まったく妥協することのないバランス調整のため、発売スケジュール通りに進行しないことで有名な米Blizzard Entertainment。そのBlizzardが今回は珍しく、良い意味で期待を裏切ってくれた。「WarcraftIII:Reign of Chaos」の拡張版「WarcraftⅢ:The Frozen Throne」(以下、FT)について、βテストをプレイしてわかった新要素をお伝えしよう。
■ RTSの可能性を押し広げたWarcraft III
W3Cは発売から1年を経過しているが、人気の衰えはまったく感じられない。むしろ、幾度かのパッチによってシステムは熟成を極め、何度プレイしても飽きることがない。同Blizzardの「Starcraft」やMicrosoftの「Age of Empire」シリーズと同様、RTSのスタンダードとして揺るぎない地位を確立しつつある。また、World Cyber Games 2003の正式種目に選ばれたことも、読者の記憶に新しいだろう。 W3CはジャンルでいうとRTSに相当するが、筆者としては、あまりそのような括りに閉じこめたくない。というのもW3Cは従来のRTSタイトルと比べて、ユニットの総量が少なく、内政面を簡略化している。その結果、プレイ開始後数分からヒーローを軸とした熱い戦闘が、ゲーム終了まで間断なく続くのだ。 もちろん、戦場を大局的に見ることを求められるのは他RTSタイトルと同じだが、アクション要素も含んだW3Cの局地戦における熱さは筆舌に尽くしがたい。今からでも決して遅くはない。ネットワーク対戦に興味を持つすべてのゲーマーに、W3Cを一度はプレイしてもらいたいと思っている。 今回は拡張版タイトルという性質上、どちらかというとW3Cの経験者向けの記事となっている点を最初にことわっておきたい。それと製品発売直後はパッチによるバランス調整が行なわれる可能性が高く、新ユニットのヒットポイント等といった数値データは、あえて掲載しないことにした。
■ FT新要素1:中立ヒーローと建築物Traven
中立ヒーローを雇用する際のシステムは、通常のユニット雇用とは少々異なるので説明しよう。中立ヒーローは、マップ中に配置されたTravenという建築物で雇用できる。そして、”ヒーロー以外のどのユニットでも近づけば雇用できる”、”Travenの周囲にはクリープが居ない”の2点に注目してほしい。つまり、ゲーム開始直後に作業用ユニットをTravenに連れてゆき、いきなり中立ヒーローを雇うことも可能なのだ。それと、仮にヒーローが死亡した場合、Travenでは”瞬時に”復活できることも覚えておこう。
一度のゲームで選択できるヒーローが最大3体という点は一緒である。FTには合計21種類もの多彩なヒーローが登場するが、どのヒーローを選択するかがより悩ましく、そして面白くなったといえよう。それでは、5体の中立ヒーローについて紹介しよう。 上半身が人間、下半身が蛇という弓兵タイプ。間接攻撃タイプのヒーローは、最前線へ出さなくても活躍できるため、敵からの集中攻撃を受けることが比較的少ない。しかもNaga Sea Witchは使用時にタイミングを重視するタイプのアビリティが少なく、初級者にとって扱いやすい中立ヒーローだろう。言い換えると、操作する手間が少ないため、複数のヒーローを同時に操作するゲーム展開でも対応しやすいということだ。
アビリティ一覧 習得できるアビリティがどれも非常に強力で、通常ヒーローの出番を食ってしまう可能性を感じさせる。中でもSilenceはレジスト判定を行なわないのが特筆すべき点で、キャスターを軸にした編成のプレーヤーに対し圧倒的に優位に立てる。またBlack Arrowは消費マナが少なく、自動使用が可能という点も素晴らしい。どの種族編成とも相性が良いため、FT発売直後は人気が集中すると思われる。
アビリティ一覧
アビリティ一覧 アビリティが完全に召喚系に特化しており、直接攻撃、間接攻撃、策敵用という3種類のペットを使いこなす。その習得アビリティの性質上、対召喚物用のユニットにはめっぽう弱いと思われる。ペットの強さ次第でBeastmasterの評価は大きく変わりそうだが、少なくとも一騎当千タイプのヒーローではない。だが、策敵が不得意なHumanにとっては、Summon Hawkは積極的に使ってもよさそうだ。
