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有力クリエイター集結「PlayStation VR がつくりだすVRの未来」

SIEWWS吉田氏とともに、VRの将来像とPSVRの未来を語る

8月24日~26日 開催

会場:パシフィコ横浜

セッション会場の模様

 8月24日に開幕したゲーム開発者のための大型カンファレンスCEDEC 2016では、「VR NOW!」と題してVR関連セッションが全32個も実施され、“VR元年”とされる今年のゲーム業界を象徴している。その中で、10月13日の発売が待望されるPlayStation 4用VRシステム、PlayStation VRの発売を前にしたソニー・インタラクティブエンタテインメント(以下SIE)は、初日に4つのPSVR関連セッションを開催し、発売に向けて業界を牽引する姿勢を示している。

 その冒頭で行なわれたセッション「PlayStation VR がつくりだす VR の未来」では、SIEワールドワイド・スタジオのプレジデント吉田修平氏をモデレーターに、VRコンテンツ開発に取り組むトップクリエイターが集まり、VRゲームおよびPSVRの未来を語るディスカッションが行なわれた。

 サードパーティ代表としては、バンダイナムコエンターテインメントのゼネラルマネージャー/チーフプロデューサーを務める原田勝弘氏に加え、グリー取締役執行役員の荒木英士氏、コロプラの仮想現実チームマネージャーの小林傑氏という顔ぶれ。コンシューマーゲームの老舗だけでなく、これまでモバイルやソーシャルゲームで活躍してきた企業も、ともにPSVRの未来を語るというのは興味深い組み合わせと言える。

 この顔ぶれに加えて、ユニティ・テクノロジーズ・ジャパンの日本担当部長を務める大前広樹氏と、エピック・ゲームズ・ジャパンの代表、河崎高之も壇上に列した。たくさんのゲームクリエイターを“顧客”として抱えるゲームエンジン企業の視点から見るVRの将来像はどういうものだろうか、クリエイター視点とは違った角度からの知見が期待される。

モデレーターを務めたSIEWWSの吉田修平氏
ゲームデベロッパー、エンジン企業から集まった5名のパネリスト

クリエイターそれぞれの立場で語る、VRコンテンツの知見・発見

まずはPSVRの紹介。10月13日発売だ
原田氏の手がけた「サマーレッスン」

 SIE吉田氏は冒頭、PSVRの人気加熱による予約困難な現状について、「予約できないじゃないか、と(バンダイナムコの)原田さんにも怒られています。皆さんの期待に答えられるよう、がんばって生産を進めていきます」と謝した。その上で、コンシューマー向けVRシステムとしての扱いやすさ、簡単さ、120fpsのOLEDディスプレイを搭載する高性能さ、PS4基準ならではの整合性や統一性といった、PSVRならではの美点をアピールすることも忘れていない。

 その吉田氏がお題を提示する形で進んだディスカッションでは、「VR技術で成し遂げたかったこと」、「開発で苦労したこと、わかったこと」、「VR技術をうまく使えたと自慢できること」、「次のVRタイトルでやってみたいこと」といったテーマが提示され、集まった各クリエイターそれぞれの視点から、やはりそれぞれにユニークな見解が披露された。

 「VR技術で成し遂げたかったこと」について、やはり大きな手応えを感じたというのが、当初は「鉄拳」プロジェクト内の部活動的な形で「サマーレッスン」を手がけた原田氏。原田氏は2011年ごろから、ソニーのHMZシリーズのHMD等を使ってVR的な研究をしてきたというが、当初から課題として持っていたのは、どうすればキャラクターを魅力的に見せられるかということ。

 RPGジャンルなら数十時間のプレイと長大なストーリーで時間をかけてプレーヤーを泣かせることもできるが、格闘ゲームでのキャラクターは対戦ツール以上の存在に感じさせることが難しいというのが、この問題意識の出発点。そこで最初は格闘ゲームのキャラクターをVRに表示させてみたものの、「怖いだけで無理だった」ということで、「サマーレッスン」の企画をチーム内の若手スタッフと共に進めることになったという。その結果は、一昨年より各所で話題になり、報じられてきた通りだ。

