昨年、2002年はアクション系ゲーム大豊作の年であった。ちょっと考えつくものだけでも、「Battlefield 1942」、「UnrealTournament2003」、「America's Army」、「Soldier of Fortune II: Double Helix」、「No One Lives Forever 2: A Spy in H.A.R.M.'s Way」、「Hitman 2」、「Grand Theft Auto III」、「Medal of Honor: Allied Assault」と、いずれも名を残したタイトルがごろごろ出てくる。これらのタイトル、並べてみると互いが埋もれて見えてしまうほど、そのできは甲乙つけがたいものがある。 当然、良作タイトルがこれだけ豊富にそろっていると、注意してウォッチしているつもりでも、ついつい埋もれてしまう「隠れた名作」というやつが出てくる。それが今回紹介する「マフィア 日本語版」だ。物語は、サリエリファミリーの幹部である主人公トミーと、市警のノーマン警部が市内の一角にあるレストランで落ち合うところから始まる。そして、その場でトミーは自分と家族の身の安全と引き替えに、自分とファミリーの過去をゆっくりとノーマン警部に話し始めるのだった。そんな重厚な雰囲気で始まるマフィアは、1930年代の禁酒法時代のアメリカを舞台としてストーリーが進むアクションゲームだ。プレーヤーは主人公であるトミーとなって、ファミリーの仕事をこなしていくことでゲームが進んでいく。
■ ゲーム空間に出現した街「ロストヘブン」の圧倒的な現実感 「マフィア」の最大の特徴は、プレーヤーが生活する街「ロストヘブン」にある。ロストヘブンとは、20km四方という広大なゲーム内空間に構築された、1930年代アメリカ風の都市のことなのだが、構築しているのは外見だけではない。街を歩く人々、高架を行き来する電車、道路を行く車や路面電車、要するに町中にあるものすべてにAIが振られ、「生活」をもって行動しているのだ。 そして、その街は見るだけではなく、プレーヤーは仮想世界の住人のひとりとして自由に動くことができるのだ。たとえば移動ひとつとっても、車、電車、徒歩の3種類から移動方法を選ぶことができるし、車で移動するにしたってどんな道を選ぶのもプレーヤーの自由なのだ。舞台である街が、路地裏や交通機関など非常に細かいところまで作られているおかげで、プレーヤーはゲームシステムに縛られることなく、町中を好きに移動して目的地へ向かうことができる。
しかし、町中はただ自由度が高いわけではない、たとえば、道路では常識的な交通ルールにのっとって市民が往来しているため、時速40マイルという制限速度を破れば、町中をパトロールする警官に違反切符を切られる。といった具合だ。要するにロストヘブンは、現実にある街と何ら変わるところが無い。主人公はそんな世界でマフィアとして生きていくわけだ。
■ 主人公トミーは何故マフィアとなり、そして何故足を洗う決意をしたのか…… プレーヤーはこのロストヘブンの中で、ドン・サリエリからの依頼をこなしながら生活をしていく。ミッションの基本的な流れは、本拠地であるサリエリズバーから車で目的地へ向かい“仕事”をすませて、バーに戻るのが基本的な流れなのだが、注目したいのはこの“仕事”の内容と主人公トミーの変わりようだ。 主人公であるトミーは、タクシー運転手という真っ当な仕事をしていた途中で、ひょんなことからマフィア同士の抗争に巻き込まれ、ファミリーの一員になることになる。タクシー運転手から“転職“した最初のうちは、ファミリーのみかじめ料の集金といった下っ端の仕事を与えられ、「本当にこんなことをやっていいのだろうか?」と、おどおどしながらもこなして行くわけだ。 しかし、ボスから与えられる任務を忠実にこなす内に、闇酒の売買やオメルタの掟(ファミリーのことを警察などに話さない、というシシリアンマフィア特有の掟。当然破れば待っているのは死だ)を破った裏切り者の始末といった、幹部がこなすような仕事を振られるようになる。そしてトミーの考え方も「うまい飯も、いい車も手に入る。マフィアってのも悪い仕事じゃないよな」といった具合に肝が据わり、その行動にも自ずと凄みが生まれてくるようになるのだ。 犯罪組織に加わった主人公がどのように変わっていくのか、そして、何もかもうまくいっていたマフィアの生活の、何がきっかけで歯車が狂い出すのか、さらにその結末に待つのは生か死か、そういったマフィアの考え方に染まり、そしてある時に自分の姿を見つめ直して苦悩する、そんな主人公の心の動きも注目して見て頂きたい点だ。
■ 多彩なクラシックカーを乗りこなせ ところで、マフィアのクリエイターたちがロストヘブンと同じか、それ以上の情熱を傾けて作成したのが、ゲーム内に登場する数々のクラシックカーだ。 ゲーム中では車の挙動すべてが物理シミュレートされており、その計算をするためにも細部まで非常に作り込まれている。この当時の車は非常に運動性がわるく、カーブを曲がる際は十分にスピードを落とさないと、曲がりきれずに対向車線につっこんでしまう。また、馬力の足りない車では、丘の上の高級住宅地まで行くことができなかったりするなど、その特徴は十二分に現れている。
さらに、マフィアらしいことを書くならば、敵ギャングを襲撃する際は装甲が厚く、エンジンの性能が高いものをチョイスした方がいい。なぜなら銃撃戦の最中にエンジンに弾を食らって大爆発! ということもあるからなのだ。
■ まさしく映画の一部を見ているかのような日本語訳 今回「マフィア」の日本語化は、洋画のように劇中の台詞を日本語化して画面下部に字幕として表示する方法をとっている。日本語化の方法としてはほかに、完全吹き替えによる日本語化という方法もあるが、今回は字幕による日本語化を選択して正解だったように思う。それはなぜかというと、本ゲームがマフィアという歴史を持った一文化そのものを描いている点にその理由がある。 では、実際の台詞回しに関して書いていくことにしよう。冒頭の部分、トミーとノーマン刑事が喫茶店で話を始めるシーンの日本語訳を抜き出してみる。
