全て新しい挑戦の中で新しいアクションゲームを作り上げる
「El Shaddai-エルシャダイ-」クリエイター・竹安佐和記氏インタビュー
日本のゲーム業界に閉塞感が叫ばれて久しい。東日本大震災の影響で、ゲームの発売中止や延期が相次ぎ、ニンテンドー3DS発売の祝祭感も、すっかり吹き飛んでしまった。ソーシャルゲームだけが1人、気を吐いているような状況だ。
しかし、そんな時だからこそ「ジャパニーズゲーム・ネバー・ダイ!」と叫ぼう。逆境を乗り越えて前に進もうとする人々。たった1本のタイトルで。世の中の仕組みや、人々の価値観を変えていく人々。それがゲームディベロッパーのはずだ。
そんな「突破力」に優れたクリエイターに、鋭く切り込むインタビュー企画の第2弾(前回お届けしたのは2010年10月にお届けしたサイバーコネクトツーの松山氏のインタビュー)。お話を伺ったのは「El Shaddai ASCENSION OF THE METATRON」(以下エルシャダイ)で大旋風を巻き起こした、イグニッション・エンターテイメント・リミテッド(以下イグニッション)の竹安佐和記ディレクターだ。
「オリジナルのアクションゲーム」、「初ディレクター」、「スタジオ立ち上げから開始」、「親会社が外資系企業」という、すべてが新しい挑戦の中で、どのようなゲーム作りが行なわれたのか。元ナムコで「鉄拳」、「ガンバレット」などの開発を手がけた神江豊氏を司会に、同作の木村雅人プロデューサーも加わり熱いトークが繰り広げられた。
■スタジオ作りから始まったゲーム開発
竹安佐和記氏。カプコン、クローバースタジオで数々の名作を手がけてきた。今回初ディレクターとしてこの大作を作り上げた |
木村雅人氏。同じくカプコンからクローバースタジオに移り多くの作品を手がけてきた。わかりやすい言葉で物事を伝えることに長けている印象だった |
--(神江)今日はよろしくお願いします。お2人をはじめ、元カプコンのクリエイターの皆さんは元気が良いですね。いろいろなところで、お噂を耳にします。
竹安:いやいや、僕らにしてもやりたくてやっているわけではないんですよ。みんな、いろいろ追い詰められて、やっているんじゃないかと思います。
木村:カプコン自体が、すごく体育会系な社風で。そこで鍛えられた影響は、あるかもしれませんね。
--その中でも本作は、東京にゼロから開発チームを立ち上げ、そこに親会社の外資系企業から出資を受けて開発したという、今までにない作り方だったと伺っています。もともとイグニッションの社長と、お2人との個人的な関係からスタートしたそうですね。
竹安:ええ。もっとも、当時の社長も途中で交代してしまったんですが。
木村:そのあたりのサバサバ感は、まさに「ザ・外資」ですね。たぶん、皆さんの想像以上だと思います。
--開発にいたるまでが長かったと聞いています。
竹安:半分自腹のような感じでスタートしました。開発に必要なPCやPhotoshopなどのツールを、木村と2人でカードで買って、請求書を本社に回していたんです。毎月2人で、カードの限度額にいかに早く達するか、競い合っていました。
木村:まともに開発に入るまでに、2年くらいかかりましたね。僕等がカプコンに入ったころは、すでに2~3年かけてゲームを作るのは当たり前でした。その体験があったからこそ、しっかりベースを作って開発に入ることの大切さを、よく知ってたんです。
竹安:逆に本社から請求書の決裁を断られたら、その時点で話を打ち切ろうと思っていました。100万円くらい損をすることになるけど、そのくらいはいいかと。
木村:そのくらいの覚悟は決めようと。親会社が外資系企業だったからこそ、行動や数字で示して、お互いの理解を深めていかないとダメだったんです。
竹安:あれから、もうすぐ5年が立ちますね。もともと会社を作るのに1年、開発に2年かかると思っていましたが、実際はそこから1年半よけいにかかりました。
--そこが1番、興味深く感じたところです。ゲームの前に会社を作られた。ファミコン時代ならともかく、最近の大型タイトルの開発では、ちょっと聞かないやり方です。
竹安:僕自身も個人で法人を持っていますし、よその会社にプロジェクトを発注して、木村と2人で出向するというアイディアもありました。本社がイギリスなので、ロンドンで作ろうかという話もあったくらいです。ただ、日本で作るのが楽だろうし、他の会社に発注したら、双方にとって「他人事」になると思ったので、自分たちでスタジオを立ち上げることになったんです。
