インタビュー

「FFXIV」プロデューサー吉田直樹氏「パッチ3.2」ロングインタビュー

「機工城アレキサンダー:律動編」はボスもプレーヤーも動きまくり

「3.2」で竜詩戦争はクライマックスへと突入していく

パッチ3.2のイメージイラスト
新コスチュームのミンフィリア、どういう状況なのかは遊んでのお楽しみ

――次にメインストーリーについてです。「2.0」シリーズでは、パッチ2.2あたりから「3.0」に向けたストーリーが動き始めましたが、今回の「パッチ3.2 運命の歯車」は、「3.0」シリーズの中ではどういった位置づけのパッチになりますか?

吉田氏: もともと「2.X」シリーズも2.3が山で、2.3のラストあたりから「蒼天のイシュガルド」側のキャラクターが出始めていました。イゼルも蒼天編でメインキャラクターにするために、早く登場させたりしていたので、そういう意味だと「3.2」は蒼天編のクライマックスにはかなり近いです。蒼天編はここからクライマックスに向かってという状態にはなっています。次なる拡張パッケージである「4.0」の開発も進んでいますので、そこに繋げることも「3.X」シリーズの後半の役目ではあります。

――クライマックスを迎えつつ、「4.0」の伏線も織り込みつつという感じですか?

吉田氏: 前回の反省として、1つの話が片付く前に新キャラを出しすぎて全体的な印象が薄くなったと個人的には思っているので、今回は蒼天編の大きな区切りがつくまでは、極力新キャラは出しません。まずは竜詩戦争がきれいに片付くまでやってからになると思います。ちらっとだけ影は出していますが。

――そして今回、ついにミンフィリアが復活しますが、現時点で何か言及できることはありますか?

吉田氏: ないです(笑)。暁の血盟のメインキャラをパッチロゴのアートに組み込むのは今回が初めてです。世界設定周りが好きな方はパッチまでいろいろと議論しながら待っていただけるといいのかなと思っています。

――新しい衣装については?

吉田氏: デザインは二転三転しました。

――イメージしたものはありますか?

吉田氏: ちょっと巫女的に……という話はしました。

――それは今回、そして今後のミンフィリアのポジション的な意味合いも含んでいるということですか?

吉田氏: そうですね。そうなればいいのですが(笑)。

――「蒼天編」はすでに山場を迎えつつあるということですが、パッチ「3.X」シリーズはどこまで刻むのですか? 「2.X」シリーズのように「3.5」までなのか、それとももっと長くなるのですか?

吉田氏: それはまだ明言は避けます。でも「蒼天のイシュガルド」のよかったところは、キチンとRPG1本分のストーリーが遊べたボリュームだったと思うのです。少なくとも「4.0」でもそこは守りたいと思っています。ただ、それなりのボリュームを作るためには、パッチでのアップデートと並行しながら、ある程度の開発期間が必要にはなります。ですので、「2.X」シリーズより短くなることはないかな、と思います。

――前々回のPLLの時に、「3.0」から「パッチ3.1」にかけてゲームバランスの調整ミスについて謝罪をしましたよね。今までいろいろなMMORPGで、開発側によるバランス調整のミスだったり、バランスを壊すような新要素の追加で一気にゲームバランスが崩壊して衰退に向かうということがありました。それをリアルタイムで謝罪し、軌道修正するというのが、過去のMMOと「FFXIV」の一番大きな違いだと思いました。ミスを認めて謝るというのは、言うのは簡単ですけれど、行為としてすごく難しいと思います。今までいろいろなMMORPGがそれを出来ず、失敗してきました。吉田さんのチームと彼らのチームは何が違うんでしょう?

吉田氏: うーん。それはすごく難しい質問ですが、自分たちもプレイしているからという気がしています。僕たちもプレーヤーなので、開発チームや運営チームで議論が始まると、プレーヤー同士の議論になるのです。

――開発チーム内のディスカッションが、いつしかプレーヤー同士の意見になるのですか?

