り上げた

 こうして制作の体制を整えたあと、体験版へ向けての本制作に移行した。実際に作られた神室町は、「龍が如く極」と「龍が如く6」を比較すると、ずいぶんとリアルになっているのがわかる。中でも印象的なのが道路の表現だ。「デザイナーが見ているとどうしても細かい技術的な話になって、新しい技術的側面に注目してしまうので、プログラマーや企画を呼んで『どう思う?』というリサーチはした。普通の人が見てもわかる部分は強化した」と濱津氏。

 プレーヤー制御の問題から、これまでの「龍が如く」の地面は真っ平らになっていたが、そこを今回は、アスファルトは凹凸があるだろう、地面は微妙に傾斜しているだろうというのを最初の段階から設定し、プログラマーにもその環境でもキャラクターがちゃんと動作するように作ってもらったそうだ。

 また、看板など、プレーヤーの目線に近いオブジェクトについてはリソースを割くようにし、リアルに作り上げていった。「看板は作るのも大変だし、ハードのメモリも使うのだが、ここはウリとなるポイントなので、このタイミングで変えなければずっとそのままだと思い、かなり頑張って一から作り上げた」(濱津氏)。

「龍が如く極」での天下一通り
これが「龍が如く6」での天下一通り。道路や看板が寄りリアルになっているのがわかる
中でも違いがわかるのが地面の表現。こちらは「龍が如く極」
「龍が如く6」の地面。水たまりの表現に注目してほしい
地面の比較。左のメニューや看板が水に映っている様に注目してほしい
道路に傾斜があるほか、奥の大スクリーンも水に映えている
看板の比較。こちらは『龍が如く5」
こちらは「龍が如く6」。リアルさが違うのがわかる
「龍が如く極」の看板
「龍が如く6」の看板

セガゲームス コンシューマー・オンラインカンパニー コンシューマーコンテンツ事業部 第1CSスタジオ デザイナー 中井友泰氏
中央に置かれた看板の作り方をこれから順を追って解説

 ここからは中井氏にスイッチし、具体的にどのような形で制作していったのかについて語られた。

 中井氏はまず看板のライトデータとその配置方法について紹介。看板にはチューブライトが仕込まれており、太さと長さを調整できるようになっている。それに対して光の向きと角度と色を指定する。「看板が多いので、向きを決めてもう一方にまた同じライトを置くと手間的には2つの作業となるので、1個のライトで両面対応するようにした」(中井氏)。看板の外にある明滅する電球についてもチューブライトが仕込まれており、同じように両面から光が出る。

 これに加えて、実際に看板を測定したデータと比較して照度を決定して完成となるのだが、今回のプロジェクトではカンデラ、ルーメン、輝度の3つの光の値を入力できるようになっている、と中井氏。「ほかのゲームだとカンデラだけ、ルーメンだけといったものが多いと思うが、プログラマーに言って3つ入力できるようにした。理由は3つ用意することによって、調べるとすぐに答えが出ること。よくわからないから『これくらいでいいか』というデザイナー目線での状況をなくしたかった。3つあればインターネットで調べて、それを値にして入れることができる」(中井氏)。

看板の中にチューブライトを作り、そこから両面に光が出るようにした
アニメーションしている黄色の部分は、両面に光が出るようにした上で動くようにした
実際の看板を照度計で測ってデータを取得
最後にゲーム内のデータを照度計と比較して問題がなければ完成
実際に看板を配置したところ
「配置モード」が用意されており、実際のゲーム画面にぽんぽんと配置することが可能だ

天下一通りのシーンだが……
チューブライトだけでもこの数となる

 配置の作業は楽しかったと語る中井氏だが、どんどんと配置していくと、ライトの数がそれだけ増えることになってしまう。「主人公以外も含めると、当たるライトの数は常に200個以上。多いところで300を超えているくらい。それをリアルタイムに動くよう、プログラマーに頑張ってもらった。ここは『龍が如く』を作るに当たって絶対に通る道だと最初からわかっていたので、妥協せずに勝負所ということで頑張っていただいた」(中井氏)。

