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【GDC 2013】色々あったけどやっぱり気になる「シムシティ」

開発の中心人物たちが語るポストモーテム ~アート編~

3月25日~29日開催(現地時間)

会場:San Francisco Moscone Center

 3月7日にリリースされるや、相次ぐサーバートラブルが大きな話題になってしまった「シムシティ」。期待していた人ほどひどい目に遭うという残念なローンチを経て3週間あまりが過ぎた。

 その間ゲームプレイ面でも数々の問題点が指摘され、それを受けて開発元が全力でブラッシュアップ中という状況が現在まで続いている。そのおかげで今では、当初期待されていた内容に実際近づいてきてはいるようだ。

 ファンの高い期待に応えるためにまだまだ進化が続くであろう「シムシティ」だが、改めて考えてみると、やはり特別な存在感のあるゲームではある。

 エージェントベースのシミュレーションで都市まるごと動かそうという、高いポテンシャルを感じるアーキテクチャ。見る者を魅了せずにはいられない、生き生きとしたアートワーク。スムーズスタートと深いやりこみの両側に広がる、ユニークなゲームデザイン。

 GDC 2013では、その「シムシティ」を作り上げたEA MAXISによる3つの講演が行なわれた。登壇者はアート&クリエイティブ・ディレクターのOcean Quigley氏、リード・ゲームデザイナー&クリエイティブ・ディレクターのStone Librande氏、リード・ゲームプレイエンジニアのDan Moskowitz氏の3名である。

 それぞれが1つずつの講演を受け持ち、アート、ゲームデザイン、エンジニアリングと、それぞれの専門分野から「シムシティ」の開発を振り返った。本稿ではまず、Ocean Quigley氏によるアートワーク制作についてのセッション内容をお伝えしていこう。

ビックリするほど厳しいリソース制限! 創意工夫で乗り切ったアート制作

Ocean Quigley氏
「シムシティ」における建物。見た目のよさと、記号性の高さが両立されている
厳しいリソース制限に合わせ、非常に少ないポリゴンで表現

 アート&クリエイティブ・ディレクターのOcean Quigley氏は、「シムシティ」のルック&フィールの構築に非常に深く関与した人物だ。“The Art of SimCity”と題された本公演でQuigley氏は、テクニカルアーティストとしての見地から、このユニークなゲームで求められた様々な要求とその答えを披露した。

 「シムシティ」におけるアート製作の基本思想は、全てのアートにはゲームプレイ上の意味があり、プレーヤーに情報を示すインターフェイスでなければならない、ということだ。例えば建物の小さな部分で展開するアニメーションひとつをとっても、そこには都市運営上の意味が込められており、単なる虚飾はひとつもない。

 逆に言えば、プレーヤーに必要なことがらを伝えるための情報量がアートには必要である。建物のグラフィックは、その建物の役割や、現在の機能状況をひとめで把握できるものでなければならないのだ。

 しかし、都市スケールでグラフィックスを描画する都合上、ひとつの建物に避けるグラフィックスリソースには、テクスチャや頂点数などの面で非常に厳しい制限が課せられる。

 具体的には、「シムシティ」において、1平方メートルあたりに許されるポリゴン数は0.5であったそうだ。例えば、512平方メートルの大型家屋に使えるのは256ポリゴンまで。そのようなローポリゴンで、最新ゲームにふさわしい品質の建物を描かなければならないのである。しかも、ゲームプレイ上の情報を伝えるアニメーションつきで!