吉田氏: うちのプロジェクトは……少なくともスクウェア・エニックスの第5ビジネス・ディビジョン全体がそうなのですが、肯定したものは全員がイエスだという考え方で進めています。だから普段から意見を言うし、納得がいかないなら「納得がいかない」と発言するようにしてもらっています。全員がそう、というのは理想論ですが、少なくとも開発コアや開発の中核にいる人は、ほとんどがそういうタイプの人間で固まっています。論理的に、もしくは理性的に考えて「こうだ」という結論を作ってから進むので、最後のジャッジに対して「これでいこう」と言った後は、それが自分の好き嫌いとは違っていたとしても、納得して開発に当たります。あとで結果論的に、実はミスだったという事態になったとしても「だから俺はあの時こうだと思ったんだ」というセリフを誰も基本言わないのです。「それならその時に言えよ」という話になるので。

――なるほど。今回の場合はどうだったのですか?

吉田氏: たとえば「アレキサンダー零式:起動編」の3層、4層の難易度に対して、なぜメインの報酬となる武器のアイテムレベルを215にしなかったのかというお話も、当初は「2.Xに比べ、アイテムレベルの幅を広げたぶんだけ、いろいろな武器や防具の取得ルートがある。高難易度レイドにだけ差を付けなくても、“取得できるまでの時間”に差があれば、アイテムレベルの差は付けない方が、むしろ“レイド偏重”にならないだろう」と話し合って決めました。しかし、実際にはクリアが難しく、「起動編 零式」の武器所有者が増えませんでした。

 僕たちもプライベートキャラでプレイしているので、公開ワールドで実際に行なわれている会話や、PT募集、空気感、固定パーティではなく野良パーティに参加しての状況など、想定とのズレを体感して「難易度と武器のヒエラルキーを間違えた」、零式クリア者のモチベーション維持のために、結果「その他のコンテンツが窮屈になってしまった」と体感しました。ゲームバランスを取り直さないと、自分たちも遊んでいて辛くなる、と感じたのです。絶対に軌道修正が必要だ、と。

――実感としてあったわけですね。

吉田氏: 僕は昔からMMORPGは“次に期待して今を遊ぶゲーム”だと思っています。今もしバランスが崩れているのであれば、次に期待してもらうためにはそのズレを直さなくてはならない。直したうえで、また新しいことをやっていきますというのが次への期待感につながります。ですので、「現状がこうなっていると認識して、次のコンテンツのために、ゲームバランスも修正しないと他が歪んでしまうので、しっかり直します」というご報告をさせていただきました。また、そのズレた状態でプレイをしていただくことになってしまったので、「申し訳ありません、しっかり直します!」というご報告のつもりでした。

「機工城アレキサンダー:律動編」はボスもプレーヤーも動きまくり

――次は、「機工城アレキサンダー:律動編」ですが、トレーラーでアレキサンダーの反対側の腕が出てきましたが、あそこから入るのですか?

吉田氏: そうです。前回の起動編は右腕から入って、右腕から入れる最深部まで到達していたのですが、今回は左腕側から入って、そこからいける最深部まで到達するという感じです。

――これからどんどん水の中から出てくるのですか?

吉田氏: そうですね。次のレイドが実装された際、どこから入るかも決めています。そのあたりも想像していただくのも良いかもしれません。今回でストーリーも結構核心部分に入っていって、各キャラクターの名前の意味などが明らかになります。ファンタジー好き、SF好きの方にはピンとくるネタにはなっていると思います。

――今回はどのくらいの難易度になっているのですか?

吉田氏:PLLでもお話しした通り、DPSチェックに関しては「起動編 零式」に比べると「律動編 零式」は低くしてあります。クリアのために要求される総ダメージ量は、比較するとかなり楽になっています。ただ、ギミック的には相当派手になっています。

――ギミックが相当派手というと、イメージ的には「大迷宮バハムート:侵攻編」ですか?

吉田氏: 確かに「侵攻編」に近いかもしれないです。「起動編」でもう1つ評判が悪かったのが、敵が動かないことが結構多くて、その動かない敵を相手にひたすらDSPを積み続けるというところがけっこうストレスだったと思っているので、今回かなり敵が動きます。敵も動くし、プレーヤーも動かされるのでアトラクション性がすごく高い。まずはノーマルをプレイしていただけると、全然違うという感じが分かると思います。ノーマルは1層からゲラゲラ笑いながらやれる感じになっていると思います。

――トレーラーに映っている戦闘シーンは「零式」なんですか?

