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【特別企画】ホビージャパンのTCG「ラストクロニクル」がもたらした“新しさ”

基本プレイ無料、オンラインサービス、様々な新挑戦で得た人気

12月11日、最新ブースターパック「天空編IV」発売

価格:1パック300円(税別)

 ホビージャパンの「ラストクロニクル」は“基本プレイ無料”を打ち出したユニークなトレーディングカードゲーム(TCG)だ。基本のカードが入った「スターターデッキ」を店頭で配布、基本的なプレイはそのデッキだけで可能なのだ。

 ビジネスは「ブースターパック」で行なう。「ラストクロニクル」は3カ月に1度ブースターパックを発売し、新しいカード、ゲーム要素を盛り込んでいく。さらにブースターパックと同時にストーリーにフォーカスした「ハンドブック」も販売し、ゲームを盛り上げていった。さらに同じカード内容を「ラストクロニクル オンライン」でも展開していった。

 基本プレイ無料のTCG、TCGのオンライン展開は、どちらもホビージャパンでは初めてのチャレンジだった。このチャレンジは好評を博し12月11日には第10弾となるブースターパック「天空編IV」が発売され、サービスは3年目を迎えようとしている。

 今回のインタビューでは、「ラストクロニクル」の成功に関して、本作で行なったの施策と、ゲームの基本的な要素と魅力、そして最新ブースターパック「天空編IV」の内容などを「ダンジョンズ&ドラゴンズ」のインタビューに引き続き、ホビージャパン開発課営業担当の上田明氏と、伏見義行氏に話を聞いた。

基本プレイ無料のカードゲーム「ラストクロニクル」。基本セットを店頭で配布

ホビージャパン開発課営業担当の上田明氏
同じく伏見義行氏
左の黒い箱が店頭にある「ラストクロニクル」の基本パック。無料で配布されている
カード。美しいイラストと、様々な情報が書き込まれている
「ラストクロニクル オンライン」のプレイ画面

 「ラストクロニクル」は“ハイターゲット層”に向けて企画され、2013年から展開している。「ポケットモンスター」や「遊戯王」といった低年齢層も視野に入れたTCGではなく、「マジック・ザ・ギャザリング」のような、“大人向け”を意識した作品だ。

 本作を展開するにあたり、ホビージャパンは初めての挑戦となる“基本プレイ無料”というビジネスモデルを打ち出した。販売店に基本セットというべき「スターターデッキ」を置き、無料でユーザーに配布したのだ。オンラインゲームの“基本プレイ無料”のような展開を、TCGで行なったのである。そしてビジネスはブースターパックを販売していくというビジネスモデルを採用した。この方法は大きく受け、店によっては「お1人様1セットまで」という制限をかけることもあったという。

 さらにニコニコアプリで「ラストクロニクル オンライン」も展開し、オンラインを通じても楽しめる。ユーザーから高い評価を得て、現在、3カ月に1度ブースターパックを発売している。本作は硬派な“剣と魔法の世界”をベースにしており、5つの勢力が世界の覇権を狙い戦う地が舞台となっている。各カードには「フレーバーテキスト」という世界観を膨らませる文章が書かれており雰囲気を盛り上げる。さらに各ブースターにはバックストーリーが用意されており、物語が展開していく。

 ゲーム性も奥深いものを目指している。「ラストクロニクル」では“時代”という概念があり、プレーヤーそれぞれがゲーム進行の中で時代を進めていく。時代を進めないと使えないユニットやカード能力、時代で効果が変わるものもある。早い時代で強いデッキ、時代を進めることで強くなるデッキといった戦略性を持っている。どの時代で戦うかも大きな駆け引きの要素がある。

 カードは様々なものがあるが、手札を「ソウルストーンとする」ことで“ソウル”というリソースに変換される。リソースを生み出すソウルストーンへの変換は、すべてのカードで使用できるのでどう使うかも重要となる。リソースの少ない序盤で強いがコストの高いカードが来てももてあましてしまう場合は、リソースとして使ってしまうのも有効だ。時代を進めるのにもそのために蓄積したカードを使っていくが、時代が進んだときに1枚だけ手札に戻せるというルールも用意されている。

 また本作で登場する5つの国(勢力)はそのまま色となっている。「マジック・ザ・ギャザリング」同様、どの色を使うか、何色使うかもデッキを組む上で悩ませられる。単純に強いカードを集めるだけでは勝てない奥深さが、「ラストクロニクル」のセールスポイントだ。「ラストクロニクル」ではTCGの強豪プレーヤーも開発に参加しており、様々なゲームを参考にしながら、自分たちのゲームを練り上げていったとのことだ。

