佐藤カフジのVR GAMING TODAY!
Gamescomで存在感を増してきたSteamVR初号機「HTC Vive」
Oculus Riftを越える!? ゲーミングに特化したそのポテンシャルとは
(2015/8/18 12:00)
先月末にSteamVR初号機「HTC Vive」のハンズオンレポートをお届けした結果、体調を崩して2週間のお休みをいただきました、佐藤カフジです。今週からまた元気に当連載を再開していきますのでよろしくお願いいたします!
さて、去る8月5日から8月9日にかけてドイツ・ケルンで開催された欧州最大のゲーム見本市Gamescom 2015では、HTC ViveがBest Hardware賞を受賞するなど、ライバルのOculus Riftを差し置いて大きな存在感を発揮。7月から北米を中心に巡業を開始したHTC Viveのワールドツアーも、各地で高い評価を受けている。
そこでここしばらくHTC Viveについてあれこれ調べていたのだが、やはり、そのトラッキングシステムの基板となるLighthouseの性能・汎用性や、Valve設計によるSteamVRリファレンスモデルとしての完成度、世界最大のゲームプラットフォームであるSteamとの連動性などなど、HTC Viveにはゲーマー的に「これだ!」と言わしめるだけのクオリティがある。
日本でのHTC Viveに対する認知度や期待感はまだまだ低いが、日頃Steamで各種ゲームを楽しんでいる皆さんは間違いなく注目すべきだ。こんかいは、そんなHTC Viveの持つポテンシャルについてご紹介しよう。
「HTC Vive」の本体はLighthouseだ
PCゲーマー的に言えば、VR時代の到来にあたり初めて購入するVRシステムは、なるべくゲーム市場的にスタンダードで、高い汎用性を備えているほうが好ましい。特にデバイス関連はモデルチェンジが早くなるため、使いまわせるものは使いまわして自分のゲーム環境を拡張していけるほうがいい。
その視点で見れば、VRシステムの基本パーツといえるのはHMDそのものではなく、トラッキングシステムだ。というのも、現在のところ、HMD単体で動作するポジショナルトラッキングシステムというのは存在しておらず、Oculus Riftにしろ、HTC Viveにしろ、HMDとは別に、トラッキングシステムを構成する外部装置を備えている。そしてそれが、映像の表示装置であるHMDが、VR空間に没入するためのVRヘッドセットとなるための最重要の機能を提供する。だから、トラッキングシステムはVRシステムの基本パーツと言えるのだ。
このトラッキングシステムについて、Oculus Riftはカメラ方式、HTC ViveはValve謹製のLighthouseテクノロジーを用いている。これについては以前の記事「Valve『Lighthouse』とOculus CV1のトラッキングはどっちが凄い?」で詳しくご紹介しているが、単刀直入に言えば「デバイス側が能動的に自分自信の位置を検出できる」というのがLighthouseの良さであり、Oculus Riftのカメラ方式を汎用性において大きく上回る部分と言える。
Lighthouseが持つ圧倒的な汎用性
このLighthouseテクノロジーの動作原理や能力について、Valveの「灯台博士」、Alan Yates氏がTwitter上でいろいろと細かい情報を出している。その中から面白いものをピックアップしてみよう。
1.ベースステーションには複数の動作モードがある。現在皆が見ているのはそのうちの1つだけ。
2.ベースステーションは1個でも機能する。その場合は5個のセンサーが見えている必要がある。
3. 2つ以上のベースステーションから見えていれば、センサー1個でもトラッキングできる。
4.ベースステーションは通常クラス1のレーザーを出すが、クラス3のレーザー出力も可能(ロックされている)。
HTC Viveや、それに付属するVRコントローラーにはたくさんのセンサーがついているが、実際には上記の2.のように、2つのベースステーションから見えてさえいればセンサーは1個だけでも機能するというのがおもしろい。センサーがたくさんついているのは、センサーが1方のベースステーションから完全に死角に入った時にも、他方のベースステーションによってきちんとトラッキングが継続される、というフェイルトレランス上の工夫だということになる。
これにより実現したトラッキングの確実性は、筆者も台湾で実際に体験することができた(体験レポート)。HMDはどんな姿勢をとっても、例えば床にうつ伏せになっても間違いなくトラッキングされるし、コントローラーは股の下に通してもトラッキングされる。逆にいうと、トラッキングを失敗させるためには、服の中に隠すとか、完全に死角に持ち込むくらいしか方法がない。
そして上記4.も気になるところだ。クラス3のレーザーというのは、国際的なレーザ製品の放射安全基準において「直接のビーム内観察は危険」とされている出力だ。それが必要となるシチュエーションはおそらく、専用の施設などでより広い空間をVR化する場合などだろう。そういった広い場所ではマルチユーザーのVR体験も可能になる。特にLighthouse方式では「デバイス側が自分の位置を検出できる」仕組みなので、トラッキング範囲内にHMDやコントローラーがいくつあっても混線を起こさないというのも、こういった活用法を現実的なものにしてくれる。
Lighthouseテクノロジーはこれだけ高い汎用性を備えるだけに、後発のHMDや、グローブ型などの各種VRコントローラーのSteamVR対応を強力に後押ししている。今年末に予定されているHTC Viveの発売後、Lighthouseテクノロジーに対応した新たなHMDや各種デバイスも次々に登場してくる。それらのデバイスでは、部屋に設置済みのLighthouseをそのまま使える。これはゲーマー的に非常に大きなメリットだ。
逆に、Lighthouseによる赤外線レーザーが部屋を包み込む環境で、Oculus Riftの赤外線ベースのトラッキングシステムはきちんと動作するだろうか。検証が必要だが、不安も大きい。もしかすると、SteamVRとOculus Riftは、同時に使うことができない、排他的な関係になるかもしれない。これはゲーマーの選択に強い影響を与えるはずだ。
SteamVR対応ゲームの開発も続々進行中
Lighthosueテクノロジーで実現するルームスケールVRは、非常に自然で自由度の高いVRインタラクションを可能にしてくれる。ゲームソフトであれば配信プラットフォームにはSteamが利用できることもあり、様々なゲームデベロッパーがHTC Viveを使ったゲーム開発を進行しているようだ。
その風景を各デベロッパーから公開された動画でご紹介していこう。ルームスケールVRならではの自由な動きや、2つのVRコントローラーを使った直感的で肉体的なインタラクションに注目して見て欲しい。