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「Project Cars 2」は「Forza」「GT」よりも数年先行すると豪語!

ありとあらゆる要素を盛り込んだ超フィーチャーリッチなレーシングシム

6月12日~14日開催



会場:Los Angeles Convention Center

美しき「Project Cars 2」のグラフィックス
バンダイナムコエンターテインメントブースの「Project Cars 2」コーナー

 各ゲームプラットフォームを代表する「Forza Motorsport 7」、「グランツーリスモSPORT」の影に隠れがちだが、レーシングシムのコアなファンは本作にこそ注目すべきかもしれない。Slightly Mad Studiosが開発し、バンダイナムコエンターテインメントがパブリッシングを担当するドライビングシム「Project Cars 2」だ。

 PC、PS4、Xbox Oneで9月22日のリリースを予定する本作は、2015年に3月に発売された「Project Cars」の続編で、基礎的な部分から大きな刷新をほどこしたバージョンとなる。特に注目したいのは、人気の各レースシムの上位互換ともいえるコンテンツやフィーチャーの充実度。シムとしてさらなる進化を図ったドライビングモデル。そしてe-Sportsでの活用を意識した各種機能の搭載。約束通りの内容が実現するなら、本作は今世代におけるレースシムの決定版となる。

4K、HDR、VR、天候変化などのトレンドは前作でとっくに実現していた!

「Project Cars 2」の重要点について紹介してくれたSlightly Mad Studiosのクリエイティブ・ディレクター、Andy Tudor氏

 今回のE3では、Slightly Mad Studiosのクリエイティブ・ディレクター、Andy Tudor氏に直接質問をぶつける機会を得られたほか、複数の試遊台で本作のプレイフィールを確かめることができた。

 Slightly Mad Studiosについてご存じない方向けに簡単にご紹介しておくと、このデベロッパーはPC用レースシムの老舗であるSimBin(現Sector3 Studios)から分家したレースシム専門のスタジオで、拠点は英国、ロンドンにある。処女作は2009年の「Need for Speed: Shift」(Electronic Arts)だ。

 それから2011年の「Shift 2: Unleashed」までEA傘下で実力を養ってきたが、2012年末に自社IPとなる「Project Cars」をアナウンス。最先端のレースシムを生み出すことを約束し、クラウドファンディングによるゲーム開発をスタートした。新鋭・小規模なスタジオであり、ライバルのTurn 10やポリフォニー・デジタルといった巨人とは全く対象的な存在だといえる。

 作品の位置づけも対照的だ。「Forza」がXboxを、「GT」がPSをそれぞれ代表するプラットフォーマーお抱えシリーズであることに対し、「Project Cars」はPCをホームグラウンドとし、必要な性能を満たしたコンソールにも貪欲に対応する、というスタイルをとっている。なにしろクラウドファンディングでプロジェクトをサポートした多くのユーザーは、ほとんどがPCのシムレーサーだ。というわけで今作「Project Cars 2」でも、前作に引き続きPC、PS4、Xbox Oneにまたがって展開する。

土砂降りで前が見えないほどの雨天。前作から実現していた
HDR表現。表示できるディスプレイだけが必要だった
4K、VRもごく自然に対応。ただし、現時点ではPCのみという但し書きはつく

 クリエイティブ・ディレクターのAndy Tudor氏は、本作の位置づけについて極めて強気な発言をしている。「我々は本作が最も技術的に優れたレースシムであると自負しています。他のレースゲームでは4K、HDR、VR、天候変化などをようやく実現してきましたが、我々はすでに2年前に実現していました。数年かけて、ようやく彼らが追いついてきたという感じですね」。

 「Project Cars」のメインプラットフォームはPCなので、最近ようやくコンソール機が実現した映像機能や処理能力も、最初からあって当然の世界でタイトルが開発されてきた。このためSlightly Mad Studiosは比較的小規模なスタジオながら、レーシングシムの最先端をいちはやくキャッチアップしてきたと言えるし、後発IPとしては最先端を行くことが成功のための必須条件でもあった。

 というわけで2015年の「Project Cars」では、最先端かつ驚異的なグラフィックス表現、リアルタイムの時刻・天候の変化といった機能を高いレベルで実現しつつ、PC版では4K・HDRにも当たり前に対応していたという流れである。また、Oculus RiftやHTC ViveといったVRシステムに対しても、かなり早い段階で対応を果たしている。

 ただ、そんな「Project Cars」が完璧なレースシムであったかというとそうでもない。リリース直後はバグが多かったし、やたらとハイスペックを求める仕様はカジュアルゲーマーを遠ざける原因になった。

