インタビュー

「新生FFXIV」プロデューサー吉田直樹氏韓国ローンチ特別インタビュー

韓国メディアに豊富な韓国産MMOのプレイ歴をアピール

2015年サービス開始予定

 ついに韓国での発表会を迎えた「ファイナルファンタジーXIV: 新生エオルゼア」。日本語、英語、仏語、独語、中国語(簡体字)に続く、6カ国語目の言語対応となる。韓国でのクローズドβテストは2015年春から夏の実施を予定し、2015年中の正式サービスを予定。ビジネスモデルは、クライアント無料の月額課金制という韓国独自のモデルを敷く。今回は発表会後に行なわれた韓国メディア向けの合同インタビューの模様をお届けしたい。

10月14日に韓国ソウルで行なわれた発表会の様子
挨拶する「新生FFXIV」プロデューサーの吉田直樹氏

 オンラインゲーム、ことMMORPGに関しては、アジアで最初に立ち上がった地域としての強い自負を持つ韓国は、日本以上に海外産タイトルの展開が難しい地域として知られる。韓国メディアも論客が多く、個人的な印象で言うと、マウス/キーボード対応や韓国独自コンテンツ、韓国産MMOとの比較、PCバン対応など、即答が難しい寝技から入り、日本のクリエイターを困らせることも少なくない。

 しかし、今回のインタビューに関しては、すでに「新生FFXIV」の存在を知っているだけでなく、中にはグローバルサーバーでプレイしている韓国メディアもいて、吉田氏も負けじと韓国産MMORPGのプレイ経験を語るなど、どちらかというとウェルカムムードの中でのインタビューとなった。

 韓国メディアの吉田氏への印象も「話は長いが、言葉に力がある。ちゃんとオンラインゲームのことを、サービスの面も含めてよく考えている」と、高く評価する声が聞かれた。運営元のActoz Softは、スマホ向けの「拡散性ミリオンアーサー」や「ファイナルファンタジー」シリーズなどで成功の実績があり、その面でも追い風が吹いていると言えるのかも知れない。

韓国独自コンテンツは、そのまま入れるのではなく「FF」風のアレンジを施した上で

インタビューに応じる吉田氏
韓国版「新生FFXIV」のタイトルロゴ
韓国独自要素は、PCバン向けのサービスでふんだんに提供されるようだ

――一度失敗したタイトルがリニューアルを経て、ヒットしたということは数少ない事例ですが、どういう気持ちでこのプロジェクトを始めましたか?

吉田氏:一回ロンチしたゲームを失敗したと認めて、新しく作り直すことは死ぬほど苦労することで、多分誰もやりたくもないし、私自身も繰り返したくありません。

 「FF」の開発に参加したのは「新生FFXIV」が始めてですが、それが良かったと思います。「FF」のファンだったんですが、スクエニに入って10年間「FF」の開発に関わってませんでした。でも、開発に関わっていない、ただ好きなファンだったからこそ、どういうところを誤っていて、どういうところが「FF」らしく無かったかがわかったのです。

 担当になってから調べれば調べるほど、深刻だと感じる部分が多かったです。これなら何をやっても、これよりは酷くはならないと、そう思いました。「FF」のファンとしても、1人のプレーヤーとしても酷かったと感じ、ここでちゃんとやらないと、「FF」のファンの皆さんは二度と振り向いてくれないと考えました。

 当時は考えもしてなかったんですが、グローバルサービス、中国を経て、韓国まで来ました。本当に良かったと思います。私自身も「FF」のファンですので、来月に開催される「G-Star 2014」では、気軽に声を掛けてください。

――リニューアルする過程で、「FF」らしさというのを意識したと思います。吉田さんが考える「FF」らしさとは何でしょうか?

