警官とマフィアの葛藤の中、任務を遂行せよ!
- ジャンル:
- オープンワールドアクション
- 発売元:
- 開発元:
- United Front Games
- UNITED FRONT GAMES
- プラットフォーム:
- PS3
- Xbox 360
- WIN
- 価格:
- 7,980円
- (PS3 / Xbox 360)
- オープン
- (WIN)
- 発売日:
- 2012年9月27日
- プレイ人数:
- 1人
- レーティング:
- CERO:Z(18歳以上のみ対応)
スクウェア・エニックスの「スリーピングドッグス 香港秘密警察」は、香港を舞台としたオープンワールドアクションだ。プレーヤーは潜入捜査官ウェイ・シェンとなり、香港のマフィア・トライアドの1つ「サン・オン・イー」に深く関わっていく。
目がくらむほどのきらびやかなネオン、コンクリートむき出しの街並みに、やかましい売り子の声、建物の裏側はボロボロ……本作は香港ならではの猥雑な雰囲気を見事に再現している。そのカオスな街で、仲間を欺き“裏切り者”として任務を果たしていくウェイはどんな道を進んでいくのか。ストーリーにグッと引き込まれる作品だ。
■ 目指すはトライアド壊滅、グルメも楽しめるリアルな香港
主人公ウェイ・シェン。警官という正体を隠し、トライアドに潜入する |
道路を塞ぐようにつきだしたネオンの看板は香港ならではの光景だ |
トライアド最大のサン・オン・イーの使い走りをしているジャッキー。ウェイの幼なじみであり、気のいい奴だ |
ウェイ・シェンはアメリカから、1つの目的を持って生まれ故郷である香港に帰ってきた。彼は麻薬中毒で死んでしまった姉の死の真相を探り、そしてその死をもたらしたトライアドを壊滅させるために潜入捜査官に志願したのだ。ウェイは幼なじみであり、いまはトライアドで最大の組織「サン・オン・イー」の使い走りをしているジャッキー・マーとの再会をきっかけに、組織に潜入していく。
香港は人口700万人を超えるアジアを代表する世界都市だ。古くから貿易港として栄え、1842年にイギリスの植民地となったが、1997年に中国に返還され、今は特別行政区となっている。現在も世界中の企業が集う国際都市である。「スリーピングドッグス 香港秘密警察」はこの香港を舞台としたオープンワールドアクションである。プレイしていくことで、香港の様々な“顔”が見えてくる。
本作の香港はかなりリアルに、そして猥雑に描かれている。全体的にごみごみしており、路地裏は汚い。住居やビルはコンクリートむき出しで、不粋な鉄格子がはまっていて、クーラーの室外機やパイプなども景観を全く無視している。きらびやかなネオンや、高級地の贅沢さとの落差などもきちんと描かれている。香港、台北、上海などにも行った経験から見ても、本作はアジアの都市特有の特徴をうまく描き出していると感じた。「Grand Theft Auto」シリーズの都市とはひと味違う、本作ならではの味わいが表現されている。
また、「スリーピングドッグス 香港秘密警察」では、食事をすることで攻撃ダメージの増加や、敵からのダメージを減少する効果がもたらされる。ミッションの前や、戦闘前には食事は必須となっている。食事といってもレストランの本格的なものではなく、屋台や茶店、コンビニエンスストアでの軽い物なのだが、これが「香港食べ歩き」という感じで楽しい。肉まんから、魚肉の焼き串、カレー味の魚肉団子、鴨のロースト、スポーツ飲料、アイス、漢方茶など実に様々で、地域によってメニューが変化したりもする。さまざまな点で、“香港”を満喫できる作品となっているのだ。
本作のメインストーリーでウェイは、サン・オン・イーでの存在感を示していく。ジャッキーと共に身を寄せた下部組織のリーダー“ウィンストン”は、縄張りの拡大を狙う“ドッグ・アイズ”が率いるチームと一触即発の関係にある。ドッグ・アイズはウェイの姉の交際相手だったという因縁もある。ドッグ・アイズはサン・オン・イーのある幹部の後ろ盾を得ているといい、執拗にこちらを挑発してくる。
警察側の人物では、上司の“ペンドリュー”はサン・オン・イーをつぶすために、時には冷酷な命令も出してくる。どこか不気味なところも感じさせる人物である。ペンドリューの部下であり実際の指示を出すレイモンドは潜入そのものに懐疑的で、ウェイにとっては頭が固くやりにくい相手だ。さらにウェイは女性捜査官のテン警部補と協力し、麻薬捜査などトライアドが関わる犯罪そのものをつぶす事も行なっていく。
