インタビュー
「エースコンバット インフィニティ」河野一聡氏&小林啓樹氏ミニインタビュー
(2014/3/4 14:50)
3月1日、プレイステーション 3向けオンライン専用タイトル「エースコンバット インフィニティ」のサービスリリースに先駆け、同作の製作秘話などをプロデューサーである河野一聡氏が講演する「エースコンバット インフィニティ」特別講演~Aces at Operation: “Digital Hollywood”~が開催された。
この講演終了後に、河野プロデューサーと、同講演ですばらしい楽曲のライブを行なったサウンド担当の小林啓樹氏に短時間ながらお話をお伺いする機会を得られたので、その模様をお伝えしていこう。
プロデューサー・河野一聡氏編
【河野一聡氏】
1994年入社。プレイステーション「スマッシュコート」でデザイナーデビューし、「R4 -RIDGE RACER TYPE 4-」のアートディレクター、「エースコンバット」シリーズのアートディレクター、ディレクターに携わる。現、「エースコンバット インフィニティ」(ACE COMBAT INFINITY)のプロデューサー兼シリーズのブランドマネージャーを務める。
――講演お疲れ様でした。
河野氏:前日に締め切ってみたら、学生さんよりも一般のお客さんが圧倒的に多いということで、ほぼ「エースコンバット」のファンの方に来ていただいたみたいで……。
――今回、こうした形でデジタルハリウッドさんの卒業制作発表会に河野さんが登壇すると聞いて、個人的に思い出したのは、「ACE COMBAT 5」の前に、「TIGRAF」(東京国際CG映像祭)で河野さんが講演して、初めて「PROJECT ACES」を公にしたときのこと(2002年)なんですね。
河野氏:よく覚えてますねー。あの後「何を勝手に『ACE5』を作ってるなんて言ってんだ!」って超怒られましたよ(笑)。
――そうだったんですね(汗)。「エースコンバット インフィニティ」に関して情報を公開するって、今ならWebでの情報公開とか、動画を配信したりとかもできるご時勢に、どうしてこういう形で、しかもメディアを呼んで講演されたのか? という意図がどこにあるのかを聞きたくて。進捗発表だけだったら先ほどのように手段はいっぱいあるわけで。
河野氏:特にないですよ(笑)。製品の進捗発表ですよ。たまたま縁があって(司会をされた方が同校の卒業生で現バンダイナムコゲームスに所属)こういうお話をいただいて。そして「エースコンバット インフィニティ」もそろそろメディアさんにもユーザーさんにも準備をしていただきたい、という時期にさしかかっていて、「どこから動き出そうか」ということで。
ただ、「エースコンバット」はユーザーさんから音楽をすごく好評いただいているんですが、それを形にしていくきっかけがこれまでなくて。みんな「やりたいやりたい」って言うんだけど、どこでもできないという状態で。今回、PRという形を借りて、「エースコンバット」の魅力というのを伝えたい、と思いこういった場を設けさせていただきました。
もっと先の話をすれば、これをきっかけに「エースコンバットの音楽、いいね!」ということになって、単独で何かやっていけるようにならないかな、という風に考えているという感じですね。ただ、それにみんな二の足を踏んで動きださない、という状況だったので、「えいやっ」ということで今日行ってみました。今日、朝7時からグランドピアノを解体して搬入して、「今日、やる!」って決めてから、いろんな人を巻き込んでやってもらったという形ですね。
クリエイターの人たちもいっぱいいらしていただいたので、その中で、20年業界にいて、どういうことをしてきたのかをちゃんとしたかった、ということもありますし。「ゲームだけじゃなくて、いろいろやっていこうよ!」と思っている中の、それこそ今日の話だけれども「皆さん、どうすれば喜んでいただけますか?」ということを考えたとき、「エースコンバット」の音楽で幸せになる人はすごくいるのに、「機会がないね」という。
――さて、「インフィニティ」のお話を聞かせてください。国内、海外でベータテストが終了して、反響も大きくて困っているスタッフの方の苦悩ぶりは講演でも伝わってきましたが(苦笑)、どんな感想ですか?
