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水口哲也氏×吉田修平氏、「Rez Infinite」とVRを語る
「『Rez Infinite』のArea Xはプロローグであり予告編、次への何か」
2016年12月21日 18:15
Enhance Gamesは、「Rez Infinite」が米国の「The Game Awards」において「Best VR Game賞」を受賞し、「PlayStation Awards 2016」においても「VR特別賞」を受賞したことを記念して、エンハンス・ゲームズの水口哲也氏とソニー・インタラクティブエンタテインメント ワールドワイド・スタジオのプレジデントを務める吉田修平氏による対談が行なわれた。
同社の一室において行なわれた今回の対談はざっくばらんな雰囲気の中スタート。「Rez Infinite」の制作意図などに始まり、PlayStation VRなどについても語られた。
水口氏は「Rez Infinite」ゲーム制作の根源から話し始めた。すでにゲームを作り始めてから25~6年に及ぶという水口氏だが、「ぶっちゃけると、この5年ほどはつらかった」と切り出した。水口氏によると「『Child Of Eden』を作っていた頃は3D立体視の可能性を感じて3D立体視が音楽と絡みつくことで新しい体験が生まれるなど、いろいろなチャレンジをしていた」ところがチャレンジすればするほど、最終的にはディスプレイの中でしか世界を展開できないジレンマにとらわれ、「窓の向こうの世界」に感じられ、「限界だと思った」という。
こういった制約があるからこそ「クリエイティビティは進化する」と思い込もうとしたが、袋小路に陥っていたのだとか。
水口氏はセガに入社した当時から「VR」をやりたかったのだという。事実当時に「ゲームギア」を使用したVRゲーム装置として「ヘッドマウント ゲームギア」の特許を取得していたという。ただ、コンセプトとしては実現していたが、具体的に商品として成立するテクノロジーは当時の日本にはなかった。
このほど、VRゲームを制作したところ「クリエイターとしてすごく我慢してきたんだなと思った」のだという。クリエイターは制作過程において、頭の中にイメージした、創造したゲーム世界の中にいる。ところが、パッケージ化する段階において、ディスプレイに映し出すことを考えなければならない。この制約の中で映画などは進化を遂げてきたが、クリエイターの頭の中をそのまま表現するには限界となっていたという。VRのゲームのプロトタイプをプレイしていて、水口氏は自分の夢見てきたイメージの中に自分がいる感動がすごくて、感動して涙が出たという。
水口氏は「伝えたいことが体験として伝えられない」と語ったが、VRと出会うことで「心が震えるような体験」を提供するきっかけとなったという。VRでは、プレーヤーがその世界の中に存在するため、世界の中への没入感はこれまでとは桁違いだ。クリエイターの想像する世界の中に入り込むことになり、その感動はより大きく感じられることになる。
「Rez Infinite」のVRのモード「Area X」の制作についても語られた。“立体の中を動き回る”感覚を大切にしたという水口氏は、とにかく多数のパーティクルを出すことを考えた。撃破したウイルスがはじける様をパーティクルで表現しようと考え、制作過程のテスト段階では今以上に多数のパーティクルが表示されていたという。ところが、プレイしたときに気持ちよくなるために、レイテンシーを確保するために、表示数を調整することにしたという。
水口氏は「気持ちよさと悪いのは紙一重」と語り、非常に細かい調整を行なった。パーティクルがプレーヤーの近くで表示されると気持ち悪くなるといい、遠すぎると逆に感動が少ないトライアンドエラーを繰り返しながら、プレーヤーが気持ちいいと感じられるスポットを探っていったという。
これらのテストで得られた知見については、ソニーのPS VR開発陣とも共有されたという。PS VR開発陣が「確信を持って『酔うからダメ』と言うことは、やはり気持ち悪いと感じることがあった」というほどで、その技術的な蓄積を共有することで、ひたすら気持ちいいプレイ感覚が突き詰められていった。
吉田修平氏は「PS VRの開発は、プレイステーション 3の終わりくらいに、好きな人が会社の一角で少人数で作り始めた。本当に好きな人たちで、情熱がすごい。これにはプレイステーションの初期のリアルタイム3DCGを実現しようとしていた頃の興奮を思い出した」と語っていた。
ここで話題は「Rez Infinite」の「Area X」のテーマについて触れられた。実は「Area X」にはエリア分岐があり、登場するキャラクターだけでなく、ゲームデザインなども異なった展開があるという。ウイルスに冒されたコンピューターの解放というストーリー展開があるが、水口氏によれば、前作の「Rez」では“受胎”がテーマになっており、「Rez Infinite」の「Area X」ではその後の女性の“誕生”までを描いているという。水口氏は「ウイルスを駆逐してコンピューターを浄化する中で、描かれている女性を誕生まで導くといったストーリーラインも描いている。そう感じられるようになるのは、音楽の力。音楽を演奏するようにプレイする中で、彼女を誕生させるような行為に進化していく」とゲームプレイ時の感情の動きをストーリーテリングとして説明した。
PS VRに話が及ぶと水口氏は「この値段で、マスマーケットで流通しているPS VRにはすごい感謝している。PS VRがあるからこそ、VRのこの感動を(クリエイターとして)多くの人に配信することができる。本当に有り難うございます!」と吉田氏に語った。一方で吉田氏も、「いや、どんなに良い商品を作っても、それを使いこなして良いコンテンツを作ってくれる人がいなければ」と語り、「商品の発売開始時点からこんな良いコンテンツを提供してくれて有り難うございます」と水口氏に感謝の意を表した。
前述の通り水口氏はVRと出会うまではツラかったというが、一方でVRコンテンツを制作するようになってからは、「将来的にやってみたいことがどんどん積まれていく。今までで1番元気かもしれない」とクリエイターとして表現したいことがあふれている時だという。この点については吉田氏も「VRは楽しくて仕方ない。SIEでもみんな黙々と開発を進めている中で、人数の少ない『THE PLAYROOM VR』を制作しているチームからは笑い声が聞こえ、3人ぐらいのチームでプロトタイプをどんどんと作ってテストしているそのスピード感を見ていると面白い」と活気あふれる現場を紹介していた。
水口氏は「『Rez Infinite』のArea Xはプロローグであり予告編、次への何か」と語り、ここで終わりではなく、むしろスタートであると発言。まだまだ新たなるアイディアと感動が盛り込まれた、新たなVR時代におけるゲームを提供してくれそうだ。
なお、12月26日には六本木ヒルズ2Fのヒルズカフェにて「Rez Infinite・祝 受賞記念 Meet-upパーティー」が開催される。この場では6台の PS VR 試遊台とともに、「シナスタジア(共感覚)スーツ」も出展される。また、2017年1月19日から米国で開催されるサンダンス映画祭では、現在開発中の「シナスタジアスーツ 2.0(振動とLEDが一体化し、バージョンアップしたもの)」が出展されるという。