吉田氏: あれはノーマルです。「零式」専用のギミックは1つも映っていないので、「零式」クリアのヒントにはならないと思います。

――岩がゴロゴロ転がっていたりしましたね。あれが動かされるギミックということですか?

反対側の手も水中から出てきた
ボスやプレーヤーの周りを巨大な岩が回り続けるステージ

吉田氏: そうです。あれはあるフェーズ以降マップの中をずっとと転がり続けています。しかも途中で増えたりするので、結構ワーワーしながらやれるのではないかと思います。

――BGMは前回と同じものなのですか?

吉田氏: 4層は新しいBGMです。トレーラーで一瞬イントロが流れています。

――あの合体している敵が4層のボスなのですか?

吉田氏: 4層ではありますが、どのタイミングでそうなるかは、公開後のお楽しみになっています。演出も凝っていて、光の戦士も最初ボスを見て「えー、また脚なの?」という表情をしたりもします。このあたりもメタ的にオンラインゲームを開発していて面白いところかなと思うので、細かい点も見ていただけると嬉しいです。ミンフィリアの呼び出しの話だったり、コミュニティの皆さんの反応を取り込みつつ、シナリオのちょっとした小ネタに使うと言った感じです。

――ポップな感じで楽しそうですね。「大迷宮バハムート」の時には第七霊災がらみの話ですごく重いストーリーでしたが、「機工城アレキサンダー」はどちらかというと軽いノリの話になっていくのですか?

吉田氏: 今回ストーリーの中核に入っていくタイミングで、SFに近いです。ゴブリンたちは真剣なつもりなのですが……。人間から見ると、ちょっと笑えるシチュエーションがあるというのが、今回のポイントです。でも面白いもので「大迷宮バハムート」の時も“邂逅編”はほとんどストーリー展開がなく始まり、“真成編”では「ストーリーに金掛けすぎだ!」とか色々言われましたが、終わってみると今度は「ああいうのがよかった」というお声も頂戴しています。この辺りはイメージの違うレイドを2回作りましたので、次に新しいレイドを作る時にまたしっかり考えていきたいです。「アレキサンダー」はラストまでの流れはもう決まっているので、その転換期に当たる律動編をまずお楽しみ下さい。でも今回のシナリオで、また少し評価が変わるのではないかと思っているところもあります。

――前回はまだまださわりという感じでしたね。

吉田氏: そうですね。あれでも「大迷宮バハムート:邂逅編」に比べるとストーリーがある方なのですが、なかなか難しいです(笑)。

「魔神セフィロト討滅戦」では祖堅氏がBGMの順番で悩みまくる

「極セフィロト討滅戦」では、プレーヤーがステージから一掃されるような強烈な攻撃があるかも、と吉田氏

――「魔神セフィロト討滅戦」は、メインストーリーとは独立した話ということですが、もう1つ新しいサブストーリーが始まるということなのですか?

吉田氏: 確かに受諾条件はメインストーリーから切り離してはいるのですが、世界の大事ではあるので、メインストーリーのキャラも結構でてきています。早く極蛮神戦をクリアしてアイテムを取りたいという人たちは、これまでメインストーリーを読み飛ばしていたので、それはしなくてもいいですよという意図があるだけです。話としてはこれまでの蛮神と変わらない重さだと思っていただければよくて、いよいよアジス・ラーに縛り付けられていた三闘神というものが動き出して、何とかしなければならないという形になると思います。

――今回も落ちるステージですね……。

吉田氏: ストーリー上で戦う「真」の方はそれほど難しくはしないです。落ちる要素はありますが、ノックバック距離は短くしてありますので、よほど端で戦わない限りは落ちたりしないと思います。その代わり「極」は一掃されたりする可能性がありますが……。

――「極ナイツ・オブ・ラウンド」は「零式」2層と3層の間くらいの難易度でしたが、今回はどのくらいになるのですか?