ウェイの力と、ストイックな魅力、そして組織への忠誠心は、組織の中での地位を向上させていく。トライアドとして名声を得ていくウェイは、しかし捜査官である事を忘れてはいない。仲間の信任が厚くなるほどに、仲間を裏切る葛藤は強くなり、それは悪夢となって寝ているウェイを苦しめている。彼はどうなっていくのか、プレーヤーとしてストーリーに引き込まれる。香港と、ストーリーに大きな魅力を持つ作品だ。
左から、底が見えないペンドリュー、下部組織のリーダーウィンストン、真面目なテン警部補 | ||
屋台での食事は様々なプラス効果をもたらす。戦闘前には必須だ。食べ歩きとしても楽しい | ||
場所によって様々な顔を見せる。香港の街の雰囲気をきちんと現わしていると感じた |
■ カンフーアクションで敵を蹴散らせ! カーアクション、フリーランニングも充実
多数の敵に囲まれるシーンが多い。カンフーアクションで戦っていく |
敵を一撃で倒せる「フリースタイルフィニッシュ」。演出が派手だ |
ミッションをこなすことで経験値を得て、レベルアップしていく |
「スリーピングドッグス 香港秘密警察」は世界観とストーリーに加え、もう1つの大きな柱を持つ。それが“アクション”だ。特に香港ならではの格闘アクションが楽しい。パンチ、キックにつかみ技を簡単操作で出すことができ、カウンターで敵を迎撃する。複数の敵を格闘でなぎ倒していくのは爽快だ。格闘要素は本作のメインと言える。
そして、地形を利用したド派手な「フリースタイルフィニッシュ」は過激な演出もあり、本作を象徴するシステムだ。むき出しの電源板に押しつけて感電させたり、シャッターの間にはさんだり、ガラス瓶のケースの上に投げ下ろしたり、敵をつかみ赤く点滅している場所まで持って行くことで発動できる。敵を一撃でノックダウンさせるため、数が多い敵を減らすときにとても有効だ。
ガンアクションももちろんあり、カバーアクションから障害物を乗り越える時に“スローモーション(バレットタイム)”が発動する。発動中は結果として銃弾に体を晒してしまうことになるが、使いどころを考えれば次々と敵を倒せる。派手なアクションと共に敵に銃弾をたたき込むのは、香港アクション映画そのままだ。
カーチェイスなどの時はタイヤを撃つだけで敵車は簡単に吹っ飛ぶ。いささか現実離れした部分ではあるが、タイヤを連続して撃ち抜くことで次々と車が吹っ飛び爆発するというド派手なシーンが現出する。さらに走行中の車に飛び移り、車を奪うことすらできる。ハイスピードでカーチェイスを繰り広げ、並み居る敵をタイヤを撃って蹴散らし、ターゲットの車に飛び乗って捕まえるといった展開もある。ウェイのアクションは超人的な物が多く、ゲーム全体が爽快感重視のバランスになっている。
成長要素も多彩だ。本作には「カリスマレベル」、「警察レベル」、「トライアドレベル」があり、ミッションをこなしていくとそれぞれに経験値が入り、レベルが上昇していく。レベルが上がるとスキルツリーからスキルの習得が可能で、格闘のダメージを上げたり、カーアクション時の車での体当たりを強化することもできる。警察レベルの経験値は、ミッション中に一般人を傷つけると減少してしまうので注意したい。また、ゲーム内マネーを貯めていくことで服や車両を買うことができる。服はセット効果のあるものがあり、車両はレースに挑戦できるようになる。
成長要素で特に楽しいのが「カンフー道場」だ。カンフー道場は十二支の置物があったが、これらは全て散逸してしまっている。十二支の置物は様々なところに隠されており、これを探し出し、カンフー道場に持って行くことで、新たな格闘技を教えてもらえるのだ。敵の足を折って周囲をひるませたり、相手をスタンさせる技、さらにスタンした敵に強力な打撃をたたき込むこともできる。
本作ではミッションはもちろん、サブミッションでも大量の敵と格闘で戦う場合が多い。最初は慣れずにボコボコにされてしまうことも多いが、ゲームのリズムを覚え、パワーアップしてくると、10人の敵を相手にしても戦えるようになる。「こいつはフリースタイルフィニッシュで、こいつは気絶させそこから大ダメージだ。敵に囲まれないように移動しつつカウンターを狙おう……」といったようにどんどん戦いに習熟してくる。香港名物で腹ごしらえしてから道場で覚えた新技を使いに、敵のたまり場を襲撃する、といったプレイもとても楽しい。
さらに、フリーランニング要素も本作の魅力的なアクションである。とにかく本作の敵は逃げる。ウェイは彼等を追いかけるため、壁を上り、テーブルを飛び越え、通行人の波をかき分けて走る。屋台街や港など、香港らしい人と物に溢れている場所でのチェイスが多く、物は散乱するは、人は悲鳴を上げるはの大騒ぎ。ここでも“香港”ならではの魅力を感じることができるのである。
本作の大きな特徴が格闘要素。敵を拳で打ち倒していくのは爽快だ。右はファイトクラブ。敵を倒すことで賞金が得られる | ||
