【連載第14回】あなたとわたしのPCゲーミングライフ!!


佐藤カフジの「PCゲーミング道場」


最新の3D立体視デバイス「NVIDIA 3D Vision」でPC版「バイオハザード5」をプレイする!!
世界初の「NVIDIA 3D Vision」最適化タイトルがもたらす臨場感や如何に!?


色々な意味で業界の「最先端」を走る、PCゲーミングの世界。当連載では、「PCゲームをもっと楽しく!」をコンセプ トに、古今東西のPCゲームシーンを盛り上げてくれるデバイスや各種ソフトウェアに注目。単なる製品の紹介にとどまらず、競合製品との比較や、新たな活用法、果ては改造まで、 様々なアプローチでゲーマーの皆さんに有益な情報をご提供していきたい。



■ NVIDIAとカプコンが本気で取り組んだ「3D立体視体験」

NVIDIAの最新3D立体視デバイス「NVIDIA 3D Vision」
「NVIDIA 3D Vision」に最適化された世界初のタイトル、PC版「バイオハザード5」

 ゲームグラフィックスの進歩が著しい。しかし、どんなに凄い映像でも、モニタ上に表示されるがための限界がある。人間は現実世界でものを見るとき、多少離れた位置にある2つの目によって空間の映像を捉え、視差によって立体感を認識する。しかし、ゲームグラフィックスはモニタの平面上に描かれるため、現実同様の立体感、存在感を醸し出すことは難しい。

 この限界を克服し、両眼で現実同様の立体感を得る方法が「立体視」だ。そのソリューションは数多く考案されており、レーザーを使う大掛かりな立体映像装置から、視差フィルターを搭載した特殊なパネルにステレオ映像を投影する方法、そしておなじみの「赤青メガネ」を使って単色の立体映像を得るものなどまで様々だ。

 PCゲーミングの世界でも古くから立体視ソリューションが提供されているが、その中でもっとも市場性があるのは、「シャッター付きメガネ」を使う方法だ。モニタ上に視差をつけた2枚のステレオ映像を交互に表示し、それに同期してメガネのシャッターを動作させることで、左右それぞれの目に適切な映像を見せ、立体感を得るというアプローチである。伝統的な赤青メガネとは違って、この方法ではカラー映像の立体視が可能となる。

 しかし、この方法には致命的な弱点がある。映像のリフレッシュレートが、事実上モニタの半分になってしまうということ。何しろモニタ上では1フレーム毎に「右目用の映像」、「左目用の映像」を交互に表示するので、動画としてのフレームレートは半分にならざるを得ない。これまで一般的な60Hzのモニタでは、立体映像は30Hzとなるので、ゲーム用途ではなかなか厳しいものがあった。

 ところが、ここ最近になって状況が変わってきている。技術進歩により、120Hzのリフレッシュレートを持つモニタが利用できるようになったのである。こういったモニタを使えば、60Hzの立体映像を得られるので、一般用途はもちろん、ゲーム用途としても十分だ。そこに目をつけたのがNVIDIAである。

 NVIDIAでは、この120Hz表示が可能なモニタだけを前提として、新たな3D立体視デバイスを開発した。それが、今年2月より国内販売されている「NVIDIA 3D Vision」だ。グラフィックスチップのメーカーとしては例外的に、ユーザーが身につけるグラスデバイスを自社で開発・製造していること自体、NVIDIAがこの立体視ソリューションに掛ける「本気度」をあらわしているといえよう。

 そして、このNVIDIAの「本気度」に真正面から応えたのがカプコンだ。カプコンでは、「NVIDIA 3D Vision」で最適な立体感を得るための仕組みをゲームエンジン「MTフレームワーク」のレベルで組み込み、PC向けの「MTフレームワーク」採用タイトル最新作となる「バイオハザード5」に活用した。NVIDIAによれば、これは世界初の試みである(関連記事「カプコン&NVIDIA、PC版「バイオハザード5」の目玉機能を紹介」)。

 つまり、現時点において「バイオハザード5」PC版は、「NVIDIA 3D Vision」によるパーフェクトな「3D立体視体験」を得られる唯一のタイトルなのだ。カプコンの竹内氏が「次世代のゲームシーンではごく一般的なソリューションになる可能性がある」と期待する3Dゲームの立体視。本稿では実際に「NVIDIA 3D Vision」と「バイオハザード5」を組み合わせてプレイした内容をもとに、その真価を問うてみたい。