 デッキを組み、使い方を考える。スピードを重視したり、強いカードやコンボを幹に戦略を練ったりとTCGはこの駆け引きが楽しいが、「ラストクロニクル」は時代やリソースの使い方などで他のゲーム以上に奥深い戦いが楽しめる。一方で初心者にとってはハードルが高いゲームである。このためニコニコで取上げ解説させるなど間口を広げる活動も行なっているとのことだ。

 ホビージャパンは「ラストクロニクル オンライン」も展開している。こちらも基本プレイは無料で、ブースターパックを購入する部分が課金となる。また毎日開催されている「デイリートーナメント」も参加費が必要となる。デイリートーナメントは勝つと賞品がもらえ、さらに1カ月に1度開催される「マンスリートーナメント」に出場できる権利をもらえる。さらに「チャンピオンシップ」というより大きな大会も用意されている。

 「ラストクロニクル オンライン」は店舗より広い範囲で、手軽に対戦相手が見つけられるのが魅力だ。ユーザーはオンラインだけという人も多いが、店舗やイベントでのトーナメントを目指し、自分のデッキのバランスを試すために参加しているコアユーザーも少なくないとのことだ。

 「ラストクロニクル」の“スターターデッキの無料配布”というのは思い切った戦略だ。ホビージャパンでも「ラストクロニクル」が初めての試みであり、TCGのオンライン展開も初めてだったという。無料配布に関しては、以前に他社が冊子状態で配布し、ユーザーが切り離してカード・スリーブに入れることで、カードゲームとして使えるという形で展開を行なった事例があるが、ホビージャパンはそこからさらに一歩進め、販売されているのと同じ実際のカードでの配布を行なった。

 この戦略がうまくいき、最初の配布分はすぐになくなり、店からは「再配布はいつになるか」という問い合わせが殺到した。その結果ブースターパックの順調な売り上げにも繋がり、そして現在までの人気を獲得できたのだ。

「天空編」の“完結”であり、“完成”となる新ブースターパック「天空編IV」

 12月11日に発売される「天空編IV」はブースターパックの第10弾となる。ブースターが発売されると同時に「ハンドブック」というムック本を発売し、世界観やバックストーリーを説明していくが、。現在進行中の「天空編」では、突如現われた「新世界レムリアナ」に5つの勢力がそれぞれの思惑を持って活動していく。「天空編IV」は天空編での最終章であり、物語はクライマックスを迎える。

12月11日より発売されるブースターパック「天空編IV」
魅力的な姫のカード
イベントでの風景

 「ラストクロニクル」は、カードの5つのカラーがそれぞれ5つの勢力を現わしている。「白輝の聖王国グランドール」、「暁の大地ガイラント」、「紫雲の天園ゼフィロン」、「黒の魔王国バストリア」、「水と神秘の皇国イースラ」という5つの勢力がぶつかり合うアトランティカ大陸が物語の舞台となる。

 これまでのブースターパックでは5つの勢力の英雄達や、災厄をもたらす「災害獣」、歴史に干渉しようとする神々の登場などが描かれていった。2015年から展開している「天空編」では突如アトランティカ大陸上空に空に浮かぶ大陸、「新世界レムリアナ」が現われ各国に衝撃を与える。天空編はこの新世界を巡る物語が描かれていったのだ。

 天空編の物語での大きな鍵は「姫」という存在だ。姫達は「天空編II」で初登場し、この姫達がそれぞれ軍を率いて「新世界レムリアナ」に向かうという展開になっていた。天空編のラストエピソードとなる「天空編IV」ではその結末が描かれるという。

 姫達のカードは、イラストレーターが力を入れて女性キャラクターを描いており、コレクションとしても人気の高いカードとなる。カードに関しては公式ページでも情報を公開し、イラストを楽しめるだけではなく、物語の展開、そしてもちろん「組み合わせてどう戦うか」を考えさせるようになっている。

 これまで天空編では、「I」で「新世界レムリアナ」の登場とそれに対するストーリーが描かれ、「II」で各国の姫が軍を率いてレムリアナへ進軍していく様子が描かれた。「III」では島にある“遺産”をめぐり2人のキャラクターが対決するという、姫達の物語の“裏”で進行する物語が描かれた。

