【連載第7回】開発者が語るiPhoneゲームの最先端

iPhone Spotlight Report

「In App Purchase」をいち早く導入した「DDR S+」
KONAMIのプロデューサー廣田氏にインタビュー

 世界中でブームを起こし、携帯電話市場を一変させたiPhoneは、新たなゲームプラットフォームとしても注目を集めている。本連載では、iPhoneゲーム開発者へのインタビューから、最新のトレンドや魅力を探っていく。



10月20日 収録


指を足のように動かし、矢印に合わせて画面をタッチしていく

 株式会社コナミデジタルエンタテインメントは、100万ダウンロードを突破したiPhone用音楽ゲーム「ダンスダンスレボリューション S(以下、DDR S)」シリーズの新作「ダンスダンスレボリューション S+(以下、DDR S+)」の配信を10月より開始した。本作はiPhone OS 3.0の目玉機能の1つである「In App Purchase(アプリ内課金)」を利用し、楽曲を追加購入できる機能が搭載されている。

 そこで今回、In App Purchaseで楽曲を配信してみた感触や、今後の展開などについて、同社のモバイルコンテンツプロダクション制作グループでプロデューサーを務める廣田竜平氏にお話を伺った。




■ iPhoneで「DDR S」を開発することになった経緯

廣田竜平氏。KONAMIでiPhoneを含むモバイルゲームを手がけている

――廣田さんがこれまで携わってきたゲームについて教えてください。

廣田竜平氏: 昔はアーケードゲームの「ギターフリークス」や「ドラムマニア」など、音楽シミュレーションを開発してきました。現在は、PCのオンラインゲーム、モバイルゲームの開発に携わっています。2008年からiPhoneゲームアプリの制作も始めています。

――iPhoneで「DDR」を作ることになった経緯を教えてください。

廣田氏: iPhoneが出た時に「DDR」を楽しむのに最適な端末だと感じました。iPhoneは携帯型音楽プレイヤーとしての一面もあるため、当然、iPhoneユーザーには、音楽好きな方がたくさんいらっしゃいます。「DDR」は音楽を楽しむゲームですので、その点ではiPhoneユーザーの方々にも気軽に受け入れてもらえて、楽しんでもらえると思いました。

――実際に販売して、どんな方々に受け入れられましたか?

廣田氏: App Storeのレビューを見る限り、これまでに「DDR」を遊んだことがなく、普段から音楽を聴いている方に楽しんでいただけています。iPhoneはゲーム専用機ではないので、ゲームユーザー以外の方が多くいらっしゃいます。そういった層にも支持され、おかげで「DDR」ファンの裾野を広げることに成功しました。

――どのくらいの割合で新規ユーザーを獲得できたと感じていますか?

廣田氏: 正確な数値はわかりませんが、今までのプラットフォームと比べて、間違いなく多いと感じています。コンシューマーゲーム機では、既存のユーザーに支持される傾向が強かったのですが、今回iPhoneで初めて「DDR」を遊ぶという人が増えて新鮮でした。普段はゲームをやらない層にも普及できたのは、iPhoneだからだと思います。

――ファン層拡大に繋げるほか、本作を開発することになった理由はありますか?

廣田氏: 全面タッチパネルだということも理由のひとつです。以前にもタッチパネルのデバイスはありましたが、iPhoneの場合は複数点を同時にタッチできるので、「DDR」を移植するのに適してしました。iPhoneでしたら2本指を使って画面をタッチするだけでできますし、片方を押したまま、もう一方で別の矢印をタッチするなど、いわゆる「DDR」の足でやる動きを指で簡単に再現できます。タッチする矢印ボタンの見た目も画面に描画できるので、アーケード版の「DDR」に近い形で表現して、直感的に遊べるようにしてあります。

――指で「DDR」をプレイする上で、気をつけたことはありますか?

廣田氏: 矢印ボタンの位置で何度も試行錯誤しました。ユーザーの皆さんも感じたところかも知れませんが、画面の矢印が流れてくるところに、指をタッチする矢印ボタンがあるために、プレイ中は指で隠れてしまい見えにくくなってしまいます。開発中には矢印ボタンの位置を変えてみたり、上の矢印部分をタッチする形にしてみたりと、いろいろと検討しました。最終的にはオーソドックスに「DDR」のイメージを崩さない形で現在の配置になりました。

――実際、iPhoneのゲームを作ってみていかがでしたか?

廣田氏: 我々は、様々な機種の携帯電話用ゲームを開発していますが、端末の容量や通信速度を意識しながら開発してきました。その中でも、iPhoneは携帯電話というより、携帯ゲーム機に近いと感じています。PCM音源がフルに使えて、音楽を生音で再生できる上に、デバイス的にも遊びやすいものが作れましたので、まさに「DDR」にはうってつけの端末です。

――加速度センサーを使った「シェイクモード」はどういう発想から生まれたのですか?

廣田氏: 「DDR」の移植にあたって、iPhoneならではの要素を取り入れようと検討してみた結果、「シェイクモード」が誕生しました。ユーザーの皆さんは手で振って遊ぶイメージを持っているかと思いますが、実際はiPhoneを手に持った状態で自分の体を動かして遊べるように作ってあります。体を前後左右に動かしたり、ジャンプをすると、そのとおりに反応するようになっています。

――まるでダンスをするような感覚で楽しめるのですね。

廣田氏: 実際に体を大きく動かしてやっている方はほとんどいないと思いますが、制作側の狙いとしては、体を動かして遊んでところにあります。チャレンジしてみてください。


「シェイクモード」は加速度センサーを利用したもので、iPhoneならではのモードだiPhone本体を前後左右に振ってプレイするが、アーケード版のように体を動かしてもOK2つの矢印が並んで登場した時には、タイミングよくジャンプする



■ 「In App Purchase」はコンテンツ次第。今後の展開に期待

――「DDR S+」での楽曲販売は、「DDR S」の開発当初から構想はあったのでしょうか?

「DDR S+」に搭載された「DDR Store」では、好きな楽曲を購入して楽しめる

廣田氏: 楽曲配信自体はiPhone版の「DDR」のみならず、「DDR」シリーズを通してチャレンジしてみたいことのひとつでした。iPhone OS 3.0の新機能に「In App Purchase」が搭載されたので、即座に開発に取りかかり、今回リリースすることになりました。

――「DDR S」をバージョンアップして楽曲購入機能を搭載しなかったのには、何か理由があるのですか?

廣田氏: 今まで「DDR S」をお買い上げいただいていないお客様にも、お手軽に「DDR」を手にしていただこうと思い、あえてシンプルな「DDR S+」を用意することにしました。我々は「DDR S+」をある意味「プレーヤー」として位置付けています。プレーヤーを極力お求めやすい価格でご提供し、追加楽曲でアプリを充実させようと考えています。

――その頃は、無料アプリからの「In App Purchase」がまだできない時期でした。先日可能になりましたが、もしLite版から楽曲の有料追加が可能であれば検討していましたか?

廣田氏: その可能性はありましたね。WWDCでも「無料アプリから利用できないのか?」という、あるデベロッパーからの質問に対して、会場から拍手が湧いてました(笑)。

――Lite版は100万人以上がダウンロードしていますが、「In App Purchase」の機能が導入されれば利用される方も多いのでは?

廣田氏: バージョンアップだとランキングに影響しないので、お客様に気付いてもらえない可能性があります。とはいえメーカーとしては、今後に向けて色々な可能性を検討していきたいと思っています。

――無料アプリからの「In App Purchase」の導入によって、今後のiPhone市場に変化はあると思いますか?

廣田氏: 今後、無料アプリに「In App Purchase」の機能を搭載したものは増えてくるでしょうね。もちろん、いままで通り高い付加価値のものを、それなりの価格で提供するという方法も残るとは思いますが、まずは裾野を広げるという意味では、無料アプリは効果的だと思います。オンラインゲームも基本無料でアイテム課金が常識になりつつありますから。




■ 追加楽曲は「DDR」シリーズの人気曲を中心に毎月配信予定

楽曲は、3曲230円、5曲350円のセット販売となっている。11月19日には追加楽曲も配信されている

――楽曲はどのくらいのペースで増やしていく予定ですか?

廣田氏: 毎月20曲くらいは出していきたいと思っています。現在、配信しているような楽曲パックだけでなく、1曲づつ購入できるようにもする予定です。CDのアルバムとシングルのような関係ですね。

――どんな曲を追加する予定ですか? その中に新曲もありますか?

廣田氏: まずは「DDR」シリーズの人気のある曲を中心にセレクトしています。中には昔からのファンには懐かしい曲もありますので、楽しみにしていてください。新曲に限らず、常にファンの皆さまのニーズにお答えしていきたいと思っています。

――いろいろな曲を追加していくのは楽しそうですね。

廣田氏: お客さま自身がカスタマイズして、自分だけのライブラリを作っていただくというスタイルを考えています。自分の好きな曲をバイキング感覚で買って欲しいですね。そういった点も含めてユーザーに優しいところを目指して検討しています。Appleの認可がありますので、具体的な日はわかりませんが、できるだけ早くにお出しできるようにいたします。

――楽曲の追加以外に、キャラクターなどを追加する予定はありますか?

廣田氏: これも、いろいろな可能性を模索しています。お客様とともにこのコンテンツを育てていきたいと思っていますので、ぜひ皆さまの要望をぶつけてください!

――追加の楽曲の購入価格が3~5曲で230~350円の設定になっていますが、この価格設定はどのように決められたのですか?

廣田氏: iTunes Music Store で販売している楽曲の価格を参考にしつつ、気軽に購入できる価格に設定しました。

――実際に販売してみて、売り上げを含めた手応えはいかがでしょうか?

廣田氏: まだ手応えを感じるには期間が短すぎますが、ファンの皆さまに大きな期待を寄せていただいていることは実感しています。皆さまの期待に沿えるよう、この「DDR S+」というコンテンツを大事に育てていきたいですね。

――iPhone OS 3.0ではiPhoneに入れている音楽のライブラリーをゲームに利用できる機能が追加されていますが、今後の「DDR」でそのような仕組みを取り入れたものは出てきますか?

廣田氏: お客様含め、皆に同じことを聞かれます(笑)。ただ、今回の機能はライブラリーの音楽を再生できるだけで、データそのものを扱えるわけではないのです。データの中身を見られればいろいろと可能性は広がるのですが……。アップルさん、ぜひともご検討ください。




■ アイコンも販売戦略の重要な要素

「DDR S+」の配信当初、アイコンは矢印だったが、今はロゴデザインに変更されている

――「DDR S+」のアイコンが、配信当初は矢印になっていたのは何か意味があるのでしょうか?

廣田氏: アイコンは、将来的にいろんな「DDR」シリーズが出た時、上向きの矢印だけではなく、横向き、下向きと全部揃えて、ちょうどゲームの矢印オブジェのように、メニューの中で並べてもらおうといった狙いがありました(笑)。ただ「DDR S+」単独では意図が伝わりづらいことから、再考した結果、先日の楽曲追加のタイミングで、ロゴをデザインしたものに変更しました。今後、シリーズを出したタイミングで、また矢印アイコンに変更するのもありかと思っています。

――最近は、アイコンのデザインも販売戦力の上で重要な要素のひとつにもなっていると聞きますが、いかがでしょうか?

廣田氏: アイコンの持つ意味も大きいと思います。アプリの内容を表現する重要な要素のひとつですし、メニューでアイコンを並べて格好いいものにして、なるべくメニューの左側のページに置いてもらえるようにしたいです。実際、アイコンもひとつの戦略として捉えているメーカーもあり、アイコンのデザインを変えるだけでダウンロード数が変わるという情報もあります。我々も今回、シンプルなものからデザイン的なものに変更した結果、楽曲の追加と合わせて好評価へと繋がる結果となりました。




■ 今後もユーザーの意見を取り入れバージョンアップ!

――Lite版は100万ダウンロードを突破しましたが、いま現在どのくらい増えたのでしょうか?

廣田氏: 正確な数字はお伝えできないのですが、今でも確実に増えてはいます。まだまだiPhoneの端末数が増えているからではないでしょうか。市場が大きくなることは大歓迎です。

――App Storeでのレビュー数が他と比べて桁違いに多いのですが、ゲーム開発の参考にされているのでしょうか?

廣田氏: 実際に反映しています。「DDR S」では、Lite版のレビューに書いてあったお客様からのリクエストを反映し、調整しながら作っていきました。Lite版でいただいた多くのご意見があったからこそ、「DDR S」が評価されるものになったといっても過言ではありません。

――ユーザーの声を反映しながら開発していった結果はいかがでしたか?

廣田氏: お客様の評価にそのまま繋がっていきましたので、非常によかったです。1回出したらそれまでというよりは、要望に対してお答えしていくことによって、長く愛されるアプリになると思っていますし、そういう市場なのだろうと感じています。実は「DDR S+」で追加したものに、ゲームの途中でいつでもやめてリトライできる機能があるのですが、これもお客様の要望によって誕生しました。

――ユーザーの意見を取り入れながらバージョンアップしていくのは、オンラインゲームに近いものがありますね。

廣田氏: オンラインゲームの運営とは違うところもありますが、コンシューマーゲームのように、1回出したら直せないというものではなく、バージョンアップしたものを配信できる環境があります。新たな機能が欲しいというお客様からの声や、開発側が欲しいと思った提案があれば、アップグレードする可能性もあります。いま明確に何かというのはお伝えできないのですが、やはり出したままではいけない市場だと感じていますので、今後もユーザーの意見を反映していきます。


ゲームプレイ中に画面上部から下へ指をスライドさせるとシャッターを下ろすことができ、いつでもゲームを終了できる



■ 今後のラインナップにはカジュアルなものも登場

今後は移植タイトルだけでなく、カジュアルゲームなども幅広く展開していきたいという

――今後の展開やラインナップもお聞かせください。

廣田氏: もちろん今後もiPhoneアプリに力を注いでいきます。今まで弊社のアプリにはなかったようなカジュアルなゲームも予定しています。iPhoneをご利用のお客様の特性上、簡単でお求めやすく、ちょっとした合間に遊べるものというニーズもありますので。

――KONAMI人気作からの移植と、カジュアルの2本立てでいくのでしょうか?

廣田氏: 必ずしもカジュアルなものだけを増やすということではありません。新しく、かつ非常に注目されている市場ですので、いろんなことにチャレンジしていきたいですね。

――iPhoneならではの機能を活かしたゲームも出てくる可能性はあるわけですか?

廣田氏: あります。これまで我々は十字キーとボタンの文化でゲームを作ってきましたが、それをそのままiPhoneに移植しても、大きな成功はつかめないと思います。iPhoneというデバイスを活かし、iPhoneの利用シーンに合わせたアプリを作っていきたいですね。

――年末までに、どのくらいのアプリをリリースする予定ですか?

廣田氏: 具体的な数はお伝えできないのですが、今冬に向けて複数の作品の準備を整えていますので、ご期待ください!

――最後にこれを読んでいる読者や、御社のユーザーに向けてメッセージをお願いいたします。

廣田氏: 「DDR S+」では、皆さまに末永く遊んでいただけるよう、楽曲をどんどん追加してまいりますので、ぜひご期待ください。またKONAMIでは、今後とも新しいトレンドや新しい機能を取り入れたアプリをリリースしていきますので、こちらも楽しみにお待ちください!

――本日はありがとうございました。


(C)2009 Konami Digital Entertainment

(2009年 11月 24日)

[Reported by 川村和弘]