吉田氏:就任直後、本当にビックリしたことがあって、オリジナルバージョンではチョコボが居なくて、イフリートも居なかったんです。27年間続いた「FF」のイメージはそれぞれ違うものだと思いますが、絶対存在しないといけないものがあると思います。

 私が考える「FF」は、チョコボに乗ることができて、召還獣があり、モーグリは絶対に存在する必要があります。また、奥の深いストーリーや高クオリティーのグラフィックスは当然です。

 「新生FFXIV」を再建するために、音楽やエフェクトをはじめ、ジョブの名称まで拘り、これこそがFFだというイメージを作ることに力を入れました。また、FFを知らなくても、MMOらしい壮大なストーリーやコンテンツがあります。FFを知らないユーザーさんたちには全く新しいゲームを体験できると思います。

――従来のMMOでは、ヒーラーやタンクが見つからず、パーティを組むための時間が掛かってしまいます。「新生FFXIV」もパーティーのクラスの組み合わせが固定になっていますが、何か対策は考えていますか?

吉田氏:この現象は韓国のみならず、全世界すべてのMMOにある問題です。多くの人がダメージディーラーをプレイしたいからだと思います。「新生FFXIV」のコンテンツファインダーでは、足りないクラスは5分ごと再検索を掛けるとか、少数のクラスはボーナスを得られる工夫がされております。ボーナスには経験値や、ギル、MIPなどがあります。

 タンクやヒーラーは責任が多い分、それが負担だと感じるプレーヤーが多いです。それを無理に強要するより、報酬で賄える仕組みを作っています。タンクやヒーラーに向いてない人が、そのクラスをやっても楽しいパーティープレイにはならないからです。素早いマッチングに重きを置くのではなく、プレイの質に拘っています。

――グローバルサーバーから韓国サーバーへのキャラクター移転計画はありますか?

吉田氏:まず、技術的な問題より、MMORPGの経済について話しておく必要があります。MMORPGにおいて、経済システムというのはとても重要です。韓国サーバーの場合、オープンしたばかりはまっさらな状態になりますが、そこにグローバルサーバーで大量の資産を持つプレーヤーが移転してくると、経済システムそのものが崩壊してしまいます。技術的な問題の以前に、経済システムを守るためにも最低6カ月間のサーバー移転はありません。

 そして技術的な問題としては2つあります。1つ目はバージョンの違い。最新バージョンに対して、コンテンツの少ない韓国サーバーのバージョンでは、上手くシンクロさせることが難しいです。韓国バージョンには存在しないアイテムは放棄して移転するという手もありますが、普通は嫌ですよね。この問題も解決には、ある程度時間が必要だと思います。

 そして、2つ目が物理的にサーバーが離れていて、それを安全に移転できるかどうかは、まだ試していません。難易度の高い作業になると思います。ただ、私もMMOユーザーであり、同じ言語のユーザーと一緒にプレイしたいという気持ちは分かります。ユーザーからの声を聞きながらサービスを提供していきたいと思います。

――衣装など、韓国固有のアイテムを追加する予定は?

吉田氏:Actoz Softさんや韓国のユーザーからそういった要請があれば、検討してみます。ただ、「FF」の世界観を守ることはとても重要ですので、韓国伝統のものそのまま適用するのではなく、「FF」の世界観に合わせてある程度アレンジを掛けると思います。中国の場合、ベヒーモスというモンスターが中国固有のデザインが実装されています。これを見れば、韓国固有のコンテンツもどういう風に実装されるのかが分かると思います。

――ギルドを512人に制限した理由は? また、勢力戦や、チーム戦、ギルド戦などはありますか?

吉田氏:MMOを20年間プレイしてきました。MMOが北米で始まったこともあると思いますが、コミュニティー内が結構仲がいい方でした。大規模のギルドだとしても仲が良かったです。時間が経つと韓国からでも、全世界からでも数多くのMMOが出て、ユーザー同士の好みが明確に分かれるようになりました。生産・製作など生活系を楽しみたいユーザーも居れば、レイドを楽しみたいユーザー、PvPを楽しみたいユーザーなどもいました。そのため数千人規模のギルドになっても、ユーザーの好みによって、コミュニティーが分かれてしまって、結果ゲームをやめるプレーヤーも多く見てきました。

 「新生FFXIV」は、ユーザーが色んな方向で楽しめるゲームであり、モチベーションを得られるコンテンツが多いです。そのため、ギルドのリーダーが管理できる規模が512人だと思い、そう設定しました。実際にグローバルのデータをみてもフルになるギルドは無かったので、この数字は適切だったと思います。