木村:親会社から日本法人の社長が出向で来て、その下に僕ら2人がつきました。イグニッション自体、ゲーム開発の経験が乏しいため、現場はすべて任せてもらえました。
--人材集めが大変だったと思うんです。自分もゲーム開発会社を経営していて、そこがキモだと感じます。
竹安:ええ、めちゃめちゃ苦労しました。正直、僕等みたいな経験の乏しい人間が、良くも悪くもお金と決裁権をもって、人材を集めようとすると、いろいろと騙されますね。
木村:僕らはカプコンの第4開発室を皮切りに、クローバースタジオを経て、イグニッションの東京スタジオを立ち上げました。というのも、同じメンバーでゲームを作り続けることで、プラスの面もあれば、マイナスの面もあるなと感じていたんです。「あうん」の呼吸で作れる良さはあるんですが、新陳代謝がおこらないので、だんだん「不感症」になっていくし、新しい化学変化も起こらないですよね。そこで、しがらみのない新しい組織を作って、良いものを作ろうとしたんですが、それはそれで大変でした。
--プロジェクトベースの開発チーム編成では、過去に「大乱闘スマッシュブラーズX」がありましたが、あれは「スマブラ」というわかりやすい指標がありました。それに対して本作はオリジナルのアクションゲームでしたからね。
木村:しかもイグニッション自体も日本では無名だし、竹安もデザイナーとしては名前が売れていましたが、初ディレクターでしたし。
竹安:入ってから、こんなはずじゃなかったと、辞める人も少なからずいましたよ。
【スクリーンショット】 | ||
---|---|---|
その圧倒的なグラフィックスで世界観を表現した |
■現場の胃袋を満たすことと、公正な人事配置をすること
竹安氏の物作りに対する姿勢には凄まじいものを感じたが、竹安氏にとっては当たり前のことのようで、クリエイターとは物作りへの執念のようなものを持った人のことだと感じた |
--スタジオ運営で気をつけた点はありましたか?
竹安:まず形から入っていったところはありますね。はじめてのメンバーばかりだし、契約形態も半分くらいは派遣社員だったり、フリーランスだったりで、背負っている事情が違ったんですよ。そのため毎週の全体メールと、月に1度の朝礼は欠かしませんでした。全体メールは僕の考えをわかってもらうため。そして、朝礼では誰がリーダーかわかってもらうために、全員が僕の方を見て、僕の話を聞く時間を作ることを徹底しました。
--なるほど。
竹安:現場スタッフに対しては、ちゃんと胃袋を満たしてあげること。食事は必ず誰かと一緒に食べて、支払いは全部、僕が出して。おまえの胃袋は今日、俺が満たしたよ、という恩を与える。そうじゃないと動かない人って、実はいっぱいいるんですよ。
--最初の「入口」の部分ですね。
竹安:一方、ちゃんとしたチームを作る上では、各セクションのリーダーが非常に重要なので、かなり人材配置に気を配りました。最初は任せようと思っていた人物でも、途中でダメだと思ったら、頻繁に配置換えをしましたね。全部、自分の独断と偏見です。
特に開発が本格化してくると、本当に強固なリーダーが必要になるので、ROMチェックの段階などで、平気で降格させたりしました。自分自身も最初から「目的はプロジェクトを完遂させることだから、誰とも個人的に親しくはならない」と明言していたくらいです。そのため、一見親しそうにしていても、みんなどこか怖がっていたと思います。
--プロ野球の監督みたいですね。優勝のために、完投直前で投手を交代させるとか。
竹安:人材配置の重要性は、どのリーダー学の本を読んでも、書いてありますよね。個人的な情が移るので、一緒に食事などをしない方がいいとも言われます。でも末端の人間は胃袋を満たさないと動かなかったりするので、そこは両方いるんですよ。そのときに僕が良い意味で冷たくなるには、ゴールを見るしかなかったんです。プロジェクトを完遂させることが、みんなの幸せにつながる。「あなたがリーダーであり続けてプロジェクトが潰れるより、あなたが降格してでも完成する方が良いでしょう?」 という論理です。
--指示出しなどはどうされましたか?