■ NVIDIAが本格普及を目指す3D立体視デバイス「NVIDIA 3D Vision」

【NVIDIA 3D Vision】
ジャンル:3D立体視グラス
開発元:NVIDIA
価格:オープン (実売価格2万円前後)
発売日:2009年2月
対応OS:Windows Vista / 7
備考:リフレッシュレート120Hzに対応する液晶モニタ、およびGeForce 8800GT以上のビデオカードが別途必要

パッケージ内容物。3Dグラスに加え、「IRエミッター」、各種ケーブル類などが付属
3DグラスとIRエミッター
120Hz対応の液晶モニタ「サムスン 2233RZ」

 本デバイス「NVIDIA 3D Vision」については、本連載の第7回「もはや常識?のヘッドトラッキングに、NVIDIAが本腰を入れる3Dグラス」でも触れたことがあるので、今回は実際の導入までの重要なポイントをお伝えしよう。

 「NVIDIA 3D Vision」は、シャッター機能を搭載する3Dグラスと、シャッタータイミングをモニタのリフレッシュレートに同期させるための「IRエミッター」がセットになったデバイスだ。現在ではPC専門ショップにて取り扱いがあり、実売価格2万円程度で販売されている。

 しかし、これを使って立体映像を楽しむためには「リフレッシュレート120Hzに対応する液晶モニタ」が別途必要である点に注意してほしい。最近では家電系の液晶モニタ(HDTV)に「倍速駆動」などとして120Hzの映像出力を備えるものが一般的になりつつあるが、ここで必要になるのは「入力も出力も120Hz対応」のモニタである。

 この条件を満たしたモニタは、現時点で国内で容易に購入できる範囲では、サムスンの液晶モニタ「2233RZ」がほぼ唯一の選択肢だ。「2233RZ」はパネル解像度1,680×1,050(アスペクト比16:10)で、入力端子はデュアルリンクDVI端子1系統のみという、120Hz対応だけに全てを掛けた製品だ。解像度がフルHDではない点や、入力端子が少ない点など、汎用のゲームモニタとしてはかなり難のある製品なので、「NVIDIA 3D Vision」を試すだけとしては少々高い敷居を跨がなければならない状況ではある。

 また、「NVIDIA 3D Vision」は対応OSとしてWindows Vistaもしくは10月発売予定のWindows 7を要求する。ゲーマーに人気のWindows XP以前のOS向けのドライバは提供されていない。この点も本製品の敷居を高めている部分のひとつだが、モニタの問題も、OSの問題も、いずれ時間が解決することになるだろう。少なくとも現時点では、「最新の3D立体視ソリューションを本気で試してみたい人」にとって、コスト面を除き導入に際しての大きな障害は無い。

 120Hz対応モニタとWindows Vista/7さえ揃えば、「NVIDIA 3D Vision」の導入は簡単だ。ドライバのセットアップウィザードの指示にしたがって、付属の「IRエミッター」をUSBポートに接続し、3Dグラスのスイッチを入れるだけ。ただし、グラフィックスドライバと「NVIDIA 3D Vision」のドライババージョンは常に最新のもので合わせる必要がある。どちらかが古い場合などバージョンのミスマッチがある場合、システムの動作に不具合を生ずることがあるため注意が必要だ。

 「NVIDIA 3D Vision」の導入が完了すればほとんどあらゆる3Dゲームでステレオ映像が利用できるようになる。ただ、現時点ではドライバレベルで無理矢理ステレオ映像を生成するタイトルがほぼ全てなので、ものによっては適切な立体視効果が得られない場合もある。良くあるのが、「全てのオブジェクトがミニチュア風に見える」、「影がちらついて見える」、「照準などHUD表示が2つに分離して見える」など。そこはゲーム側の実装によりけりだ。

 しかし、あらかじめ「NVIDIA 3D Vision」での利用を想定して作られた作品であれば、完璧な立体映像を得られるはずだ。それが「バイオハザード5」PC版である。さっそく検証してみよう。


セットアップウィザードにしたがってデバイスの設定を行なう。手順はとても簡単だが、うまく動作しない場合は「NVIDIA 3D Vision」とグラフィックスカードのドライバが最新かどうかを確認しよう

対応タイトルの例。「NVIDIA 3D Vision」での使用を前提としていない作品でも、それなりの立体視効果を得ることが可能だ


■ 世界初! 「NVIDIA 3D Vision」に完全対応を果たした「バイオハザード5」PC版

【バイオハザード5 PC版】
ジャンル:サバイバルホラー
開発元:カプコン
価格:7,340円
発売日:2009年9月17日(発売中)
プレイ人数:1~2人
レーティング:CERO:D(17歳以上対象)

政情不安定なアフリカ某国で出会ったBSAAエージェント、クリスとシェバ。「ウロボロス計画」の謎を追う
クリスとシェバの協力プレイが本作の魅力のひとつ。マルチプレイCOOPも楽しめる
PC版だけに搭載されたとんでもないコスチューム。この格好でシリアスなカットシーンが流れると思わず笑ってしまう

 ステレオ映像を使う方式で説得力のある立体視効果を得るためには、人間の目にとって適切な視差をつける必要がある。映像に含まれる全てのオブジェクトについて、飛び出しすぎてはいけないし、奥まって見えすぎてもいけない。この点ばかりはゲーム側で対応するしかないのだが、「バイオハザード5」PC版は、それをきちんと行なったはじめてのタイトルだ。

 カプコンでは、本作を「NVIDIA 3D Vision」に完全対応させることを目標とし、ゲームエンジン「MTフレームワーク」のレベルで対応を行なったという。その上で、ゲーム中の全シーンにわたって調整を行ない、適切な立体視効果を実現した。これがPC版ならではの特徴として筆頭に挙げられる要素だ。

 もちろん、「バイオハザード5」は立体視を抜きにしても非常に良質のタイトルである。本作の基本的なゲーム要素については本誌記事「PS3/Xbox 360ゲームレビュー『バイオハザード5』」にて紹介しているので、ここでは概要だけ触れておこう。

 本作は、生物兵器(B.O.W)の実験場にされてしまったアフリカ某国を舞台に、対バイオテロ組織「BSAA(Bioterrorism Security Assessment Alliance)」のエージェント、クリス・レッドフィールドと、シェバ・アローマの2人が強固なパートナーとなって、数々のスリリングかつドラマティックな戦いを乗り越えていくというアクションゲームだ。

 痛快な3Dシューターの要素にアドベンチャーゲーム的なインベントリシステムを融合させ、独特のゲームシステムを提供する点がシリーズのポイントである。例えば、「武器を構えている間は動けない」など、基本ゲームシステムに敢えて組み込まれた不自由さが、使用するアイテムや行動の選択に戦略的な深みを与えている。また、空気感豊かに描かれた3Dグラフィックスと、ハリウッド仕込みの惜しみなく展開されるカットシーンなど上質な演出も見逃せないポイントである。

 PC版ではプレイステーション 3およびXbox 360といった家庭用ゲーム機向けのバージョンとは異なる、いくつかの新要素がフィーチャーされている。DirectX 10ベースで開発されたより美しいグラフィックスを楽しめることはもちろんだが、新コスチュームや、ゲームモード「Mercenaries」のパワーアップ版「Unlimted」モードが実装されている。「Unlimited」では大量のマジニが出現し、油断すると数秒で10体以上に囲まれるといった有様だ。PC版ならではの壮絶なゲーム性と言えるだろう。

 そして「NVIDIA 3D Vision」への完全対応だ。今回、実際に「NVIDIA 3D Vision」を使い、発売前の「バイオハザード5」PC版をプレイすることができた。これまで他の立体視デバイスも体験してきた筆者だが、「NVIDIA 3D Vision」のためにエンジンレベルで調整されたという本作の立体視効果は素晴らしいの一言だ。続いて、そのインプレッションを紹介していこう。


町や屋内から、洞窟、平原、湿地帯など、様々な舞台にゲームが展開していく。シリーズ最新作として申し分のないスケールとボリューム感を持つタイトルだ

PC版で追加された「Unlimited」モードでは、同時に数十という大量のマジニがワラワラと群がってくる。息つく間もなく次々に撃退しなければ簡単にやられてしまう反面、凌ぎきればハイスコアが狙える。やりがいのあるゲームモードだ



■ 「バイオハザード5」が提供する適切な立体感。3Dグラスを通して得られる臨場感は感動的

ステレオ映像を有効にした画面をデジタルカメラで撮影。肉眼と同様、視差のぶんだけ映像がブレて見える
3Dグラスを通すと、グラスのシャッターの効果のおかげで絞られた映像が見える。ただ、その分映像の輝度が下がり、暗く見える
「どれくらい立体的に見えるか」を決める視差の量は、「IRエミッター」のツマミをまわすことで随時調整可能だ

