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盲目の少女の成長を描く新感覚アドベンチャーXbox One「Beyond Eyes」
音や風、匂いを頼りに冒険! 想像が見事なファンタジーを生み出す
(2015/6/19 19:04)
今年もE3の数々の大作、期待作に恵まれたが、もっとも心に残ったという点で特筆したいのが「Beyond Eyes」だ。tiger&squidという独立系のデベロッパーがID@Xboxプログラムを利用して開発を進めているアドベンチャーゲームで、その演出の素晴らしさと、その演出に抜群の説得力を与えるストーリーが強く心に残った。Xbox OneとPC向けに2015年リリース予定で、デジタルダウンロードでの提供となる。価格や日本での発売は未定。
「Beyond Eyes」は、Raeと呼ばれる盲目の少女を主人公にしたアドベンチャーゲーム。このゲームは、3人称視点でRaeを描いた視点が基本となるが、風景は彼女の周囲しか描かれない。水彩画のようなパステルタッチのビジュアルと、彼女の周囲以外がほとんど真っ白に塗りつぶされた特異なゲーム画面が特徴的だ。
このビジュアルは、彼女の想像を視覚化したもので、視覚以外の感覚を駆使して空間を認識し、風景を作り上げていく。基本的なオブジェクトとして雑草や木々が描かれるが、それは風によって音が聞こえるからで、音や風で関知する度に、彼女の想像による風景が描き加えられていく。
唸らされたのは、描画されている風景は、あくまで彼女の限定された知識や経験に基づくものであり、正しいとは限らないところだ。たとえば水の音を聞くと、彼女は噴水しか知らないため、噴水が描かれるが、近くまでいくと匂いを認識し、それが下水の排水溝だと気づき、そのビジュアルに差し替わる。あるいは布がすれる音は洗濯物だと認識するが、実は案山子で、その周りにはカラスがいるなど、少女が脳内で描いた風景をたくみにゲームとして取り入れているところが素晴らしい。
出不精で人見知りな彼女にとっては、Naniという名の猫が唯一の友達だが、このNaniがいなくなってしまったことから、彼女は1人でNaniを捜す旅に出ることを決意する。
ゲームには6つのチャプターがあり、それぞれ舞台が異なるという。シーンによってビジュアルが暗かったり、逆に明るくなったりしているが、それはすべて彼女の心理状態の反映であり、彼女は初めて来た場所でよくわからず恐怖を感じていると暗くなり、逆に嬉しいことが起こるとビジュアルが明るくなり、現実とは異なるファンタジックな風景が描かれる。ファンタジックといっても、ディズニー映画のようになるわけではなく、お花畑が描かれる程度だが、彼女のムードがビジュアルに反映されるという点もユニークだ。
デモの後半に見せて貰った雨のステージでは、雨音で周囲の音がかき消され、風も届かない。ハーバーのある海辺だったが、時折沖合にいる船が汽笛を発すると、そこだけポッと船が描かれ、それ以外は基本的に真っ白だ。ひたすらもの悲しい風景だと感じたが、そうしたなか、猫の鳴き声が聞こえ、彼女はその声を頼りに歩みを進めていく。非常に切ないが、どうなるのかとても気になる、そういう気持ちにさせられたゲームだ。
ちなみに彼女は悲しくなったり、恐怖を感じたりすることはあっても、悲劇的な結末を迎え、ゲームオーバーになるようなことはないという。会話による謎解きもなく、あくまで個性的なビジュアルによる冒険と、いくつかのヒントを鍵としたパズル的なチャレンジがゲームとしての柱になっており、彼女が経験を積むことによって恐怖を克服し、世界の認知を広げていく。この彼女の成長を助けるのがゲームの主な目的となる。
デモ終了後、クリエイティブディレクターのSherida Halatoe氏に対して、筆者はやや遠慮しながら、このゲームの主題、つまり遊び手に伝えたいメッセージを聞いてみた。なぜなら、あまりにこのゲームは悲しいシーンが多く、楽しいゲームには思えなかったからだ。するとHalatoe氏はまったくためらいなくキッパリと「誰でも自分の道を、自分の人生をコントロールできるということを伝えたい」と力強く答えてくれた。筆者はこの想定外の回答に、ゲームというストーリーテリングの器に、そのような強い想いを載せようと考えるクリエイターが出てきたのかと目が開かれるような思いがした。このゲームは是が非でもクリアまで遊んでみたい。