竹安:自分の権限を明確に定義して、そこから先は自由なので、僕を喜ばせるモノを作って欲しいと、各リーダーに伝えました。たとえば武器は3種類にしてほしい。ただし、技の種類はいくらでもいいと。人によってカラーが違っても良いんです。それを調整するのが、僕の仕事なので。そこまで言い過ぎると、たぶん完成しないんですよ。
--非常に明確で、機能的ですね。ただ、そこまで強くない人も多いでしょう。
竹安:なれ合いたいだけの人とかは、ホントにいっぱいいますよ。僕に個人的に取り入ろうとしたり。中で派閥を作って反目したり。そういう思考回路が僕にはまったくないので、理解できませんでした。そうした中で、木村の存在は大きかったですね。学生時代からずっとつきあってきたので、お互いに良いところも悪いところも、みんな知っていますから。お互いに不得手なことは最初から頼みませんし。
--木村さんがいなかったら、作れなかったですか?
竹安:できなかったでしょうね。他のプロデューサーが来ても、ルーツが違うので。
--理想のリーダー像はありますか?
竹安:何もしなくても業務が回って、同時に絶大な尊敬を集めるリーダーですね。それは究極の姿で、実際は難しいと思いますが、そうしたシステムが構築できるように努力することが、リーダーの仕事だと思うんです。もっとも終わってみて、自分は良いリーダーになれなかったなと思います。ずっと忙しかったですし、現場からの支持率も半分くらいじゃなかったかと。
--深いですね。
竹安:横山光輝版の漫画「史記」が、めっちゃ参考になりました。松下幸之助の著書もよく読みました。ああいうのが1番勉強になりましたね。中でも「リーダーがしなくてはいけないことは、正しいことをいうことで、偉そうにすることではない」という言葉が、すごく好きなんです。ちなみに松下幸之助の言葉って、全部敬語なんですよ。正しいことを発信するうえで必要なスタイルは、けっきょく敬語なのかなあと思います。
■「覚悟」といわれても、よくわからない
「エルシャダイ」のパッケージ。新しいフランチャイズが生まれにくい昨今、新しい作品を作るためにスタジオを立ち上げてまで挑むというのは、普通では考えづらいが、竹安氏にとっては作品が完成しないことの方が怖いのだという |
--ゲーム作りについて伺います。あるインタビューで、ゼロからモノを作るより、与えられた「お題」に応える方が得意だと話されていました。
竹安:得意というより、そういった仕事しかしてこなかったんですよ。デザイナーとして10年以上、ディレクターの指示で仕事をしてきました。しかも、いつもオリジナルのゲームを作るチームに入れられていたので。周りからは器用だと言われますね。
--今回は「お題」といっても、わずかだったでしょう。
竹安:もともと本社の社長が「God of War」シリーズの大ファンだったんですよ。それで最初に「God of War」と並び立つゲームにして欲しいと言われました。それと聖書偽典の「エノク書」をテーマにして欲しいと。もっとも「God of War」はシリーズの積み重ねがあるし、ファーストパーティのゲームなので、これを超えるのは難しい。でも横に並んだとき、こういうゲームもあるよね、と感じられる内容になればと考えました。
--なるほど。
竹安:それから当時、グラフィックスがリアル指向になっていって、ボタン操作も複雑なゲームが多かったので、これを逆にするのが1番インパクトがあるだろうなと思ったんです。そこから項目を出していって、自分で「お題」を作ったんですよ。だから「エルシャダイ」も、自分がずっと温めていた世界というわけではないんです。
--要件を整理して形にしていったわけですね。ただ、そこから、あの壮大な世界観にまで高められたところが、すごいなと。普通は小さくまとまってしまうと思うんです。
竹安:そこが僕の1番ずれているところで。よく新しいことをやって、失敗したらどうしようと恐れる人がいますよね。でも僕はそういう恐怖感が、人よりめっちゃ少ないみたいなんです。自分では恐がりな方だと思っていたんですが、この開発を通して改めて感じました。僕が何でもないことでも、みんな怖がるんですよ。「できなかったら、どうしよう」なんて怖がってる暇があったら、「できるまで、やればいいやん」と思うんですけどね。
木村:だから、竹安佐和記というディレクターの根底にあるのは、高尚なリーダー像とかじゃなくて、1人の作家としての覚悟だったり、強さなんですよ。僕の方がまだ、普通の人に近いですね。それは端から見ていて、1番思ったところです。
竹安:そういわれると逆に笑ってしまうんですよ。「そうか、覚悟をみせないといけないのか」って。ホントに僕にとっては普通のことなんです。そもそも、人生はむなしくてはかないモノだと、ずっと思っているんです。矛盾だらけの世の中で、どこから生まれて、いつ死ぬのか、誰もわからないじゃないですか。そう考えると、何かに執着するのって、すごくバカバカしくて。
--恐いことはないんですか?