アビリティ一覧 右手に酒樽、左手に長刀、そして華服。Pandaren Brewmasterは、シリアスな世界観の中で一際異彩を放っている中立ヒーローだ。酒を口に含んで火を吹いたり、敵に無理矢理酒を飲ませて酔っぱらわせるといった、醸造主の名に恥じない(?)アビリティを主に習得する。β版時点ではどのアビリティも突出した点は見られなかった。しかし、その外見だけで一部のプレーヤーからは熱狂的に支持されるだろう。
アビリティ一覧 ■ FT新要素2:アイテムショップが建築可能に
FTではアイテムショップが追加されたことにより、ヒットポイントやマナを回復させるポーション等を、ヒーローがより手軽に購入できるようになっている。そのため、ゲームにおけるヒーローの重要度がより高まったといえよう。また本陣での攻防戦もさらに熱くなり、アイテムショップのおかげで劣勢から逆転といった展開も大いにあり得る。 アイテム関連で気になったのだが、FTでは全てのショップにてWand of Negation(補助魔法を消去するアイテム)が購入できない。パッチでの変更が入る可能性はあるが、もしかするとFTでのプレイスタイルに大きな影響を及ぼすかもしれない。
ショップにて購入できるアイテムの例
Orc
NightElf
Undead
■ FT新要素3:Battle.netにクランとトーナメントが導入
クランとは気の合った仲間同志による集団である。クランに所属したプレーヤーがBattle.net上でゲームを行なうと、その勝敗結果が自分の戦績だけでなく、クラン全体の戦績に影響を及ぼす。そして、クラン単位のラダーも算出されるのだ。マップ毎による勝率や、苦手な敵種族、今までチームを組んだ仲間等々、W3C(FT)は驚くべきほどの多彩な戦績情報を記録している。クランに所属することで、プレーヤーのモチベーションはさらに高まることだろう。 もうひとつの新機能であるトーナメントは、Battle.net上で定期的に行なわれるイベントである。参加表明を表したプレーヤーは、その後約半日をかけてトーナメント戦を勝ち抜くというわけだ。自宅に居ながらにして、定期的にイベントに参加できるというのは、対戦ゲームとしては初の試みだろう。このトーナメントの運営進行は、Battle.net上で自動的に行なわれる点に注目してほしい。決勝戦などのリプレイファイルをBattle.net上で自動的に保存してくれれば、トーナメントに参加できなかった全プレーヤーにとって有益となるはずだ。 また、ゲームの基本システムに関する変更は、W3C経験者にとって気になるところだろう。これらの変更点について、軽く紹介していこう。 ・味方ユニットを追尾(Followモード)しているユニットは、状況に応じて自動的に適切な行動を行なう。例えば味方ヒーローにユニットのラリーポイントを設定しておくだけで、それらのユニットは敵が近づいたら攻撃を行なってくれるのだ。特に初心者にとっては、操作が大幅に楽になるだろう。 ・ユニットの総量に反比例してGoldの収入が減るUpkeepシステム。Upkeepが変化するユニット数は、「0~50/51~80/81~100」に変化した(W3Cは「0~40/41~70/71~100」)。この変更によって、戦力全体の規模が若干増えると思われる。 ・マップ中に固定配置されているクリープは、存在の有無がマップ中に記されるようになった。クリープの強さによって印の色は異なるため、慣れないマップを攻略する際の目安となるだろう。
・ヒーローと周囲のユニットをタウンホールへと移動させる最重要アイテム“Town Portal”。これを使用してから実際にテレポートするまで、5秒間の遅延が設けられた。この5秒間はヒーローだけは無敵(行動不能)になるが、通常のユニットは敵の猛攻を耐えねばならない。
■ FT新要素4:4種族に追加されるヒーロー及びユニット FTで追加される新ユニットは中立ヒーローだけではない。プレーヤーが操る4種族にも、各1体のヒーローと各2体の通常ユニットが追加されているのだ。ここでは、戦術を大きく変えることになるこれらの新ユニットを一挙に掲載しよう。新ユニットを把握する要点としては、これまでの種族における不備を補う能力、もうひとつは対スペルキャスター用のアンチユニット。この2点を念頭に置くとよいだろう。 ●Human
