インタビュー
ゲームカルチャーに対するディズニーの本気映画「シュガー・ラッシュ」
ザンギエフは悪役? ゲームメーカーとの交渉役を務めたプロデューサーに直撃インタビュー
(2013/2/15 00:00)
3月23日に公開が予定されているディズニー・アニメーションの映画「シュガー・ラッシュ」は、ゲームへの愛に満ち溢れている。
主人公は、架空の1980年代レトロゲーム「フィックス・イット・フェリックス」の中で暮らす悪役キャラクターのラルフ。悪役であるがゆえに他のキャラクターから仲間はずれにされているラルフは、ヒーロー役であるフェリックスがみんなから慕われている姿を見て、ヒーローになってみんなと仲良くなりたいと憧れるようになる、というのが簡単なストーリーだ。
この映画がゲームファンにとって興味深いのは、映画の中に実際のゲームキャラクターたちが多くカメオ出演している点にある。公開された予告編では「スーパーマリオブラザーズ」シリーズのクッパ、「ストリートファイター」シリーズのザンギエフやベガ、「ソニック」シリーズのドクター・エッグマン、「パックマン」のグズタ(パックマンを邪魔するモンスターの1匹)など超有名キャラクターたちが集会を開き、日々悪役を貫かなくてはならない心の葛藤を癒し合うという衝撃のワンシーンが注目を集めた。
ゲームの裏側にも隠された世界があるという夢のようなストーリーは、ゲームタイトル、ゲームメーカーの枠を超えてキャラクターたちが集まることで説得力がぐんと増している。キャラクターたちの動きも世界観も細かく演出されており、8ビットのキャラクターがカクカクとコミカルに動いたと思ったら、現代FPSでハードなSF戦争アクションも描かれる。ゲームファンなら誰もが納得し、ニヤニヤしてしまう描写が満載だ。
今回は、そんな夢の世界を構築するため、各メーカーとの交渉を行なった「シュガー・ラッシュ」プロデューサーのクラーク・スペンサー氏にインタビューする機会を得たので、こちらの模様をお届けする。
作品の中で描かれるゲーム、ゲーム文化に対する本気のこだわり
――有名キャラクターたちを登場させるに至った経緯を教えてください。
クラーク・スペンサー氏: 最初から監督のリッチ・ムーアが、世界観に説得力を持たせるために実際のゲームキャラクターを使いたいと言っていました。この映画には「フィックス・イット・フェリックス」、レースゲームの「シュガー・ラッシュ」、現代FPSの「ヒーローズ・デューティ」という架空のゲームが3つ登場しますが、実際にプレイした人はいませんし、これだけでは観客を世界に引き込めないだろうと考えました。そこでパックマンやソニック、ディグダグといったキャラクターは映画に絶対に登場させるべきだとなったのです。
プロデューサーとしては果たして上手く交渉できるかどうかが心配でしたが、まずはストーリーが固まるまで待とうと決めました。そして数年前、E3の会場に行ってバンダイナムコゲームス、任天堂、セガ、ATARIなど各社と会いました。そこでプレゼンをした結果、私自身びっくりしたのですが、みなさん興味を示してくれました。
過去にも「トイ・ストーリー」や「ロジャー・ラビット」でも他のキャラクターが集まるというマッシュアップ形式が先行した例もありましたが、この映画のストーリーに非常にポテンシャルを感じられたのではないかと思います。
そして大事だったのは、次のステップとして、各社に映画作りのパートナーになってほしいとお願いしたことです。脚本、キャラクターデザイン、モデル、アニメーション、ライティングなど、各段階でみなさんに完全なアップルーバル権(制作過程を見せて段階的に承認を出すというプロセス)を設けるから、映画を一緒に作りたいと話しました。
おそらくその時点で、僕たちが本気でこの映画を作ろうとしていると気付かれたと思います(笑)。好き勝手にゲームのキャラクターを使用するのではなく、一緒に作っていきたいという本気が伝わったんだと思います。
最初は難しいかなと思いましたが、意外と簡単に制作は進みました。もちろん何度も話し合いはしたのですが、非常に早い段階で協力を得られて、スムーズに事が運んだと思います。
――各メーカーからのコメントや指示にはどんなものがありましたか?