吉田氏: 「極ナイツ」はレイドのつもりで作っているところがあるので、それよりもいつもの「極」のイメージです。極蛮神戦は後半のパターンが途中からループするという概念になっていますが、「極ナイツ」にはループの概念がなく最初から最後までずっとフェーズが変わり続けて最終フェーズまでに倒しきれなければワイプという構成です。今回はいつもの極蛮神の作りなので、究極履行後はある程度の流れがあればそれをループするようにしています。「極タイタン」に近いと思います。総ダメージのチェックは比較的緩いので、ギミックでワーワーしていただくものになっています。

――「極セフィロト討滅戦」でドロップする武器のアイテムレベルはどのくらいになるのですか?

吉田氏: 零式最速攻略を目指す人たちは、絶対に取りに行くのではないでしょうか。

――今回BGMが「FFVI」の「死闘」でとても燃えますね。

吉田氏: 「三闘神」といえばBGMは“死闘”というのは、最初から決まっていたのです。ただ、究極履行技を使った後に流すべきなのか、コンテンツスタート時から“死闘”を流し、究極履行技後をオリジナル曲にするのかということを、祖堅がすごく悩んでいて。僕は後者がイメージでした。

 今はシナリオ班とサウンド班の間で最初に曲のディスカッションをして、悩んだりこれでいこうと思うというものが上がってきたら僕がチェックをするという体制にしているのですが、シナリオ班からは、「吉田さんの意図もあって後者でいこうと思っているが、祖堅さんは前者がいいと言っているので一度話してください」と言われて、喫煙所で会った時に話しました。

 僕が祖堅に意図を伝えて、あくまで「FFVI」の三闘神オマージュは前半までだろうと。後半は「FFXIV」ならではの三闘神にしているわけで、前半で懐かしんでもらって、かつその先には進化したものを見せるというのが、「FF」シリーズとして数字が進んだ意味なのではないかと。「VI」から「XIV」になっているのだから、そうすべきではないか、と。また、三闘神シリーズと言っている以上、これからも三闘神との戦いは続くので、毎回究極履行技を使った後に同じ曲なのはどうなのと。でも祖堅は「吉田さん違うんですよ、あの曲だけはそうじゃないんだ。“死闘”は特別なんです」という主張でした。

――祖堅さんなりのこだわりがあるわけですね。

吉田氏: 「あのBGMは『FFVI』ファンの心に刺さっているものだから、究極履行した後にお約束のようにあれが流れるものだと思っている」と。それを聞いて、僕も「なるほど」と思ったのです。この手のオマージュには正解がなく、あるのは開発者としての意思だと思っているので、「『FFXIV』のサウンドディレクターが、そこまでこだわってそうしたいなら、それでいこう!」という話をしたのです。ところがその4日か5日後くらいに夜中に祖堅が僕の部屋にきて、「ほんとすいませんでした! 直樹さんの言う通りでした、やめます!」って(笑)。

――いきなり豹変ですね。

吉田氏: 「FFXIV」の場合、BGMを完成させればそれで作業終了ではなく、祖堅やサウンドチームは、それを実際のゲームシーンに「貼り付け」と「調整」を行ないます。当初、祖堅は彼の方針に従って曲を貼り付け、バトルのフェーズ移行に合わせて調整したそうです。しかし、祖堅いわく「究極履行後のバトル後半がすごすぎて、これは違っていた。やはり前半が『FFVI』オマージュの三闘神で、後半は『FFXIV』ならではのセフィロトだった!」と。僕が「わかったよ、祖堅の判断で思い切って仕上げてね」と伝えると、祖堅は部屋を出て行くときに「このチームおかしいですよ、あんなぶっ飛んだバトル、普通パッチとかで作らないです(笑)」と言っていました(笑)。そんなこともあって、今回は祖堅が右に行ったり、左に行ったりしながら頑張ってくれました。だから始まったら即“死闘”が流れるので、それでテンションを上げていただいて、究極履行後のバトルを存分にお楽しみ下さい。

――今後の三闘神はこれからのパッチで順番に出てくるのですか?

吉田氏: うーん、今は理由があってナイショにしておきます。

――もしかして、長い付き合いになるのですか?

吉田氏: 少なくとも3.Xシリーズではちゃんと決着をつけるようにします。次がどうなるかはまだ秘密です。

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(中村聖司/石井聡)