邪悪な雰囲気を漂わせた、歩行系のスペルキャスター。これまでHumanは、法と秩序に基づいた善の印象を強く受けたが、Blood Mageはそれらから大きく逸脱している。FT用のキャンペーンにおいて、どういった形で登場するのか、今から楽しみでならない。能力面に関しては、Humanには既に同タイプのヒーローArchmageが存在するが、Blood Mageのアビリティの方が局地的な戦闘用に特化している。
アビリティ一覧 歩兵タイプの間接攻撃ユニット。敵の補助魔法を奪い取るSpell Stealは、今まで無かったタイプのアビリティである。これは自動使用可能なのが大きなポイントで、膨大なShaman(Orc)のBloodlustやPriest(Human)のInner Fireでも、全て吸い尽くしてくれるのだ。もうひとつ、通常ユニットであるにも関わらず、Spell Imuneを持っている点にも注目してほしい。これはキャスター系の敵に対する最強のアンチユニットである。
アビリティ一覧 生産する建築物がGriphon Aviaryということもあり、基本的な使い勝手はGriphon Riderとの大きな違いがない。だが、2つの習得アビリティは特定の状況下において非常に役立つ。Cloudを活用すれば、飛行ユニットの天敵であるタワーの迎撃能力を無効化できるのだ。それによって数体のDragonhawk Riderだけでも敵本拠地を攻撃できるため、別働隊での奇襲は高い効果を発揮するだろう。
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仮面を被った狩猟者。今までの弱点を補うコンセプトのFT新ヒーローだが、このShadow Hunterを見れば一目瞭然だ。Chain Lightning(Far Seer)のように次々と味方を回復するHealing Waveは、序盤~中盤の回復手段に乏しかったOrcにとって待望のアビリティである。Healing Ward(Troll Witch Doctor)に頼らない幅広いユニット構成を実現させる、最重要ユニットのひとつとして活躍するだろう。
アビリティ一覧 巨大なコウモリの上にTrollがあぐらをかいてるという、いかにもBlizzardらしいコミカルなユニット。飛行系の敵に対して自爆攻撃を仕掛けるUnstable Cococtionは、まるでGoblin Sapperの空中版だ。飛行系ユニットは総じて生産コストが高いため、うまく道連れにできれば戦局は大きく有利になるだろう。敵プレーヤーに対してだけでなく、ドラゴン系のクリープのいるマップではピンポイントで生産するのも有効だ。
アビリティ一覧 Ethereal FormとCorporeal Formの2形態の姿をもつユニット。Ethereal Form時は、自分自身に攻撃能力がない代わりに、魔法属性以外の方法ではダメージを受けない。Corporeal Form時は間接攻撃を行なえるが、通常ユニット同様にダメージを受ける。それと、被ダメージを分散するSpirit Linkにも注目してほしい。例えば戦闘開始直後に、味方ヒーローが集中攻撃を受けて倒される危険性が大幅に減るはずだ。
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犯罪者を誅殺する監視人。Wardenを操作していると、FTというタイトルが本当にRTSなのか不安になる。Blinkによって戦場を縦横無尽にテレポートしながらヒット&アウェイを繰り返すその姿は、思わず「DiabloⅡ」のSorceressを連想する人も多いだろう。元々Night Elfは、敵の作業用ユニットを狙った妨害工作が得意な種族だが、Wardenの追加によってより強力になった。
アビリティ一覧 Druid of the Clawを大幅に超えるだけでなく、全ユニットを含めた中でも最強クラスの壁役ユニット。アップグレードを最大まで行なうと、なんと最大ヒットポイントは1650、防御力は10まで上昇するのだ。それと、敵の攻撃を引きつけるTauntは、MMORPGではなくRTSのシステム上で実現しているのが面白い。複数のMountain GiantがTauntを交互に使えば、敵をピンポンのように操ることも可能である。