ノーマン:「おまえさんのような人種と相席する習慣はない。」 トミー:「刑事さん、あんたにビジネスの話を持って来たんだ。」 ノーマン:「俺はビジネスマンじゃない。それに、たとえそうでも、おまえらのような連中と商売はしないね。」 トミー:「こっちだって、普通なら、あんたのような連中と商売はしない。だが、今回の取引はちょっと違う。あんた方の損にはならない話さ。僕にとってもね。ある種の稼業に関わる話なんだ。」 ノーマン:「稼業……?」 トミー:「そうだな、僕はあまり合法的でない組織で高い地位に就いている。その組織は、あんたのような人が大いに好奇心をそそられる種類のものだ。だが、その一方であまり深く知りたくないとも感じる種類のね……。僕には、この組織との付き合いをやめたい個人的な理由がある。だが、この種の商売から足を抜けるのは楽じゃない。わかるだろう……」 ノーマン:「おまえさんの言う理由ってのが読めてきたよ。今すぐ行方をくらまさないと、頭に弾丸を撃ち込まれるってことだろ。違うか?」 と、こんな感じだ。この一部分だけ抜き出してみても、雰囲気がよくでている。トミーは自分の目的や仕事を明言せず、全体的に不明瞭な発言をしているし、ノーマン刑事は最初のうちは「マフィアと交流を持つなんざまっぴらゴメンだ」という風なそぶりを見せている。 また、口調を見ても、情報提供により身の安全を保証してもらおうと考えているトミーは、必要以上に卑屈にならず、マフィアの幹部として長年やってきたプライドを滲ませる台詞回しだし、ノーマン刑事のほうは市民の平和を守るため地道に現場でやってきた刑事としての勘とプライドに満ちたものだ。ただ、こうした絶妙な日本語訳とは裏腹に、中には誤訳や意味の通らない台詞がいくつか見られたことも指摘しておかなければならない。全体的な出来がいいだけに残念ではある。
■ 「マフィア 日本語版」をプレイする前に…… あくまで個人的な意見だが、「マフィア」をプレイする前に、「ゴッドファーザー」を読んでおくことをお勧めしておきたい。感情移入度がさらに深まること請け合いである。 たとえば、前述の両名のやりとりの後に、ノーマン刑事の「悪いが、ヤクザなイタ公を無闇に保護してやる趣味はないね。」という台詞がある。この台詞だけ見ると「ああ、トミーはイタリア系移民なのね」と思うだろう。しかしゴッドファーザーの舞台となる1930年代のアメリカでは、イタリアから渡ってきたシシリアンマフィアが幅を効かせていたという事実を事前に知っておけば「ああ、サリエリファミリーはイタリア系シシリアンマフィアなんだ」という理解に変わる。ゲーム内ではファミリーの内部構造や組織などが描き切れていないのだが、映画や小説を見ておけばゲーム内の台詞の裏の裏まで読んで楽しむことができる。120%マフィアを楽しみたいなら是非とも事前知識は頭に入れておきたい。 裏社会ものとしては申し分のない出来映えの「マフィア」だが、日本語化されたことでいくつか残念な点がある。まずひとつは英語版用に作成されたMODや、用意されていたチートコマンド入力できなくなっている点だ。ゲーム内の車や武器を実在のものに完全にあわせたり、権利関係上できなかったゲーム内の建物や警察車両のロゴ、娼婦の格好など、ゲームをさらに深めるためにユーザー側で手を入れることができないのは非常に残念だ。 また、クラシックカーの運動性の低さから、ゲーム内のカーチェイスをクリアするのが非常に難しいし、敵ギャングの命中精度や味方AIのお粗末さによって戦闘が厳しいものとなっている。おまけにゲーム内セーブは、進行上の節目で行われるオートセーブしかないなど、プレーヤーの技量以前の問題によって、ゲーム全体の難易度は高いものになっている。 と、ここまで書いてきたようにマフィアでは、主人公トミーの目を通して'30年代のマフィア文化が非常に緻密に表現されている。ロストヘブンの町並みと相まって、マフィアはある意味「'30年代、アメリカ体験ゲーム」といっても過言ではないくらいになっている。また、発売元のズーより日本語版の体験版もリリースされている。今回のレビューをもって、興味を持たれた方は、ぜひ一度体験版からでもいいのでふれてみてもらいたい。 (c) 2002 Mafia, Illusion Softworks a.s., Illusion Softworks and the Illusion Softworks logo are trademarks of Illusion Softworks a.s. Gathering of Developers, the Gathering of Developers logo, Take 2 interactive Software and the Take 2 logo are all trademarks of Take 2 Interactive Software. All other trademarks are properties of their respective owners. Developed by Illusion Softworks a.s. Published by Gathering of Developers. All rights reserved.
□「マフィア 日本語版」公式ホームページ http://mafia.zoo.co.jp/ □関連情報 【2002年12月24日】ズー、「Sudden Strike II 日本語版」、「Mafia 日本語版」の発売日を決定 http://game.watch.impress.co.jp/docs/20021224/zoo.htm 【2002年9月25日】西尾ゆきの海外ゲームレポート ギャングアクションゲームの傑作が登場「MAFIA」 http://game.watch.impress.co.jp/docs/20020925/yuki36.htm 【2002年11月5日】本日到着! DEMO & PATCH 「Mafia」Playable Demo http://game.watch.impress.co.jp/docs/20021105/demo1105.htm (2003年3月4日)
[Reported by tyokuta]
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