「マビノギ2:アリーナ」プロデューサー、キム・ドンゴン氏にインタビュー

「マビノギ」の生みの親が提示する、新しいプレーヤーと観客の関係


11月8日~11日開催
 
会場:釜山国際展示場(BEXCO)



 MMORPG「マビノギ」の続編は、数年前から登場を期待されていた。その後登場したその後登場した「マビノギ英雄伝」はゲーム性と時代設定が異なる“外伝”というべき内容だった。そしてついに今回のG-STAR 2012で「マビノギ2:アリーナ」が登場した。しかしこの作品もまた、「マビノギ」の正当な続編と言うよりも、新しい楽しさを提示しようという、ユニークな作品という印象がある。

 今回、本作のプロデューサーを務めるNEXONデブキャットスタジオのキム・ドンゴン氏にインタビューを行なった。キム氏は「マビノギ」と「マビノギ英雄伝」のプロデューサーを務めた「マビノギ」シリーズで最も大きな影響力を持つ人物である。彼はどのような想いで「マビノギ2:アリーナ」を生み出したのだろうか。

 MMO-ARENAとはプレーヤーと観客が楽しめる、新しいオンラインゲームジャンルだという。インタビューでは本作へのキム氏の想い、ゲームの具体的な姿、キム氏ならではの開発への取り組みなどを聞くことができた。



■ 「マビノギ」世界で描かれる神々と人間の物語。バラエティ番組のような対戦

本作のプロデューサーを務めるNEXONデブキャットスタジオのキム・ドンゴン氏
派手で見応えのある戦いが展開する。観客を強く意識した演出は、新しさを感じさせる

 最初にキム氏に質問したのは「マビノギ2:アリーナ」のコンセプトについて。キム氏は「ゲームをプレイして楽しむだけで無く、それ以上の楽しさを提供できるようにしました。それが“観戦”です。本作ではプレイに加え観戦する楽しさ、観客から応援される楽しさという新しい要素をもたらしていきます」と語った。

 観戦できるコンテンツは、今回試遊台で出た“ダンジョン攻略”が基本になるという。さらにチーム対チームで対戦できる対戦コンテンツ、難しい課題にチャレンジする「チャレンジモード」といった要素を考えている。チャレンジーモードに関しては、とても無理な課題を提示し、立候補者を募ったり、手を上げたユーザーを応援することもできる。プレーヤーと観客がセットになったゲーム空間というのが、本作で提示するコンセプトだとキム氏は語った。

 「マビノギ2」は「マビノギ」、「マビノギ英雄伝」とはゲーム性においてはまったく異なるものになる。しかし世界観は「マビノギ」と共有し、神々など登場するキャラクターにも同じ名前の者が現われるという。世界観は同じだが、「マビノギ2」は“アヴァロン”という島が舞台となり、これまでの作品とは全く別の地域となる。時代設定なども現時点ではあきらかにされていない。アヴァロンは神々と人間が一緒にいる世界となる。この世界は人間にとって死後の世界なのか、それとも現実の世界なのか、そう言った部分もぼかされたものとなる。

 「マビノギ2」のキャラクターは「クラス」と「体型」で大きく性能が変化する。クラスは主に武器で変わり、ハンマー、弓、楽器、剣と盾、魔法使いの5種類に、そして体の大小や体型の違いなどでの5タイプを組み合わせることで変わる。「マビノギ」のような種族は設定されていなく、人間のみである。

 ストーリーの提示に関してもこれまでと大きく異なったものとなる。「マビノギ」、「マビノギ英雄伝」は“メインストリーム”というストーリーを追っていくのが全てのプレーヤーの目標となっていたが、「マビノギ2」では強制的にストーリーをプレイの中心に置くわけではなく、ユーザーが積極的に知ろうとすれば得られるが、気にしなければストーリーに触れなくてもプレイを進めていけるという。より戦闘などのコンテンツへの特化、プレイし、観戦するという要素を前面に押し出していくとキム氏は語った。

 本作のコンセプトは、キム氏が幼い頃にプレイしたアーケードゲームの体験が下敷きになっているという。アーケードゲームはお金がないときは人のプレイを見ていた。キム氏がプレイしているときもギャラリーがいて、彼等の存在が緊張感をもたらすと共に、うまくいったときの喜びを大きくさせてくれた。

 「マビノギ2」では、こう言った子供の頃の体験と共に、ゲーム性にもアーケードゲームの要素を活かしている。使用するボタンを少なく、そして日本の横スクロールアクションや、格闘ゲームの要素を多く盛りこんでいったのだという。ちなみにキム氏がプレイしたアーケードゲーム体験は、ゲームセンターはもちろん、学校の行き帰りにある駄菓子屋や文房具屋に置いてあった日本のアーケードゲームで、日本の我々と似たような環境だったとのことだ。