 これらの物語を受けた形で。「IV」は展開していく。「IV」では恐ろしい災厄に立ち向かうため、「III」で対立していた“白い勇者”と“黒い騎士”が和解する姿もカードで描かれるとのことだ。

 「天空編IV」での目玉は姫達を描いたカードや、白い勇者と黒い騎士のカードがある。「II」では「進攻値」という新たなポイントが提示された。「IV」では、姫や進攻値といった「天空編」で盛り込まれた新要素をさらに膨らませる要素が導入される。「天空編IV」で新要素導入のさらなるバランス調整が行なわれるという解釈もできる。これらの要素が戦いでどう影響してくるかが、発売後の楽しみな部分だ。

 今回のブースターで「天空編」が完成を迎え、完成度の上がったルールでの対決が楽しめるようになる「ラストクロニクル」でが、これまでのバランスはどうなのだろうか? 「マジック・ザ・ギャザリング」ではゲームのバランスが崩れたり、強すぎることで「使用禁止」になるカードがあった。長く遊ばれる中、新旧様々なカードをが混じるTCGではこのバランスを調整するのは非常に難しく感じる。

 上田氏は「制限や禁止カードをできるだけ出さない、というのが開発部の目標でした。それでも大会のレギュレーション全体で8種の枚数制限カードと、1種の禁止カードがでています。とはいえ、2年続きカード種類が1,300を越えているTCGでこの枚数で抑えられているのは、かなりがんばっていると言えると思います(なお、通常カードにはすべて、ホロ加工の「プレミアム版」がある)」と答えた。伏見氏は「今後は禁止や制限が掛かるようなカードは出さず、できるだけ今まで全てのカードが使えるゲームであり続けたいと思っています」とコメントした。

 「ラストクロニクル」は“奥行き”はあるが、カード自体の取り回しはそれほど難しくなく、直感的にもプレイできる間口の広さがあると上田氏は語った。何度かプレイするだけでコツがつかめ、対戦の入り口に立てる。最初にできるだけ難しいというイメージを与えないように販売側で気を使い、その上でコミックを導入部とする小冊子や、公式サイトでのカードの検索・閲覧、ショートストーリーノベルなどでもゲームをアピールしているとのことだ。

 このため、イベントでもトーナメントを行ないその奥深さを提示するだけでなく、ざっくばらんに対戦ができる空間、イベントに参加すれば誰かと遊べる、という雰囲気作りを大事にしている。トーナメントは一大イベントではあるけれども、来場者はその観戦だけではなく、カードに触れ、対戦が楽しめるということを大事にしていると上田氏は語った。もちろんイラストレーターのサイン会や、実況ゲーマーの公開生放送などゲームのファンを広げる活動も行なっている。“強さ”だけを提示しないように気を使っているという。

 また「コラボレーション」もユーザーの裾野を広げる上での重要な戦略だという。「ラストクロニクル」は独自のファンタジー世界と、濃いストーリー展開をウリにしているが、「他の世界から英雄を呼び出すことができる」という概念も導入している。これまでも「アーサー王」や「ヘラクレス」といった英雄達が登場している。

 これまでもエクスペリエンスのXbox 360やPS Vita向けに発売されたRPG「剣の街の異邦人」のキャラクターがカード化されるといったコラボレーションもあった。天空編の次に来る2016年にかけてのシリーズ「陽光編」では、さらに大型のコラボレーションを予定しているという。

 「ラストクロニクル」では開発者達も前面に出し、ファンとの交流も行なっている。開発者達の多くは「マジック・ザ・ギャザリング」のプロプレーヤーでもあり、彼らのファンも多く、そういった所での注目も強い。「マジック・ザ・ギャザリング」を知り抜いた開発者が、日本ならではのゲーム要素や雰囲気を加えて「ラストクロニクル」を作ったという所も本作の大きな魅力だと伏見氏は語った。

 「ラストクロニクル」はホビージャパンで初めてのオリジナルTCGだ。まず「基本プレイ無料」を打ち出した大胆なビジネスモデル、オンラインでの展開と、大きな挑戦を行ない、硬派な世界観にキャラクター性も盛り込み、ゲーム性もこだわって作られている。これだけ力が入っている作品が3年目はどんな展開になるか期待がかかる。次の「陽光編」では新しい展開を迎えるとのことで、注目したい。

【天空編IV】
公式ページでは、11月よりカード情報を公開している

(勝田哲也)