インタビュー
「アトム:時空の果て」、手塚眞氏、イバイ・アメストイ氏インタビュー
手塚治虫のキャラクター、ゲーム、そして「面白さ」へのこだわり
2016年9月28日 00:00
アクティブゲーミングメディアは、今冬サービス予定のPC/Android/iOS向けバトルカードゲーム「アトム:時空の果て」のインタビューを実施した。
インタビューでは本作の監修を行なうヴィジュアリストの手塚眞氏と、アクティブゲーミングメディア代表取締役イバイ・アメストイ氏に本作への想いを聞いた。
「アトム:時空の果て」は、「鉄腕アトム」をはじめとした、手塚治虫氏のキャラクターが多数登場する。彼らは多次元宇宙を超え集結し、闇の軍勢に立ち向かう。世界観は近未来の雰囲気で、カードのイラストは奥浩哉氏、猫将軍氏などが担当する。
インタビューでは両氏に、手塚治虫氏のキャラクターへの思い入れや、彼らが活躍するというゲームに対しての感想、ゲームの注力ポイントなど、様々な質問をぶつけてみた。
「アベンジャーズ」に負けない夢の競演を! 手塚氏が監修する世界観
――まず最初に「アトム:時空の果て」の生まれた経緯を教えてください。手塚治虫さんのキャラクターを使ってゲームをつくろうと思ったのは、どうしてなんでしょうか。
アメストイ氏: 私達は壮大なプロジェクトに向けて大きなIPを探していました。アメリカでは「アベンジャーズ」が大きく成功しています。マーベルコミックスというたくさんのキャラクターを持つアメコミという文化があるから、今日の成功がある。
日本でアメコミに比肩しうる強い個性を持ったキャラクターを数多く抱えている1人のクリエイターと言えば、やはり手塚治虫さんだと思ったのです。そして知人のつてを得て、手塚プロダクション、そして手塚眞さんとお話しできたのです。
――手塚さんのこのゲームへの関わり、スタンスを教えてください。手塚治虫さんの作品自体、様々な作品がリンクしていますが、「アトム:時空の果て」はあえて手塚さんのキャラクター達が総出演する世界となっています。ここに関してはどうでしょうか。
手塚氏: 僕はゲームはプレイしませんし、詳しくないので、ゲーム部分はタッチしません。キャラクターとストーリー部分の監修です。これまでも様々な手塚治虫の作品を扱ったゲームは出ています。それらは漫画やアニメとは違う世界だと、僕は思っているんです。まだまだ手塚の作品を開発できる分野じゃないかと考えています。
新しい遊び方、新しい見せ方、色々な方向性があると思うんです。だから色々な考え方、捉え方があっていい。だから原作にあまり固執して欲しくない。だからイバイさんから「オリジナルストーリーでいきたい」と言われた時も、原作やキャラクターのイメージを大きく逸脱しなければ良いと承諾しました。
――全体的に手塚治虫さんの世界観を踏襲する、キャラクター性を守る、と言う部分で、手塚さんが気をつけている部分というのはどういうものでしょうか。手塚治虫さんのキャラクターは複数の作品に登場し、役割が違うと性格も大きく異なる、というキャラクターも多いと思います。
手塚氏: 各キャラクターの“根本的な性質”です。そこが変わってはいけない。絵の表現は幅があって良いんじゃないかと思います。今回はアメコミや、劇画風の絵柄になっていて、リアルさと、近未来を感じさせるものになっています。その絵の表現は問題ないと思っています。
キャラクターに対しては色々な考え方があって、型にはめての判断はできない。今回の世界観において、キャラクターはこういう環境に置かれ、こう判断し、こう行動する。そういう動きの中で提示されたキャラクター性において、判断しています。
僕自身もクリエイターなので、“面白い”か、“面白くない”かは直感的にわかる部分があります。“面白い”というのはとても大事な要素ですが、いたずらに人を不快にさせる面白さは、やはり違うと思うんです。例えば、アトムがものすごい人殺しだったら嫌なわけです。そういうのは勘弁してくれと言うしかない。
しかしアトムが悩み、ぐらつき、時に悪の道に踏み入れてしまう。これは原作にもあった要素です。後は作品ができあがった時の方向性ですよね。これがネガティブすぎたらそれはダメだと思うんです。「アトム:時空の果て」はそうならないと思っています。ちゃんとその先に希望が見えるような、作品になると思っています。そこは心配していません。