 今回出展されたバージョンでは、ダンジョンの途中にトカゲ型の動物がいて、乗って戦う感触はセガの「ゴールデンアックス」そのものだった。「ゴールデンアックス」はキム氏が大好きなゲームの1つで、オマージュとして取り入れている。また、大きな肉をひろって体力が回復するなどはカプコンの横スクロールアクションを思わせる。「マビノギ2」では様々なアーケードゲームへのオマージュが盛り込まれていくという。

 ダンジョンに関しては観戦者を意識した見応えのある要素を多数用意していくという。最初は薄暗かったダンジョンが攻略が進むと明るくなったり、キャラクターの派手なアクションなど、見ていて楽しくなる要素を盛りこむ。キャラクターが“仮面ライダーのように変身する”要素も盛りこむという。キム氏は「マビノギ」のパラディンでも「仮面ライダーのように変身できる」とコメントしていたが、本当に仮面ライダーが大好きだという。ここもまた、キム氏の大好きなものへのオマージュというわけだ。

 戦闘に関しては、攻撃してくるモンスターの頭の上にはグー、チョキ、パーが表示される。このアイコンに対応する攻撃を行なうことで戦闘が有利に進められる。これは観客に分かりやすくするシステムの1つだという。

 冒険の舞台となるアヴァロンもアーケードゲームのフィールドを思わせる多彩な顔を見せる。大きさだけを見ればMMORPGと比べるとスケールは小さくなるが、アイデアを盛り込んだ多彩なものとなる。そしてアヴァロンは神々が戦う“戦場”であるという点も強調される。「マビノギ」のような牧歌的な世界とは大きく異なる、戦いの世界となっている。

 プレーヤーはアバロンで争う神々のうち、どの神の勢力につくかを選択していく。最初プレーヤーは「マビノギ」にも登場する女神モリアンの勢力についているが、ここから様々な神が提示され、プレーヤーは神を“選択”していく。プレーヤー達の選択によって神の勢力が変化し、その影響でアヴァロンは大きく姿を変えていくという。プレーヤーはゲーム内キャラクターとして神と出会い、交流を深めていき、“好きな神”を選んでいく。神の選択は永続的なものではなく、選び直すことも可能だ。

 「マビノギ」では対戦要素は入っているものの、メインコンテンツではなかった。現在も他のMMORPGのようなギルド戦や攻城戦の要素や、種族間でのシリアスなバランス議論は行われていない。「マビノギ英雄伝」でも対戦はフォーカスされていない。「マビノギ2」ははじめて対戦に特化したゲームになるのだろうか?

 キム氏は「対戦は重要な要素ですが、単純な力比べ、キャラクター同士の戦いのみに特化する内容にはしたくない」と語る。テレビのバラエティ放送のような、見ていて楽しい要素を盛りこんでいくという。思わず笑ってしまうような、殺伐としたものではなく、面白いものにしていく。対戦はチーム対チームだが、他の人から殴られると魔法がかかって動物に変わってしまったり、仲間の中にいるスパイを見つけたり、ユニークな要素を積極的に盛りこんでいく。

 現在テストしているのが「タイタン ショーダウン」という対戦ルールだ。これは巨大なロボットに乗って戦う対戦ルールで、各チームに1台あり、これをどう運用していくのかが戦いの鍵を握る。タイタンはムービーなどにも登場しているが、パワフルな代わりに小回りがきかない。巨大ロボ同士の激突の間で他のチームプレーヤーがどんな活躍ができるかも練っているという。

 チャレンジモードに関しては、コアプレーヤーに特化した「スーパープレイ」を見せるものになる。「もっとうまくゲームをプレイしたい」、「こんなプレイヤーになりたい」と憧れを感じさせる要素を多く盛り込んでいくとのことだ。ハードルの高い課題や、普通のプレイではやらない方法を提示し、そこに挑戦するユーザーをみんなで応援するモードになるということだ。

プレーヤーキャラクター。右下は、「タイタン ショーダウン」のタイタン




■ 実況システム、干渉要素も実装した観戦。初期の「マビノギ」を受け継ぐ世界

巨大ボス登場。観客が盛り上がるシーンだ
セクシーなモリアンのイラスト。ストーリーはゲームの中心ではないということだが、「マビノギ」ファンには彼女がどう描かれるか気になるところだろう

 そして、本作の大きな柱となる「観戦システム」だが、今回の試遊台では体験できなかったが、もちろん開発環境ではすでに稼動しており、様々なシステムがテストされているという。カメラに関しては、実際にプレイしているユーザーと同じ視点でも観戦できるし、観戦用の専用カメラで様々な視点から、プレーヤー達の動向を見ることもできる。さらに「実況システム」が用意されており、プレーヤー達の行動に対して、多彩なメッセージが流れる。

