「メイプルストーリー」、新コンテンツ「シグナス騎士団」開発者インタビュー
新キャラクターで世界の危機に立ち向かう“再出発”を促す新コンテンツ
株式会社ネクソンは、MMORPG「メイプルストーリー」において7月29日に新コンテンツ「シグナス騎士団」を実装する。実装に先がけ韓国NEXONより開発者が来日、インタビューを行なった。
シグナス騎士団とはゲームの世界「メイプルワールド」を統べる女王シグナスの元に集う戦士達だ。プレーヤーはこの騎士団に所属するキャラクターを新しく作り、冒険を行なうことになる。これまでにはない職業、ストーリー要素、新マップなど様々なポイントに注目したい。新キャラクターでプレイするということでプレーヤー社会も大きく動きそうだ。
今回インタビューを行なったのは「メイプルストーリー」を開発するNEXON Wizet Studio本部長のチェ・ウンド氏、NEXONメイプルストーリー室長カン・デヒョン氏、NEXON メイプルストーリー日本Liveチームキム・ヨン氏、そしてネクソン事業部マーケティング2チームメイプルストーリー担当島嵜直樹氏の4名である。新コンテンツと共に、昨今ユーザー間で話題となっているセキュリティ問題などにも質問をぶつけてみた。
■ 騎士団のキャラクターで冒険へ! 0から始まる暗黒の魔法使いとの戦い開幕
「メイプルストーリー」を開発するNEXON内部の開発スタジオWizet Studio本部長のチェ・ウンド氏 |
NEXONメイプルストーリー室長カン・デヒョン氏 |
NEXON メイプルストーリー日本Liveチーム キム・ヨン氏 |
新アップデート「シグナス騎士団」は、「メイプルストーリー」に全く新しいストーリーをもたらすコンテンツである。プレーヤーはこのコンテンツのために新たにキャラクターを作成し、新フィールド浮遊島エレヴから冒険をスタートすることになる。
シグナスとはこのゲームの世界メイプルワールドを統べる幼き女王の名前だ。シグナスはメイプルワールドを旅したとき、かつてこの世界に恐怖をもたらした「暗黒の魔法使い」が復活しつつあることを知る。シグナスはすぐさまエレヴに戻り、5つの力を持つ「シグナス騎士団」を結成し、暗黒の魔法使いに対抗する準備を始めた。
プレーヤーはこのシグナス騎士団に所属するキャラクターをつくることになる。5つの力とは、シグナス騎士団専用の5つの新クラスだ。精霊の力を剣に宿らせて戦う光の騎士「ソウルマスター」、炎の精霊を使う魔法使い「フレイムウィザード」、風の精霊の加護を受けた弓使い「ウインドシューター」、闇の精霊の力を受け毒を使う盗賊「ナイトウォーカー」、稲妻の精霊の力を武術に利用する海賊「ストライカー」。プレーヤーは新キャラクターを作成後この5つのクラスから1つを選び、暗黒の魔法使いと戦うために冒険を開始する。
スタート地点はシグナス女王のいる空中に浮かぶ島エレヴである。エレヴには、シグナスを守るように眠り続ける巨大な獣「神獣」や、毒舌家の宰相ナインハート、各騎士団を導く騎士団長たちといったNPCがいる。キャラクターを作成するとチュートリアルがスタートするが、通常キャラクターでのチュートリアルに比べ、よりストーリー要素が充実しているという。
シグナス騎士団のキャラクターはこれまでの職業のキャラクターに比べスキルが派手で、能力も高い。このためすでに高レベルのキャラクタを育てたユーザーでも新鮮な気持ちでキャラクターを育成できる。キャラクターのレベルアップは序盤から中盤までが上がりやすく、後半は上がりにくくなる。現在のレベルキャップは120レベルだが、体感的には通常キャラクターの140レベル相当の強さを獲得するという。
そのためには全く新しいキャラクターを1から育て上げなくてはならない。ここにボーナスを持たせたいというのが「精霊の祝福」というスキルだ。このスキルを持つキャラクターは、シグナス騎士団のキャラクターを育てるとボーナスで経験値を得ることができ、逆にこのスキルを持つキャラクターを育てることでシグナス騎士団のキャラクターにボーナス経験値をもたらすことができる。メインキャラクターを育てながらシグナス騎士団のキャラクターを育てることがある程度考慮された設計になっているわけだ。
チュートリアルであるエレヴ島のクエストをこなすとシグナス騎士団のキャラクターは広いメイプルワールドの世界に旅立っていく。ボスとの戦いや、様々なコンテンツをプレイするのは既存キャラクターと同じであるが、シグナス騎士団のキャラクターの場合、クエストを受ける時のストーリーがより凝ったものになる。今回のアップデートでは目的の「暗黒の魔法使い」の姿を見ることはできない。今後のアップデートでさらにこの悪の根源へ迫っていく展開になるとのことだ。
