ガンホー、「エミル・クロニクル・オンライン」運営チームインタビュー
3年の時を経てドミニオン世界を完全リニューアル。PK消滅の理由とは!?


8月18日収録




 ガンホー・オンライン・エンターテイメント株式会社は、ハートフルオンラインRPG「エミル・クロニクル・オンライン(ECO)」において「SAGA8:戦歌の大地」で実装されたPvPエリア「ドミニオン世界」を、8月25日大幅リニューアルする。

 悪魔族の住むドミニオン世界は互いに切磋琢磨する過酷な場所だ。その設定を受けてドミニオン世界は通常のフィールドとは異なるPvP、つまりPK可能な場所となっていた。このコンセプトは「ECO」が掲げていた「ハートフル」とはまったく逆で、しかも突然打ち出したため、実装以前から、ユーザーからの反発が強かった。さらに「次元転生」という仕様で、この世界では1レベルからキャラクターを育て上げねばならないため、結果としてほとんどの人が足を向けない場所になってしまった。

 今回のリニューアルはこのユーザー達の反応を受け、ドミニオン世界を通常のフィールドと同じものに変えるものだ。なぜ今の時期にリニューアルが行なわれるのか。変わった後の世界はどんなものなのか。「ECO」開発担当のガンホー、ゲーム事業部オンライン本部パブリッシング部第二企画課課長の寺田美絵氏と、マーケティング担当のパブリッシング部第二企画課主任の榊田毅氏に話を聞いた。



■ 次元転生撤廃、PvP(PK)撤廃。提示したコンセプトを全て無くしたのは“先に進んでもらえないため”

開発担当のゲーム事業部オンライン本部パブリッシング部第二企画課課長寺田美絵氏
マーケティング担当のパブリッシング部第二企画課主任榊田毅氏
2011年5月16日~5月30日まで実施されたアンケート。現行のドミニオン世界が受け入れられてない事が改めて明らかになった
提示したコンセプトのほとんどを撤廃、他のフィールドと同じ仕様に

 「ドミニオン世界」のリニューアルは8月25日に行なわれる。変更点としては「次元転生撤廃」、「デスペナルティ撤廃」、「PvP(PK)撤廃」、「フィールドチャンプシステム変更」、「都市攻防戦変更」と、これまで提示してきたドミニオン世界のコンセプトをすべて否定することになる。

 「ECO」はこれまでアップデートを重ねてきて、最初の世界のエミル、悪魔種族のドミニオン、天使族のタイタニアと3つの世界を行き来するゲームとして成長し、リング(ギルド)で作れる「飛空城」といったコンテンツも登場し、遊びの幅も広がってきた。

 しかし今年5月に実施されたアンケート結果では、実は大多数のユーザーがドミニオン世界を訪れていないことが明らかになった。特に次元転生というキャラクターが1レベルになるシステムに関して、「難しい」、「理解しづらい」、「正直面倒くさい」といった否定的な声が目立った。

 榊田氏によると、全体的なキャラクターデータから「SAGA8」以降のストーリーを進めているキャラクターは全体の10%程度。大多数のキャラクターが、ドミニオン世界で次元転生をせず、その先のストーリーを進めていないのが現状だという。「SAGA9」以降の、アップデートの大きな目玉であるメインストーリーをドミニオン世界がネックとなって進めていない人が多い。

 ドミニオン世界は「強い者が生き残る」という設定の元、フィールド上はPK可能なルールにした。そしてこの過酷な世界で他のプレーヤーに勝つと恩恵が得られる「フィールドチャンプシステム」を導入した。このルールでドミニオン世界の過酷さを表現しようとしたという。しかしこのコンセプトを歓迎したユーザーはほとんどいなかった。

 寺田氏はこの点をふり返り「(PKをしなくても)ストーリーで過酷さは伝えられますし、PKというルールを無くし、行きやすくしてストーリーを楽しんでもらいたい、という結論に達しました」と語った。ドミニオン世界は機械化種族のDEMに襲われ壊滅状態の危機にあることは、ストーリーで語られており、世界の過酷さは伝わってくる。