 「バイオハザード5」の醍醐味は何といっても、じわじわと確実に押し寄せてくるマジニの圧力と恐怖感だ。この点において「NVIDIA 3D Vision」による効果は素晴らしい。

 本作ではカットシーン製作の際、現実のカメラを動かして原寸のシーンに対して動きのデータを取る、という手法を採用しているが、それを反映してか、「NVIDIA 3D Vision」対応にあたってはモニタを通してリアルスケールの世界を眺める事に近い形でシーンの視差が調整されているようだ(ただし今回使用したモニタが22インチと小さいため、現実とまったく同じというわけではない)。このためシアターで見られるような「モニタから飛び出して見える」というケースはまれで、ほとんどのシーンで「モニタの向こう側に広がっている」という視界感覚になる。

 このおかげで、本作における立体視では、ゲーム空間の広がりを非常にリアルに感じられる。そこに存在するマジニも「原寸大」の遠近感を伴って感じられるので、じわじわと近づかれる恐怖はかなりのものだ。それが「モニタから飛び出して見える」ほど近づいてきたときの、筆者の慌てぶりは他人に見せたくないほどである。

 また、他の「立体視のために最適化されていない」ゲームに比べて、HUDの見易さやプレイへの貢献という点でも本作はよく調整されていると感じる。特に効果を発揮するのが射撃の照準だ。本作ではほとんど全ての銃器について、レーザーポインタを使って狙いを定める作りになっているが、そのレーザーが走る軌跡が立体的に、背景から完全に浮いて見えるおかげで、素早く確実に照準を合わせることができる。これは非常に快適だ。

 立体視によって、スピード感あふれるシーンの楽しさも倍増する。チャプター2-3の序盤、ジープの後部機銃を使ってバイクマジニ軍団を撃退するシーンがあるが、サバンナの広大な広がりの中、高速で疾走する爽快感はビックリするほどだ。次々に流れていく遠景、近景には群れで押し寄せるバイクの大群。さらには、機銃弾が飛翔する軌跡とターゲットの位置を立体的に把握できるため、射撃の命中率まで上がるという寸法だ。

 この調子で、筆者は「NVIDIA 3D Vision」を使ってゲームの最初から最後まで一気呵成にプレイしてしまった。「バイオハザード5」には屋外のシーン、室内のシーンがバランスよく織り込まれ、敵キャラクターは小型のものから大型のもの、地上タイプから空中タイプまでと、幅広く用意されている。このため、立体視による効果を様々な形で体感でき、非常に満足できた。

 また、同じカプコンのPC版「デビル・メイ・クライ 4」で立体視を試した際に感じられたような「異様なミニチュア感」や、視差がきつすぎて眼筋が疲れる感じなどもまったくなかったのは印象的だ。

 さすがに通常の2D映像でプレイする場合に比べると疲れはあるが、疲れの原因は「メガネを装着することによる物理的な疲れ」と、「3Dグラスのシャッターによる映像輝度の低下」の2点に絞られるように思える。また、昔の同種のデバイスに比べると、リフレッシュレートが120Hzと高いためチラツキ感がほぼ感じられない点も疲れにくさに役立っている。

 シャッターによる輝度の低下に関しては、ゲーム側の設定で映像の輝度レベルを上げることである程度緩和できる。しかし、それにより映像のコントラストが相当量失われるので、純粋な画質という点では犠牲は避けられない。この点については、よりコントラスト比の高い120Hz対応モニタが登場することに期待を寄せるしかなさそうだ。


ゲームシーンはもちろん、カットシーンもきちんと立体的にみえる。例えば左写真のシーンの場合は、男性の顔の鼻先あたりが「飛び出して」見える感じだ。また、モーションブラーなど各種エフェクトもしっかりゲーム世界に溶け込んで見え、ゲーム中に立体感が破綻するシーンや部分はまったく発見できなかった

広大な風景の中を高速で疾走するシーンは、感動的なほどの臨場感だ。巨大なモンスターとの戦闘も、2Dモニタでプレイした際とは別次元の迫力を感じ、思わず手に力が入ってしまう


■ フィギュア鑑賞モードの「手を伸ばせば触れそうな」存在感に驚愕!