竹安:目的が達成できないことですね。会社を作るとか、チームを回すというのは、その方法であって、目的ではないので、あまり恐くないんです。逆に結果が出せないかもと想像するとゾッとします。本作でも何度か、そう感じたことはありました。
木村:その恐怖心は人より強いかもしれません。「自分にはどうしようもできないから、あきらめよう」という選択肢は、竹安にはなかったんです。
--ここでいう「目的」とは、ゲーム作りを通して、作品性と商品性を両立させること、ですよね?
竹安:そうですね。趣味に走りすぎると他人を混乱させるだけですし、利益にもつながらないと思うので。クオリティと売り上げの線引きのラインについては、昔も今も、ずっと悩んでいます。
--開発中、どんなときに「達成できないかも」と感じましたか?
竹安:各セクションのリーダー級が辞めた時ですね。実際に何人か辞めています。人の気持ちだけは操作できない。心はスケジュール表に載せられないんですよ。特にゲーム業界は病んでいる人が多いので、途中で会社に来なくなったりとか。作業をしているふりをして、全然違うことをしていたりとか。そういったことが多々ありました。
--ディレクターがデザイナー出身だと、プログラマーとのやりとりが大変という傾向がありますね。特に本作はデザイナー主導のゲームスタイルだと感じます。
竹安:実際、プログラムのリーダーが1番変わりました。まず今のご時世、オリジナルでアクションゲームを作ったプログラマー経験者が、そもそも少ないんです。そのため、求められていることがわからないと言われちゃうんですよね。また、せっかく腕の立つデザイナーがいても、プログラマーのレベルが低いと、それが理由で辞めたりするんですよ。「自分は良いスタッフに囲まれて仕事をしたいのに、ここでは実現できない」……そんな理由での人材流出も少なくありませんでした。
木村:良いデザイナーほど、良いプログラマーを求めますからね。僕等にとっては痛手ですが、本人にしてみれば、わからない話でもないので。
竹安:ベテランと新人のどちらがいいか、なんて話もよくしました。でも結果論からいうと、経験値は関係なくて、マインドの問題ですね。結果的に使える人材を並べたら、新人とベテランが半々になったんです。実際にモデルチームのリーダーは新人でした。逆にマインドの低いベテランを山ほど見ました。外れくじだけは、たくさん引きましたね。
■ユーザーが求めているのは「ロマン」
--トピックをネット上のムーブメントに移します。発売前にこれだけ話題になったタイトルは初めてではないかと思います。
竹安:こちらで仕掛けたのは4割くらいで、残りは時代に助けてもらいました。2次創作についても、そういう時代だって言って、親会社に容認してもらったんです。その上でコメントを求められたら「ありがとうございます」と言おうと。援助する必要はないですが、そういう姿勢を見せないとダメだって。
--たぶん日本のゲーム業界では初めてでしょう。
竹安:そこは会社に歴史もないし、しがらみもなかったので、良かったですね。大企業にいると、現場からそういう質問をすることすらタブーだったりするじゃないですか。上の人に言っても「まあ、わかるんだけどね」で終わったり。
木村:もともと僕らは大企業ではないので、ゲリラ的なスタイルを取ろうとは話していました。
--自分は会社とは別にインディーズゲームの団体も運営しているんですが、そこで2次創作やコミケ、同人市場について分析したことがあるんです。そのときに彼らが欲しているのは共通言語になる言語、つまり「世界観」じゃないかと考察しました。実際、世界観を作るのは、1番難しいんですよ。それを提供して、自由に遊んで良いとお墨付きが得られたのでユーザーも嬉しかったと思います。
竹安:そうでしょうね。開発が始まった頃から、今の世の中、ユーザーが求めているものは「ロマンだよ」とよく言っていました。ロマンがないものはダメだし、逆にロマンがあれば、変な話ですが、鮮度が落ちていても食べてくれるよと。たとえば最近はリメイクものが流行っていますが、コンテンツとしては摩耗していると思うんです。でもロマンがあるから、響くんじゃないかと。
--なるほど。
竹安:逆に今はヒットした要素を並べて、それをジグソーパズルのように組みあわせて作ることが多いじゃないですか。それを否定するわけじゃないんです。ただ、今はピースの結合部がガタガタだし、ピース自体も見慣れたものばかりなので、全体のクオリティが落ちているのかなあと思います。特に深夜アニメなどは顕著じゃないかと。