ド派手なフリースタイルフィニッシュ。かなり過激なものもある | ||
レベルアップによって得られるポイントで、様々なアクションを入手していく | ||
カンフーは香港中にある像を見つけることで技を増やすことができる | ||
フリーランニング要素もたっぷり。本作の敵は健脚揃いで、派手なチェイスを繰り広げる |
■ 警官とトライアドで揺れるシリアスなメインストーリーと、ハチャメチャなサブミッション
ついに正体がばれたか!? 絶体絶命のシーンだ |
観光バスを煽って、客を奪う。このバスに乗っていたらどうしよう、と思わせるミッション |
仲間を裏切る葛藤は、悪夢となってウェイを襲う |
「スリーピングドッグス 香港秘密警察」は多彩なメインミッション、サブミッションが楽しめる。メインミッションはサン・オン・イーでまかせられた仕事をこなしていく。ショバ代の回収から、ドックアイズに寝返ろうとしている奴への脅しなど、最初はいかにもチンピラのような仕事だが、だんだん大きな仕事もまかせられるようになっていく。
ウェイの活躍に刺激され、ジャッキーも偽物時計を奪ってさばこうとするなど、ウィンストンのチームの活動も活発になっていく。街を流す観光バスの利権を得るため、ドックアイズのバスを煽って止め、客を奪うといったミッションもある。奪った後も、ドックアイズの部下が車でガンガンぶつかってくるカーチェイスとなる。もしこのバスの客だったらとんでもないなあ、と思ってしまったミッションだ。
ウィンストンの部下にはかつて潜入捜査官がいたようで、ふらりと現われた凄腕のウェイに疑いを向ける者もいる。1度はあわや、という目にも遭うが何とかやり過ごす。このままストーリーが進むとどうなるだろうと、ググッと引き込まれていく。また、ウィンストンはレストランを切り盛りする母親がいるのだが、常に肉切り包丁を振り回すかなり怖そうな女性で、リーダーであるウィンストンが唯一頭が上がらない人物なのが面白い。
一方、警察関連のミッションでは、出回っているドラッグなど、香港の暗部に向き合っていくこととなる。警察のミッションでは、現実の社会問題も関連しているだろうなと“社会派”なところも感じさせる。ドラッグに関してはメインミッションだけでなく、サブミッションとしても街の様々な場所で不良集団と戦い、監視カメラをハッキングして売人を特定していく。一般の警官ではできないような強引な方法で街の浄化も行なっていくのだ。
潜入捜査というと暗く、裏切りに満ちたストーリーを予感させるが、「スリーピングドッグス 香港秘密警察」では陰惨なストーリーが続くと言うより、むしろ頼れるアウトローとして“ギャングスター”気分が味わえる部分が強い。“頼れる腕きき”として街の人々や仲間から扱われていくのだ。しかしいつばれるかわからない危うさ、仲間への信頼と警官としての葛藤もきちんと描かれており、さらにサン・オン・イーの権力抗争も大きくなっていく。ウェイはその中でどう立ち回っていくのか、筆者はいつしか夢中になってゲームを進めてしまった。是非多くの人にこのストーリーにのめり込む感覚を味わって欲しい。
サブミッションは道場の像の収集、麻薬捜査の他に、各地にある体力のやしろを見つけることで体力の最大値を増やすことができ、金庫を見つけることで資金を増やせる。像ややしろ、金庫はマップの様々な場所にあり、隠されているところもある。面白いのは、メインミッション中に知り合った女の子とデートすることで、これらの要素をマップに表示できるようになるところだ。ウェイは結構モテモテだ。デートシーンではミニゲームの“カラオケ”に挑戦できる場面もあり、真面目に歌を歌うウェイの姿はいつものハードな雰囲気とは異なり、面白い。ちなみにカラオケのスコアは、レースや各ミッション同様、ランキングで世界中のプレーヤーと競える。
この他、通行人からいきなりサブミッションを依頼されることもある。道で困っている女性がいて、近付くといきなり男が走り寄ってきて後ろから一撃を食らわされ、財布をかっぱらわれる、というのが2つもあるのは驚いた。保険金目当てでクルマを海にダイブさせたり、タガが外れたミッションが多い。特に「カルビン」という人物は、「ちょっと待っててくれ」というなり、警官を殴ったり、無茶苦茶な行動をして、「よし、逃げるから車を運転してくれ」といってくる。ウェイは何もしていないのにパトカーに追いかけ回される羽目になる。こういったハチャメチャさも本作は持っているのだ。
「スリーピングドッグス 香港秘密警察」は難易度もそれほど高くなく、メインのストーリーはシリアスで、様々なやり込み要素もある。何よりやはり、“香港”が満喫できるのが楽しい。他のオープンワールドゲームとはひと味違う作品である。ぜひチェックしてもらいたい。
(2012年 9月 25日)