河野氏:現場は不眠不休で働いてますよ。(ベータテストは)非常に評判よい状態で今を迎えていて、かなりの方に満足していただけているという状態まで来ていて、ゲーム的には確かな手ごたえをつかみました。北米も欧州も想定の倍のプレーヤーさんに来ていただいて。今までのシリーズでは北米には強かったけれども欧州では弱い、おおよその数でいえば、日本と欧州が1、北米が2、みたいな状況だったのが、今回、北米と欧州が同じぐらいで、欧州にかなり響いているなと。かつ、ロシアの方とかね……シリーズでは大体ロシア機は敵機扱いですけれどもね(苦笑)。どうしよう(笑)。ベータはかなりいい状態でした。ただ、フィードバックをいただいて、改修すべき部分もかなりあって。運営していくものなので、プレーヤーの動きも見えて、「これは改善しないとリリースできない」という判断にもなりましたね。
――それが講演資料でも垣間見られた、膨大な作業につながっていて、皆さん大変なことになっていると。
河野氏:皆瀕死ですね。
――それは想定内だったところですか? それとも想定外?
河野氏:想定内、外、それぞれあって、ユーザーインターフェイスとか、やっぱり「続編の功罪」があって、僕らはちゃんと作っているつもりでも、いつのまにか、お客様の暗黙値を利用していてお約束でインターフェイスを作っていて。初見の方には「これ選んだらどうなるの? 搭乗機体変えたら武器はどうなるの?」って混乱させてしまっていて。「ああ、そうか!」と。もちろん「功」、「罪」なので、シリーズのプレーヤーさんには使いやすくもあるんですけれども、やっぱりそういう気づきはあったなと。
それとやっぱりFree to Play(F2P)という形で運営する以上、短期間でお客さんに「インフィニティ」を好きになっていただかなくてはならない。無料で遊んでもらうということは、ちょっとでもストレスを感じると「もういいわ」ってなっちゃうもので、どうやったら好きになってもらえるか……「今のままじゃ弱いな」っていうことろがベータテストをやってわかったことですね。逆に、1週間のテストで300回出撃している人もいて。とんでもない人がいる、という意味でうれしい想定外のこともあって。ベータテストをやってみてわかったことで、TGS2013の時点では「あのままいけます」と言っていましたが、現状、かなり変更をかけていますね。まあ、F2Pの醍醐味というか、お客様とキャッチボールしながら作っていくという点は手ごたえがありますね。
――「インフィニティ」と同時に、アーケードの「マッハストーム」も手がけられていて。「ASSOULT HORIZON」で作った路線を「エースコンバット」のシリーズだけではない形で、こう仕上げてきたんだな、と思いました。
河野氏:あれは、「エースコンバット」のプレーヤーさんとはまた違った層、これまで戦闘機のゲームには触れたことがないような人も楽しめるように作ったものです。「マイファースト戦闘機ゲーム」みたいな。だからアトラクションとして楽しんでもらいたい。与える喜びは「エースコンバット」とはぜんぜん別物なので。だから名前を変えて、誤解のないように伝えていかなきゃね、というコミニュケーションを40歳を過ぎてから勉強させていただきました。少しでもこれをきっかけに戦闘機に興味を持ってくれて、「エースコンバット」まで来てくれると嬉しいですね。
――そういう意味でも「インフィニティ」は旧来のシリーズのファンがどういう風に「インフィニティ」を面白く遊んでいただけるのか、ということですが……。
河野氏:シリーズをプレイされてきている方々には、いろんなところにいっぱい仕掛けをしているので、それを楽しんでもらいたいです。新規のプレーヤーさんもたくさんプレイすると思うんですけれども、たぶん、若いプレーヤーさんは「楽しいな、こういうセリフカッコいいな」って思っていただけると思うんですが、実はその裏にはこういう意味があって……という部分は、ベテランのユーザーさんにわかっていただけるはずなんですよ。だから、そういう新規のユーザーさんに、「いやいやそれだけじゃないんだよ。『エースコンバット』はね……」と「エースコンバット」を語っていただきたいと。若いパイロットたちをベテランパイロットたちが育てていくようなコミュニティができあがっていくといいな、ということを考えています。
――そういうことになると、ゲーム内でのコミュニティ等はどういった形にしていこう、と考えてらっしゃいますか?
河野氏:運営計画的には、コミュニティを作るきっかけをいっぱい作ろうと考えています。公式コミュニティって、なんだか監視されているみたいでプレーヤーさんには面白くないんじゃないかとも思っていて。ちゃんと問い合わせ窓口などは設けていきますが、公式SNSとかではなくて、どちらかというと、ユーザーさんの愛でコミュニティを作っていただけるようなきっかけになるようなことを予定しています。それが1番いい形なんじゃないかなと。近い将来、コミュニティの代表が運営と話し合う、みたいな形で、一緒に「インフィニティ」を作っていくという形になっていけばいいんじゃないかなと思っています。今までは他のゲームの「場」で「エースコンバット」について語っていた人も多かったと思うんですが、今後は「インフィニティ」を「場」に語っていただければなと。F2Pはコミュニティというものが必須だと思っているので。サービスインするまでが大変で、サービスインしてからはもっと大変ですね。
――そこは終わらない感じで……(笑)。
河野氏:終わらないというのは「エースコンバット」にとって喜ぶべき未来ですからね。
――機体ツリーが変わったのは注目していきたいな、と思ったのですが、サービスイン時はどうなっちゃうんですか?
