ジェットマン代表取締役社長 井上幸喜氏インタビュー
ゲーム開発者から見たiPhoneの可能性と3.0への展望


4月23日 収録


 株式会社ジェットマンは、音楽にあわせてダンスする女の子を指でタッチして楽しむこともできる3Dキャラクタービューワー「iDoll Viewer」や、部屋の中に誕生するゴミゴンを掃除していく教育ゲーム「Daisy & Danpy」などのiPhone/iPod touch用アプリケーションを開発した企業。iPhoneアプリだけではなく、コンシューマゲームの開発やWEBデザインなどのデジタルコンテンツの企画開発、UI(ユーザーインターフェイス)/UX(ユーザーエクスペリエンス)のデザイン、人材育成支援なども行なっている。

 同社代表取締役社長の井上幸喜氏は、プレイステーション黎明期にアドベンチャーゲーム「クーロンズゲート」でキャラクターデザインを担当。有限会社Jet graphicsの代表取締役社長も務めており、数多くのコンシューマゲームの開発も手がけている。スクウェア・エニックスより発売されたiPod用RPG「ソングサマナー」の開発にも関わり、2007年にはオンラインバーチャルワールド「Second Life」で「クーロンズゲート」のサイバーパンクな独特の世界を再現した「KOWLOON」SIM(島)を作り上げ、現在も運営している。

 これまでに様々なゲームプラットフォームを経験し「Second Life」にも手を伸ばした井上氏と、同社でUI/UXデザイナー テクニカルアドバイザーを務める相馬正枝氏に、iPhoneゲームの可能性について伺った。iPhoneの開発者ではないとわからない裏話や、リリースが楽しみなiPhone 3.0についてもここだけの話として迫ってみた。



■ ユーザーとの繋がりを感じながら開発できるiPhoneアプリ

――まずは、iPhone用アプリケーションの開発に参入しようと思ったきっかけを教えてください。

井上幸喜氏

井上幸喜氏: 最近はコンシューマゲームの受託をしておりますが、元々は頭から最後まで自前のソフトという形で、自分達のレーベルで出していました。しかし最近のコンシューマゲーム機はハードの性能が上がり、表現力がものすごくなった反面、制作に時間がかかるようになってしまいました。そこで、何か他のことで僕らが表現する場所はないのかと探していたところ、2~3年前は「Second Life」があり、そこで「KOWLOON」SIMを制作しました。

 その流れで携帯電話のアプリケーションという選択もあったのですが、ちょうどiPhoneが登場したこともあり、実際にiPhoneのアプリケーション開発を手がけるようになりました。当社の場合、ゲームの考え方を中心にしながら多角的に攻めたいということもあり、iPhoneならばゲーム以外にもいろんな展開ができるという期待もありました。

――携帯電話のアプリケーション開発に参入しなかった理由はあるのですか?

井上氏: 小さなソフトハウスが運営から配信までを自前でやろうとすると、サーバー設備なども含めて手間がかかります。iPhoneの場合は、自分達で開発したものをアップロードするだけでいいので、パブリッシャーとして展開しやすい環境だったという利点もありました。課金のシステムも簡単に導入できるという点に魅力を感じましたね。

 iPhoneへの参入理由はいくつか要因が重なったからでもあります。開発会社の場合、コンシューマ機でゲームを作るには、高い開発キットを買わなくてはなりませんし、それを買って作ったところで、パブリッシャーではない弊社のソフトが世の中に出ていく場合は、どうしてもパブリッシャーの名前しかでていきません。「クーロンズゲート」の時は、ソフトのパブリッシャーはソニー・コンピュータエンタテインメントだったのですが、開発者側の名前も前面に出て、自分の作品だという認識をユーザーが持って遊んでくれました。十数年経った今でもインターネットなどで「クーロンズゲート」が話題になると開発者の名前を書いてもらえるのは嬉しいことです。

 しかし最近のゲームは、ユーザーとの繋がりが薄くなってきたと感じています。今、僕は宝塚造形芸術大学で先生として生徒達に教えてもいるのですが、デザイナーの子たちは、自分の名前や功績が何にもないままにゲーム業界にいる気がしています。僕はそれをよしとはしたくなかったのです。それがiPhoneのアプリケーションだと、自分達の責任で出せるというのがすごく魅力的です。そういうところがまったく違いますね。

――井上さんは「Second Life」も手がけてきましたが、iPhoneのアプリケーションの開発でその要素が生かされている部分はありますか?

