インタビュー

「League of Legends」プロチームDetonatioN、北米遠征インタビュー

プロゲーマーの生活、練習、そして文化の違い、すべてを糧に!

ビデオ通話にて現地の選手たちにインタビューを実施した

 3月29日に行なわれた「League of Legends」の国内頂上決戦「LJL 2015 Season 1 Final」から10日あまり(関連記事)が経過した。そこで圧倒的な強さを見せつけたプロゲーミングチームDetonatioN Focus Meのメンバーは現在、米カルフォルニア州のニューアーク市にて強化遠征を実施中だ。

 DetonatioN Focus Meは日本初のフルタイム・給与制のプロゲーミングチーム。プロ活動としては2月にスタートしたばかりだが、既にチーム専用のゲーミングハウスを確保し、海外のプロチームとも積極的に練習試合を行なうなど、その活動は本格的にスタートしている。

 さて、その彼らは上述の大会「LJL 2015 Season 1 Final」に勝利したことで、4月24日~26日にトルコ・イスタンブールで開催される「LoL」の公式国際大会「International Wild Card Invitational(IWCI)」への出場権を獲得した。「IWCI」は“世界チャンピオンを決める大会への切符を手に入れるための大会”という位置づけで、そこで勝つことができれば「LoL」強豪国がひしめく頂点大会「Mid-Season Invitational (MSI)」に出場できる。

 そうなればDatonatoN Focus Meは、日本の「LoL」チームとして初めて、世界の頂点を狙える位置に立つことになる。その切符を手に入れるための「IWCI」では、優勝以外の結果はありえず、「LoL」中堅国・地域の6チームを破らなければならない。それが今回、「LoL」の本場である北米へ遠征を行なった理由だ。海外勢との戦いに向けてチーム力を上げるという目的である。

 現地で彼らを迎えるホストチームは、北米の「LoL」トップリーグであるNorth American League Championship Series(LCS)で最も成功を収めているチームのCloud 9。Coloud 9はDetonatioN Focus Meと同じくLogitech(ロジクール)のスポンサーシップを受けているチームであることから、強化合宿の段取りはスムーズに行なわれたようである。

 それにしても、5人編成の「LoL」のチームをまるまる1つ北米に送り出すというのはそれなりのコストがかかるし、一般常識に照らしてみれば“ゲームの練習”としてはやりすぎな感じもある。それを敢えてやる理由はなんだろうか。確かに、プロゲーマーというのは、試合で勝って注目を浴びることがすべての土台になる職業である。試合に勝てなければすべてを失う。そんなプレッシャーの中で、DetonatioN Focus Meの面々はどのように考え、日々の練習に取り組んでいるのだろうか。ビデオインタビューの模様を通じてそのあたりの雰囲気をお伝えしよう。

渡米したDetonatioN Focus Meの選手たち。Logitechのオフィスで海外トップチームとの練習に励む

北米トップレベルのチームと合宿!1日10時間以上の猛練習で得るものとは?

Logitechオフィスで紹介されるDetonatioN Focus Meのメンバー

──今回の遠征合宿には、どういったチーム編成で行かれていますか?

チームマネージャー 梅崎 伸幸氏:Detonation Focus Meとしては、私を含めて5人体制ですね。それに加えてLJL(League of Legends Japan League)の専属キャスターのeyesさん、ロジクールからは中尾さんに帯同していただき、合計7名での遠征になっています。場所はサンフランシスコから車で30分ほどの場所にあるニューアークというところで、こちらには9日間ほど滞在する予定です。

──そこでCloud 9のメンバーと実際に顔を合わせてプレイできる環境があるというわけですね。

梅崎氏:はい、今のところは(※遠征3日目)Cloud 9の本チームとの対戦はできていないのですが、練習そのものは到着してすぐに開始して、今日は初めてチーム練習をしたんですね。いきなりCloud 9の本チームとやるというのは難しいので、その下部組織のチームであるCloud 9 Tempestと練習試合をさせていただきました。

──その強さはどうでしたか?

梅崎氏:Tempestは下部組織のチームとはいえ、LCS Challengerリーグという1つ下のリーグでほぼトップのチームなので、LCSトップリーグの下位チームとおおよそ変わらないくらいの実力を持っています。

──サッカーで言えば2部優勝を争うようなチームということですか?

梅崎氏:そうですね。Jリーグで言えば、J2の優勝候補という感じですね。そのチームと今日練習試合をさせてもらったんですが、かなりいい勝負ができています。先方からも、練習相手として申し分ないといった評価も頂いています。

現地で北米の強豪チームを研究
やはり低Ping環境というのは立ち回りにも違いがでるという

──直接顔を合わせて対戦するというのは、やはりネット越しでやるのとは違いますか。

梅崎氏:はい、日本にいるときは海外のチームとやるときに、NA(North Amerca)サーバーであるとか、韓国のKRサーバーといった、日本から離れた地域のサーバーに接続してプレイをしていたんですけれども、それだとどうしてもネットワーク遅延の差が大きくて、どうしてもプレイに影響してしまうようなところがあるんですね。そこで今回、サーバーがある国に来て実際にプレイしてみたところ、ラグがほぼないという状況です。日本からつなぐとPingが120ミリ秒くらいですけど、ここからなら20ミリ秒くらいで、最高の環境でプレイすることができています。

──なるほど、良い環境でプレイできてるんですね。各選手の感想はいかがですか?