コロプラでは、モバイルの枠を飛び出し、PC用VRシステム向けに多数のタイトルをリリースしている

 モバイルゲーム大手として早くからVR市場に参入し、Oculus RiftやHTC Vive向けに複数のコンテンツを既に販売しているコロプラの小林氏は、「モバイルゲームの世界に入りたいというのがスタート。しかし進めていくうちに、モバイルゲームをVR化しただけでは没入感が足りないので、VR向けのオリジナルコンテンツをきちんと作っていかなければならないと思った」と、動機と問題意識を語った。

 小林氏は、他の会社がVRへの参入に予算執行等の面から二の足を踏む中、コロプラの社長である馬場功淳氏がVRに非常に乗り気であり、早くから全社を挙げてVRに取り組めている環境の良さも語っている。これは業界的に近い位置にあるグリーでも共通した特性で、ソーシャル・モバイルゲーム大手が一般的に言ってVRに積極的である、という傾向の好例だろう。VR研究開発の当初は味方を作るのが大変だったという原田氏の労苦に比べると、ほとんど完全な対照をなしているのが面白い。

グリーではVR専門スタジオを立ち上げ、Rift向けデモ「サラと毒蛇の王冠」を皮切りに、モバイル向けの「Tomb of Golems」といったVR冒険ゲームをリリース

 ソーシャルゲームの開発運営がベースにあるグリーの荒木氏は、また違った視点からVRの鉱脈を掘り進めようとしている。荒木氏は、「弊社はもともとSNSを作ってきた会社で、現実世界をゲームにしたいというアプローチが基本」だという。アバターや、ペット、釣りといった、現実でやりたいけれども面倒でできないことを、技術の力で手軽なデジタルエンターテインメントに落としこむという方向だ。

 アプリの形はそれぞれに違っても、その背骨にあるのは「コミュニケーション」だと荒木氏。グリーVRスタジオの母体となるチームの発足にあたり制作され、昨年の東京ゲームショウで披露された「サラと毒蛇の王冠」も、2人のプレーヤーが横に並び、互いに行動がわかる、アイコンタクトができるというコミュニーケーション要素が軸にあることを紹介した上で、今後もマルチプレイのゲームに取り組み、そのソーシャル性、コミュニケーション性をいかにVRで高めていくかということを取り組みの中心軸として挙げた。

体感型筐体を駆使した「VR ZONE Project i Can」のコンテンツ「アーガイルシフト」
コロプラが8月15日にリリースしたHTC Vive用「Dig 4 Destruciton」

 それぞれの取り組みは、やはりそれぞれに興味深い達成や発見を得ている。

 アーケードの体感筐体でも圧倒的なノウハウを持つバンダイナムコでは、原田氏がコンテンツ監修に加わる中で「VR ZONE Project i Can」とするVR実験施設をお台場で4月より運営しているが、そこで使われている筐体の駆動システムは、VR内で激しくカメラを動かしてもプレーヤーが酔ってしまうことがない、という効果を生み出している。

 また原田氏は、「サマーレッスンは仮説を証明することができてとてもよかった」とプロジェクトを振り返っている。学生時代は自身が心理学、ディレクターの玉置絢氏が哲学を専攻していたということで、学生時代にやっていたことがここにきて初めて学問として役に立った、とも言う。そういった、直接にはゲームに結びつきにくかった知見が、直接プレーヤーに訴えるVRコンテンツでは効果を大いに発揮した、という点は、今後のVRコンテンツ制作においても大事なマイルストーンになりそうだ。