井上氏: ユーザーとの距離感をなるべく近くしたほうが、コンテンツとしては面白くなりますし、今っぽいと思います。「Second Life」は無料で入れて、ダメなら違うところにいけばいいというものでした。そういうとてもライトなところが「Second Life」の魅力だったのですが、広告業界が入ってきたとか、simを土地貸ししてとか、お金の話ばかりでドロドロしていたのです。結局いま残っているのは、ユーザーとコミュニケーションが取れたsimだけです。やはり作り手と遊び手の顔が見える距離感で、一緒に作っていこうというコミュニケーションが今からのゲームなのではないかと思ったわけです。

――iPhoneのアプリもそういう部分があるのですか?

井上氏: App Storeのリコメンドでユーザーの意見を聞けるので、繋がりを感じながら開発していけますし、アプリは日々更新できます。これまでのゲームでは未完成のものは出してはいけないと思うのですが、iPhoneのアプリは完成度が10%の時に出して、ユーザーのレコメンドを聞けるのです。「これはどう思う?」、「このまま作っていいですか?」といった問いもでき、ユーザー側の意見を取り入れながら作れます。そういう点ではまったく新しい手法で開発できるコンテンツだと思います。

――アップデートで新ステージが追加されましたとか、改良されましたというものが増えている理由はそういうことなのですね。ただユーザーは、なぜまだ完成していないものが出ているのだろうと思ってしまうところです。

井上氏: そう思われる方は多いと思います。「Second Life」でsimを開発していてわかったのは、ユーザーが開発者とともに作り上げていけるとわかった途端に、ユーザーから返ってくるものがとても多くなるのです。

――最初の完成度が低いと、その後に響くマイナスの印象を与えてしまうのでは?

井上氏: 大手のゲームメーカーさんだと、その看板であったり、安心感のあるものを出さなければいけないイメージがあるので、僕がさっき言ったようなやり方はできないと思います。弊社のような小さなソフトハウスだから可能なやり方なのだろうし、ユーザーが開発者と一緒に成長していきましょうよというスタンスを取ってくれれば、ひとつの方向としてはありえるのかなと思います。いまそれを模索しながらやっているところです。

――「Second Life」は人気がどんどん落ちてしまったようですが、iPhoneのアプリも似たような状況になってしまう可能性ことはあると思いますか?

井上氏: いずれは、あると思います。こういう業界で永遠に続くものはおそらくないし、衰退しやすいと思います。ただ、コンテンツの根っこだけしっかりしていれば、Androidにいってもいいわけですし、さらにその次にあるもの、まだ見たこともないものにも繋がっていくと思います。僕としてはコンテンツをしっかりと持っていれば、あまり怖くないと思いますね。



■ App Storeは画期的で時代に合ったアプリ配信システム

――アプリケーションを販売しているApp Storeについてはどう感じていますか?

井上氏: とても進んだ考え方だと思いますね。アプリの開発者側に課金のシステムを貸して、その手数料をAppleに払うという、シンプルでわかりやすい考え方をしています。混沌としている面もありますが、インターネット通販のAmazonのシステムのように、膨大な数の品物の中から目的の物を探して楽しめるという側面もあります。僕はAppleが意図しているところはわからないですが、わざとああいうことをしているのではないかと思っています。

 これまでは、ソフトの種類がたくさん増えると、「『ATARI』ショック」のようなことが起きると言われ、日本では嫌がられてきました。そのためゲーム業界ではメーカーがソフトのクオリティチェックを行ない、ある程度の質に達してからでないと出せない仕組みを取っていました。それがApp Storeでは世界中のアマチュアもプロもみんなが同じ土壌で、ソフトを配信して競い合えます。これは開発者のモチベーションアップにも繋がる、いい仕組みだと思います。

――膨大な数のアプリの中から自分にあったゲームを探すのは、結構な苦労だと思うのですが……。

井上氏: どれがいいのかわからない人や探すのが面倒な人は、ブログなどの記事を参考にできますから、いまの時代に合っている気はします。レコメンドがあるシステムもAmazonに似ているし、そこでファン意識が生まれるのではないかと思います。しかも書かれているコメントも英語のものがあったりして、今までは日本の狭い中で動いていたコンテンツが、いきなりグローバルになったというのを感じます。とても新しいことをやっている気がしますね。

――ユーザーの評価を見ていてどう思いますか?

井上氏: Appleとしてこういうものはいいとか悪いとか書く人と、ゲームと比べて書いている人がいて、面白いですね。あと海外と日本でも評価に違いがあり、それぞれの特長が現われています。日本人の場合、何かと比べてどこかで見た、何かのマネだとすぐ書くのですが、海外の人達は、ここを直した方がいい、こういうものが欲しい、というリアルなレスが多くなっています。

――日本のゲーム好きなユーザーはレビュー的な批評部分が多いけれど、海外の方は一緒にやっていきましょうというスタンスですね。

井上氏: 日本のゲームが古いと言われているのは、iPhoneの状態を見てもわかるような気がしますね。日本のユーザーさんは本当に保守的で、新しいものに関してはコテンパンに叩きます。グラフィックスは大したことがなくても、新しい考え方を入れているから興味深い、と書いてくれる人が少ないですね。逆に、総合的に優等生なものにはいい評価がつきます。昔から多くのゲームをやっているからというのがあるからだと思います。



■ 海外に発信される日本文化で“忍者”の次は“萌え”なのか!?

――iPhoneのアプリは海外でも配信されていますが、市場規模の大きい海外のユーザーに目がいく仕掛けを入れていたりするのでしょうか?

井上氏: うちも試行錯誤しています。やはり日本文化というところが売れ筋のようで、忍者や日本テイストのものはダウンロード数も多いですね。

――忍者を題材にしたものは本当に多いですね。

井上氏: 忍者ブームの後で僕らが出したのは、日本の萌え文化やキャラクターですね。iPhoneと萌え文化というのは合わないように思えるかもしれませんが、僕はイコールだという気がするのです。デジタルガジェット好きというのは世界共通ではないかというのが根拠です。海外のカンファレンスなどでiPhoneを持っている人を見ると、日本のユーザーと趣味趣向が変わらない感じがします。「ガンダム」ではなくて「スター・トレック」が好きだとか。であれば、萌えも好まれるんじゃないかと思っていて、今はそれを探っている状態です。

 海外のレビュアーの方に「iDoll Viewer」のレビューを頼んだのですが、彼らのコメントを見ると、“COOL”という評価もありましたが、萌えについてわからないという人が多く、「日本人はおかしい」と書かれたりもしました。ちなみに今はアジア圏のアクセス数が多く、日本と趣向が共通するところがあるんだなと感じています。

【iDoll Viewer】
最初の女の子のプロフィールは、ジェットマンのホームページでチェックできる音楽にあわせて踊る女の子(画面)に指で触れて、回転させたり拡大縮小が可能女の子のクルッと回転させて背中を見ると、アップルファンには懐かしいApple IIを背負っている
画面を指でピンチすると女の子を拡大させ、接近して見られる女の子を指で突っつくようにダブルタップすると恥ずかしがるノリノリな踊りで見ている人たちを和ましてくれる


――「Daisy & Danpy」の評判は世界的にはどうですか?

井上氏: 日本ではキャラクターに対する評価がイマイチなのですが、欧州では不思議とウケがよく、キャラクターが評価されています。ダウンロード数で言うと、2/3が日本で、1/3が欧米です。おかげでマーケットリサーチにもなっています。iPhoneのアプリだと世界規模での調査や実験を自分達でできるのが画期的ですね。

【Daisy & Danpy】
「お掃除ディジー」は子供たちにお掃除の楽しさ伝えることをコンセプトに開発された「しつけ系教育ゲーム」本体を傾けて元気な女の子「ディジー」を動かし、お部屋に発生する掃除機型のお化け「ダンピー」を掃除機で吸い取っていく制限時間になるとゲームオーバー。現バージョンでは1面だけだが、今後の有料版ではステージ数も増える予定だ


――日本で作ったゲームの評判を世界中で聞こうとしたら、家庭用ゲーム機のソフトやケータイのアプリでは難しいですからね。

井上氏: iPhoneのアプリはアップロードしたその日の内に世界中から評判が返ってきます。それは恐ろしいことですが、生の情報が聞けるのは嬉しいことです。それにiPhoneだと開発の名前も出せるし、リサーチもできます。小さい会社にとっては、コンテンツさえしっかりしていれば勝負できるという面白い筐体です。

――iPhoneのアプリを作ると儲かるというようなイメージが一時期広まっていましたが、現状はいかがですか?

井上氏: 単純にユーザーからお金を取る形では儲からないと思います。それは「Second Life」で十分感じました。お金を取るところは、僕はBtoB(Business to Business)だと思いますね。ユーザーには無料で提供して、企業からお金をいただく形式にするわけです。無料よりも高いものをユーザーから引き上げて、企業に返してあげればいい、ということで動いています。



■ 有料版の配信は、実は結構大変

――「iDoll Viewer」をリリースするときに苦労されたようですが、どういうところが大変だったのですか?

相馬正枝氏

相馬正枝氏: 最初の手続き関連でとても苦労しました。手続きの説明は日本語で書かれたものがなく、各国のデベロッパー向けに用意された文章しかありませんでした。そこでそれらを苦労して読み解きつつ、個人で作られている方のブログなどの情報を頼りに申請していきました。

 有料版のアプリの場合はさらに大変で、米国の財務局で取得した財務番号など、米国政府関連の手続きが必要になります。そして、取得した税務情報や銀行口座などをiTunes Connectに申請して、許可が出れば販売できるようになります。ところが、その許可がいつOKになるのかわかりません。2週間という噂もあれば、2~3カ月というのもあります。中には半年待っているという人もいて、デベロッパーの間では「ペンディングコントラクト地獄」と言われています。私たちはそれで何度もAppleに電話やメールをしたり、セミナーに行って直接話したりして、結局2カ月かかりました。

井上氏: それが無事に済めば、次からは有料コンテンツであってもそんなに時間がかかることはないですね。起動チェックとバグチェックされてアップするので、長くても2週間ぐらいと言う形ですね。

――「iDoll Viewer」は有料ですから、いつ配信されるのか全然読めなかったわけですね。

井上氏: 実は1月3日には“Ready for Sale(発売可能)”になり、バグもなく準備万端ではあったのですが、お金の方の手続きが終わっていないため配信されなかったのです。実際に発売されたのは2カ月後で、そのためApp Storeの新作の項目に「iDoll Viewer」は出なかったのです。そういう事情も出してみて初めてわかりましたね。この経験を活かして、新規参入される方を支援する業務を始めようかと思っています。

――iPhoneに参入する上で、これは気をつけておくべきというポイントはありますか?

相馬氏: デベロッパー情報など、1度登録した内容を後で変更できない場合が多いです。Appleに連絡して直してもらことになりますが、やはり時間がかかってしまいます。

井上氏: 「Daisy & Danpy」と「iDoll Viewer」は同じジェットマンから出しているのですが、別々の場所で作っていたことと、2つのライセンスを持っていたこともあり、別々にアップロードしたところ、それぞれ別会社のものとして扱われてしまいました。それについて文句を言っても取り合ってくれないので、注意した方がいいですね。あと以前は、無料アプリはある日突然App Storeで公開されるので驚きました。プレスリリースの準備もしていますが、特に通知もないので、自分でApp Storeを確認するまでわからなかったのです。今はデベロッパー側からリリース日は指定できるようになりましたが、その日のいつなのかはまだわかりません。

 ほかに面白い話としては、無料版と有料版のダウンロード数は、桁が2つ違います。あと有料版は、長期間ランキングの100位圏内に入らないと儲かりません。最初に一気に上位に入っても、すぐにランキング圏外に消えてしまうものは辛いですね。細かくアップデートしたり、無料版を出していくというのも手ではあります。僕らもいろんな実験を兼ねて、いろんなアプローチをしてみようと思っています。

――最近はフリー版が多くなったり、一定期間だけ安く販売されたりと、いろんなケースが増えていますね。

井上氏: 世界中のデベロッパーがいろいろな売り出す手法を考えているので、面白いですよ。以前はフル機能と同じ内容に時間制限を持たせたものをお試し版として出すのが主流だった時期もあるのですが、それだと有料版を買わないというのがわかって、機能を制限したライト版が始まった、というのが今の状態です。

――世界中に向けてプロモーションしていく術は、発掘されていないかもしれないですね。

井上氏: まだまだあると思いますね。上手くいったケースやダメなケースを、まとめている人たちもいます。もはや学会くらいはできるんじゃないかという規模ですね。



■ 開発者が感じるアプリ金額の相場とは?

――開発者として、有料アプリの価格に関してどう感じていますか?

井上氏: 街のコーヒーショップでコーヒーを飲んで300円使っても高いと感じる人は少ないのに、App Storeで300円だと高いと書かれます。お金の価値観が違う感じがしますね。そこで最初はお金を取らずに、ネットのオンラインゲームやアバターのように、もっと深く楽しみたかったら課金するというシステムにしてみようと考えています。

――価格に対しての感覚は、日本と海外のユーザーで違いはありますか?

井上氏: 米国人も日本人も金額の価値観は同じようで、個人が開発したゲームは100円でも高いと言います。高いと文句を言う人と、買った僕がバカだったと言う人がいて、感覚的には日本人と一緒なのではないかと思います。ゲームの場合、ほとんど無料か100円だということもありますが、これが業務用のゲームであったり、ビジネスツールだったりした場合は、ちゃんとお金を払っています。また、買う前にApp Storeのレコメンドをちゃんと読んだり、他のサイトの評判を見てから買っているようです。

――iPhone以前の欧米のモバイルゲームは、1,000円くらいのものも当たり前にありましたし、iPhoneも当初は1,000円前後のものが数多くありました。それが今や100円では高いと言われるようになったのはなぜだと思いますか?

井上氏: ネットに繋がったというのがあると思いますね。僕はネットにある情報というのは、お客さんからお金を取れないと思っています。あとAppleがソフトの質を保証してくれれば、少し高くても買う人が大勢いると思うのですが、それもなくてユーザーが自由に選んでいく形になっています。ユーザーさんとデベロッパーさんの話し合いの上でソフトの価格を決めていくという形です。僕はこれは、この時代だから取った形なのではないかと思います。



■ iPhone 3.0で今までできなかった新アプリが続々登場

――先日、iPhone OS 3.0が発表されましたが、これはiPhoneアプリにどういう変化をもたらすと思いますか?

井上氏: 我々はもう実際に触っていますが、今まではできなかった、ユーザーが持っているサウンドなどのデータをアプリから利用できるようになるので、すごく面白いものができると思います。残念なのは、2つのアプリケーションを立ち上げることは実現できなかったところです。マルチタスクができれば、GPSなど他のソフトウェアを使って、そこに勝手に上乗せしたソフトを作れたのですが……。そうなればAppleらしいとも思いますし。

――金銭面でも今とは別の仕組みが入っているようですが、ビジネス的に何か変化とかはありますか?

井上氏: アプリの中での課金ができるようになるので、小さなコンテンツを売りやすくなると思います。例えばアバターの服を追加料金で売るなど、アイテム課金のオンラインRPGなどが出てくるかと思います。僕らとしては、せっかくの携帯ツールなので、その課金システムを使いつつ、街中でゲームを楽しめる仕組みなどを提案したいと思います。街に飛び出して特定の場所に行くと、その場所でしか買えない武器やアイテムを課金して購入できるといった仕組みをやろうかなと考えています。ほかにも特定の場所に行くと、ゲーム画面上に竜が現われて戦えるとか。「電脳コイル」の世界を実現できると思いますし、準備もしています。

――iPhone 3.0と同時に新しい仕組みを使ったゲームが出てきそうですね。

井上氏: すごく変わると思いますね。それに、今よりも多くのゲームメーカーが参入してくるはずです。課金の仕組みが変わることも影響して、「モバゲータウン」みたいなことをやってくるところも出てくると思いますよ。

――御社のアプリの今後の展開はどのような予定ですか?

井上氏: 「Daisy & Danpy」は、今出ているバージョンは僕らとしてはお試し版ととらえています。次に正式版を1カ月以内に出せるよう作っています。さらに教育の面を強く出したものにするためいろんな仕組みを入れており、世界に通用するよう言葉がなくてもコミュニケーションが取れる形にしようと思っています。

 「iDoll Viewer」に関してもいろいろ考えています。あの子はキャンペーンガールのようなものなので、いろんなイベントに行く可能性もあります。例えばバドワイザーのバドガールみたいな感じで、どこかのメーカーの服を着て、1週間限定で展開したり、といったことも考えています。また今は女の子だけですが、モデルは男の子でも構わないし、ほかにも企業の着ぐるみであってもいいし、もっとリアルなものでもいいので、時間をかけてゆっくり展開していこうと思っています。あの女の子のアクションはもともと非常に少ないアクションで動いていて、自動生成することも可能ですので、応用しやすいものになっています。

――iPhone 3.0の「iDoll Viewer」は、さらにすごくなりそうですね。

井上氏: 台詞を入れてしゃべるようにしたり、曲を好きにセレクトして踊らせたり、踊りを自動生成して曲に合わせて勝手に踊るような仕組みを入れようとしています。プレイリストに1曲入れておくと、女の子が勝手に洋服やライティングを変えたりするのも可能になると思います。カラオケバーみたいに曲によって歌い出すとか、イコライザー的にユーザーの意図していないアクションをしたりとか、そういう演出もできると思います。

 しかし、僕らとしてはそこが目標ではなく、企業の方々に技術力を見てもらいたいというのが狙いです。弊社は「iDoll Viewer」の仕組みを使った3Dビューアーをウリにしているので、あれを使った動くパンフレットであるとか、そういう展開をしていこうと考えています。映画の宣伝用アプリに使っていただいたり、ショールームなどで3Dで動かないものを実際に触って動かして見てもらったりといったことも考えています。

――ほかにはどのようなアプリを予定していますか?

井上氏: App Storeで配信するものではなく、ミドルウェアのような企業向けの固いアプリケーションを考えてます。単なる業務用ソフトではなく、弊社なりのゲームの考え方を活かしたものも作っていこうと思っています。

――多角的に展開していくわけですね。

井上氏: iPhone 3.0が出る前から少しずつ動き出しています。弊社は「iDoll Viewer」だけの会社ではないので、そのイメージがついて欲しくはないと思っているんですよ。実際、あれは洒落で作ったようなものなので(笑)。

――洒落という割にはこだわって作られていますし、今後の展開も楽しみですね。

井上氏: 「iDoll Viewer」は続々と進化中で、ミニキャラにもなって踊るようにもなります。海外でのイベントでも反応がよかったようで、日本人のバカさ加減を世界にアピールしたいとも思っています。今後はiPhoneを使った、広告の仕組みも考えていて、タレントさんや商品に関する新情報をすぐに見られるアプリを広告媒体として出していこうとも考えています。

――今後の展開に期待しています。ありがとうございました。

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(2009年 6月 15日)

[Reported by 川村和弘]