インタビュー

「World of Tanks」プロダクトマネージャーMaxim Chuvalo氏インタビュー

「大事なのは誰もが手軽にe-Sportsプレーヤーになれること」

4月25日、26日開催



会場:Expo XXI(ポーランド・ワルシャワ)

 現在ワルシャワで開催されている「World of Tanks」の世界大会「World of Tanks The Grand Finals 2015」では、連日熱戦が繰り広げられ、ポーランドのe-Sportsファンが熱い声援を送っている。試合の合間を縫ってWargaming.netスタッフへのインタビューが行なわれたのでその模様をお伝えしたい。

 まず最初のインタビューは「WoT」のプロダクトマネージャーを務めるMaxim Chuvalo氏。「WoT」はWargaming.netそのものであり、その責任は重大だ。しかもオンラインゲームだけに日々進化し続けなければならない。どのようなポリシーでこの巨大なオンラインゲームをマネジメントしているのか聞いた。

今重視しているのは「誰でも手軽にe-Sportsプレーヤーになれる」こと

「World of Tanks」プロダクトマネージャーMaxim Chuvalo氏
Wargaming.netはe-Sportsに大きな成長を見込む
実は「ガルパン」の大ファンだというChuvalo氏

――本大会のルールが変更されたが、その理由は?

Chuvalo氏:実は前回のGrand Finalsの開催以前から、地方大会等で問題点が指摘されてきていて、昨年のGrand Finalsで急にルールを変えたというわけではない。昨年のGrand Finalsは引き分けが多く、観ている人がダレてしまうので、反省点を洗い出してルールの調整に入った。ルールの変更にあたっては、クランや選手の意見を聞いて、共に作って行った。

――大会ルールは今後も変わる可能性があるのか?

Chuvalo氏:もちろん、Grand Finalsや地域リーグによって選手からの意見が出て、何かが悪いということになれば検討し、変えていく可能性はある。たとえば、現在はTier8までしか使えないが、Tier10まで使える大会になるかもしれない。常に最適なレベル帯、最適なルールを考えている。もちろん、選手のみならず、視聴者やゲームに興味のある方からアイデアがあって我々に共有していただければルールになる可能性もある。

――「WoT」のサービスの現状について、どのように考えているか?

Chuvalo氏:現状に満足しているわけではなく、今後もさらに良いものを提供していきたい。あくまで製品ではなく、サービスを提供しているつもり。常にゲーム開発だけでなく、その周りに関係するすべてのもの、たとえば文化、遺産など、日本だと「ガールズ&パンツァー(ガルパン)」のような特定地域に対する文化の理解。このワルシャワだと博物館に協力したりしています。e-Sportsもそのサービスのひとつで、ワルシャワのユーザーだけでなく、世界中に影響を与えるものだと認識しており、今後も継続していきたいと考えている。

――プレスカンファレンスの質疑応答では、「WoT」はハードコアユーザー向けという意見があり、その側面は確かにあると思う。ビギナーがチームを簡単に組む施策はないのか?

Chuvalo氏:e-Sports戦略において、ハードコアだけを対象とするだけではなく、カジュアルにも入っていただくための施策は重要で、そこからハードコアにステップアップしやすいようにしていくことも大事。現在、ゲームに誰でも簡単に、より手軽にe-Sportsプレーヤーになれるような施策を導入している。たとえば最新の9.7アップデートでは、従来のチームバトルを大幅に変更して、ソロでも4人のチームバトルに参加できるようになり、そこでe-Sportsルールで戦うことができ、そこで気の合ったプレーヤーと固定のチームを作ることも可能となっている。固定のチームでは名前やロゴを付けたり、e-Sportsチームと同じ事ができる。ラダーシステムも用意され、ソロでも参加できるので手軽にマッチングできるし、同じランクのプレーヤーもマッチングするので、一般の方もe-Sportsに参加しやすくなっている。

――今後のバランス調整の方向性を教えて欲しい。戦車のバランスが変わることはあるか?

Chuvalo氏:まず、公平にするだけのバランス調整は考えていない。理由は平等にすると同じ戦車しか使わなくなるし、試合にメリハリがなくなってしまうし、すぐ飽きてしまう。このためすべてを平等にするというつもりはない。バランス調整という面では、ハードコア向けではなく、ビギナー向けの調整は今後も行なっていく。たとえば、9.7アップデートでは、ビギナーがTier3までの戦闘に参加した場合、常連のユーザーとマッチングしにくくなっている。このため一方的に倒されることは可能な限り避けるようになっている。

 また、戦車に関しては強い弱いがあるが、すべての戦車に特徴がある。たとえば、まだ「WoT」が世界的に有名なゲームではなかった頃、私は最初はドイツ戦車ではじめた。カッコイイし、装甲や主砲の使い方がわからないと使えないニッチな設定になっている。私はハードコアなゲーマーだったので、ドイツ戦車の装甲が何ミリで、どうしたら敵の砲弾をはじけるかとか、主砲の仰角や俯角はどれぐらいだとか、そういった内容を勉強したり確認しながら戦うのはドイツ戦車が楽しいし、そうでない方はソ連戦車を使えば扱いやすくてわかりやすいので楽しいと思う。皆さんも自分に合った戦車を研究して欲しい。

――真のハードコアゲーマーはどの戦車を使うべきか、やはり英国戦車か?