--結合部の話で言えば、セーブやロードを「お約束」とせずに、気を配られている点も驚きました。
竹安:けっきょく「みんなが納得できる嘘」なんです。セーブやロードって「嘘」じゃないですか。でも、そこに理由づけがあれば、ロマンが薄れない。
--欧米のゲーム開発シーンで最近「ビリーバビリティ(もっともらしさ)」というキーワードが良く使われますが、それとも通じる話ですね。
木村:世界観とロマンって、言い方が違うだけで、かなり重複していると思います。
--マシンパワーやリソースが、ビジュアルエフェクトにかなり割かれていた点も、作り手として興味深かったですね。
竹安:そこもロマンにつながる話です。僕がゲームを遊んでいて良く思うのは、2時間くらい遊んだところで、もう「画面」を見てないんです。モニタは見ているんだけど、ゲームを攻略する上で重要なデータとしか、捉えていなかったりするんですよ。そうなると、ロマンが薄れてしまう。画面の鮮度を保つ、いわゆる「変わり続ける世界」を提供すれば、それが避けられると思ったんです。そうすれば、そこからロマンが生まれるんです。
--今回、体力ゲージなどのHUD類を消したのも、それが理由ですね。
竹安:そうです。イーノックだけを見て欲しかったんです。
木村:情報の整理をした上で、データとして見るのではなく、1つの絵として画面を見て欲しいという思いがありました。
--マシンパワーの活用法として、ここ数年はシステム系の方向、たとえばAIやプロシージャルなどがトレンドでした。そういう意味でも新しいですね。もっともエフェクトなどはプロシージャルの一部としても、とらえられるかもしれませんが。
竹安:ゲームの原点に戻っただけなんですけどね。昔のシューティングゲームとか、背景が無茶苦茶だったじゃないですか。なんで宇宙の後に火山なんだよとか。でも面白かったですよね。
--確かに、これはゲームなんだよというメッセージを、いろんなところで感じました。ゲーム冒頭の「早ければ7時間でクリアできるかもね」というのは、象徴的ですね。
竹安:ロマンの話に戻ると、キャラクター制作で自戒していることがあるんです。それが「自分の理想の女性」をヒロインにすることと、「自分の理想像」をヒーローにすること。それって完全に中二病の世界じゃないですか。全面否定はしませんが、そうした方法論で進めると、市場のパイが狭まってしまうんですよ。そうではなくて、その世界観の中で必要なキャラクターを作って、配置するべきですよね。だって僕は絶対、イーノックにはなりたくないし、ルシフェルも人として、そんなに良いとは思わないですよ。
【スクリーンショット】 | ||
---|---|---|
他では見られないいずれも印象的なグラフィックスだが、ゲームの特徴として、全く違う雰囲気の世界へとどんどんと変化していく |
■ステージアクションはもっと入れたかった
--細かいところですが、イーノックはどうして長髪なんですか? 長髪で華奢だと、アメリカではゲイに見られやすいという、マーケティング的な意見もあったと思います。
竹安:確かに、そこは言われました。ただ、立ち止まっていても、どこか動いているキャラクターにしたかったんですよ。金髪にしたのも、画面上で映える色にしたかったからです。あまりキャラクター志向で考えていなかったので、そこは良いだろうと。
木村:最初はマントを揺らすアイディアもありましたよね。
--なるほど。同じように実現できなかったアイディアもあったと思います。
竹安:もう、いっぱいありましたよ。特にステージアクションですね。アイテムを押したり引いたり、ドアを開け閉めしたり。そうしたアクションで実現できる遊びは、いっぱいありますよね。ガーレを使って「だるま落とし」のようなアクションをするアイディアもあって、開発中はゲームに組み込まれていたんです。ただ、バグチェックが十分に取れなかったんですよ。結局、半分くらいはオミットしています。
木村:これはよく言うんですが、ディレクターの仕事は、最初に頭の中に壮大な地図を描くことなんですよ。ところが開発が始まった瞬間から、その地図が少しずつ、ちぎられていくんです。たまに、びりびりっと大きく破られることもある。すると、それはちょっと残して! その大陸がなくなると困るから! などとディレクターがフォローに入るんです。そうして最後に残ったのが、完成作なんですよ。
竹安:もう、ぎりぎりのバランスでしたね。だから僕、続編をやりたいんですよ。これまで、機会に恵まれなかったので。
--完全版や続編の予定はありませんか?