 PvPでのギルド戦は現状ありません。「FF」は大型モンスターと戦うゲームだという印象が強く、ユーザー同士の戦いを楽しむゲームだと思う人は殆どいません。ただ、韓国や中国の場合は、PvPコンテンツを楽しむプレーヤーが多いことは知っていますし、最近は日本でもPvPを楽しむプレーヤーが多くなってきたので、少しずつPvPコンテンツを入れていく予定です。

韓国のMMOを多数プレイ済みの吉田氏。次なる展開地域はロシア、台湾、中南米を視野に

「新生FFXIV」は「クリックゲーではない」ということを改めて説明する吉田氏
ビジネスモデルは、クライアント無料の月額課金制。月額料金がいくらになるかは発表されていないが、韓国は日本以上に高いことで知られる
コンテンツの実装スピードはグローバルど同等にする方針。ここは明確に中国サービスと異なる部分だ
韓国でのCBTは2015年春から夏。韓国はCBTが長いため、正式サービス開始時期はまだ不透明だ

――韓国のMMOをプレイしたことはありますか?

吉田氏:「リネージュ」、「リネージュ2」、「テラ」、「Blade&Soul」、MOだけど「ドラゴンネスト」をプレイしました。あと、XL Gamesの「ArcheAge」を2時間ほどやりました(笑)。

――中国、韓国とオンラインゲーム市場で大きい市場を1つずつ展開している印象です。その次はどの国になりますか?

吉田氏:個人的な意見はドバイでファンフェスを開催したいです。そのために、スポンサーとなる石油王を探しています(笑)。

 ただ、これはあくまで個人的な意見で、スクエニとしてはロシア、台湾、中南米を考慮しています。ただ、無理にアプローチするつもりはありません。まずは、韓国のActoz Softさんのように熱意のあるパブリッシャーかを見極めてからです。

――韓国ではBOTやRMTが問題となりますが、その対策はどうやっていくつもりでしょうか?

吉田氏:ヒットしているMMOのRMTはある程度仕方ないものだと思いますが、BOTに関しては徹底的ににBANしています。今のところ週間3,000アカウントはBANしている状況です。ただ、BANするだけではなく、その運営会社まで捜査しています。また、BOT以外でもトレードの流れも見ており、怪しい動きがあればすぐ捜査して処理しています。これ専門のチームも運営してます。

――チュートリアルシステムを実装する予定はありませんか?

吉田氏:中国でも同じ話が出ました。特にアジアユーザーにそういう傾向が強いのですが、ただクエストを貰って、目的地まで行って、アイコンをクリックして、いつも間にかクエスト完了といった作業を自動的に繰り返すシステムが多いですね。そこまではないけど、ガイドラインを提供したりとか。

 それは親切だとも言えますし、何も考えずにゲームプレイしているとも言えます。「このNPCはどういう問題があって、頼んでるのだろう?」、「なぜこのモンスターを倒さなければならないの?」、「ここはどこだ?」みたいに何も分からないまま、ひたすらプレイしている印象でした。これが当然だと思うユーザーさんにとっては、「新生FFXIV」は難しいゲームなのかもしれません。

 例えるなら、映画の序盤の30分を早送りしてしまえば、その後の内容が理解できなくなります。MMORPGは進行すればするほど複雑になっていきますが、クリックだけでプレイしてきたユーザーさんが、そのゲームをどのぐらい理解しているのか分かりません。我々としてはユーザーさんに冒険を楽しんで貰えることが大事だと考えます。ソーシャルゲームやカジュアルゲームが流行ってはいますが、その中でもディープなゲームをプレイしたいユーザーもいると思います。実際に日本にはそういう動きが起きていますし、韓国にもいずれはそうなると思います。ただ、グローバルバージョンでも不便だというユーザーの声があったので、ある程度は改善する予定です。

――韓国ユーザーへメッセージをお願いします。

吉田氏:「新生FFXIV」の魅力は、ゲームのストーリーと世界観です。最近はただクリックするだけで全てが進んでしまうゲームが多くなってきましたが、それでは残るものが無く、すぐ飽きてしまうと思うんです。実際にそういう動きが日本では起こっています。最初はクエスト進行が難しいかも知れませんが、ただクリックするだけではなく、映画を楽しむようにストーリーをちゃんと理解しながら、プレイしていっていただければと思います。

(中村聖司/DongSoo“Luie”Han)