「2010 FIFA ワールドカップ 南アフリカ大会」プロデューサー牧田和也氏インタビュー
進化するゲーム性。大会連動データアップデートでリアルなW杯体験を提供!
4月15日に行なわれた発表会の様子 |
エレクトロニック・アーツ株式会社は4月15日、新作サッカーゲーム「2010 FIFA ワールドカップ 南アフリカ大会」の記者説明会を開催した。その模様についてはニュース記事「EAJ、『2010 FIFA ワールドカップ 南アフリカ大会』記者発表会を開催」にてお伝えしているが、弊誌ではこれに併せて本作のプロデューサーインタビューを行なった。
インタビューに答えてくれたのは、EAカナダにて「FIFA」シリーズの統括プロデューサーを勤める牧田和也氏。牧田氏は、2000年に発売された「FIFA サッカー ワールドチャンピオンシップ」よりシリーズの開発に携わっている人物で、現在では「FIFA」フランチャイズ全体でその開発を統括している。筆者の印象としては、2007年に発売された「FIFA 08」以降、技術的な進歩と遊びやすさを両立するシリーズの方向性において、日本ゲーム業界でのキャリアをベースに持つ牧田氏の貢献度は非常に高いように思われる。
その牧田氏は、世界最大のスポーツイベントでもあるワールドカップの開催に併せてリリースされる本作「2010 FIFA ワールドカップ 南アフリカ大会」の完成度に強い自信を見せている。4年前、ワールドカップドイツ大会に併せてリリースされたバージョンからゲームエンジンが代わり、3年の蓄積により「FIFA」シリーズそのものが飛躍的に進歩したこと、それを本作のゲーム内容に生かしたことがその理由だ。早速インタビューの内容をお伝えしよう。
■単なるスペシャルバージョンではない、シリーズを通したゲームプレイの進化
発表会で商品説明を行なう「FIFA」シリーズのプロデューサー牧田和也氏 |
発表会での試遊の様子。本作のゲームプレイを確認することができた |
── いよいよ4年に1度のワールドカップバージョンの発売ですね。2006年のドイツ大会に比べていかがですか?
牧田氏:「2006 FIFA ワールドカップ ドイツ大会」のときは、まだ古いエンジンでしたね。Xbox 360も出たばかりで、あのときは正直厳しかったですね。次世代機のゲームでありながら、まだプレイステーション 2水準の内容から抜け切れていなかったというか……。
──それが新エンジンに代わって、「FIFA 08」、「09」、「10」と大きな進歩を遂げてきましたね。それが今回の2010バージョンに反映されていると。
牧田氏:そうですね。それがまず本作の大きなポイントだと思います。
──発表会では、本作では「遊びやすさ」を特に重視されたということで、「2ボタンコントロール」について紹介されていましたね。その他にも、AIなどシステム面で改良したところがあるのでしょうか?
牧田氏:ええ、あります。色々な部分で直しているのですけれども、特に「FIFA 10」のユーザーフィードバックで特に要望が多かった部分から重点的に進化させています。特に大きなところでは、例えばチップショット(ループシュート)の扱いですね。「FIFA 10」では入りやすすぎるという意見がありましたので、ゴールキーパーの動きを含めた調整などで、より適切なバランスに改善しています。
──確かに「FIFA 10」はゴールキーパーが前に出るクセがあって、ループシュートが強すぎましたね。
牧田氏:他にも沢山の改良があるのですが、例えばチェストトラップ(胸トラップ)の挙動にもかなり手を加えています。「FIFA 10」以前では、浮き球をチェストでトラップした場合、ボールが足元に落ちてきてから、そのあとパス・シュートという動きでした。ゴール前の混戦などでは、「なんでそのまま打ってくれないの!」というようなことがありましたので、それを今作では浮き球をそのままチェストでパス、シュートということができるようにしました。
──なるほど、胸パスや、クラブワールドカップの決勝でメッシが見せた「胸で押し込んでゴール」みたいなことができるんですね。
牧田氏:そうですね。また、シュートに関しては、インサイドキックやアウトサイドキックに新たなアニメーションの追加を行なっています。やっぱり、今まで打ちたいタイミングで打てないことがあったり、細かい表現ができない部分もありましたので、そのあたりも重点的に改善しています。
──選手とボールの位置関係や、姿勢によってさらにバリエーションのあるシュートモーションが表現されると。
牧田氏:そうですね。そのような部分も大きいですし、あとは発表会でも説明しました、チーム戦術の部分ですね。ホームとアウェイの差を出したりとか。やっぱり、現実のサッカーで、ホームだと選手の意気込みも違うじゃないですか。かなり皆で上がりぎみの攻撃とかをするので、そのあたりもゲームで表現できるようにしています。
──そのあたりは、AIシステムに反映して、例えば「裏への飛び出しが果敢になる」といった挙動の違いに現われるのでしょうか。