竹安:よく聞かれるんですが、これは僕の口からは何とも言えないんですよね。すべて親会社の判断なので。
木村:イグニッションはUTVという映画会社の子会社なので、考え方がすごく映画的なんです。開発チームを抱えるスタイルではなくて、タイトルごとに開発チームを編成する方式なんですよ。本作についても、開発チームはすでに解散しました。今後そうした路線が変わる可能性もありますが、とりあえず本作ではワールドワイドでの結果を見て、そこから続編を判断すると言われています。なので「お客様次第」としか言えないんですよ。
--日本ではある種、特殊な盛り上がり方をしたタイトルだと思いますので、ローカライズやカルチャライズが大変そうですね。
竹安:日本版と海外版は同時開発で、すでに開発は終了しています。売り方については、各国それぞれとしか言えないですね。いちおうデータはすべて向こうに渡していまして、それをどう解釈して、どう使うかは、先方次第ですね。
木村:おっしゃるとおり、日本ではすごくユーザーの皆さんに育てていただいた部分が大きいので、海外でも同じようにハマるとは、限らないと思うんです。そこについては、各リージョンごとに、現地優先の考え方で進めています。
--カルチャライズの点で何か工夫はありましたか?
木村:ボイスや台詞回しのところでは、かなり意識しています。海外のシナリオライターに台詞の意味ではなく、伝えたいニュアンスを説明して、意味を汲んで訳してもらいました。ボイスも声質ではなくて、各キャラクターの性格を説明して、そうしたキャラクター性が伝わる声にしたいと説明して、探してもらいました。
--オープニングの荘厳なコーラスが、架空の「エルシャダイ語」というのも、上手いですね。以前のインタビューで木村さんが「日本人には洋ゲーっぽい、海外ユーザーには和ゲーっぽいと言われた」と答えられていましたが、そうした無国籍感がうまく出ていると感じました。
木村:ありがとうございます。架空言語は「大神」でも使った手法ですね。
【スクリーンショット】 | ||
---|---|---|
■愚者であることの大切さ
前回に引き続き今回も取り仕切っていただいた小野氏 |
--そろそろまとめに入りますが、今回の経験を振り返って、いかがですか?
竹安:良い経験をさせてもらいましたよ。ただ、他の人に勧めるかというと、積極的にお勧めはしないですね。ハッキリ言って非常に危険ですし、それなりの覚悟が必要です。生半可な気持ちだと、たぶん完成しないですよ。
木村:海外からお金を引っ張ってくるというのは、一定以上の規模のゲームを作る上で、すごく良い方法だと思います。ただ、そのときに1番大事なのは、いろんな意味で「負けない力」でしょう。文化が違うと、考え方の1番元になる部分が違いますよね。それに流されるわけにもいかないし、それを曲げるわけにもいかないし。そこで最後の最後まで自分たちが作りたいモノを作ったり、やりたいことを守る強さ。そうした「しなやかな強さ」がないと、うまくいかないでしょう。
竹安:世の中で言われているとおりで、日本人は優しいなあと思いましたね。逆に外国人は強いなあと。みんな正しいかどうかは二の次で、勝つことだけに集中しています。
--どういうことですか?