Chuvalo氏:そうかもしれない(笑)。

――ガルパンコラボなど、日本におけるオタクカルチャーを「WoT」に取り入れたことについてどう考えているか?

Chuvalo氏:実は自分もオタクカルチャーの一員です。本当に日本のアニメが好きで、今は忙しくなってあまりアニメが見られていないが、「ガルパン」とコラボできたことはとても嬉しい。個人的に「ガルパン」は全話観て、劇場版も楽しみにしている(笑)。

サラリーシステムの目的は“プレーヤー達の成長”

今回の目玉となったリーグにおけるサラリーシステム。最短半年でプロゲーマーになれるチャンスが与えられる
グローバルとリージョン毎に予算を設定。e-Sportsビジネスとして大きく育てるつもりだ

――今回発表された新しいリーグシステムに期待することは何か?

Chuvalo氏:我々が新しいリーグに期待しているのは、プレーヤー達の成長。プレスカンファレンスでもお伝えしたように我々にとってのビジネスのひとつ。選手達にとってもこれをひとつのビジネスとして使って欲しい。新しいサラリーシステムや我々に対する協力によって別の褒賞システムも用意している。選手達が有名になってスポンサーと個人契約をしたり、CMに出たり、ゲームを仕事のひとつとして扱って貰えるようにプレーヤーも成長して貰えればと思う。選手達が仕事のひとつとして自分を売り込んだり、学んでいけるか。今年の大会は、去年と比較して来場者数も倍以上に増えて、より大きなコストを投じている分だけ更なる成長への期待も高い。うまくいけば来年はさらに大きな場所、人数でやるかもしれない。今後の成長に期待している。

――GOLDリーグのサラリーシステムについて詳しく教えて欲しい。

Chuvalo氏:新しいサラリーシステムは、この大会が終わったら新しいシーズンからすぐに開始される。いくつかの選手とはすでに契約を取り交わしている。各リージョンの予算は75万ドルで、具体的な内容は大会後にわかる。主な目的は経済的に独立してもらうこと。定期的な収入を得ることで生活や将来への不安を取り除き、ゲーミングに集中できる環境を整える。サラリーの額はそのプレーヤーがどういったコンテンツを提供するかという部分による。上位チームは新しいe-Sportsプレーヤーを育てるために彼らの知識を共有して我々に協力してほしいし、サラリーの金額を増やしていくためには、我々に対してコンテンツを提供する必要がある

――1人が貰えるサラリーの金額はいくらぐらいを想定しているのか?

Chuvalo氏:サラリーの総額はプレーヤーが提供するコンテンツや力量によって変わる。NAVIの場合、大会やGrand Finalsなどで得た賞金が30万ドル(約3,600万円)、これを7人で分け合うことになるので、かなりの額になる。我々が支払うサラリーの額は、だいたい月額で1,500から2,000ドルぐらいを得ながら、それ以外にもスポンサーからの報酬や、大会の賞金なども手に入れることができる。

――契約期間は?

Chuvalo氏:まだ試験中なので、特に期間の設定はない。今後の展開次第で色々変わってくるとしか言えない。選手も我々もお互いが満足するところで落ち着くと思う。

――サラリーシステムは、GOLDリーグに昇格すれば自動的にサラリーが支給されるという認識でいいのか、それともNAVIのようなGOLDのトップチームだけに与えられるものなのか?

Chuvalo氏:現在は契約を交わしたトップチームだけだが、今後はGOLDリーグに昇格した瞬間から契約を交わし、選手達にサラリーを支払うつもり。基本的にはチームとの契約になるが、チームに所属する個人は全員もらえるようになる

――現在大会の映像をTwitchやYouTubeで配信しているが、自分でもっと手軽に配信できるようにならないか?

Chuvalo氏:Twitchと共同で開発したTwitch MODがある。ボタンを押せば配信が始まるというもの。我々は常にプレーヤーの活動に協力することを重要視している。Twitchでの配信に協力したり、ソフトウェアの提供以外にも、チームとして独り立ちするために動画をカッコ良く仕上げるかとか、動画配信やホームページの作成方法に関して、現在マニュアルなども作っているところ。我々としては常にベストを尽くしたい。

(中村聖司)