 観戦の参加方法も様々な方法が用意される予定だ。劇場のような空間の巨大スクリーンにコンテンツに挑戦している人達を映し出し観戦を楽しむという方法もある。フレンドリストには「現在コンテンツに挑戦中」というメッセージを表示できるところが有り、そこをクリックすると即座に観戦モードに移行できる。

 観戦中、観客はプレーヤーに様々な働きかけを行うことが可能だ。ポーションを上げて援助したり、倒されてしまったときは「フェニックスの羽」で復活させて上げることもできる。実際にプレーヤー達のコンテンツに飛び入りで参加することまで可能だという。

 観戦はプレーヤー、観客双方にメリットをもたらす。コンテンツを観戦することで観客も経験値などの報酬があり、観戦者が増えるとその報酬はプレーヤーと観客双方で大きくなる。レアアイテムの出現率も上がるという。観客も報酬アイテムが得られ、プレーヤーが観客にアイテムを渡すこともできる。より観客を集めるためにプレーヤーが努力するというモチベーションを持ってもらいたいとキム氏は語った。

 観戦という部分で疑問に感じたのは「プレイの硬直化」である。プレーヤーはボスに関して攻略をし、必勝パターンを作り上げる。これはプレイの硬直化をもたらし、ゲームプレイの楽しさ、観戦する楽しさをスポイルしてしまうのではないか。キム氏は「それは違う」と答えた。コアプレーヤーが生み出した敵との駆け引きや勝利パターンは、観客にとって「こうやれば勝てるのか」という想いをもたらす。プレイの窓口を広げるためにも、ユーザーの攻略と、攻略方法の拡散は望むところだという。

 プレイの硬直化を防ぐもう1つの方法としては、「コンテンツの提供機関を限定する」という方法も採用していく。限られた時間で攻略方法を確立していく、攻略に特化したプレーヤーの観客は必然的に多くなる。週末にしか挑戦できないコンテンツなども用意し、観客が盛り上がる要素も多くしていく。

 次に「マビノギ2」というタイトルに関しての質問をしてみた。「マビノギ」は大作のMMORPGである。非常に広大な世界を持ち、生産を強調しながら多彩な戦闘システムも併せ持ち、多くのダンジョン、さらには交易といったゲームプレイの幅も持っている。「マビノギ2」という名前を聞いたとき、想像したのは「マビノギ」の正当進化版だった。ところが、今回キム氏が提示したのは、限定し、濃い楽しさを追求する作品だと感じた。

 キム氏は大作ではなく、コンセプトをはっきりした作品としたのは「観戦」という新しい挑戦を行なうため、リスクも考えたためだ、と語った。観戦というコンセプトを実現するため、コンテンツ量を小規模にし、手を加えやすいものにするためだという。

 また、「マビノギ」そして、「マビノギ英雄伝」のプロデューサーを務めるキム氏に、「マビノギ2」の登場によって、「マビノギ」と「マビノギ英雄伝」の今後の変化に関しても質問してみた。キム氏は「私達の開発チーム“デブキャットスタジオ”は「マビノギ2」のみを開発していきます。2つのタイトルは監修は行なっていますが、NEXONのLIVEチームが開発を引き継いでおり、私達の手から離れています。2つのタイトルはそれぞれの進化を続けていくと思います」と答えた。

 「マビノギ」、「マビノギ英雄伝」の開発チームがデブキャットからLIVEチームに変わっているということは知っていたが、「マビノギ」がキム氏の手を離れているという話は、筆者にとって意外だった。現在の「マビノギ」は初期のコンセプトから大きく変化しているが、この点に関しては、新しいスタッフ達のアイディアで変化していった世界は、キム氏の考えていた「マビノギ」とは大きく変わったものになったが、ユーザーの要望も受けて進化していった世界だとキム氏は語った。

 一方で、キム氏が「マビノギ」で持っていた初期の世界観、想いは「マビノギ2」でいかされることになる。「マビノギ」初期の世界観、ストーリーの雰囲気が好きだ、という人に関しては「マビノギ2」の世界は大きくな魅力になるとキム氏は語った。

 これからの要素として、キム氏は「マビノギ2」がスタートした後2つの大型アップデートを行なう計画を立てているという。1つは「マビノギ2:タワー」。どこまで続くかわからない、謎の塔を上に、上にと攻略していくコンテンツで、観客と共に果てしない冒険を繰り広げるコンテンツで、チームを組んで挑戦していくという。そして2つめの「マビノギ2:ワールド」はタイトルは構想しているが、内容はまだまだこれからということだ。

 最後にユーザーへのメッセージとしてキム氏は「『マビノギ2』は今までに無いゲームになります。そのための新しい挑戦をしています。根本はