【連載第61回】韓国最新オンラインゲームレポート

KGDA/KOCCA、韓国最大のゲーム開発者向けカンファレンス「KGC2009」を開催
ゲームエンジン系セッションが盛況。韓国市場の未来展望やブラウザゲームの最新動向も

10月7日~9日開催(現地時間)

会場:COEX

入場料:100,000ウォン(約7,600円)


 韓国ゲーム開発者協会(KGDA)と韓国コンテンツ振興院(KOCCA)は10月7日から9日の3日間、ソウル市江南区に位置するコンベンションホールCOEXにおいて、「Korea Game Conference 2009」(以下、KGC2009)を開催した。

 「KGC2009」は今年で9年目を迎える韓国の開発者カンファレンス。韓国のオンラインゲーム開発を先導するクリエイターたちの話を聞ける貴重な場である。「KGC2009」ではCRYTEK GmbH CEO&PresidentのCevat Yerli氏による基調講演をはじめ、Epic GamesのUnreal Engine 3.0に関する講演やAMD、INTELによる講演など、計98個の講演が行なわれた。その殆どは、オンラインゲームに重点が置かれた講演である。ゲーム市場に占める割合のほとんどがオンラインゲームである韓国だからこその特徴である。

 「MMORPGの新しい方向性」では、日本ではネクソンがサービスする「アトランティカ」の開発者nDoors CTOのキム・テゴン氏が、「アトランティカ」がどういう思考で開発されたかを基に、新しいMMORPGの設計について語られた。また、韓国においてブラウザゲームのビジネスを行なっているジョアラ CEOのイ・スヒ氏による「2010年韓国ブラウザゲームの影響」では、韓国のブラウザゲームの事情を聞くことができた。本稿では「KGC2009」の模様とこの2つの講演の内容を中心に紹介したい。



■ 韓国にも「CRY ENGINE 3」や「Unreal Engine 3.0」など欧米のゲームエンジンが本格上陸か?

会場には多くの人たちが集まり、例年以上の盛り上がりを見せていた

 2005年から2008年までの「KGC」は韓国最大のゲームショウ「G-Star」と連携した形で同じ会場で開催されてきた。しかし、今年の「G-Star 2009」は、韓国第2の都市釜山市のBEXCOで開催が決定されるために、「KGC2009」は単独で開催されることになった。

 釜山市には「KGC」と同じく、「ICON」という開発者向けカンファレンスが毎年開催されている。2つの開発者カンファレンスを釜山市で開催するのは非効率なため、「KGC」は単独で開催されることになったわけだ。一方、「ICON 2009」は、「G-Star 2009」と連携して11月26日から29日まで釜山市にて開催される。

 単独で開催された「KGC2009」は、会期日程を従来の2日間開催から3日間に拡大し、デベロッパーたちのブースの設置、採用相談会、KGCアワードといったイベントを設けるなど、より大きい規模で開催された。会場では業界関係者をはじめ、ゲーム開発者を目指す学生たちの姿も多く見られた。

 「KGC 2009」では4つの基調講演が用意された。初日の7日にはCRYTEK GmbH CEO&PresidentのCevat Yerli氏による「Future of Gaming Graphics」と、XLGAMES CEOのソン・ジェギョン氏による「MMORPG “変化する世界”」が行なわれ、9日にはnDOORS CTOのキム・テゴン氏による「MMORPGの新しい方向性」と、NHN Games C9 studio PDのキム・デイル氏とAMD Global ISV Relations DirectorのNeal Robison氏による「Hyperrealism Graphic with DirectX & Tessellation」が行なわれた。

 今回の「KGC 2009」の特徴は、CRYTEKやEpic Gamesによるゲームエンジンに関する講演が多かったということだ。これはとりもなおさず、韓国におけるゲームエンジンのニーズの高まりを示しており、「CRY ENGINE 3」と「Unreal Engine 3.0」の技術セッションには高い注目が集まっていた。実は韓国では去年の11月にCRYTEKの韓国法人が、今年の6月にはEpic Gamesの韓国法人が設立された。両社ともオンラインゲームデベロッパー向けにゲームエンジンの販売やテクニカルサポートを行なうためである。

 CRYTEKは初日の7日にメディア向けに記者会見を儲け、韓国向けにオンラインFPSゲームを開発中ということを明かした。ゲームの内容については一切非公開で、「プロジェクトW」というプロジェクト名だけ公開された。2010年に韓国で初めて公開するという。

 一方、日本のスピーカーたちも「KGC2009」に参加した。IGDA日本代表の新清士氏は「技術革新が作り出す新しいゲームトレンドと今後10年のゲーム産業の展望」という主題で講演を行なった。他にもセガの伊藤周氏、ユードー代表取締役社長のdj nagureo氏などが参加した。


基調講演を行なったCRYTEK GmbH CEO&PresidentのCevat Yerli氏。「CRY ENGINE」を通じて最新3Dグラフィックスについて説明した

日本から参加した講師のひとりであるIGDA日本代表の新清士氏。新氏は「iPhoneやFacebook、Twitterの成功を見れば、ゲーム事業はオープンであるほど強いことがわかります。多くの開発者たちを集めることができるからです。その多くの開発者たちが生み出した99%はイマイチですが、1%はこれまでの市場を大きく変える破壊力を持っています」と述べ、仕様のオープン化の重要性を強調した



■ ゲームの革新が必要! 「アトランティカ」のキム・テゴン氏が語る新しいMMORPGの作り方

nDOORS CTOのキム・テゴン氏

 「アトランティカ」は韓国のnDOORSが開発したMMORPGだ。ターン制の戦闘方法が特徴のゲームで、日本でも人気の高いタイトルである。その「アトランティカ」の開発を総括したのがnDOORS CTOのキム・テゴン氏である。

 キム氏はまず、飽和状態に至った韓国オンラインゲームゲーム市場について説明した。2008年の韓国オンラインゲーム市場は2兆6,922億ウォン(約2,046億円)で、正式サービスを行なっているタイトルは、レーティング審査を通過しているゲームだけで約1,200タイトルに及ぶという。

 オンラインゲームの人気ランキングに目を移すと、「AION」を除くと殆ど3~4年以上前のタイトルが多く、2009年にサービスを開始したタイトルで新しくランクインしたタイトルは存在しない。韓国のオンラインゲーム市場ではユーザーが新しいゲームへ移動しない傾向が強い。

 キム氏は新しいゲームへ移行しない理由ついて次のように述べた。

 「映画や、本、パッケージゲームは1回か数回利用すれば飽きます。しかし、オンラインゲームは、ユーザーが自分たちで何かをし続けられる限り永遠に続けることができる。オンラインゲームは、ユーザー自身がやりたい遊びを創造できる1つの“ツール”。自分が使い込んだ“ツール”を変えることは難しい。新旧の互換性もありません。新作に移行するということは、自分が今までやったを全部捨てるということを意味します。仮に移行する場合、ゲームのルール、UI、マップ、様々な情報を学習し直さなければならない。キャラクターも1から育成する必要がある。こうした負担を嫌うためユーザーは新作に移動しない」という。

 そういった問題点を抱えつつも新作を成功させるには、1年に1,200も及ぶタイトルの中でも注目される何かが必要で、また、今までのゲームには魅力を感じられなかったユーザーにアピールできるゲームの革新が必要だという。過去のゲームと競争するわけではなく、新しいユーザーのニーズに合わせたゲームが必要ということだ。

 さらには、ユーザーに多くの学習を押し付けることになるため、ある程度の制限は必要だという。注目される新しい要素だけを取り入れつつ、その他のところはユーザーがすぐ馴染めることができる従来のゲーム性を守ることが大事というわけだ。キム氏は「ユーザーたちは常に新しい要素を要求する意見が多いが、実際にその新しい要素を入れすぎてしまうとユーザー数が減ってしまいます。新しい要素と従来の要素のバランスを考えた革新が必要です」と述べた。

