【特別企画】

2021年にX68000向けフロッピー版「イース I&II」が何故発売されるのか?

驚きのあまりBEEP開発陣に突撃メールインタビューを敢行

3月9日 発売予定

価格:8,800円(税別)

 三月うさぎの森のゲーム販売部門「BEEP」より発表され、本日1月8日0時より予約受付が開始となるパーソナルワークステーションX68000向け新作タイトル「イースI&II ~Lost ancient kingdom~」。これは、1987年にNECのパソコンPC-8801mkIISR向けに発売された「イース」と、同じく1988年にリリースされた「イースII」をセットにして、1987年に新機種として登場したシャープのパーソナルワークステーションX68000シリーズへと移植したソフトとなっている。

 驚くべき事に、発売に際して採用されたメディアは、今となっては新品を探し出すのが難しいフロッピーディスク(5インチ/3.5インチ2HD・2枚組)だ。しかもソフトがリリースされる機種は、今やマスクの抽選倍率が100倍を突破したことで有名な、あのシャープが昭和の時代に産み出した名機X68000とのこと。

 最近では、20世紀にデビューしたゲーム機向けのソフトが発売されるのは珍しくないが、1980年代に誕生したパソコンでしか遊べないゲームが現代に販売されるなんて話は思わず耳を疑ってしまう。それも、今現在において新作が登場し続けている「イース」シリーズ、その始まりとなるPC-8801mkIISR版とくれば、なおさらだ。これには、たいていのことでは驚かないオールドPC界隈も大いにざわついたほどだといえば、その事の大きさがわかるかもしれない。ある意味、“令和最大のパソコンゲーム事件”と言えるだろう。そこで、当時プレイしていた身としても今回の取り組みについて問いただすべく、開発陣にメールインタビューを敢行した。

 とはいえ、あまりにも現代の西暦からかけ離れた数字が並んでいることに違和感を覚えたり、聞いたことのないパソコンの名前に首をかしげる人の方が多いかもしれない。また、「イース」シリーズについても「3Dフィールドを駆け回り剣を振って敵を倒す作品でしょ?」という認識の人が大半だろう。

 そこでこの記事では、今回移植された「イース」「イースII」のオリジナルパソコン版についてと、それらの作品を説明するにあたり欠かすことのできない、当時のパソコン事情などを解説しよう。

3月9日に発売を迎えるX68000向けの新作タイトル「イースI&II ~Lost ancient kingdom~」

「イース」シリーズが発売された当時のパソコン事情とは?

 まずは簡単に、1980年代のパソコンの歴史を振り返ってみよう。1980年代前半は、パソコンが徐々に個人にも広まっていった時期だが、その頃を代表する、いわゆる8ビットパソコン(今のパソコンは32ビットや64ビット)の大まかなスペックと言えば、内蔵メモリは64Kbytes(64GBのメモリを搭載している現在のPCと比べると、約1/1,000,000!)、画面解像度は640×200ドットでカラーは8色(黒、青、赤、紫、緑、水色、黄色、白)表示のみ、音楽を鳴らす環境としてはPSG音源と呼ばれるものが利用され、価格はおおむね10~20万円といったところだった。ビジネスソフトであれゲームタイトルであれ、プログラムを動かすための主な手段としては、カセットテープからロードする方法が一般的だったといえる。

 1985年近くになると、プログラムを保存しておく媒体の主流が、それまでのカセットテープからフロッピーディスク(FD)へと移り、FDを扱えるフロッピーディスクドライブ(FDD)を装備した機種も次々と登場した。大雑把に説明するなら、FDは円形をしており、パソコンからその円内を自由にアクセスし、データを読み書きすることができるようになっている。従来使われていたカセットテープと比べると、読み書きの速度や柔軟性は比較にならないほど向上した。

 そんなFDDを搭載したうちの1機種が、NECが1985年1月1日に発表したハード・PC-8801mkIISRだ。メインメモリ64Kbytes、画面解像度640×200といった部分は従来機種と変わらないものの、カラーを512色中8色から選ぶことができたほか、最上位モデルはFDDを2基内蔵。さらに、FM音源を搭載したことがオーディオ面での大きなパワーアップポイントとなった。こうして、従来の8ビットパソコンにはなかった表現力を得たことでPC-8801mkIISRは以降3年間ほど覇権を握り、有名タイトルが最初に発売されることも多くなる。「イース」も、そのうちの1タイトルだった。

当時はNEC、富士通、シャープがパソコン御三家と呼ばれていたが、PC-8801mkIISRの発売をきっかけとして、その勢力図も大きく変わっていった。写真は、PC-8801mkIISRの最上位モデルとなるmodel 30