河野氏:見た目はもう少しわかりやすく、未だ決定していないですが、ファイター、アタッカー、マルチロールというところを意図的に目指せる案なども出ています。ベータ版では、何を目指していいかわからない、というフィードバックもあったので。突然パーツが出てきたりして。「俺はどこを目標にしていけばいいんだ?」と。機体ツリーだけではなくて、製品全体的にお客様に、「ここを目標に今日はがんばろう」とか、「明日もがんばろう」といった明確な目標を作っていこうというのが大きな改修点ですね。
細かいことを言い出すと、画面遷移ひとつが命取りになったりするんですよ。画面遷移した瞬間、「わかんない」って放り出されちゃう。そういうところを直していっていますね。
――他のゲームですが、このボタンがこの位置にあって、毎回押すのがめんどくさくなってやめてしまったゲームが個人的にあります。そういう意味では、アーケードゲームでの「最初の数分でお客さんの心をつかむ」といった作りや、いろんなゲームの「つかみ」方など、F2Pタイトルならではの重要な、シビアなところの作りこみが行なわれているんじゃないかなと想像します。
河野氏:ナムコ(現バンダイナムコゲームス)は、アーケードゲームを作ってきた文化があって、「遊んですぐ楽しい」という文化を家庭用ゲームに落とし込んで成功してきたところがあるじゃないですか。その後、家庭用ゲームを長く続けてきて、「エースコンバット」がそうですが、最初の情報量がすごく増えてしまって、知らない間にこれもあれも、とお客様がわかってくださっている前提になってきているんですよね。
「マッハストーム」を作って、家庭用のそういった膨大な情報をアーケードに持っていったら、そんな情報量はアーケードの流儀には入りきらない。あれがまたいい経験になって。「面白そう」とお客さんがコインを入れたら、すぐにわかって、楽しく遊んでもらいたいので……。それをまた家庭用にフィードバックしようか、とか、ちょっといい経験になっていると思いますね。
――なるほど……「インフィニティ」もサービススタート時からいい感じに楽しめそうなことになるんですよね?
河野氏:スタート時からバンバンやっていきますよ。あまりにもイベントとか楽しいお知らせが多くて、「どうやって伝える?」っていう話になっていて。「アプリを作るか?」って話も出ています。プッシュ通知ぐらいしないと管理しきれないかも? という話で。オンラインで運営していく、ということになると、こういった要素も重要になっていきますしね。
――なかなかすごいことになっているんですね。もう。これからの情報公開にも期待しています。ありがとうございました。
サウンド担当・小林啓樹氏編
【小林啓樹氏】
1999年入社。 「ACECOMBAT 04 -Shattered Skies-」より歴代「エースコンバット」シリーズの音楽を担当。ゲーム音楽のオーケストラコンサート「PRESS START」には、ファン投票により2度出演を果たしている。
――よろしくお願いいたします。こうした講演で、お客さんのいる前で生演奏というのは初めてだと思うんですが、いかがでしたか?
小林氏:光栄でした! 天気の悪いなか、この寒いなか、来ていただいて、拍手までいただいて。非常に光栄だな、ということに尽きます。また、つたないウチの河野の話を聞いていただいて(笑)、それを含めてありがたかったですし、前で見ていると、音楽を楽しんでいただけている、お客さんの気持ちが伝わってきました。やっぱり「音楽っていいものだな」と再認識させていただくとともに、本当にありがたいな、お客さんあっての「エースコンバット」だなと改めて実感しました。本当に感謝しています。
――さて、「エースコンバット インフィニティ」において、小林さんは今までのシリーズ同様、新たに楽曲を制作されたりしているのでしょうか?
小林氏:残念ながらありません。サウンドの監修をしています。
――監修作業に関して、オーダーがあって、それに応える形といった作業内容なのでしょうか?
小林氏:今回はオーダーどころではなくて、仕様書で来ましたね。「この曲を使いたーい!」って。それに×、×、×、×……って(笑)。そういう感じでした。
――シリーズで制作されてきた楽曲の中からチョイスして、使っていく曲を選定していくという感じですか?