このコンテンツは韓国では2008年の12月に実装されている。日本への実装になぜそこまで時間がかかったのだろうか? 韓国NEXON MapleStory室長のカン氏は「韓国と日本は、経験値テーブルが違い、日本の方が上げやすくなっています。また、経験値2倍の課金アイテムも韓国にはない。全体的に日本の方が高レベルユーザーが多いという状況になっています。このため日本では高レベル向けのコンテンツの充実を優先させました」と語る。
韓国ではシグナス騎士団のキャラクターはレベル20以上のキャラクターをもつプレーヤーのみが作ることができるという制限が加えられていたが、非常に好評で、この実装に合わせて新サーバーも追加となった。韓国では新しい基本職業英雄「アラン」が追加され、今後新しい騎士団向けの新職業も追加されるのではないかと期待が高まっている。ちなみにアランは、スキルを連続して使うことでコンボが発動するテクニカルな職業となっている。一方、一撃が大きく全体的に強いシグナス騎士団のキャラクターは初心者向けという位置づけだ。
各担当者に今回のアップデートの魅力を聞いてみたところ、カン氏は「今回の『シグナス騎士団』ではよりプレイが快適になり、キャラクター自身も強くなったところを特に注目してもらいたいですね。そしてストーリーに関してはこれまでのシンプルなものではなくストーリーラインを意識して強化してあります。快適さ、キャラクターバランス、シナリオの3点を特に注目して、今後の展開にも期待してもらいたいと思います」と語った。
「メイプルストーリー」を開発するWizet Studio本部長のチェ・ウンド氏は「『メイプルストーリー』はスタートから6年になります。コンテンツはどうしても高レベル向け、中級者向けのものが多くなり、新規ユーザーにはハードルの高いものになってしまった。そこで“再出発”の意味も込めて、全員が同じスタート地点から始められるコンテンツを開発してみました。新規ユーザーの視点でチュートリアルから作り直しています。スタートから楽しむつもりで遊んでみてください」
日本向けコンテンツを企画し進めていく日本Liveチームチーム長のキム・ヨン氏はフレイムウィザードがお気に入りだという。炎の精霊を味方に遠距離攻撃が得意なこの職業は、次々と現われるモンスターをグループで倒す「モンスターカーニバル」で支援キャラクターとして大活躍できる。韓国では5つの職業の中でも1番人気と言うことで、実装時にユーザー達がどの職業を選ぶのかも興味深い。
新しいストーリーを始めるにあたり、そのストーリー専用の新キャラクターを作るというのはかなり思い切ったアプローチである。また、これまで弱かった「ストーリー要素」に挑戦したという開発チームのチャレンジにも期待したい。このコンテンツ実装を期に「メイプルストーリー」を始める、という人も多くなるのではないだろうか。プレーヤー社会がどう動くかに注目したい。
今回のアップデートのポスターとキャラクターイラスト。右が中心人物となる女王シグナスだ | ||
左から宰相のナインハート、フレイムウィザード騎士団長のオズ、ウィンドシューター騎士団長のイリーナ |
■ 「メイプルストーリー」の課題。ネットセキュリティ、イベント開催など低年齢層ユーザーを考えたアプローチは?
チェ氏は基本プレイ無料アイテム課金制のビジネスモデルを立ち上げた中心スタッフの1人だという |
ネクソン事業部マーケティング2チームメイプルストーリー担当島嵜直樹氏 |
インタビューではさらに「メイプルストーリー」の開発に関しての全体的な質問をぶつけてみた。韓国ではここ数年「メイプルストーリー」の要素を取り入れたオンラインゲームが登場している。
こうした動きについてチェ氏は「後発のタイトルに関しては、全体的には負けることはありませんが、システム面で『メイプルストーリー』にはない要素を取り入れたものもあります。相互に影響しながらゲームの完成度を上げていく、といういい面もあります。その上で『メイプルストーリー』の優位性はやはりコミュニティーにあります。一時的に他のタイトルでプレイしても、新コンテンツが追加されれば『メイプルストーリー』に帰ってくる、といった状況になっています。韓国では『メイプルストーリー』はMMORPGの入門書、といった位置になっていると思いますね。また“常に初心者への配慮は忘れない”というのが私達の理念です。年々子供が成長することで『メイプルストーリー』に新しいユーザーが入門してくる。彼ら向けのコンテンツを提供し続けているというのも人気の理由だと思っています」と語った。
カン氏は、北米で「メイプルストーリー」が評価されたのは「全体的なコンテンツの厚み」が北米のユーザーに受けたのではないかと分析している。攻撃パターンやマップなどボリュームやこだわりが評価に繋がり、なによりもカジュアルさが多くのプレーヤーを獲得できた。「カジュアルで厚みのあるコンテンツというのが新しさを持って迎えられたと思っています。その客層に“基本プレイ無料アイテム課金制”というビジネスモデルがマッチしたのではないかと」とカン氏は語る。
