太平洋戦争の艦隊戦をモチーフにした「提督の決断」は、緻密で多様なデータを元にして、主に日米の戦いを描いた硬派なシミュレーションゲームだ。「III」まではボードゲームでおなじみの六角ヘックスを使い、戦闘では戦艦や飛行機などの駒を動かして戦っていた。その「提督の決断」も「IV」になり全地球規模の海戦シミュレーションとなって生まれ変わったのはご存知のとおり。海域ごとの制海権の争いはボードゲームのように、戦闘はリアルタイムストラテジーになっているのが特徴だ。今回、約2年ぶりに「提督の決断IV パワーアップキット(以降PK)」が発売される。どうパワーアップがなされたのか早速見ていこう。
■ 「パワーアップ」の目玉はなんといっても新しい追加仕様
これまで夜間にはまったく航空機が飛行できず、戦艦は航空基地に向かって艦砲射撃をやりたい放題だった。ところが航空技術の「夜間戦闘」を開発し、設計に組み込むことで、夜の基地でじっと我慢の日々に終止符を打つことができる。とは言っても、攻撃側も同様に、空母に夜間航空機を艦載することができるので、夜間戦闘がラクになるというわけでは決してない。 なお、航空機の新機能に関しては、何も「夜間戦闘」だけではない。天候が嵐意外ならいつでも飛行できる「全天候戦闘」、敵のレーダーに映らず飛行できる「ステルス」が用意されており、雨が降ってもこれまでのように息はつけない。これらの新技術は、あれば天国無ければ地獄というだけに、早く技術習得をしないと戦況に大影響を及ぼすだろう。ゲーム後半の落ち着いてしまった戦局に、こうした技術開発競争が緊張感を持ち込むことで、最後まで気が抜けなくなっている。 2つ目に大きな変更点としては上陸戦の追加だ。具体的に言うと上陸部隊を搭載した揚陸艦が新たに製造できるようになったことだ。これにより、細かなルールの変更が行なわれている。これまで航空機や艦船で飛行場を破壊した場合、数ターンで自軍が使用できるようになったが、「PK」では完全に破壊され、作り直しになってしまう。それを避けるため、揚陸艦の登場というわけだ。揚陸艦が搭載する上陸部隊で、街を占領確保することで飛行場を破壊することなく占領できる。 また防御側にもパワーアップが図られた。これまでは航空攻撃しかできなかった飛行場は艦船に対して砲撃を加えられるようになった(上陸部隊が街に突入しているときは砲撃はできない)。そのため、軽巡洋艦程度の射程距離で飛行場を攻撃しようとすれば、簡単に反撃をくらってしまい、攻撃側には散々な結果が訪れることになる。どうせなら機雷群なども設置できればより戦略に幅が広がったかもしれない。 では実際に揚陸艦による上陸戦のやり方を見ておこう。上陸戦といっても、あらかじめの艦砲射撃で飛行場の耐久度を下げておくことは欠かせない。というのも、上陸する歩兵部隊は予想外に脆弱で、飛行場の守備部隊に返り討ちに合うことがままあるからだ。 揚陸艦を敵の飛行場の近辺に移動させると「上陸」コマンドが実行できるようになる。「上陸」コマンドを押すと航空攻撃などと同じように準備のタイムラグがあり、その後上陸部隊が飛行場を目指して進み始めるのだ。味方が上陸を始めると飛行場への艦砲射撃は中止され、味方の上陸部隊に占領の成否がかかるというわけだ。 ここでちょっと注意しておきたいのは、飛行場の耐久度が0になる前に上陸部隊を発進させなければならないということだ。コマンドと実行の間のタイムラグの間に艦砲射撃で飛行場を破壊してしまわないように注意したい。ここで揚陸艦の数が少ないと上陸戦は難しくなる。耐久度を十分に下げないと上陸部隊が返り討ちにあってしまうため、どこまで飛行場の耐久度を下げ、どこで上陸コマンドを押すかの時間をはかるのが難しくなるからだ。といっても揚陸艦も戦艦や駆逐艦などと同様1隻と数えられるため、多ければいいというわけでもないのだ。 次に他の部分で行なわれたルール変更についても見てみよう。艦船は甲板の耐久力のどれかが0になった時点で沈没をしていたが、「PK」では上甲板の耐久度0はその沈没を免れるようになった。爆撃により上甲板は簡単に破壊されてしまうが、確かに船腹に穴があくわけでもないので、確かに納得のいく変更といえるだろう。 また新型艦や新型機の設計ができるようになった。同社のアクションゲーム「鋼鉄の咆哮」と同等とまではいかないが、既存の艦船をカスタマイズするような形で、武装の変更、装甲の厚さなどの変更ができ、オリジナル艦船を誕生させることができる。