フィギュア鑑賞モード。ゲーム中の成績に応じてアンロックしたゲームキャラクターのフィギュアをここで眺めることができる

 そして、本編をひととおりクリアした後に驚愕したのが、本作のコレクタブル要素であるフィギュアの鑑賞モードだ。このモードでは、本編のクリア成績に応じてアンロックされるゲームキャラクターのフィギュアを自由に眺めることができる。リアルスケールに基づいた立体視を提供する本編とは異なり、対象がフィギュアなので、22インチのモニタサイズにしっかりマッチする大きさで立体視ができるというのが大きなポイントだ。

 なんとも、スクリーンショットではお伝えできないのが歯がゆいばかりだが、ここで筆者が感じたのは「手を伸ばせば触れられるのではないか」という、ショッキングなまでの存在感だ。目の前の暗い空間に、質量を伴わない実体が浮いているとでも言うべきか、とにかく期待以上の立体視効果に驚いた。

 また、ここでは立体視による別の効果にも気づくことができる。複雑な凹凸を持つキャラクターモデルのディテールに即座に気づくことができるのだ。例えばBSAAの制服姿のクリス。背中、腰、太股などに装備された小物類の微細な凹凸や、拳銃の立体感。2D映像では埋もれてしまうディテールが立体視により明確に浮き上がり、それまで気づかなかった作りこみを堪能できる。

 これは、「NVIDIA 3D Vision」ユーザー向けに「3Dゲームフィギュア」をDL販売でもするビジネスが成立するのではないか、などと思わせるほどのインパクトだ。現実のフィギュアは折れたり曲がったり、色移りしたりで劣化してしまうものだが、バーチャルなフィギュアは実際に触れない代わりに決して劣化せず、しかもどんなディテールも作りこめる……。それが現実に近い存在感を持って鑑賞できるのだ。「バイオハザード5」により立体視デバイスの意外な可能性に気づいた瞬間だった。


立体視の効果により、2D表示では潰れて目立たなくなるような人物キャラクターの造型、特にディテールの構造が文字通りの意味で「手に取るように」よくわかる。2Dモニタでは絶対に伝えられないのがもどかしい

複雑な形状を持つモンスターの姿に見とれてしまう。例えば中央の「リッカー」の長い舌先は、画面よりこちら側にぐぐっと飛び出して見える。右の「ウロボロス」の左腕も、画面を飛び出してユーザーの鼻先近くまで接近しているように見え、手を伸ばせば掴めるのではないか、と錯覚させる



■ ステレオ映像を作るためのパフォーマンスコストは「軽いシーンでは重く、重いシーンでは軽く」
 ある程度パワーのあるゲームPCなら快適に遊べる

ベンチマークテストモード。数分間のテストシーンを通じて平均フレームレートを計測してくれる

 次にパフォーマンス面を見てみよう。「NVIDIA 3D Vision」では、ドライバレベルで視差のあるステレオ映像を表示するため、ゲーム側が1フレーム更新するたびに、2枚の映像をレンダリングする仕組みになっている。このためビデオカードの負荷が高まり、「多少の」フレームレートの低下があるとされている。

 では具体的に、フレームレートの低下率はどれくらいだろうか? これを確かめるために、「バイオハザード5」PC版に搭載されているベンチマークモードでパフォーマンスを計測してみた。ステレオ効果を無効にした状態と、有効にした状態のそれぞれについて、実際のゲームに近いシーンを再生する「ベンチマークテストA」、高負荷の同じシーンを再生する「ベンチマークテストB」を実施。それぞれの平均フレームレートを記録した。

 ちなみに「テストA」は、ゲーム中に実際にありそうなシーンを複数連続で再生するモードだ。およそ平均で60fps以上を記録すれば、ゲーム中の全ての場面で快適にプレイできる。「テストB」は大量の群集が登場するシーンのみを、最高のディテールで再生するテストだ。レンダリングの負荷が非常に高いため、通常シーンの半分程度のフレームレートとなる。

 以下がその結果だ。

 ステレオOFFステレオON



A

70.9fps42.1fps



B

39.5fps30.0fps

 ※テスト環境としてCPU「Core 2 Duo E8500(3.16GHz)」、ビデオカード「GeForce GTX 285」というPCを使用した。
  グラフィックスドライバのバージョンは執筆時時点で最新の190.62(WHQL)。OSはWindows Vista 64bit。
  ゲーム側の設定は解像度1,680×1,050ドット、MSAA×4のほか、最高品質の映像が得られる設定を適用している。



 ステレオ効果OFFの場合、「テストA」で70.9fps、「テストB」で39.5fps。ステレオ効果ONでそれぞれ42.1fps、30.0fpsとなった。ステレオ効果OFF時に比べると、ON時ではそれぞれのテストでおよそ60%(40%ロス)、75%(25%ロス)のフレームレートになっている。

