佐藤カフジのVR GAMING TODAY!

VRゲームの仕様を規定する「標準VRコントローラー問題」を斬る

各社各様のVRコントローラーが登場する中、ユーザーが本当に期待できるものとは?

【著者:佐藤カフジ】

 とあるきっかけで近日中にSteamVR(HTC Vive)を体験できる見込みとなった筆者だが、各社VRヘッドセットのスペック面の情報がほぼ出尽くしたこともあり、最近の関心は入力デバイスに移りはじめている。それが今後出てくるVRコンテンツの仕様をかなりのレベルで決めることになるからだ。

 まず前提として、Oculus Rift、HTC Vive、Project MorpheusというVRシステム3巨頭ともに、表示系のスペック、特にビジュアル設計に大きな影響をおよぼす視野角には大差がない。であればどれでも同等の体験が得られるかというと、違う。

 VRゲーミングというのはプレーヤーがVR空間に積極的に参加する方法=入力デバイスがあってはじめて成立する。WiiリモコンとDUALSHOCKでは得られるゲームの内容が全く違ってくるように、VRコントローラーの仕様によっても、得られるVR体験の中身はかなりかわってくるはずなのだ。

 そこで懸念されるのが、各VRシステムの標準VRコントローラーの仕様の違いによって、ゲーム市場が分断されてしまうのではないかということ。これはユーザーにとっても、ゲームクリエイターにとっても大きな問題となる。だが、E3 2015でOculusが「Oculus Touch」を発表したことで、事情は両者にとって大変望ましいものになってきた。今回はそのあたりを見てみよう。

従来型コントローラーはVRゲーミングにおいてもガチの標準となる。普及率が段違いにあり、汎用性も高いためだ。画像はOculus Riftに同梱されるXbox Oneコントローラー。

Oculus Touch、SteamVRコントローラー、PlayStation Move

 ゲームの設計において、どのような入力装置を前提とするかは、ほとんどダイレクトにゲームの仕様を決める重要なファクターだ。例えばA、Bという2つのコントローラーに両対応させたいとき、AにあってBにない機能というのがあれば、ゲームにその機能を前提としたフィーチャーを組み込むことはできない。

 VRゲームも同様だ。Oculus Rift、Steam VR、Project Morpheusの3プラットフォームに同時展開したいゲーム開発者(というのが実際の所大半を占めている)は、それぞれのVRシステムが標準的に持つVRコントローラーの、共通項をベースラインとしてコンテンツを作りこむことになる。

 まずいちばん確実なのは、DUALSHOCK 4/3、Xbox One/360コントローラーといった、レガシーなゲームコントローラーを前提にゲームを作ることだ。実際、現在見ることのできる多くのVRゲームはそのようにして作られている。

 しかし、Project Moprhuesにおける「The London Heist」等のプレイ体験がPlayStation Moveによる直感操作のおかげで全く別次元の臨場感・説得性を獲得していることから明らかなように、少なくともハンドトラッキングが可能なVRコントローラーは、これからのプレミアムなVRゲームを考える上では必須の要件となる。

 その意味で、OculusによるVRコントローラー「Oculus Touch」が発表され、3大VRプラットフォームともにモダンなVRコントローラーを備えることになったことは大変喜ばしいことだ。しかし、各コントローラーには機能の相違もある。それは致命的な市場の分断をもたらすだろうか?

 それを考えるため、まず3大VRコントローラーの機能を確認しよう。

Project Morpheus / PlayStation Move

Morpheusで本格VR体験を可能とするのはPlayStation Move。あるとないとでは体験の説得力が段違いだ

 PS4向けのVRシステム、Project Morpheusでは、2010年に発売された既成品である棒形デバイスPlayStation Moveを1本ないし2本使ってのゲームデザインが積極的に進められている。そのPlayStation Moveで可能な入力は次のとおりだ。

・ハンドトラッキング
・親指側ボタン×5
・人差し指トリガー

 やや古いデバイスということもあり、ライバルに比べると機能に不足感はある。だが、「The London Heist」が示すように、それでも非常に高いレベルの没入感とともにVRゲームを遊ぶことができる。問題があるとすれば、Morpheus本体とは別売になる見込みが高く(既に持っているユーザーも少なくないため)、完全標準とはいかないところだ。

SteamVRコントローラー

ValveのLighthouseトラッキング技術で駆動する。SteamVRコントローラー。親指部分にタッチパッドを装備。先端部分がデカいのは、トラッキング用光センサーを死角が無いように配置しているためだ