 また看板のテクスチャだが、これまでの感覚で作ると、赤い色はより派手にしたくなるなど彩度の高い看板を描きがちだったと中井氏。しかし制作過程を変更すると手間になってしまうので、まずはこれまでの感覚でテクスチャを作ってもらい、それにレンジ補正をかけて色を変更するようにしたそうだ。「色調補正フィルターで修正することもやってみたが、よい結果が得られなかったのでレンジ補正フィルターによる修正をした。その上で目立たせたい看板や、主張を抑えたい看板のバランス調整を行った」(中井氏)。

 なお、「龍が如く」シリーズは、多くの企業とタイアップを行なっている。こうしたデータはたいていの場合、アドビのIllustlatorやPhotoshopのデータで来ることが多いそうだが、過去作ではそのまま使っていたものの、本作では制作方法を変更しているためそのまま使うことができない。

 そこで考えられたのが、実際にプリントアウトをしてグレーカードと合わせて写真を撮り、そのRAWデータを現像して、その画像をテクスチャのベースするというもの。「データのレンジ補正でもよかったのだが、タイアップ先の画像をいじってしまうと色が違うということが起きてしまう。それを避けるため、プリントアウトを行なった」(中井氏)。

 また看板以外の床や壁、天井といったテクスチャだが、ツールや写真から制作してライブラリー化することで対応したという。取材の中では適切に素材の撮影を行なえない場合もあったそうだが、そこではこのライブラリー化した既存のテクスチャのカラーを調整し、欲しい色味の画像にしていったとした。

ライト数をデータに置き換えるとこのような状況
キャラクターのあたりは25個(表示は16進数)
レンジ補正をすることで色味の変更をかけた
元画像(上半分)とレンジ補正後の画像(下半分)。ほとんど差がわからない
看板以外のテクスチャはライブラリー化
しかし実店舗のテクスチャなどは、適した素材撮影を行なうのは難しい
これに対しては、既存のテクスチャをまず使う
それにPhotoshopの「カラーの適用」を使って色味を調整

神室町内にあるコンビニ。屋外からシームレスに移動が可能
コンビニ内部にあるものはすべて壊すことができる

 最後に、濱津氏が再び登壇。濱津氏はこれまでのプロジェクトを振り返って、ビジュアル的な側面からも、ゲーム的な側面からも、新しい制作方法を取り入れた意義は大きかったと語る。「新しい方法は基準が明確なので複数人数でも作業しやすい。3、4人で1つのステージを作るときは、それをまとめる作業が必要になるが、ルールがあるから率先してまとめようとしなくても、自然とまとまる絵ができあがる」(濱津氏)。

 ただしこの手段では、ひとつひとつ撮影する手間や、過去資産が流用できなくなるなどデメリットもあると濱津氏は語る。「我々は日本を舞台にしているので撮影はできるが、外国を舞台にしたときに取材をどうするののか悩ましくなる。そこは日本というメリットを活用させていただいた」、とした。

 また初期構想を体験版に盛り込むことで、それがユーザーに対してどの程度受け入れられるかを計れたのは大きかったとのこと。「コンビニ内部にはシームレスで入れるのだが、作り上げるのには手間もかかる。スケジュール感からしたら想定の2倍から3倍かけて作ったのだが、初期構想を具現化したものだと思っていたので、多少無理してでもやろうとなった。そこに対して反響も返ってきたので非常によかった。体験版で今回の『龍が如く』はここまでやるのだと示すことができた」(濱津氏)。

 しかしオリジナルのゲームエンジンで作り上げられている「龍が如く6」では、次世代技術への移行は大変だったと濱津氏。「最初はないものだらけだったので、あれが欲しい、これが欲しいと作り上げていった。しかしオリジナルの利点は、リクエストをプログラマーに直接出せること。プログラマーと二人三脚で作り上げられたのはよかった」(濱津氏)。

 また、次世代技術を使うと、あれもこれもできると思ってしまって、それに振り回されがちだが、それがなかったのは締め切りも決まっており、目標も明確だったからという。体験版をプレイすることで「龍が如く6」のコンセプトが理解できるようになっているので、「龍が如く 極」の封入特典ではあるものの、発売前にチェックしてみてはいかがだろうか。

壊したものを取り除くとこのような形
最後にはすべて取り払うことも可能だ
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