 筆者の体験では、本編プレイ中にステレオ効果を利用した際、フレームレートの低下を顕著に体感することはほとんどなかった。実際、ほとんどのシーンでおおむね60fps近く、重いシーンでも30fps以上のパフォーマンスが出ているので、プレイアビリティにはなんら影響しない。より低速なシステムであれば、解像度やグラフィックオプションを調整するといった方法で、さらにステレオ効果による負荷を減らし、快適なプレイ環境を確保できるだろう。

 また、ベンチマークの結果を別の視点で考えると面白いことがわかる。「テストA」に対して「テストB」でどれだけフレームレートが低下しているかに注目すると、ステレオ効果OFFの場合45%ほどの低下がおきていることに対し、ステレオ効果ONの場合は29%ほどの低下にとどまっている。

 これは、「AI、アニメーション、物理諸々の処理を行ない、シーンをセットアップする」というゲーム側の処理コストと、ステレオ効果ON時に「同じシーンを2度、視差をつけてレンダリングする」というドライバ側の処理コストが、別性格のものであることに理由がある。ゲーム側がいくらでも重い処理ができることに対し、ドライバ側は比較的一定の処理コストで済む。したがって、ゲーム自体が重くなれば重くなるほど、ドライバがステレオ映像を生成するためのパフォーマンスロスの「割合」は低くなるのだ。

 もちろん、これはビデオカードの能力にも依存することになるが、ある程度強力なビデオカードを使用していさえすれば、もとから重いゲームでステレオ効果による追加のフレームレート低下を恐れる必然性は低い。逆に、動作が非常に軽いゲームであれば、ステレオ効果によるフレームレートの低下コストは半分近くに達するだろうが、元のフレームレートが高いのでプレイアビリティが損なわれることはないだろう。

 このことから、「ステレオ効果をONにしたためにゲームのパフォーマンスが著しく低下し、もとはプレイアブルだったゲームがプレイ不可能な状態になってしまう」、というシチュエーションは、ありとあらゆるゲームでほとんど起こりえないと考えられる。例えば今後「Crysis」のような極めてヘビーなゲームが「NVIDIA 3D Vision」に対応してきても、十分に実用に足ると推測できる。

「ベンチマークテストA」では実際のゲームシーンに即したフレームレート測定が行なわれる

「ベンチマークテストB」では大量の群集がディテール豊かに表示される、非常に負荷の高いシーンで測定が行なわれる




■ 3D立体視システムは、今後ハイエンドゲーミングのトレンドになるか? 

 今回、「バイオハザード5」を「NVIDIA 3D Vision」を使ってプレイしてみたが、筆者の印象は非常に良いものだった。マルチプレイで競技的にプレイするゲームはともかくとして、1人で、あるいは少数の仲間とじっくりと雰囲気に浸りながらプレイするゲームに関しては、「NVIDIA 3D Vision」が提供する立体視ソリューションは実に効果的だと感じる。

 「バイオハザード5」はまさに雰囲気を楽しむゲームの典型であり、今回カプコンが本腰を入れて立体視に対応した気持ちがとても理解できる。「NVIDIA 3D Vision」を利用するには120Hz対応のモニタが必要ということもあって敷居が高く、まだまだ一般に浸透するには時間がかかりそうだが、ゲームの臨場感を劇的なレベルで向上させてくれることは間違いない。

 確かに、「NVIDIA 3D Vision」は、現時点では新しいモノ好きのヘビーゲーマー向きソリューションである。だが、今後数年のスパンで考えると、120Hz対応のモニタはごく普通の存在になっていくことだろし、ゲーマーの方も、ゲームグラフィックスのさらなる進化にともなって、これまでの液晶モニタの限界を感じ始めるだろう。そこから本格的な普及期が始まる可能性はあるし、もちろん、ゲーム以外の用途、例えば3D映画やバーチャルフィギュアといった方向から普及する可能性も高い。

 いずれにしても、現時点で「十分に使えるレベルの立体視ソリューション」が存在し、しかも、そのために万全の調整が行なわれたゲームタイトルが存在するというのは多くのユーザーにとって面白い状況と言えるだろう。まずはこの「バイオハザード5」を立体視で楽しんでみるかどうか、皆さんも検討してみると良いだろう。


(2009年 9月 17日)

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