 更に、PCをメインプラットフォームとして成立した経緯から、iRacing、Assetto Corsa、rFactor 2といった最高峰とされるハードコアシムとの比較に晒された。そこでは「Shift 1/2」時代から引きずってきたSlightly Mad Studios特有の大げさなスライド挙動やステアリング応答の鈍さ、あるいはFFBの情報量の少なさ、といった部分がよくやり玉に挙げられ、PCのシムレーサーから失望を込めて“Simcade”(シミュレーター風のアーケードゲーム)と呼ばれることもあった。

 以上のように、前作「Project Cars」が“レースゲーム”として高水準の作品であったことは間違いないが、最高の“レースシム”を名乗るためには多くの課題が残っていたことも事実である。

バンダイナムコエンターテインメントのブースの大半を占領していた「Project Cars 2」の試遊コーナー。体感型筐体で動作しているのはすべてPC版だとのことだった

タイヤシミュレーションを根本的に刷新。これ1本でインディカーからラリーまで再現

本作はかつてなくe-Sportsを意識したつくりになっている
タイヤシミュレーションは根本的に手を加えられた

 そこで敢えて、失礼を承知で「Project Cars」は“Simulator”ですか、“Simcade”ですか? と質問すると、Andy Tudor氏は変化球で応えてきた。「我々の作品はレーシングe-Sportsとして他を圧倒するものであると確信しています」。

 と言うのは、レッドブル主催のe-Sports大会であるRedbull 5Gのレーシングジャンルにおいて、2016年から従来の「グランツーリスモ」シリーズに代わって「Project Cars」シリーズが選定されたことや、本作においてe-Sports利用を支援するための新機能が数々搭載されていることによる。本作ではスキルベースのマッチングシステムや大会運営機能が新たに搭載され、レースの実況配信のために必要な機能も網羅しているとのことだ。これは非常に頼もしい。

 それに加えてTudor氏は「Project Cars 2」でのシミュレーターとしての進化点を語った。特に注目に値するのは、タイヤシミュレーションの根本的な刷新だ。過去作ではタイヤを“剛体”として扱っていたことに対して、今作のシミュレーションエンジンではタイヤを“軟体”として扱う。これによりタイヤの歪みも誤魔化しなく再現でき、より正確なドライビングモデルを実現できるというものだ。

 タイヤと路面の関係性もさらに精密化が進む。本作ではタイヤが削れて破片が路上に残されるデブリや、コーナーに残されるスキッドマーク(タイヤ痕)によるトラクションの変化までシミュレーションに取り入れているという。

リアルタイムに変化する路面状況を再現
積雪による変化も表現可能に
砂利道、泥道のシミュレーションも可能になったという

 さらに本シリーズ独自とも言えるのが、雨天等、悪天候による路面変化のシミュレーションだ。前作でも水たまりの発生による変化は実現されていたが、今作ではさらにシミュレーションを精密化。コース上の勾配による水の流れ、アスファルトへの吸収といった部分まで再現。例えばラグナ・セカの後半には極端な勾配の下り坂があるが、そういった場所では水が流れ落ち、坂の下にに溜まるという表現までできるそうである。

 この、常に変化し続ける路面シミュレーションを本作ではLive Track 3.0と呼んでいる。この最新バージョンでは雪や泥による路面変化、季節による温度の違いまで表現できるようになった……ということで、本作ではシリーズの新カテゴリーとなるラリークロスを追加。やたら頑丈で高トルクなラリーカーを使い、土煙を上げて滑るように走る、あの風景が本作でも楽しめるようになる。そのクオリティ次第では、Codemastersの「DiRT」シリーズからもお株を奪うことになるかもしれない。

 なお、これら様々な要素が絡み合うシミュレーションの精度を高めるため、Slightly Mad Studiosでは本作の開発にあたってFerrariと提携を結び、データ提供などのサポートを受けたという。

 以上のように、「Project Cars 2」はレースシムとして全面的な改良と進化を目指した1本になっているようだ。特に、e-Sportsタイトルとしての利用を意識した数々の機能を搭載する点は、多くのゲーマー&レーサーにとって見逃せないポイントになるだろう。

 なおVR対応についても質問してみたところ、これについてTudor氏は「もちろんVRには対応します。ただ、今の段階では“どのVR”かは言えません」と答えた。前作はOculus Riftに時限独占で対応し、のちにHTC Viveにも対応するという流れだったが、今作もそのあたり交渉中だったりするのだろうか。

 あるいは、PS VRへの対応はどうだろうか。フレームレートが足りなければスペックを上げろ、で済むPCとは違って、PS VRへの対応にはかなりの最適化が必要になりそうだ。特に、現時点ではPS4 Pro、Xbox One X向けに4Kをサポートするとのアナウンスもないため、コンソール向けの最適化に苦戦している可能性がなきしにもあらず。

 このあたりについてはユーザーに余計な憶測をさせないで済むよう、曖昧さを残さず、積極的に情報を開示して欲しいところだ。

PCでは4Kどころか3画面で12K解像度に対応する。コンソール機でも4K対応を果たして欲しいところだ

ドライビングフィールは前作から確実に進化。多数のフィーチャーで差をつける

 その他、本作にはコンテンツボリューム面での魅力もある。ローンチ当初で170車種を収録というのはまあ普通に聞こえるかもしれないが、コンソール機最多となる60ロケーションのコースを収録するというのは圧倒的である。しかも、そのうちおよそ半数はレーザー計測もしくはドローン計測による、ミリメートル精度で再現されたコースデータだ。

 額面通りに受け取るなら、高精度データを使用した各コースでは、Live Track 3.0のシミュレーションにより、現実同様の位置に現実同様の大きさ・形状の水たまりができるということになる。そこまで完璧にできていれば、「Project Cars 2」はハードコアシムとしても最高峰の地位に登ることになるだろう。

PC+G29環境で試遊中のようす
応答性も良く、素直な挙動に好感触

 さて、レースシムは実際に触ってナンボ。というわけでAndy Tudor氏への取材後、会場に用意されていた複数の体感型試遊台で本作のドライビングフィールを確かめてみた。

 1走目は、比較的標準的なセットアップとなるPC+Logitech G29 Driving Forceの組み合わせ。Playseatのバケット型チェアに身を沈めて出走。ハンドル操作への応答は前作よりもクイックな印象で、Slightly Mad Studiosの歴代作品で見られた大げさなスライド挙動もなく、しっかりグリップしておけばイメージどおりに運転できた。

 全体的にいうと、Slightly Mad Studios特有の味付けが薄まり、よりナチュラルなフィーリングに近づいたという感触だ。逆に言うと特徴がなくなったとも言えるが……タイヤシミュレーションの進化を経て、各ドライビングシムの挙動が似たようなものになっていくというのは自然な流れだし、歓迎したい。

口があんぐり開きっぱなしになるVR走行
風景に見とれてコーナーリングが遅れたりする
一家一台欲しいVRシム環境

 2走目は、1セット100万円は越しそうな油圧駆動チェア+業務用ハンコンのCXCステアリングホイール、そしてOculus RiftというVRセットアップだ。

 こちらのほうはシートの揺れがものすごく激しい反面、ハンコンのFFBがほとんど感じられない設定となっていて、迫力はタップリだが慣れるのがちょっと大変。ドライビング・アシストはTCSとABSのみONという設定だったが、2周、3周と走るうちにだいたいのコツが掴めてきて、最終的にはAIドライバーと抜きつ抜かれつのレースを楽しめた。

 このレースでもドライビングフィールについては“普通だな!”というかんじで、特にスペシャルな感想が出てこなかったのが悔しい。とにかく前作と違って、クセがないというのは確かである。リアルかと言われれば、リアル。難しいかと言われれば、すくなくとも極端に理不尽な挙動はないと答える。走っていて楽しいかと聞かれれば、うん、間違いなく楽しい。でも、もっと走り込まないと、他のPC用ハードコアシムと比較するのは難しそうだ。

 といった感じで煮えきらない中でも非常に感動したのが、VR内でも美しく描かれる風景やライバルカーの描写だ。レース中、ライバル車と並んでサイド・バイ・サイドの戦いになったとき、サイドウィンドウ越しに眺める相手車両の姿があまりにも美しく、見とれてしまい、そのままコーナーに突っ込んだ(笑)。

 というわけで、この2レースだけでは本作の走行特性を完全に把握するに至れなかった。ダートコースには触れられなかったということもある。とは言え、ひとまず、前作で筆者がネガティブな印象を持っていた部分がほぼ見られなくなったのは確かだ。これがリアリティを追求した結果としての手堅い挙動ということであれば、クルマを変えれば全く違った印象を抱けるかもしれない。もっとたくさんの車種、コースで走り込んでみたい。

 結論をまとめて本稿を終わりにしよう。

 本作ではレーザースキャンされたコースがモリモリ登場し、夜明け、昼間、夕暮れ、夜といった時刻の変化から、雨あり雪ありの天候変化も高レベルで搭載。オンロードとオフロード両方の幅広いレースカテゴリーの搭載、そしてeSports支援のための様々な機能も搭載する。Turn 10 もポリフォニー・デジタルもかなわないほどのてんこ盛り、フィーチャーリッチなレーシングシムだ。走り味も手堅い印象で、多くのレースシム&レースゲームファンに抵抗なく受け入れられる作品になることが期待できる。