 そこで「シムシティ」では、視線方向の変化でテクスチャの見え方が立体的に変わるテクニック、パララックス(視差)マッピングをこれでもかとヘビーユーズしている。

 ゲーム中でそびえたつ大きなビルには無数の窓があり、中の様子を伺うことができるが、このビルの壁はただの扁平なポリゴン1枚で作られている。奥まって見える窓とその奥の構造は、非常に極端な凹凸を持たせたパララックスマッピングで描かれているのだ。建物外部の細かいデコレーションによる凹凸もパララックスマッピングである。

 窓の中のテクスチャは多数のパターンが用意されており、シムの入居状態によって明かりの付け具合が変わるといった、プロシージャルな表示のコントロールもサポート。結果はゲームを見てのとおりとてもうまい具合に機能している。

 道路を走る車も、大量に出てくるものであるため非常にローポリゴンだ。最大ズーム時で310頂点、最小LOD時はなんと16頂点でしかない。車窓の中身はジオメトリ的には全く作られていないかわり、ここでもパララックスマッピングを使って、まるで車の中身がちゃんと窓を通して見えるかのようなVFXを実現している。

パララックスマッピングを最大限に使い、テクスチャーだけで窓や内部の構造を描写している。長年の経験を持つテクニカルアーティストならではの職人的発想だ。
窓枠内のテクスチャには複数パターンが用意。建物の状態に応じて参照テクスチャを切り替え、多彩な状態を記号的に表せるようになっている
「シムシティ」の全乗り物
ジオメトリはとてもシンプルだ
窓部分にパララックスマッピングを適用。内部が立体的に見えるマジック
ライティングとポストプロセスの効果で、とてもリアルに見える

アートワークのアイディア&エンジニアリングの工夫が華麗に融合

大量の木とシムたち
立体的にみえるが、全てビルボードだ.jpg
テクスチャ上にシムのひな形を格納
シムたちの描画素材

 さらに大量に表示されるのが無数の木と、無数のシムたち。ここでは伝統的に良く使われるビルボードのテクニックに一手間を加えて採用している。

 まず、木は視線方向が変化する毎にひな形をテクスチャ上にレンダリングしておく。これを、生えている木のバリエーション数だけ用意し、生えている木の本数に合わせてインスタンス化することで大量のレンダリングを行なっている。

 動きまわるシムたちの描画はもう少し手が込んでいる。あらかじめシムのアニメーションパターンを、立ち止まる、歩く、走るといっシーケンスに絞り込む。それぞれのシーケンスを時間軸に沿って再生しつつ、毎フレーム、全方向のカメラから見たそれをテクスチャバッファに出力して、これをひな形とする。最後に、描画対称のシムの現在角度・アニメーション状態にマッチしたものを切り抜いてビルボードとして出力する、という仕組みだ。

 このせいで、シムのうごきを良く見るとちょっとカクカクした感じになるが、ひとりあたりの描画負荷はとてつもなく低くなる。何千というシムを表示してもゲームはスイスイ動く。

 なお、ビルボードで表現されたシム人には法線マップで擬似的な立体感が与えられている。この立体感はきちんとライティングに反映されるため、夜の風景など陰影がはっきりするシーンなどでは特に、ビルボードとは思えない立体的な表現が実現しているのだ。

 こういったシムの描画まわりの工夫は、アート上の創意と、エンジニアリングの工夫がうまく融合した例といえるだろう。「シムシティ」では他にも道路や地形の描画などで、このようなパズル的工夫が無数に組み合わせられて、印象的な映像が作られている。

 つまるところ、ゲームプレイの要請に対して、アートワークが誠実に応え、ゲームをわかりやすく、遊びやすく、美しくする。Quigley氏の講演で語られたのは、そういうことだった。これこそ、ゲームグラフィックスが果たすべき役割の理想形ではないだろうか。

ライティング、道路、地形、レンダリングと話が続いていった。全体として共通しているのは、エスプリの効いた技術の使い方で「シムシティ」というゲームの特殊な仕様要求を満たしていることだ。橋や地形の描写についてはルールベースの描画システムを作りこむことで柔軟なゲームシステムに応えている。
最後にレンダリングエンジンについて。それなりにリッチではあるが、常識的なテクニックで構成されている。、独特の絵作りに際しては、そもそもの色使いと、アンビエント・オクルージョンや被写界深度表現の使い方の影響が大きいように思える
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(佐藤カフジ)