どの程度最新のものを設計できるかはその国の工業力によるが、オリジナルの型が作れることで船に対する思い入れも深くなるというものだ。 そのほか、新兵器「戦略爆撃機」は重要地点に配備できる。実例を挙げれば、アメリカがB29を遥かトラック諸島やハワイから日本近海まで飛ばしたように、ゲーム内でも同様の行為を行なって資源の算出を妨害できるようになる。具体的には近隣海域に対して爆撃を行ない、商業妨害を有利に進められる。 コンピュータの操作では無敵に近い感が強かった潜水艦に対しては、ゲーム中盤で対潜レーダーを開発できるようになった。これで、いきなり魚雷を撃たれて空母部隊が全滅などということも少なくなるようだ。終盤になれば、追尾魚雷を無効にする「デコイ」も開発でき、より有利に対潜攻撃ができるようになるだろう。 「CIWS」、「アングルドデッキ」、「ECMポッド」など第二次大戦中にはなかったような新兵器も登場する。フライトシミュレータでおなじみの「チャフ」の開発で対艦レーダーの無効も可能となり、目の前にいきなり敵大戦艦部隊という状況もありうる。 しかし、こういった新兵器軍の登場が実際のキャンペーンゲームで大きく影響するかというと、相変わらずアメリカは長距離の航空機攻撃で圧倒的優勢を保っているため、ある程度力量のあるプレーヤーがアメリカでプレイすると、CPUが夜間配備を進める前にかたづけられるだけの国力を有している。といった点では、今回の拡張要素は日本あるいはドイツのための内容という気もしてくる。 一方、日本はというと工業力の低さゆえにアメリカの後塵を拝さざるを得ず、夜間戦闘や対潜レーダーなどを使用するのはアメリカの方が先という状況だ。プレーヤーがもっとも多く望むであろう日米での大逆転劇のシナリオをこの新しい兵器群を使って描くにはちょっと難しいようだ。つまり、新兵器によって国力の差は埋まらない感じになっている。プレーヤーの腕の見せ所というわけだ。
■ 「PK」恒例のパラメータエディタも健在
また新作キャンペーン「大艦巨砲時代」では「日米開戦」同様'41年12月開始ながらも開始時にはちょっと様子が違う。艦隊は全く編成されておらず、1から艦隊編成をして楽しむことができるのに加え、第一次大戦で活躍したドイツの戦艦や、結局は計画倒れとなった日本の戦艦が多数登場する。またショートシナリオでは戦艦同士の大艦隊戦が楽しめるものを筆頭に、キャンペーンでは登場しなかったフランス海軍の船が登場するものや、日独での海戦など6本の架空シナリオを含め全10本が用意されている。 以上がパワーアップキットの内容だが、追加されたものに対して、従来の操作系はほとんどいじられていないのも目についた。移動できないところを指定しても「了解!!」と威勢良くは言うものの、まったく見当違いのところに移動したりするなど、移動AIも未熟なまま。移動指定時に少しの間だけでも航路を示すなどの工夫も欲しかったところだ。また艦隊がちょっとでも交錯したりするときの艦隊機動の醜さもそのままだ。どうせならこうした交錯を禁止してくれた方がまだよかったというものだ。
とはいえ、2年ぶりのパワーアップキットということで、本体とはかなり違った楽しみ方ができるようになっているのはファンとしては嬉しいところ。終盤戦に深みの足りなかった本編も「PK」を加えることによって大きく深みが増し、海戦シミュレータとして初心者にもお勧めできる内容に仕上がったといえそう。提決ファンの中には「もうPS2版買っちゃったよ」というファンも中にはいるかもしれないが、押入の中から本編を引っ張り出す勢いでチャレンジしてみてほしい。
□コーエーのホームページ http://www.gamecity.ne.jp/ □製品情報 http://www.gamecity.ne.jp/products/products/ee/Rltei4pk.htm □関連情報 【2003年2月27日】コーエー、「提督の決断 IV パワーアップキット」を今春発売 戦略爆撃、上陸戦などさらにシミュレート性を強化 http://game.watch.impress.co.jp/docs/20030227/koei.htm 【2001年3月6日】PCゲームレビュー「提督の決断IV」 http://game.watch.impress.co.jp/docs/20010306/koeitei4.htm (2003年4月4日)
[Reported by 嶋村智行]
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