小林氏:あえてそうしました。なぜかというと、「インフィニティ」は「みんなで遊ぶ」のがポイントですので、知っている曲が流れてきたほうが、盛り上がりやすいだろうと考えたからです。まったく知らない音楽で、まったく知らないところを飛んでも、仲間ウチで話すネタがないというか、「あぁそうなんだ」ってただ受け取るだけになってしまう。でも、知っている曲が出てきたら、「おお! これってさ、もしかしてアレが出てくるんじゃない?」とか、「あれ? なんかこの曲って前は攻められる場面でかかってたから、これから攻められるんじゃない?」、「いや、そんなことないだろう!?」っていうように、話題のきっかけになるんじゃないかと思って。あえて既存曲を使うことで、盛り上がれる要素の1つにしていただこうと考えました。
――シリーズ作品の中から、どれからどれまで? という感じで使われていくんですか?
小林氏:「ACE COMBAT 04」からにしたのかな? 「ACE COMBAT X」や「X2」も入ってます。
――それぞれのシリーズを制作されていたときは、当然そのシリーズに合う形で、イメージも含めて統一するように楽曲を制作されていたと思うのですが、「インフィニティ」で複数のタイトルをまたいで楽曲が使用されることになると、意外と……当時制作していた時に感じていた意識と、今回選定された方の意図とが違っていたりとか、そうして整えてきたものをぐちゃぐちゃにされる感覚とか、いろんな感情がわいてきたりしませんでした? 恥ずかしかったり楽しかったり。
小林氏:そうですね……ありましたね(笑)。
――自分の仕事を掘り起こされるみたいな、そんな感じだったのかなと思って。
小林氏:まったくおっしゃる通りで(笑)。
――若気の至り、みたいなところもあったりして。でも、それがよかったりとか。自分の仕事を振り返るみたいなお仕事だったのかなと。
小林氏:そうですね。そういった面はありましたね。今回、自分でイチから選曲するのはやめたんですよ。チームの中に「エースコンバット」がとても好きなスタッフがいまして。「僕は、全部知っている」というので、リストを起こしてもらったら、なんか、「メガリス」(Megalith)の次に「ZERO」、「ZERO」の次は「アークバード」(Arkbird)みたいなね、油こってりみたいなものばかり上がってきたんですよ。
でも、それは発見でしたね。「ああ、この人はこのシーンに、こういう心情を求められるシーンに、この曲を当てるんだ……僕は当時こういう思いで作っていたけれど、こういう風に受け取られているんだな、と。一晩ぐらいムッと来ましたけど(一同笑)。でも、翌朝ちゃんと打ち合わせまでには「ああ、いいんじゃない?」って(一同笑)。
――切り替え早いですね(笑)。
小林氏:本当に、発見だったんですよ。リミックスに感覚が近いんですよ。……やっぱり、作り手の概念は1つの側面でしかないですね。お客さんに届いた時点で違う形になっていることを実感しました、「僕はこうだ、と思ったけれど、そっちにイメージを広げていくんだね、もちろんその要素も入れていたつもりではあるけど、発見だなぁ」といったことと同じように。
1人の企画者が、音楽をどう捉えて、一生懸命がんばってアサインしたのがこの結果だと思えば、発見や面白さ、良さというものがあるんですね。私の仕事はその良さを見つける作業でした。もっと、「(その楽曲に)こんなイメージを感じているんなら、そのイメージはこっちに活かすべきなんじゃないか? アサインしなおして空いたところには、似たような曲があるから、この曲はどう?」というと「いや、この曲にはそう感じない」とか。音楽によってどういう感情が呼び起こされるのか、ということを話し合う場だったので、ある意味で、曲を作るよりも面白かったかもしれないですね。(企画意図で)決められた感情を音楽で作るという(作業)の1つですけれども、すぐコロコロ(アサインする曲を)変えて。まさに、「選曲」ですよね。今回、その楽しみを実感しましたね。
――DJっぽいというか、指揮者っぽいというか。いろんな意味で曲を書く仕事とは違う領域の仕事なんですね。
小林氏:似ているようで違いますね。もっとプレーヤーに近い感覚ですね。できるだけ柔軟にやるようにしましたね。
――今までの楽曲からのチョイスとなると、先ほどお話にあった黄金曲というか、鉄板曲ばかりが並ぶことになるとすると、それはそれでピークというか盛り上がりを演出する曲ばかりになってしまって、緩急をつけるとなるとそれはそれで大変な気がしますが?
小林氏:1曲の中でもヤマがありますので……今回のように選曲でやろうとすると、「このヤマはいらない、でも頭が必要」ということで頭の部分をループするようにしました。
――なるほど!