BonziN選手:TopレーンをやってますBonziNです。ここにきて1番よかったのは、やっぱりPingの低い状況で練習できるところです。さらに北米の上位層のチームとも練習できるということで、今日プレイしたんですけれども、互角に戦うことができて、非常に自信につながりました。

Ceros選手:MidレーンのCerosです。やはり低Pingの環境に慣れることができるということで、本番に向けての良い準備ができている感じです。北米上位層の自分たちよりも強いチームと対戦したところ、非常に手応えのある試合内容でしたので、自信が持てました。

Astarore選手:JunglerのAstaroreです。今まで低Pingでできるということが1度もなかったんですが、ここにきてやっぱり全然違うなと。今までできなかったことができる、というのが凄く大きなところだと思います。本番はこれと同等かそれ以上に良い環境なので、そこに向けた練習ができて良いと思います。

KazuXD選手:サポートのKazuXDです。今回の遠征では選手たちが低Ping環境に慣れるということももちろん大事なんですけれども、遠征をする経験そのものが1番大事だと思っています。今回はロジクールさんのおかげで渡航して、オフィスで練習するということができていまして、良い経験ができていると思います。

食事や水、時差ボケへの対策も学んでいく

──海外の大会でも似た環境になるので、あらかじめその空気に慣れておくという狙いですか。

KazuXD選手:そうですね、あとは食事についても、いつも食べているようなものではなくて、現地のものに慣れる必要があります。そういった部分も含めて経験していくことが大事だと思っています。

──ちなみに皆さんの海外渡航経験はどれくらいですか?

梅崎氏:実はKazuXD選手はもともとフランスに住んでいましたし、BonziN選手は高校までアメリカに住んでいたという経緯もありまして。他のメンバーについても、昨年、ロジクールさんに中国のChina Joyというイベントに連れて行ってもらったことがありまして、海外渡航自体にはそれなりに慣れている感じです。

BonziN選手:でもまだ時差の混乱はありますね。いつもとはズレた時間に眠くなってくるというか(一同笑)。

梅崎氏:あと食事も、こちらはわりと大味な物が多いので、そろそろさっぱりとしたものが食べたいです(笑)。

──時差には早く慣れないといけませんね。これからCloud 9のトップチームとも練習するとのことですが、見込みとしてはどうですか。勝ちますか?

KazuXD選手:そうですね、今回は勝敗そのものよりも、自分たちにとって良い練習になったかどうかを重視していますので、練習では勝ち負けにあまりこだわらないと思いますね。本番の「IWCI」では少なくともCloud 9のトップチームほどの力を持つチームは出てこないはずですので、まずは強い相手としっかり練習をすることを重視しています。

──今回はいいところを学びに来た、という感じですかね。やっぱり、チームとしての戦い方とか、セオリー的なものは違いますか?

KazuXD選手:もともとDetonatioN Focus Meは韓国サーバーでやっているのですが、今回北米のチームと練習試合をしてみて、どのチャンピオンを重視するかといった考え方が地域によって違うというのは感じられました。

──なるほど。いまの「LoL」には100種類上のチャンピオンが実装されていますが、それらはすべて把握した上で、それでも国によって傾向が違うと。

Ceros選手:そうですね、LJLに出てくるようなチームはまず全てのチャンピオンの性能を把握していますね。その中でよく使われるチャンピオンは掘り下げて研究するという感じです。それが地域によって全く使われてなかったり、他の地域では頻繁に使われていたりという違いがあるので、うまくすれば初見殺しというか、対策をされていないチームにぶつけることができれば、かなり有利に試合を運ぶことができると思います。

──「IWCI」では大きなリーグのない国が出場するということで、ある意味世界中からチームが集まりますよね。そうすると、世界各地の異なる戦い方が凝縮して見られる、というふうに期待していいんでしょうか?

BonziN選手:そうですね、明らかにいろいろなタイプのチームの色が見られると思います。

──今特に警戒している相手はいますか?

KazuXD選手:「IWCI」の試合は、予選がBO1の総当り、その上位4チームがBO5のトーナメント戦になるんですけれども、総当りに関してどのチームを警戒しているとかは、情報戦の一部になってきますので、ここでは言えない話になりますね。LJLの生放送や録画についても、シーズン終盤になると海外からのアクセスが非常に高くなっていると聞いていまして、それだけ注目されているのかなと思っています。

──逆に皆さんとしても、対戦する可能性がある国の動画等はチェック済みですか?