ただし、この作品に関して、僕はクリエイターではなく、監修として関わるという所は守っているつもりです。イバイさん達が考えているビジョン、作っている作品に、できるだけ口を挟みたくない。……とはいえついクリエイターの視点で見てしまう。なるべく自分を律して、「アトム:時空の果て」の持つ方向性を守ろうと考えています。
――とはいえ、やはり作る側として、手塚治虫さんのゲームを作る上で、手塚眞さんのバックアップを受けられるというのは、とても心強いですよね。
アメストイ氏: 原作を最も理解してくださる人が監修して下さっているというのは、とても心強いです。「このキャラクターはこういうしゃべり方はしない」、「こういうシチュエーションで、このキャラクターはこういうメッセージを伝えるはずがない」、そう言っていただけるのは本当にありがたい。
そしてそこに加えて、「アトム:時空の果て」を作品としてみていただいて、「女性キャラクターを増やした方がいい」、「街のデザインはもっとこういう雰囲気を強調した方が良い」といった、作品そのものにも意見をいただけるのが助かります。眞さんのおかげで作品が全体的なクオリティアップしていると感じています。
――今回様々なクリエイターがカード画像として手塚治虫さんのキャラクターを描いています。ここの感想はどうでしょうか。
手塚氏: 色々なクリエイターが手塚治虫のキャラクターを描く、というのは面白いと思いました。ただ皆さん個性を活かして描いている。それを1つの作品の世界観に納めるのは難しそうだなと。そこに近未来のテイストで統一することで、世界観を合わせている。こういった部分はイバイさんに任せています。作家さん達も好き勝手に描いているわけではなく、世界観をちゃんと頭に入れていると思います。
アメストイ氏: とはいえやっぱり難しいですよ。作家さんに依頼する上で注意しているのは「原作を深く理解していること」です。キャラクターに愛情を持っている人に描いていただいてます。もちろんPR効果も狙い、著名なクリエイターさんに、有名なキャラクターを担当していただいています。ですから本当に素晴らしい作品が提出されてくる。
苦しいのは、そういった一流のクリエイターの方に修正依頼をお願いすることなんです。本当に難しい。そして、今回発表させていただいたことで、色々な方から「自分も描かせて欲しい」と声をかけていただいてます。どうしていこうか、考えています。もちろんたくさんのクリエイターさんの参加は大きな魅力ですが、やはりゲームとしての面白さを優先したいですし、キャラクター数をやたらに増やして無理をさせるのは避けたい。今そのバランスも考えています。
――公開されたイラストからは、クリエイターの手塚作品への愛が強く感じられますね。奥浩哉さんの「マグマ大使」もすごいなと。
手塚氏: 皆さん非常に考えていると感じます。単に劇画風のタッチにするだけじゃなくて、自分のアイディアを加えている。自分だったらこうしたい、という想いも感じられる。そして世界観への配慮もきちんとされている。考えて描いているなと。
アメストイ氏: 奥さんの「マグマ大使」は提出していただいたのが早かったですねえ。眞さんにも1番最初に見ていただいたと思います。奥さんには担当して欲しいキャラクターを3つ提示したんですが、即答でしたね。その後契約をきちんとする前に絵を出していただいて、しかも完成度もものすごかった。奥さんの思い入れを強く感じましたね。
手塚氏: 手塚キャラのアレンジ、リメイクは本当に難しいと思います。シンプルなので一見簡単に見えるところもありますが、難しい。浦沢直樹さんの「PLUTO」も浦沢さんがさんざん悩んであの形になりました。
「マグマ大使」もものすごくリメイクしにくいキャラクターだと思います。まず顔が独特です。本来全身は金属であるけれども、とても人間くさい表情が浮かべられる。この原作からいかに離れるか、それも色々な人が挑戦したけれど、出せませんでしたね。手塚治虫のキャラクターをリメイクするというのは、すごく難しいと思います。
「マグマ大使」は地球のロボットにはない“質感”がある。そして顔に表情がある。これが1番難しい。巨大ロボットで人の顔がついている。マンガだからこそ成立するけど、これをリアルにするのは、難しいですよね。
アメストイ氏: 最近ピカソを扱ったスペインのテレビ番組を見たんです。そこでは、ピカソがモナリザの模写をして手を動かしている時に、ぼそっと「何やってもダメだな」とつぶやいているんです。ピカソですらリメイクは難しのだと改めて思いましたね。