 PKに関してはユーザーの反対の声が大きかった。フィールドでの戦いは最初の方こそ行なわれていたが、現在ではほとんど行なわれていない。PvPでの勝者の「フィールドチャンプ」に関しては1部のユーザーが協力者にわざと負けてもらって上位をキープしているのが現状だという。「『ECO』のユーザーがPvPに対して抵抗があるかというとそうではなく、騎士団演習などの対戦コンテンツも人気です。やはり申告制とはいえ、PKによって切磋琢磨するというスタイルはユーザーの支持を得られませんでした」と榊田氏は説明した。

 「SAGA8」が実装されたのが2008年の5月である。これほど人気が得られなかったコンテンツを改正するのに、何故3年もかかってしまったのだろうか? 「こちらとしてはユーザーさんが待っているものを優先した結果です。上位転生などキャラクターをより強く育てる部分、より広く多彩なフィールドの実装に注力しました」と寺田氏は説明する。つまり、「ECO」においては、ストーリーアップデートより優先順位の高いアップデートが存在し、その実装に注力したため、大多数のユーザーにとってドミニオン世界以降の世界は「無かったもの」として3年間が経過した形になる。

 今回ドミニオン世界が“必要”になったのには「飛空城」の存在もある。リングで協力して材料を集め皆で使える空間を作り出す際、プレーヤーはエミル、タイタニア、ドミニオン世界全てから材料を集めるのだが、ドミニオン世界は「次元転生」でキャラクターを1から育てねばならず、しかも申告制とはいえ、他のプレーヤーから攻撃される。また今後のストーリー展開も考え、完全なリニューアルが行なわれることになった。このリニューアルに当たり担当スタッフが集まり「合宿」を行ない議論を重ねた。

 リニューアルの方向性を決めるにあたり、ガンホーでは議論を重ねた後に2011年5月16日~5月30日までアンケートを実施し、ユーザーから意見を募った。結果として1,357通の回答が得られた。各要素に関して「このままでよい」と答えたユーザーは少数に留まり、次元転生、デスペナルティにははっきり「悪い」と答えたユーザーが多かった。

 フィールドチャンプ、都市攻防戦に関しては「何とも思わない」という意見が多いが、その理由は「ドミニオン世界にそもそも行かないからまったくわからない」という答えが多かったという。また、PKに関して肯定的な意見は、1,357通のほんのごく少数だった。

 今回のリニューアルの最大の変更点が「次元転生撤廃」だ。次元転生という従来のシステムが無くなり、他の世界と同じようにそのままのキャラクターで移動できるようになった。フィールドのモンスターの強さは調整され、レベル30周辺から、レベル60くらいまでの狩場になるという。ダンジョンも1つあり、こちらはレベル50~レベル85の狩場になる。

 PKは不可になり、他のフィールドと同じようにデスペナルティは無くなる。「フィールドチャンプシステム」はPvPの勝率ではなく、ドミニオン世界でどれだけ貢献したかという考えにより、フィールド上でどれだけモンスターを狩ったかというものになる。上位者はDEMに対して強力な「チャンプスキル」が使え、都市攻防戦等で大きくで活躍できる。都市攻防戦はレベル100前後、もしくは上位転生のキャラクターを対象とした高レベル向けコンテンツとなる。都市攻防戦での報酬は今後変更を検討中とのこと。

 今回はモンスターのレベルやステータスの調整を行なうが、配置などは変えない。高レベル向けの狩場という形で実装されるが、今後ドミニオン世界ならではの特色を出すような調整を現在検討中だ。今回のリニューアルで「ECO」におけるPKを許可するフィールドは完全に消滅することになった。

 これまでの次元転生のキャラクターを育てていたプレーヤーに対しては、転生キャラクターのレベルに応じた「経験値アイテム」がプレゼントされる。このアイテムは同一アカウント内であれば他のキャラクターにも使用可能だ。また記念品としてアバターアイテムもプレゼントされるという。この他、ECOSNSで次元転生キャラクターの記録を記憶として保存していくよう調整中とのこと。