「メイプルストーリー」は基本プレイ無料アイテム課金制というビジネスモデルで成功し、以降多くのメーカーがこのビジネスモデルを採用したが、チェ氏は「メイプルストーリー」の前にプログラマーとして手がけた「Q Play」で、基本プレイ無料アイテム課金制のモデルをスタートしようとしたとき、社内から激しく反対された。しかし押し切り成功した。その経験を活かし、「メイプルストーリー」はそのモデルをさらに洗練させサービスを行なうことになったという。「最初に特許を取っていたら大もうけができたかもしれない、と良く韓国でも言われます」とチェ氏は笑いながら語った。
「無料でゲームをプレイでき、プラスアルファでお金を使うことでよりゲームを楽しむことができる基本プレイ無料アイテム課金制というビジネスモデルは、現在世界中のゲームに採用されているシステムです。選択で購入できるという方法はエンターテインメントというジャンルにマッチしていると思います。一方で、ゲームで必ず必要なアイテムを課金販売してしまうようなモデルもできてしまいました。そこに関しては、私の理想とは少しずれてしまったな、とも考えています」とチェ氏は語った。
ここ数年では、アカウントハッキングの問題が多く報告されるようになってきた。アンチウィルスソフトを導入する、セキュリティーホールの対策をするなどの知識が必要となるが、「メイプルストーリー」のメインターゲットである低年齢層のユーザーに対しての啓蒙は難しい。
韓国ではパスワード対策として、「ワンタイムパスワード」という、銀行で使われているシステムを導入している。これは携帯電話と連動したサービスで、ログインしようとするときに携帯のメールでその度にパスワードをもらうというシステム。現在は希望者に無料で提供している。しかし低年齢層には限界があり、キャンペーンなどで地道に啓蒙活動を行なっていくしかないのが現状だという。
日本の運営に関してはネクソン マーケティング部の島嵜直樹氏に質問した。まず、ユーザーにインターネットの留意点等を考えてもらう啓蒙活動に関しては、「メイプルストーリー」では低年齢層のユーザーが多いことを考え、ユーザー自身だけでなく、その両親にもアピールしていけるようにアプローチしている。ゲームに熱中してしまうかもしれない問題に関しては、両親が接続時間をコントロールできる「安心キッズサポート」というシステムを日本先行で2008年12月に導入した。パスワード管理に関しては、今後「ワンタイムパスワード」の導入も検討しているという。
低年齢層のユーザーが多いというところは「メイプルストーリー」の大きな特徴ではあるが、逆にオフラインイベント開催が難しいという点がある。ユーザー層に対して安全性などを考慮したイベント、楽しんでもらえるイベントにするか島嵜氏を始めとしたスタッフ達で議論を重ねているが、まだ具体的な動きにまで至っていないという。現在ネクソンのオフラインイベントは都内で開催され、抽選で参加者を選ぶという形が多いが、地方での開催など様々な施策を検討しているとのことだ。
今回のアップデートに関して、島嵜氏は「『メイプルストーリー』は常に新しいチャレンジをしていくゲームだと思っています。今回のシグナス騎士団は全く新しいキャラクターで挑戦できるユニークなシステムです。こういったチャレンジ精神は常に変わらず、続けていきたいと思っています。今後も新しいコンテンツがたくさん用意されていますので、ユーザーの皆さんには期待してもらいたいと思っています」と語った。
最後にユーザーへのメッセージとしてカン氏は「日本で『メイプルストーリー』をサービスするときには心配する声もありました。6周年を迎えられる人気を得たことは非常に感謝しています。今後も日本オリジナルコンテンツなど日本市場にフォーカスしたコンテンツを投入していきたいと思います」と語った。
チェ氏は「日本では『オンラインゲームはネクソン!』とCMをやっていますが、もっともっと日本で認知してもらえるように頑張りたいです。私としては開発チームWizet Studioの存在をもっともっとアピールしていきたいですね。よろしくお願いします」。キム氏は「私は日本Liveチームとして、ユーザーがもっと交流できるようなコンテンツをどんどん入れていきたいと思います」と語った。今回のアップデートが導入されることでどのような変化が生まれるか、今後の運営も含めて注目していきたい。
スタート地点となるエレヴのスクリーンショット。左の女王を守るように眠る神獣は初めて見るとその大きさに圧倒されそうだ | ||
エレヴの各地。展開するストーリー要素にも注目したい。シグナス騎士団はここから世界に旅立っていくのだ |
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(2009年 7月 17日)