牧田氏:まさにそうですね。今回の発表会では、一般メディアの方も多かったですので、私からの説明も大枠の部分に絞っていました。実際ゲームの中身を触っていただけるとわかるとおもうのですが、ゲームプレイの進化というものもキーになっていることは間違いないです。そのあたり従来からの「FIFA」ファンの方や、他のサッカーゲームをプレイしている方にやってもらえましたら、やはりいいものだと、これまでと違うということがわかるものを目指して作ってきています。
■ 幅広く、コアゲーマーも楽しめるワールドカップバージョンへ
「FIFA 10」にあった10対10のオンライン対戦機能は外されたが、本作では別に4人での協力・対戦プレイが実装されている |
── 既に体験版をかなりやりこんでいて、実際に感触の違いを感じています。スペインを使ってなんとかフランスに3-0で勝てるくらいにはなってきましたけど(笑)。
牧田氏:凄いじゃないですか、ありがとうございます(笑)。
──「FIFA 10」のほうもかなりやりこんでいて、毎週末には仲間内で10対10のクラブマッチを、わりとストイックにやっている感じです(笑)。ということに比べると、今回のワールドカップバージョンは、ストイックというよりはより幅広いユーザーに楽しんでもらうための内容になっているということですよね。
牧田氏:そうですね。ですが、だからといって、ハードコアのユーザーさんが満足できないものになっているわけでもないです。そのあたりのメッセージというのは難しいところなのですが、やはり中心となるゲームプレイの作り込みが、ハードコアのユーザーさんに1番受けるところだと思います。それに加えて今回ワールドカップのオンラインモードがありますので、オンラインでストイックな対戦を楽しんでいただくこともできますよ。
── そのオンラインという点でひとつ気になるのは、今回ワールドカップバージョンでは、「FIFA 10」に実装されていた10対10の対戦要素が含まれていないですね。敢えて入れなかった理由というのはあるのでしょうか?
牧田氏:はい、その理由として1番大きいのは、「ワールドカップの期間は限られている」ということなんですよ。その中で10対10を入れてしまうと、凄い短い期間に10対10を遊ばなくてはいけなくなっちゃうんですよね。今までの「FIFA」をやられている方がいて、その中でワールドカップがあるという構図ですので、そのためにチームを組み直したりとか、2週間程度のイベントのためにとか、それはワールドカップのためのゲームの方向性とは合わないのではないかと。そういった議論をしまして、今回は10体10を除いたという形になります。
──なるほど。「FIFA 10」はメインストリームとして継続性のあるタイトルであり、ワールドカップはイベント限りのスペシャルバージョンである、という違いからなんですね。
牧田氏:そうですね、そういった差別化のこともありますし、あとは開発としてどこに注力するかという選択の問題ですね。限られたコストの中でゲームを作らなければいけませんので、今回は特にゲームプレイの改善や、ゲームモードを充実させるところに集中しました。「バトルオブネイション」といった国別ランキング要素なんかもそうですね。
──やはりコアゲームプレイの改善というのは、本作の核になる部分なんですね。
牧田氏:それはもう、常に。特に最近のユーザーさんは厳しいじゃないですか。普通に同じ絵を出しても、挙動の部分で色々な不満点が出てきてしまったり。そういったことができるだけ少なくなるように、シリーズを通して改良を続けていくというのが基本的なスタンスになっています。日本のユーザーの皆さんからも、ぜひフィードバックを頂きたいと思っています。
──リアルのサッカーでも、どんどん新しい流れが出てきてますしね。そのあたりもシリーズを通して再現できるようになればなあ、と期待しています。
牧田氏:そうですね。是非やっていきたいと思っています。色々なご意見をお待ちしています。
──開発の面では、3月に行なわれたGDC2010で「FIFA」のアニメーション技術セッションを行なった方が、ジェイソン三宮というお名前で、日系の方でした。開発チームにはけっこう日本がらみのスタッフがいらっしゃるようですね。
牧田氏:ええ、結構日本人のスタッフもいますよ。例えば、去年の「FIFA 10」で実装した360度ドリブルなんかは、日本人のスタッフが作っています。そういった日本人の技術の高い方も開発で大きな役割を果たしていますね。
■ 選手データはリアルと連動。無料アップデート提供でワールドカップをよりリアルに
イベント連動のゲームということで、選手データは6月、7月の2回にわけて無料アップデートが提供されるという。また実際の試合結果に基づいたチャレンジ要素も配信される予定だ |
──今回ワールドカップバージョンということで、各国の代表チームを収録していますよね。特に日本代表などは、基本的に従来の「FIFA」シリーズに収録されていない選手を追加したということになるんでしょうけれども、そのあたり、何かこだわりをもって取り組んだ部分はありますか?