小林氏:これはアリ、なんですよね。オリジナルのときは、1曲の中を通してこの気持ち、あるいはこのあせりといった心情、あるいは、場合によっては1曲で心情の変化を語ろうとするんですね。でも今回は、この曲の「まだ何が起きているかわからない」という部分を使って、この気持ちを表現しよう、と、さらに細かくしているので、実は面白い……んですよ。
ヤマが連続することに関しては、選曲の技術で対応していますね。曲を作るときも問われてきた部分ですけれど、いかに緩急をつけるか……緩急をつけなければ、つまりダイナミックレンジですよね。呼び起こされる感情の幅がなければ、このヤマは高いと感じられなくなってしまいますので、落とすところをあえて作りました。作り方は、先ほど申し上げたように「この曲のA部分だけ」とか、細かく切って回るようにして作っていたんですよね。
オリジナルを知っている自分は変な感じもしましたよ。「あの曲につながるはず……が終わってこの曲につながる」とか。でもね、曲があがってセリフが乗って、ゲームが動いてみると、これが実にしっくり来るんですよ。
あと、作家の顔も出てくるんですよね。社内だから当然知っていますよね。「あれ? ここまで椎名(豪)さんで次俺か。それで、次は中西(哲一)さんが来るかと思ったら大久保(博)さんみたいな。だからすごく変な感じです。その曲の先の展開も知ってるし、どういう思いで作られているかもわかっているし、オリジナルの良さを知り尽くしていますから。作家にすごく失礼なように感じるときもあるんですけれどもね。
でも、そうじゃないんですね。気持ちを絞り込んで表現する、というところが主眼にあるし、それは案外面白い形に収まったかな、と思っています。
――今回のオーダーがオリジナルと同じ意図で来たならわりと対応しやすくて、そうでないところで、一部分だけ使いたい、となるとそれはそれで難しいのかな? と思っていたんですが……?
小林氏:そうですね。でも、1曲が長くて大きな心情、心の動きとか思いを語る、というのが「エースコンバット」の楽曲の特徴ですから、逆にやりやすいんです。頭の部分だけ使う、後ろの部分だけ使うとなると、もっとメッセージがはっきりするんですよ。「こういう心の変化で、これ」じゃなくて、「心の変化は別の(曲)でやります」みたいなね。同じ感情のカーブを描くとき、別の曲をアサインすることで違った雰囲気になるし、機能も変わってくるんです。極論、あせらなきゃいけない曲なのにあせってない、とかね。そういうミスマッチを狙ったアサインをしたところもありますよ。「案外これでいいんだな」というところもありましたね。
――それは、別の曲になった、みたいな感覚もあるんですかね?
小林氏:ありますね。つくづくオーダーありきだな、と思いますね。こういうゲーム内容でこんな感情のラインを作りたい、というオーダーありきなのです。Aをはめたら、その先Bという展開が確かに1つの答えではあったけれども、違うものを持ってきてCとすれば、違う気持ちをさらに付加することができたんだなという、ある種の実験のようですが、面白かったですね。「ほうほう……もっとノリが出るんだ」、「もっと“いけ!”って気持ちになるんだ」とか。ほかにも「やっぱりドラムっていいね」ってその曲の持っている良さを再認識したり。あるいは、気づいていなかった良さに気づかされたりということがありましたね。
――素人考えですが、これだけシリーズを数重ねてきているタイトルなので、いろんなところから楽曲をもってくるとなると、構造的なものや編成など、違ったものをミックスしていくと、それによる新たな発見だとかがあるんですか?
小林氏:エースコンバットの音楽は、自分たちが試行錯誤して柔軟に作ってきたんですよ。次の曲に違う楽器編成が来たからって違和感があるという発想は出ませんでした。違う感じがするのは当然ですが、それは置いておいて、それが面白いかどうか、許容かどうかを考えますし……。楽器編成よりも、想起される心情を重視しているんですよね。結局はプレイしている人の心情をどう持っていくかが判断の中心なのです。心情に沿えば、極論、楽器編成がガラッと変わっても、たぶん、案外いいんじゃないかなと。突然、エレキギターとドラムがガッっと出てきても、そういうシーンならやっぱりそれが必要なんですよね。昔のゲーム音楽だって、結構突拍子も無い変化をさせていましたよね。音楽の変化によって単調な絵を劇的に見せ、効果的に演出していたのです。そういう意味においては、「インフィニティ」はゲームらしいゲームなのかもしれないですね。
――なるほど。お話ありがとうございました!
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