 キム氏は“新しすぎない革新”のためには、素材的なものとゲームシステム的なものを挙げた。素材的なものについては、皆が既に知っている知識をゲームに応用することを挙げた。実物の歴史や、人物、地理などを応用することである。プレイするユーザーはすでに知っているものがゲームで映し出されることによって親しみを感じやすくなる。キム氏が手がけた「アトランティカ」も実際の大陸、都市、遺跡などをゲームの舞台として作られた。ただ、この方法だと、歴史的、政治的、宗教的に問題が起こる可能性が高いので、注意が必要だという。


韓国市場は飽和状態。ランキングを見ても最近ヒットしたのは2008年12月の「AION」(NCsoft)ぐらい
「アトランティカ」は現実の様々なイベントをゲームでも応用できて、ゲームのプロモーションにも効果的だという
「アトランティカ」では、ターン制バトルが、大規模のユーザー同士の戦闘には不向きだという弱点を克服するために、時間制限を付けたり、戦闘中でもユーザーやモンスター乱入可能といった手を使ったという


■ 韓国ブラウザゲーム事情も紹介。ウェブ向けの開発人事が混乱で自社開発が難しい

ジョアラ CEOのイ・スヒ氏
現在、韓国では6つのブラウザゲームが開発されている。SonoVが開発中の「ベルニカニックス」はMMORPG版とブラウザゲーム版が同時開発され、連動要素もあるという

 韓国開発のブラウザゲーム「ウェブ 魔法の大陸」をパブリッシングするジョアラ CEOのイ・スヒ氏は「2010年韓国ブラウザゲームの影響」という講演を行なった。

 韓国のブラウザゲームの歴史は1999年にサービスされたテキストベースのブラウザゲーム「Archmage」から始まる。当初の人気は凄まじく、同時接続者7万5千人を叩き出したが、開発&サービス元の資金難でサービスが終了された。韓国ではサービス終了されたが、今は北米のファンたちによって「The Reincarnation」というタイトルでサービスは継続している。

 「Archmage」以降、人気を集めたのは2006年に韓国サービスが開始されたドイツGameforgeが開発した「O-game」だ。しかし、韓国内で正式サービスを行なうわけでもなく、同年の12月には韓国とのインターネット網に障害が生じて急激にユーザー数を減らした。

 その後、韓国ではブラウザゲームはこれといった注目を集めてなかったが、去年の9月からサービスを開始した中国SunGroundの「ドラゴンクルセイド」がいきなり大ヒットし、韓国メーカーがようやく注目し始めたという。現在は「ドラゴンクルセイド」と今年の5月からサービスを開始したドイツInnogamesの「Tribal Wars」が韓国ブラウザゲーム市場を殆ど独占しており、売り上げ規模は年間30億ウォン(約2億2,000万円)程度だという。

 こうした中、2009年末からは韓国大手もブラウザゲーム事業に本格参入していく。CJ Internetは約30タイトルの中国ブラウザゲームを契約し、ブラウザゲームポータルサイトを準備中である。NexonやNCSoftも同じくブラウザゲームポータルサイトを今年末から来年の頭に開始する予定だという。

 ただ、殆どのタイトルが中国や欧米の開発のもので、韓国開発のタイトルはまだまだ少ない。イ氏は「韓国で自社開発するためには、ブラウザゲーム向けの開発者がまだ少ない。輸入によってブラウザゲーム市場が大きくなれば、ブラウザゲームを勉強する開発者たちが増えてその問題は解決するだろう」と述べた。

 オンラインゲームは世界トップクラスの市場規模を誇る韓国だが、ブラウザゲーム市場は中国どころか、日本に比べても極めて小さい市場だ。韓国のブラウザゲーム市場は今始まったところで、どういう成長を見せるかは未知数である。大手の参加で来年からは韓国ブラウザゲーム市場に激しい変化が期待されるところだ。

多くの大手メーカーがブラウザゲーム事業を始めようとする。 中国Shandaは韓国Gravityの「ラグナロクオンライン」のブラウザゲーム版を開発中だ

(2009年 10月 14日)

[Reported by DongSoo“Luie”Han]