KazuXD選手:もちろんです。動画を見て、というのは一部ですが、どこまでやっているかというのは、それもまだ教えられないんです(笑)。少なくとも、どうしても勝つためには相手よりも研究する必要はあると思いますので、できる範囲でやっています。「LoL」はリアルタイムストラテジーなので、やはりストラテジーの部分が強いですからね。

──なるほど。それだけ現地での練習にも熱が入りそうですが、どのようなスケジュールで練習をしていく予定ですか?

梅崎氏:外食等のちょっとした息抜きを除けば、すべての時間は個人練習もしくはチーム練習に充てたいと考えています。具体的にはLCSやLCS Challengerリーグに出ているチーム多数と話をして、練習試合を組んでいく予定でいます。

──ちなみに1日何時間くらい……?

Ceros選手:Logitech本社の一室を借りてゲームをしているんですけれども、ここは24時間好きなときに入れるようになっています。今日は朝8時くらいに入って、いまさっきまで、午後7時半くらいまで練習していましたね。もちろん昼食を間に挟んでますが、実質10時間以上はやっていますね。

KazuXD選手:この後も、まだできる!?

梅崎氏:さすがにもう無理かな(一同笑)。そう考えると1日10時間かそれ以上です。まだ時差ボケがありますので、それが解消してきたら明日以降はもっとやるかもしれませんね。

DetonatioNメンバーの使用デバイスを公開!

食事もLogitechで。「LoL」の集中練習のための理想的な環境

 ここで一旦遠征そのものへの質問を休憩して、各メンバーが使用しているゲーミングデバイスについて聞いてみた。DetonatioN Focus Meはロジクールのスポンサードを受けていることもあり、使用デバイスはロジクールGシリーズで統一されている。とはいえ幅広いラインナップの中から“勝てるデバイス”を選んで使っているというDetonatioNのメンバーたち。その選択にははっきりとした傾向があって面白い。

・BonziN
 マウス:G402
 マウスマット:G240
 キーボード:G910
 ヘッドセット:G430

・Ceros
 マウス:G303
 マウスマット:G240
 キーボード:G710
 ヘッドセット:G430

・Astarore
 マウス:G402
 マウスマット:G240
 キーボード:G910
 ヘッドセット:G430

・KazuXD
 マウス:G402
 マウスマット:G240
 キーボード:G710
 ヘッドセット:G430

 まず面白いのは、4名中3名がG402というFPS向けのマウスを使っていることだ。業界最強クラスの強力なセンサーを搭載することで知られるG402だが、メンバーに話を聞くと、より上位モデルのG502よりも軽く、小さくて持ちやすい点が気に入っているところだという。Ceros選手のみMOBA系モデル最新版のG303を使用しているが、こちらもセンサーは最上級。DetonatioNの皆は共通して「小さくて取り回しのしやすいマウス」を好む傾向があるということは確かだ。

 もうひとつ面白い傾向が見られたのはマウスマット。全員が布サーフェイスのG240を選択しており、樹脂系ハードサーフェイスのG440を使っている選手は1人もいなかった。「LoL」のようなゲームはカーソルを的確に止め、間違いのないポインティングをすることが重要だ。それだけに、ストッピングの確実性に優れる布製マウスマットが唯一の選択肢になるのだろう。

 最後に、各選手に遠征を通して持ち帰りたいものと、その意気込みを聞いた。これをお伝えして本稿の締めくくりとしよう。

BonziN選手:北米トップレベルの選手たちと互角に渡り合えるようにして、「IWCI」では良い試合をできるように頑張りたいと思います。応援よろしくお願いします。

Ceros選手:Midレーンの僕が崩れてしまうと、チーム全体が崩れてしまうので、そこは責任を感じてやっています。今回のブートキャンプでは、本番の環境でも間違いなく自分のプレイを信じられるくらい、納得いくまで練習をしていきたいですね。

Astarore選手:今回の練習試合では、できるだけ本番に向けた意識で、いろんなチーム、地域の戦い方を取り込んでいきたいです。

KazuXD選手:日本では、Pingの影響で北米サーバーでプレイすることに少し抵抗があったのですが、今回はできるだけ、どのメンバーよりもハンドスキル面で劣らないように個人練習に励みたいと思います。

梅崎氏:自分たちの練習している部屋の隣で世界トップレベルのCloud 9さんという強豪が練習しているんですけれども、せっかくの機会ですから、チームの練習方法であったり、練習の環境であったりといったものを学んで、自分たちに活かせるものについてはどんどん取り入れたいというふうに思っています。

 また、そういったチームと1週間も同じ環境下で練習できるというのは滅多にできることではありませんので、これを機にCloud 9のマネージャーさんともより親しくコミュニケーションをとって、役立つ情報を引き出していきたいとも考えています。ここで得た経験というのは、「IWCI」にかぎらず、その後の国際大会にもつながっていくはずですので、それを活かして日本の勝利につなげていきたいと思っています。

(佐藤カフジ)