竹安:たとえば上司から「この書類を今日中に提出してください」と言われたとしますよね。日本人なら「わかりました」と思うじゃないですか。でも彼らは「今日中というのは、あなたの考えですよね」と切り返せるんです。それはあなたの考えだから、私の考えで判断しますよ、という。
--それはすごいですね。
竹安:逆に日本人なら「今日中といわれたから、残業してでも仕上げないと」と頑張ったりするじゃないですか。ところが翌日になって「ごめん、それは昨日の時点での判断だったから」と言い切られたりするんですよ。何が正しいのかわからない。こういったことは、ホントにたくさんありました。ものすごく勉強になりましたね。
木村:僕もちょっとアメリカに住んでいたことがあるんですが、特にアメリカってすぐに自分のせいにされる国なんですよ。訴訟社会で簡単にリストラされる。だからこそ、それを回避するための方法論を、みんながとっていくんです。いかに責任逃れをするかが大事。
竹安:だから、みんな口は達者ですよ。
--はたして日本の中だけで、ずっと同じメンバーで作る方が良いのか。それとも毎回違う人間が世界中から集まって作るのが良いのか。いろんな選択肢がありますね。その中で今回は、ちょっとだけ後者に寄って作られた。
竹安:そうですね。やりきった感はありますよ。
木村:今のご時世で、竹安が好きなモノを作るために、飛び込まなければならなかったフロンティアだったのかなあとは思います。もっとも、何も知らなかったからこそ、飛び込めたところはありますね。
竹安:無知は1つの力だと思います。知らないと恐くないので。愚者であることは、すごく重要だと思います。
--こうした仕組みや、ツールがあったらよかった、と思うことはありますか?
竹安:サッカー日本代表の監督じゃないですが、自分の専属通訳が欲しかったですね。うちがよかったのは、東京スタジオの社長が親会社との通訳を兼ねていたので、話が早くて、ぶれなかったことです。ただ、親会社からの出向なので、開発の事情をくみとって話せなかったんですね。親会社にしても僕の口から、直接事情を聞きたいという気持ちが、途中で何度かあったと思いますし。
木村:確かに、それがあったら、また違った結果になった部分も、あったかもしれませんね。もっとも、開発がわからなかったからこそ、僕等に任せてもらえた部分もあったでしょうし。そこはホントに、いろんなプラスマイナスの結果なんですよ。
--ちなみに、竹安さんが英語を勉強して喋れるようになる、というのはどうですか?
竹安:ゲーム作りが最優先ですから、そこは二の次になりますよね。それに、そこまでするのなら、たぶん向こうに住んで作りますよ。実際、海外で生活してみたいなと思いますし、声がかかるのであれば、喜んでいきます。
--実は最近、そういう開発者も減ったように思います。地元志向というか。
竹安:それはよくないですよ。チーム内でもよく「僕らは地球人」と言ってました。
--今後も地球人が地球人に向けてゲームを作っていただければと思います。ありがとうございました。
【最後に司会を務めた神江豊氏から一言……】 |
---|
今後の業界を切り拓くためのインタビュー第2弾、いかがでしたか? 「エルシャダイ」。そのインパクトとオリジナリティは、どこから来たのか。その深淵を垣間見て紹介したい。元気な凄い方にお話を伺い、将来を担う若者の道しるべとしたい。 そのような想いでお伺いしたわけですが、柔和なお2人から語られた内容は「すごい時代になったものだ」と考えざるを得ないものでした。 ただでさえ難しいオリジナルタイトルの企画承認と開発施工。多くのゲーム開発者が突破できない難関です。それを実際にやってのけた。しかも、それを創るために、まっさらの状態から開発スタジオまで創っちゃった。海外資本で会社をゼロから。 「エルシャダイ」を産み出すためベストと考えた人生選択。言葉にすると短いけれど、もはやかつてのゲーム作りとは次元が違うスケールです。これは間違いなくイバラの道。場と人をもまとめて全てゼロから創るわけですから。私財を投ずることも躊躇せず人を集めプロジェクトを育てる。この気迫には驚きました。 志高いゲーム開発を行なう時には、プライベートの時間など何らかの犠牲や献身が伴うものですが、「エルシャダイ」のようにはそうそう真似できるものではありません。ひたすら良いゲームを創るために一直線、まっすぐに困難に立ち向かい続け、それをやってのけた男達。ゲームと同時に創られ鍛え抜かれた「人間力」を肌で感じました。 また、マインドの高いプログラマの必要性。お話をするなかで、この重要性は強く共感できました。お二方の今後の良縁を強く願います。若いチャレンジャーが業界に飛び込んでくること。これこそが、今後の日本を占う重要なキーになる。経歴に関係なく、高い志と実行力を持ったプログラマこそが、今、世界が必要としている人材なのだと感じます。そのような方とお会いし、お話を伺う機会を心待ちにしています。広くご連絡ご紹介をお待ちしています。 本当に日本のクリエイターはスゴイ!日本をコンテンツ発信地とし、世界を驚かせましょう! |
(c) Ignition Entertainment Ltd. All Rights Reserved.
(2011年 6月 21日)