間口が広く奥深いゲーム性と、“終わらない物語”の融合
――ところで、手塚さんはゲームはなさらないということですが、“インタラクティブ”、ユーザーの干渉で世界が変わる、という部分ではどうでしょうか。
手塚氏: 僕は映像作家で、インタラクティブなコンテンツは仕事でも扱っています。特にAIが発達してくる昨今はますます面白くなっていくと思っています。これからさらに色々な表現ができるんだろうと思います。そしてVRも研究が進んでいる。しかしまだ、それぞれのジャンルが別々に動いているんじゃないかと思うんですよ、ゲームもそうです。それは今後融合していく、そこに面白いものがあるんじゃないかと。
VR体験は僕もヘッドマウントディスプレイで試してみたんです。しかしまだ前の形、それはゲームだったり、映画だったり、まだそういったジャンルに留まっている印象を持ちました。もっと違う世界を見せられるだろうと考えています。……ちょっと「アトム:時空の果て」と離れてしまう話ですが(笑)。
今の僕の感覚では、現時点のVRは「現実の模倣」に留まっている印象がある。もっと違う、現実とは違う世界をVR技術で見せられるのではないかなと。今はそれを具体的には言い表せませんが、現実の模倣では限界がある。VRでしかできない体験を追求する方向ってあると思っているんですよね。宇宙空間は本来上も下もない。デジタルな世界も上も下もないと思うんです。そこでの面白い世界ってあるんじゃないかと。
一方、ゲームは僕にとっては1つの“遊び”でしかないという印象を正直持っています。ゲームが提示する遊びって、今の僕には魅力は感じない。やはり現実を巻き込むまで行って欲しい。VRで現実すら巻き込んでいけるのなら、そのとき僕にとっても面白い遊びになるんじゃないかと思っています。今のゲームじゃない、もっとその先だと思っているんです。
――「アトム:時空の果て」はゲーム性へのこだわりを見せようという意欲を感じます。ストーリーを進めていくアドベンチャー部分でもそうですし、奥深いカードゲームをつくろう、ゲームとしての面白さも実現しようとしていますよね。
アメストイ氏: 今回最初に目指したのは「チュートリアルのないカードゲーム」でした。カードゲームの楽しさに気が付いてもらえれば、その先は皆がのめり込んでもらえる。……今回は正直そこまではできなかった。チュートリアルを入れましたが、理想をできるだけ実現したところまでは行けたと思っています。
例えばストーリーモードの中で主人公が敵役ゴアと対峙した時にカードバトルに入るといったスムーズな流れや、攻撃と防御を直感的に理解できるデザインにしたり、友達にコツを教えて貰いながらプレイできる2対2の対戦モードの実装など、様々なポイントを盛り込んでいます。こういったところは「子供でも一般的なユーザーと対戦できる」という環境を目指して制作しました。
――そのゲーム性に加え、手塚治虫さんのキャラクターの起用、北米ユーザーを見据えた劇画風アレンジと、これらは全てより幅広いユーザーにプレイして貰うための施策ということでしょうか。
アメストイ氏: やはりハードルを低く、色々な人に親しんでもらいたい、と言うのが第一です。そしてもちろん奥深さも目指しています。やり込むほど面白くなる、深い戦略性も持たせています。
――「ポケモンGO」の大ヒットは、「ポケモン」というキャラクター性が大きかった。やはりゲームをヒットさせるためにはキャラクター性が必要ですか。
アメストイ氏: それはもちろん必要です。しかし「ポケモンGO」は似たようなゲームばかりの現状に、新しいゲーム性を提示できたのが大きいと私は思っています。ユーザーに新しい刺激を与えられたんじゃないかと。それはユーザーがまさに新しい何かを求めていたところに応えられた「タイミング」大きかったと思うんです。
「アトム:時空の果て」は他のコンテンツとの競合は意識していません。とにかく面白いものをつくろう、というのが開発の目指した方向性です。確かに「『ハースストーン』以上の面白さがあるのか?」と言われればそれは未知数ですが、私達の作品独自の面白さを目指していますし、気持ち的には「新しいジャンルを作る」という気合いで作っています。