 コロプラでは8月15日にHTC Vive用のマルチプレイVRアクションシューター「Dig 4 Destruction」をSteamでリリースし高い評価を受けているが、小林氏は、そのゲームの中身に加えて、マッチングロビーに導入したコミュニケーション機能にこれまでにない面白さを見出している。これは空間内にプレーヤーの顔と手が表示され、HMDとViveコントローラーを使った身振り手振りをやりとりできるという簡易なものだが、そこに物理オブジェクトのボールを置いておくだけで、いろんな遊びが始まってしまうという。そこにVRの素晴らしさを感じた、と小林氏。

 こういった、プレーヤー自身の肉体性がゲーム空間の中にまるまる入り込むことによる特性、というのはVRが作り出す大きな遊びの可能性を示すものだ。グリーの荒木氏も、「カードゲームを作ったら、相手の手札を覗き込むことができるといったところで、新たなコミュニケーションが生まれる」と、これまでのゲームでは作り出せなかった、自由度の高いVRだからこその発見に心を踊らせている。空間内で自由に動けることで相手の手札を見れてしまう、ということを敢えてシステム的に禁止せず許容することで、記述されたルール以上の遊びを生み出すというわけだ。

小粒でも多くのタイトルを。たくさんの可能性を試すべし

Unityでは、SIEと共に「Made with Unity Contest with PlayStation VR」と題するUnity製VR作品のコンテスト応募を受付中だ
Unreal Engineは、VRにおいても大手デベロッパーによる大作系タイトルで多く採用されている

 最後のお題として取り上げられた「VRタイトル開発者へのアドバイス」も、それぞれの視点から、それぞれに違ったコメントが語られている。

 最も広く使われているゲームエンジン、Unityの国内展開を進めている大前氏は、「ワンテーマにしぼり、小粒でも数を作ることが大事」と語る。その理由は、VRの進化が極めて早い中で、複数の要素を入れた大作となると、開発そのものが長期にわたってしまうこと。であれば、その間に複数タイトルを展開し、様々なアイディアを試すのが良いということになる。VRにはまだ試されていないアイディア、やれば世界初となる要素も数多く、数を踏まえることでたくさんの可能性にくさびを入れることができるというわけだ。

 その意見に賛同するのが、コロプラ小林氏やグリー荒木氏といったソーシャル・モバイルゲームのベテランたちだ。小林氏は実際に、小回りの効く少人数チームで開発サイクルを回しているといい、それをもってどのゲームジャンルがVRと親和性が高いか、ということを追求しているとのことだ。グリー荒木氏はこれをユーザー視点で補足している。VR自体がユーザーにとって目新しい現状では、例えばゲームルールをスタンダードなものに留めるなど、VRの良さを活かしつつもコンセプトをシンプルに絞って制作することが大事だと語った。

 これらの意見を受けて、VRのその先の展開に警鐘を鳴らしたのがエピック・ゲームズ・ジャパンの河崎氏だ。VRは目新しいだけに、初めての人はVRというだけで満足してしまうし、多くのメーカーがそれに乗ってたくさんのコンテンツを出しているが、やがて皆がVRに慣れてきた時に「アタリショックならぬVRショックみたいなことが起こらないか心配」だと川崎氏。これはTVゲーム、モバイルゲームなど、これまでのいろいろなゲームメディアが通ってきた道だが、「一度踊り場に差し掛かってから、そこから新しい成長の段階が来る。一周目が終わった後に次のVRのステップが開けていく」と、早めに“次の段階”を考えていくことの重要性を語った。コケたら痛手の大きい、大作ゲームでの採用例の多いUnreal Engineを展開する立場からの、とてもらしい意見だ。

 ゲームクリエイター、ゲームエンジン企業からの様々な知見、意見、アドバイスが飛び交った本セッションの内容は、VR業界的には一般化した議論も多かったが、今後VRコンテンツ開発に取り組んでいく多くのクリエイターにとって、参考にできる要素ばかりであるということも間違いのないところだ。セッション内容としては、PSVRに限定した話題があまり出なかったところが気になった。VRというメディアの可能性を、PSVRという1つのプラットフォームに限って語るには、まだまだ可能性が広がりすぎているということを象徴しているのかもしれない。