リニューアル記念でプレゼントされるアバターアイテム
左から、ドミニオン世界の入口、都市攻防戦、チャンプスキル


■ 気軽に行けるようになったドミニオン世界を探索し、これまで進めなかったストーリーを体験して欲しい

新しい協力要素「飛空城」。しかしドミニオン世界での材料集めが大きなネックとなっていた
最新の「釣り堀」を飛空城に置くためにはドミニオン世界の材料が必要

 続いて寺田氏はドミニオン世界の今後について「私達現在の『ECO』スタッフにとって、従来のドミニオン世界のコンセプトは世界の過酷さを表現するのには悪くない方法だったとも思っていますが、それが結局遊びを広げる、世界を広げるという上での枷になってしまっているという結果になりました。世界の有り様をプレーヤーに語る、というのはシステムではなくストーリーで表現できるのではないかと、今は思っています」と語った。

 その上で、今後のドミニオン世界をどう楽しむか。寺田氏は「ストーリー」を楽しんで欲しいという。「『SAGA8』以降はメインストーリーに関する感想も大きく減ってしまいました。特に1度ドミニオン世界に行った後、そのまま行くのを止めてしまったユーザーさんが多かったです。多くのユーザーがドミニオン世界に行かず、ストーリーを楽しめていません」と寺田氏は語った。

 第4のプレーヤーキャラクターとして登場したDEMでもドミニオン世界にはいける。大きなストーリーの流れとしては、DEMとドミニオンは現在休戦状態であり、都市攻防戦は中央の命令を聞かず襲いかかってくる存在となっている。現在のドミニオン世界は国土のほとんどの部分がDEMの支配地域であり、マップとして実装されていない。

 「ドミニオン世界の拡充はまだ先ですが、この時期にネックであったドミニオン世界のルールを変えたかったんです。ドミニオン世界も自由に行き来できる場所になることで、今後も『ECO』が、10年、15年と楽しめるコンテンツになると判断しました」と榊田氏は語った。ドミニオン世界の国王は今のところ行方不明で、まだ語られていないところが多い。ただ、このドミニオン世界の新地域に関しては今後実装予定の「SAGA15」以降で、まずはエミル世界が充実していく予定だという。

 ドミニオン世界がネックとなって材料集めが進まなかった「飛空城」も今後活性化が予想される。ドミニオン世界にキャラクターを持っていた一部のプレーヤーに頼らず、集められるようになる。次元転生、デスペナルティという大きなマイナスポイントが無くなり、気軽に遊びにいける世界になる。

 寺田氏は今回の変更により、多くのプレーヤーがドミニオン世界に来れる様になったことで、改めて「SAGA9」以降のメインストーリーを楽しんで欲しいと語った。ドミニオン世界の守護者である「ドミニオンドラゴン」との邂逅、さらにDEMの守護者「DEMドラゴン」とも出会う。その後ストーリーはさらに壮大になり、天使の世界タイタニアへと繋がっていく。

 「タイタニアドラゴン」、「エミルドラゴン」という各界の守護者との“繋がり”も是非感じて欲しいと寺田氏は語った。メインのストーリーは「SAGA13」で一度大きな区切りを迎える。そこまでの盛り上がり、その後はキャラクターにフォーカスした物語が展開する。

 寺田氏はスタッフと共にこれまでをふり返り、ドミニオン世界は「ECO」の中にあったにもかかわらず、部内で「別のゲームだよね」と話していたとのことだ。加えて本編に匹敵するような広さや遊びを提供できなかった。結果として開発スタッフがプレーヤーに遊んでもらいたかった「新たなキャラクターとなり、お互い切磋琢磨しながら強さを目指す」という、本来の「ECO」とは完全に異なったゲーム性はまったくユーザーの賛同を得られず世界にすら訪れる人もわずかだった。