牧田氏:1番大きいのは、選手の選択ですよね。まだ最終メンバーが発表されていませんから、実質監督にしかわからない部分もあるじゃないですか。そこは我々のほうでリサーチをかけて、この選手が選ばれる確率が高いだろうというものを入れています。
ただ、実際の選手とはやはり変わってくると思うんですよね。それを反映するには、データをアップデートするしかないと思っていますので、まず6月のはじめ、ワールドカップが始まる10日くらい前に最初の選手データのアップデートを予定しています。そのときに23人の最終メンバーを揃えることになります。今はオンラインにつながっているユーザーがほとんどかと思いますので、プレイしていただく際に自動的に更新されるようになっています。
──その時に、まだパラメーターを作ってないような選手が入ってくることもありえますよね。
牧田氏:それは対応できると思います。ただ、基本的にまったく無名の選手が入ってくるようなことは無いとは思っているんですよね(笑)。まあ、実際どうなるかわからないので、そのあたりは臨機応変に対応していこうということで考えています。
あとは、ワールドカップが実際に行なわれて、グループリーグが終了して決勝トーナメントが進行中の7月頭に、第2回目のアップデートをかけることを予定しています。グループリーグの戦いぶりによって、各選手の評価も変わってくるかと思います。今まで目立たなかった選手がスターになったりすることもありえますので、そういったものを反映したデータアップデートをご提供します。
──リアルと連動していて面白いですね。
牧田氏:そうですね、やっぱり公式のライセンスホルダーとしては、そこまでやるのが義務だと思っていますので、当然フリーでご提供します。
──ちなみに、最近の日本代表選手では、CSKAモスクワの本田圭佑選手が注目されていますよね。やはり能力値の調整なども入っているんですか?
牧田氏:パラメーターについては、今回の発売に間に合わせるため、結構前にフィックスしているんですよね。それがいつまでの時点かは今把握してないんですけれども、彼の能力値に関してはかなり高くなっているはずです。
欧州で活躍する選手を中心に、リアルな顔グラフィックが作りこまれている |
──顔グラフィックについてはどうでしょうか?日本のユーザーはわりと「似ているかどうか」を気にしますけれども。
牧田氏:肖像権についてはFIFAのライセンスとは別になってきますので、全選手がそっくり、というところまでは言えないですね。しかし、欧州で活躍している日本人選手はかなり力をいれて作りこんでいますよ。それから、イングランド代表あたりは本当に再現性高いですよ。
──そういえば、バルセロナに所属するスペイン代表のジェラール・ピケ選手は新たに作りこまれましたね。ですけど同じバルセロナでスペイン代表のセルジ・ブスケ選手の顔がまだできてなくて、かわいそうだなと思ったんですけど(笑)。このあたりは順次という感じですか?
牧田氏:そうですね、やはり有名な選手順という感じになっていますので、どうしても漏れてしまう部分はありますね。とはいえ、やっぱり見た目に関してはまだ満足していないんですよ。基本的に写真から作っていく感じになっているんですが、まだまだ改良を加えて力を入れていきたいと考えています。
──実況解説の音声について、今回も実況西岡、解説岡田というコンビということですが、ワールドカップに合わせて新たに収録した音声というのもあるんでしょうか?
EAJ広報 熊谷氏:そこについては私からお答えさせていただきます。やはりワールドカップということで、グループリーグ、決勝トーナメント、セミファイナル、ファイナルと試合の種類によって演出も変わります。そうすると解説も変わります。「ワールドカップを迎えてどうですか?」といった西岡さんと岡田さんの会話なども音声として入っています。そういった形でワールドカップの雰囲気を楽しんでいただけるようなものにしています。
──最後に、今回ワールドカップバージョンを発売するにあたり、ユーザーに向けて特別なメッセージがあれば、お願いします。
牧田氏:実は今回、EA日本のほうで色々と検討していただいた結果、お値段を通常よりもかなり下げてご提供することになりました。PS3とXbox 360版で5,040円、WiiとPSP版で3,990円ですね。安いので、ボリュームが少ないんじゃないかとか、内容が薄いんじゃないかとか思われてしまうかもしれませんが、全くそんなことはなくて、かなり作り込みをして自信のある内容になっています。その値段は、できるだけ多くの方に手にとっていただいて、楽しんでいただきたいという気持ちを込めたものなんですよ。
やっぱり、今までの「FIFA」シリーズというのは、日本のサッカーゲーム市場ではコナミさんが強いという部分もありまして、遊んでいただけなかった方も多いと思うんですよ。ですので、ぜひこのワールドカップを機にオフィシャルのゲームを触ってもらって、ワールドカップの雰囲気を味わうとともに、「FIFA」のゲームエンジンがどういうふうに進化してきて、どういうふうに遊べるのか、ということを感じていただけるきっかけになればと思います。そういう意味で、本作はシリーズの今後につなげるためのタイトルでもあります。
EAJ広報、熊谷氏:普段シリーズを遊んでいただいている方にも、追加で「もう1本」ということになりますから、フルプライスよりはお安い価格でということも考慮致しました。また今回、早期購入特典として、「ワールドカップ丸わかりガイド」という80ページ以上の冊子をお付けします。初回ロットをお買い上げの皆さんにはほぼ行き渡る数を用意しております。
──ありがとうございました。
牧田氏:ありがとうございました。ワールドカップをぜひ楽しんでください。
【プレイステーション 3 / Xbox 360版スクリーンショット】 | ||
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http://www.eajapan.co.jp/
□「2010 FIFA ワールドカップ 南アフリカ大会」のホームページ
http://easports.jp/fifa/wc/2010/
(2010年 4月 16日)