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アートディレクター吉田明彦氏が語る“斜め45度から見た世界”へのこだわり
吉田氏がこだわる“斜め45度の世界”とは何か?
(2015/2/12 13:00)
吉田氏がこだわる“斜め45度の世界”とは何か?
最初に語られたのは「リトル ノアの誕生秘話」。リトル ノアとはゲームタイトルであると同時に、碧眼のヒロインキャラクターの名前でもある。谷本氏が開発初期のリトル ノアのイラストを披露すると、吉田氏は実は開発初期ではなく、開発中盤頃に考えたキャラクターであることを明かした。
先述した方舟のコンセプトは決定していたものの、ゲームの柱となる主人公格のキャラクターがまだ存在しておらず、ビジュアル展開的な点も踏まえて、アイデアのひとつとして誰にも相談せずに描いたイラストだという。ちなみにイラストの左側に描かれている予言者やマッドサイエンティストと名付けられた老人のイラストは丸ごとボツになったようだ。方舟についても、初期設定では“浮遊大陸”で、ビジュアル的にありきたりだと感じたため、方舟を提案したという。
プロデューサーの岡田氏によれば、最初は方舟やドラゴン、魔法といったファンタジーの王道が詰まった世界観だったというが、吉田氏から突如イラストを提示されたことで、様々な設定が入り交じった世界観ではなく、“錬金術で何でもできる世界”という1本筋の通った世界観に統一することができたという。
吉田氏の初期設定では、世界が滅亡した後の世界というかなりダークな世界観だったということだが、吉田氏が描くキャラクターがとても可愛らしいものだったことから、岡田氏を中心にもっと明るい世界観にしたいという要望を取り入れ、ノアとユーザーが一緒になって方舟を発展させていくストーリーになっていったという。ノアの性格についても初期設定ではもっとキツかったというが、マッドな雰囲気はノアのキャラクターデザインにその片鱗が残っているのみだという。
ちなみにノアの“白衣の錬金術師”という設定はマッドサイエンティストのイメージで、デザイン当時話題だった“リケジョ”の雰囲気も取り入れているという。岡田氏は、このノアについて、「ゲームとしての深みに繋がっている」と評価し、ノアはバトルでは巨大化して登場するが、巨大化にも様々な形態、クラスが存在し、リリース後は、このクラスも増えていくことになるという。ノアの登場によって、ゲームとしての広がりが出たようだ。
続いてのテーマは「容量とクオリティの絶妙なバランス」。最初に見せられたのは、方舟のラフスケッチで、ゲームで目にする斜め45度の視点のほか、真横から描いたスケッチもある。
これも吉田氏が「勝手に書いた物」ということで、「空飛ぶ船で闘うのはどうか」とパッと閃いて10分ぐらいで描いてしまったという。吉田氏は「閃いたときは良いものができる」と自画自賛し、思い付いたように「普段はもの凄く悩むんですけど、その点、皆葉さんは悩まないですよね?」と皆葉氏は無茶振りした。
皆葉氏は苦笑しながら「いやいや、悩みますよ(笑)」と応じ、吉田氏が「グランブルー(グランブルーファンタジー)の絵を描いてる時とか、朝来て描き始めて、帰る時はある程度出来上がってますよね」と食い下がると、皆葉氏は困った表情で「なんて返せばいいんですか(笑)」と白旗を揚げた。ともあれ吉田氏は、非常に悩むタイプということで、10作ったら9は悩むが、方舟は残る1つに該当し、悩まずにスッと描けたようだ。
谷本氏は、開発初期にこの方舟のイラストを見た際、作り手でありながら、絵だけで凄く興味をそそられ、ユーザー目線で凄くワクワクしてこのゲームで早く遊んでみたい、そのために早く作り上げたいと思ったという。
これを受けて皆葉氏は、吉田氏と席が隣にあり、イラストが目に入ってしまう環境にあるということだが、「イラストを見ながらこんなゲームだったかな?とワクワクした記憶がある」と語った。
次のスライドでは、吉田氏が描いたイラストを3Dモデルにしたモデルデータや、それにデプスレンダリングを施し、着色を加えた完成図が披露された。デプスレンダリングは、Zバッファを事前にレンダリングし、それを被写界深度として用いることで、チルトシフトを施したミニチュアのような遠近感を表現している。ただ、この方舟は完成までに半年も掛かったという。
吉田氏はその経緯について、まず自分が描いたラフ絵を、「グランブルファンタジー」を担当したアーティストが設計図にし、その後、モデラーがモデリングし、さらにレタッチも別の人間が担当しているということで非常に手間暇が掛かっているようだ。吉田氏は「『リトル ノア』はスマホのゲームとしては贅沢な作り方をしていて、時間をかけてクオリティを上げている。中でも方舟は1番力を入れたところで、半年掛けて凄い力を入れた」と告白した。
データそのものは、リアルタイムとプリレンダーのハイブリッドで、プリレンダリングの画像を、板のポリゴンに張り付けている。完成データでは、方舟に草が生えているが、実はその下に看板などもあり、草がない状態で一度作った上で、草を描いているというこだわった作り方をしている。ちなみにフィールドとなる芝生の上は、別レンダリングで、ループテクスチャを使っているという。
実際のゲームプレイシーンでは、方舟の全景ではなく、グッとズームして芝生だけが見える状態でプレイすることになるため、吉田氏の意向でレンダリング解像度は下げず、ループテクスチャのパターンはできるだけわからないように工夫を加えたという。
この点について吉田氏は、苦労したのは自分ではなく3D班だとしながらも、自分自身がこだわった要素として、解像度が足らないときに、直線部分のラインのギザギザが目立ってしまって、このままレンダリングするとそこが凄く目立ってしまうため、45度回転させて、菱形を長方形に戻して、それをテクスチャに張り付ける際に、“歪ませて”斜め45度に戻すという独自テクニックを使っていることを明かした。吉田氏は、「同じ解像度ながら、直線に関しては綺麗に出ていると思う」とここでも自画自賛を繰り返した。吉田氏によれば、これは20年ぐらい前から使っているテクニックだという。
皆葉氏が、「この角度、こだわりありますもんね」と話を向けると、吉田氏は「実際、こういうクォータビューのゲームということでお受けした」と告白すると、皆葉氏が「この角度が決め手だったんですか?」と突っ込むと、「この角度だったら、また新しいビジュアル展開ができるんじゃないか。慣れているので。凄い楽しかったですね」と遠慮がちに語り、“斜め45度の世界”に対する抜き差しならないこだわりの一端を披露した。