 今後はドミニオン世界での「都市攻防戦」も気軽に参加できる。一気に多くのユーザーが殺到することも考えられるが、実装直後から徐々に拡張していっている。寺田氏は「遊びの幅の1つとして是非参加して欲しいです」と語った。「飛空城」の材料集めなど友達を誘って今までのキャラクターで行けるようになる。これまでにはない多くのユーザーがドミニオン世界を訪れることになるだろう。

 最後にユーザーへのメッセージとして寺田氏は「3年前とはいえ、ユーザーの皆さんを困惑させてしまい、申し訳ありませんでした。従来のドミニオン世界を遊んでいただいた方もたくさんいらっしゃるのは認識しているのですが、やはり遊びやすさ、今後の遊びの幅も考えてこのような変更を行なうことにしました。『ECO』はみんなで作る作品です。特にバランスに関しては今後も調整していきます。触っていただいて、意見を頂ければと思います。世界を今後も手を入れていきます。今後はドミニオン世界にも期待してください」と語った。

 榊田氏は「今回大規模な改修を行ないますが、今までのものを全て捨てるのではなく、従来のユーザーの皆様はもちろん、新規のユーザーの皆様にも今後さらなる広がりをみせる「ECO」に必要な変更だということをご理解いただければと思います。これからもぜひ飛空城など多彩なコンテンツを楽しんでいただいて、ご意見を頂ければと思います」と語った。



 「『ECO』にPKを入れる」と話を聞いた衝撃は今でも覚えている。「SAGA8」のインタビューで本作のコンセプトである「ハートフル」を開発と運営が真っ向から否定するアップデートのコンセプトを聞いたとき、それは明らかにユーザーの望まない要素であると感じた。

 確かに、PKのあるゲームの存在、それを前提とした人間関係は独得の楽しさを生む。MMORPGの魅力の1つだと思う。しかしこれまで「僕が君の盾になる」というキャッチフレーズで進んでいた「ECO」とはまったく異なる方向性だ。数多くのタイトルから「ECO」を選んだプレーヤーにとって、全く別のゲームが持つ価値観をいきなり体験させられることになった。このルールを入れたことは、正直今でも理解できないし、「過酷な世界を表現したかった」という説明は、納得しづらい。

 最初のインタビューの後、ユーザーの「ECO」に対する想いを守るためにも何かできないかと編集部と相談し、運営チームインタビューその2という形で大きく取り上げコンテンツを入れる意図を改めて問うことになった。これらの記事に関して当時のユーザーから賛同や応援の意見もいただいたが、フィールドチャンプシステムはいくつかの修正を加えられながらも実装された。それから3年、ドミニオン世界は結局ユーザーから賛同が得られず、「ECO」におけるPKを推奨するルールは消滅することになった。

 今回メインコンテンツであるストーリークエストすら、ドミニオン世界がネックとなって遊んでいるユーザーが少ないという話を聞いて、驚かされると共に納得するものがあった。コンセプトに合わないものをメーカー側が導入してもユーザーは反発するし、コンテンツとして遊ばれない。結局開発・運営側のごり押しによって、メインコンテンツすら遊べなくなっていたというのはサービスの意味すら考えさせられる。このリニューアルはもっともっと早くやるべきだったと思うし、これを言っても仕方のないことだが、当時強く思ったように、このようなルールを「ECO」に持ち込むべきではなかったと思う。

 その一方で、全く合わないコンテンツを触らず、それ以外のコンテンツで「ECO」を楽しみ続けるユーザーのタイトルに向ける愛情と、“タフさ”にも感心させられた。現在でも筆者にとって、「MMORPGのアップデート」ということにおいて、この「ECO」の事例は強い記憶に残る。ユーザー自身が運営の提示に「NO」を突き付け、開発・運営側が全面撤廃を行った今回の変更にユーザーはどう反応していくか、注目したい。


ドミニオン世界はDEMとの戦いで荒廃している。今回ようやく多くの人が行きやすくなった

(C) BROCCOLI/GungHo Online Entertainment,Inc./HEADLOCK Inc.
※ 画面は開発中のものです。


(2011年 8月 24日)

[Reported by 勝田哲也]