それは、ストーリーとゲーム性の融合です。「アトム:時空の果て」はRPGをプレイしているかのようなストーリーを体験できますし、カードゲームとしての楽しさも持っています。この2つを実現できるかどうかは、まさに私達のこれからにかかっています。
街の中を好きに移動し、色々な人に話しかけられる。進める順番にも幅を持たせています。きちんと世界観、キャラクター性、ストーリー性、そして自由度を持たせています。こういった1つ1つのポイントに手を抜かずに作っています。
――ストーリーや世界観に関しては、手塚さんの監修部分の所だと思います。どういった印象を持たれたでしょうか。
手塚氏: ゲームの脚本は全部目を通させていただきました。ただゲームに反映した時どうなるかはまだわからない。ストーリーの破綻はなく、普通に読めますが、これを面白くできるかはゲーム部分にかかっている。そこは踏み込まないようにしています。
アメストイ氏: まだ眞さんに触っていただけてない段階である、と言うことも大きいです。今年の11月、12月辺りは見ていただけると思います。今の段階で意見をいただいてるのは「火の鳥」の言葉遣いやセリフの意味とか、「ブラック・ジャック」は自分をこのようには名乗らない、などなど、キャラクターの表現の部分が多いですね。
手塚氏: ストーリーの骨格は問題はないけれども、「面白いか?」という判断はまた別で、それは作品として完成した部分で見ないといけないですね。ただ、「面白さ」と言う意味ではイバイさんの会社は海外のスタッフも多く、センスとして日本人とは違う部分がある。
考え方、キャラクターの使い方が違う。こういう部分は僕自身面白さを感じています。そしてそこに関して、既存の価値観に引っ張られないように気をつけています。彼らのセンスと考え方を活かしてみたいな、と思っています。
……ゲームとの関わりの経験としては、実は発表できないかったもので、これまで関わった経験もあります(笑)。「アトム:時空の果て」はやはりイバイさんの考え方が面白い。実はだからこの仕事をやっている理由に“好奇心”という部分も大きいんです。どういうものになるか、楽しみにしています。
――昨今のゲームはオンラインでアップデートしていきます。コンテンツもそれに合わせ物語は進行していきますが、手塚さんもずっと関わっていかれるのでしょうか、それともスタートまでですか。
アメストイ氏: これからずっと見ていただくつもりです。ストーリーはリリース後も展開していく。しかし実はそこにジレンマがありまして、カードを増やすのは良いけど、ストーリーでやたらにキャラクターを増やしてごちゃごちゃさせたくない。うまくキャラクターを交代、あるいは退場させる必要があって、手塚さんに協力いただかなくてはできないと思っています。
手塚氏: イバイさんはすごいアイディアマンなんですよ。彼の中で次々と新しいアイディアが生まれてくる。僕はそのアイディアの相談役のような所もあります。そういう意味でも「アトム:時空の果て」にはずっと関わっていくつもりです。
実際、手塚治虫の原作自身「終わりのない物語」なんです。一応マンガとしては完結している。しかしそれは連載を完結させたに過ぎなくて、描かれた世界は終わったわけではない。実際途中で描かれなくなったストーリーもずいぶんある。おそらく本人の中ではいくらでも先が作れたと思うんです。アップデートされていくゲームというのは、そういう意味で同じだと思っています。例えば「ブラック・ジャック」は終わっていない。最後の話はあるけど、彼の人生は続いています。
――では最後にファンへのメッセージをお願いします。
手塚氏: 手塚治虫のキャラクターのアレンジに関して、最初は抵抗を持つ方もいらっしゃるかもしれません。しかしゲームが面白ければ、そういう違和感はすぐなじんでしまうと思います。ハマればこれが正しいと思ってもらえる。ですので、まず触って欲しいと思います。
アメストイ氏: 私達にとって「アトム:時空の果て」は「カードゲームの中の1本」ではなく、「The カードゲーム」です。新しいものだらけの、カードゲームだという自信を持っています。ゲームプレイ、ストーリー、そしてキャラクター、全てが新しく、この作品でしか味わえない。ぜひこのゲームで手塚キャラクターと再会してください。ファンの期待を裏切らない作品です。そして20年、30年語り継がれるIPになっていくと思います。
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