アビリティ一覧 敵のキャスター系ユニットに対する強力なアンチユニット。戦闘開始時にMana Flareを使用すれば、今後敵は魔法を唱える度にダメージを受けることになる。敵にとって、アビリティの自動使用設定は自殺行為に等しいだろう。Faerie Dragonは自発的な攻撃手段に乏しく主力にはなり得ないユニットだが、部隊の中に1~2体混ぜておくと、敵に対する牽制効果は抜群である。
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Crypt Fiendの親玉的なヒーロー。間接攻撃タイプだったCrypt Fiendとは大きく異なり、Crypt Lordは最前線で活躍できるユニットである。Undead用ユニットで最大級のヒットポイントを誇り、アビリティを併用することで、壁役の不在という種族弱点を十分に補ってくれる存在だ。味方ユニットを回復できるDeath Coil(Death Knight)でサポートを行なえば、呆れ返るほどの粘り強さを発揮してくれる。
アビリティ一覧 台座の上にスフィンクスのような不気味な生物が鎮座した彫像。習得できる2アビリティは、両方ともクールダウンが約1秒と短い。そのためGhoulやSkeletonといった、数で押すタイプのユニット編成と相性が良い。Undeadは実用的なユニットの回復手段に乏しかったため重宝するはずだ。ただしObsidian Statue自身は、Mechanical属性のため、自分自身の回復を行なえない。最前線にはくれぐれも出さないように。
アビリティ一覧 タウンホールをアップグレードさせると、Obsidian Statueから変形できるようになる飛行ユニット。Obsidian Statueとはタイプがまったく異なり、戦闘用ユニットとして申し分のない能力を持っている。しかも、対スペルキャスター用のアンチユニットとしての活躍も期待できるだろう。特にDevour Magicは、Dispellの能力が無かったUndeadにとって涙が出るほど嬉しいアビリティだ。
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□「Warcraft III:The Frozen Throne」公式ホームページ http://www.capcom.co.jp/pc/wc3/index.html □関連情報 【2003年6月23日】カプコン、「Warcraft III: The Frozen Throne」を7月18日に発売 日本語マニュアル付き英語版、価格は5,800円 http://game.watch.impress.co.jp/docs/20030307/bill.htm 【2003年3月7日】Blizzard副社長ビル・ローパー氏インタビュー ジョークキャラ大抜擢の理由、クランシステムの内容ほか http://game.watch.impress.co.jp/docs/20030307/bill.htm 【2003年3月6日】Vivendi、「Warcraft III: The Frozen Throne」発表会を開催 ビル・ローパー氏、アドオンの魅力を大いに語る http://game.watch.impress.co.jp/docs/20030306/warft.htm 【2003年2月17日】Blizzard、「Warcraft III: The Frozen Throne」のβ募集を開始 全世界1万人規模で実施されるBattle.net Beta Test http://game.watch.impress.co.jp/docs/20030217/bli.htm 【2003年1月23日】Blizzard、「Warcraft III: The Frozen Throne」を発表 最終章の追加、中立のヒーローなど新要素満載 http://game.watch.impress.co.jp/docs/20030123/war3tft.htm (2003年8月12日)
[Reported by 川崎 政一郎]
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