 ValveによるVRシステム、SteamVRの標準装備となるコントローラーは、全てのHTC Viveに2本セットで同梱されるため、SteamVR対応ゲームなら間違いなく利用を前提として良いという点で、クリエイターがコンテンツを最適化しやすく、他のVRコントローラーに対して大きなアドバンテージを持つ。その外観はMoveと同じく棒状だが、機能面は一回り多く実装されている。

・ハンドトラッキング
・親指トラックパッド+3ボタン
・人差し指トリガー

 Valveがトラックパッドにこだわる理由はまだ謎だが、少なくともこれで、Move同等機能に加えてアナログ方向入力を2系統(1本に1系統)持つことになる。これは、プレーヤーのVR空間内での移動や、方向転換をスムーズに可能としてくれる。移動にともなってVR酔いを引き起こす件への配慮は必要だが、ざっくりといえばFPSのVR版やサードパーソンアクションのVR版など幅広いゲームが可能になるのが強みだ。

Oculus Touch

E3 2015に合わせてOculusが発表した「Oculus Touch」最も先進的なVRコントローラーだ

自然な握りで、かつ指の動きもある程度検出できる

 最後発となったOculus謹製のVRコントローラー「Oculus Touch(コードネームHalfmoon)」は、2016年第1四半期に予定されているOculus Rift本体の発売には間に合わず、第2四半期の投入になる見込みだ。従ってOculus Riftの標準装備とはならない点に懸念が残る。

 だが、その機能性はライバルを差し置いて随一、最強のVRコントローラーとなる可能性をバリバリに秘めている。その機能を用いた魅力たっぷりのVRコンテンツは、Oculus Rift最大の強みとなるだろう。

・ハンドトラッキング
・親指側アナログスティック
・親指側ボタンx2
・人差し指トリガー
・中指トリガー
・各指の接触センサー

 最大のポイントとなるのは最後の部分、各指のコントローラーに対する接触/非接触を検出する機能だ。つまりOculus Touchでは、トリガーを押し込まなくても、トリガーに指が触れていることを検出できる。これにより、5本の指を使ったハンドジェスチャー(グー、チョキ、サムズアップ、指差しなど)をVR空間内で用意に実現できるのだ。

 これはVRオブジェクトとのインタラクション(掴む、つまむ、載せる等)を非常に自然なものにするほか、VRコミュニケーションの分野では決定的な機能になるだろう。さすがFacebookの支援を受けているだけある。

最大公約数はPlayStation Move。PCのみならSteamVRが標準に

 以上、3大VRコントローラーの仕様を見てきたが、そこから明らかなように、3者の最大公約数となるのはPlayStation Moveの仕様そのものということになる。したがって、できるだけ広くコンテンツを提供したいクリエイターは、まずPlayStation Moveで可能な範囲でゲームデザインを行なうことになるはずだ。

 一方、よりオープンなコンテンツ製作が可能となるPCプラットフォームでは、Steam VRコントローラーの仕様がベースラインとなる。親指のトラックパッドを使って、積極的に移動しながらプレイするVRゲームが標準となるだろう。ハンドジェスチャーは無理ではないものの、せいぜい親指+人差し指ので可能な表現範囲にとどまる。VR-FPSで、突入の指示を出すにはまあ充分だ。

 最も高機能なOculus Touchは、多彩なハンドジェスチャーが表現できる機能がキモとなる。VRコミュニケーションや、VR空間を利用したコンテンツクリエイション(例えばVR版Garry's Modにはもってこいのはずだ)にはかなりの威力を発揮する一方、ゲームコンテンツでの差別化はやや難しいのではないか。

 といったところを総合的に考えると、少なくともコンシューマーVR第1世代においては、PlayStation Move相当機能に制限されたゲームコンテンツがまず最も多く、次いで、SteamVR準拠のゲームタイトルが市場を賑わすはずだ。

 Oculus Touch対応のコンテンツは最もプレミアムな体験をユーザーに提供してくれる。その一方、ゲーミング分野では市場を2分する、あるいはSteamVRが主導権を握りそうな現況から考えるに、多くのOculus Touch対応コンテンツではSteamVRでもある程度扱えるようなアクセシビリティを確保する必要がでてくるだろう。

 いずれにしても、3者が出揃ったことで、コンテンツクリエイターが「両手を使ったVRコンテンツ」を迷いなく作れるようになったことは間違いない。あとは対象プラットフォームでどのようにさじ加減をしていくか、というわりと瑣末な問題だ。

 まあ、結論を出すのはまだ早い。筆者は近いうちにSteamVRを体験取材する予定なので、それも踏まえて標準VRコントローラーの問題を考えていきたいと思う。