スペンサー氏: キャラクターの使われ方や、アニメーションにコメントをいただきました。例えば、悪役の集会のシーンで、当初はクッパがコーヒーの入った紙コップを手の指全部を使って掴んでいたのですが、任天堂から「彼だったら人差し指と親指の2本で持つはずだ」とコメントをいただいたので、アニメーションをやりなおしました。
もう1つ例を挙げると、脱出用のポッドがゲームセントラルステーション(ゲームに入るためのロビーのようなもの)に入ってくるシーンで、ソニックがリングを投げるというアニメーションを考えたのです。これをセガに見せたところ、「ソニックは倒れないとリングが出ないんです」とコメントがあったので、そこを直して、ちゃんと倒れてからリングが出るようにしました。
みなさんからは非常に具体的な指示やコメントをいただきました。
ブラッシュアップという点では、ビデオゲーム業界出身者やゲームに強い人を試写に招いて、コメントやアイデアを出してもらうようにしました。どこが上手くいっているか、あるいは見落としがあるのではないかということを確認するためです。
しかし、やはり実際ゲームをプレイしているアニメーションアーティスト自身が最も貢献したと思います。彼らはアニメーションを作りながら、色々なコメントやアイデアを出してくれました。それによってゲームやゲーム文化が忠実、かつ面白く作品の中で描かれています。
――特に「フィックス・イット・フェリックス」の世界では、8ビット感のある動きとドット絵にこだわる描写が印象的でした。
スペンサー氏: これは、CCOであるジョン・ラセターからのアイデアでした。ジョンはゲームごとに違う独特の世界観を大いに見せようと考えていました。
そのため「フィックス・イット・フェリックス」では8ビット、「ヒーローズ・デューティ」では現代的でリアルな人間的な動き、そして「シュガー・ラッシュ」では漫画的な体の伸縮表現を採り入れています。
「フィックス・イット・フェリックス」では、我々がよくできているなと思っていた映像をジョンを見せたところ、「いやもっと8ビットにできるだろう」と言われました。
もともと8ビットの動きはスタッカートのような、飛び飛びで速い動きで表現していますが、ジョンが言うには、まだまだアニメーションが上手すぎると(笑)。もっと下手に、もっとスタッカートに切ってと言われました。
「フィックス・イット・フェリックス」の中では、飛び散ったケーキや花火、暖炉の炎、水たまりの中の映り込み、そして木なども8ビット風に表現しています。
それと、実はカメラの動きも縦と横しか入れておらず、斜めには動かしていません。大きなパン(画面を横に流すこと)は1回ありますが、それ以外は止めています。1980年代のテクノロジーであったらどう作られていたか、ということを考えながら制作していったのです。こういった辺りはジョン・ラセターがそうしろと言ったからなんです。彼の貢献は大きいですよ。
――アニメーターはゲームが好きなのでしょうか?
スペンサー氏: アニメーター、アニメーション業界というのは、本当にゲーム好きがたくさんいます。仕事をしていないときは、ゲームで発散するんです。仕事の合間に全く違うゲームの世界に迷い込むのがみんな好きですね。我が社のスタジオには休憩用のゲームセンターが元々あったのですが、「シュガー・ラッシュ」の制作をスタートさせるにあたり、研究ということでもっとゲームを導入して、実際に遊べるようにしました。
――1つ気になったのは、悪役の集会の中にザンギエフがいたことです。彼は悪役ではないようなイメージがあるのですが?
スペンサー氏: これは2つの理由があります。1つには、脚本家の1人が「ストリートファイター」を子供の頃本当に遊び込んでいたという大ファンで、彼からザンギエフは悪役なんだという主張があったからです。確かに、最初に登場した頃のザンギエフは、今のイメージよりも悪役の面が強かったんです。そのような主張があって、ザンギエフは悪役の集会に出ることになりました。
もう1つは、ザンギエフは悪役ではないかもしれませんが、悪い行動はするという理由からです。ある意味で彼もラルフと同じで、自分は誰なのか、いい奴なのか、悪い奴なのかとアイデンティティについて悩んでいます。あの集会のシーンでラルフに向かって「君は悪役かもしれないけど、悪い奴じゃないでしょ?」と言うのは、彼がうってつけだと思ったからです。
ザンギエフが悪役かどうかについてはアメリカのインターネットでも話題になって、ザンギエフは悪い奴かどうか、賛成派と否定派に別れて議論が沸騰したんです(笑)。そういった意味でも、面白い話題を提供できたと思います。
――では最後に日本のゲームファンにメッセージをお願いします。
スペンサー氏: 監督のリッチ・ムーアや僕は、作っていて本当に楽しんでいました。幼い頃に楽しんでいたゲームでアニメーションが作れたので、自分たちの夢が叶ったという気持ちでいます。沢山のキャラクターが一堂に会しているというのを見て楽しんでもらいたいと思いますし、ゲームの世界、ゲームカルチャーがどれほどちゃんと表現されているのかを見ていただけたらなと思います。ぜひ見に来て、楽しんでください。
――ありがとうございました。
(c)Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.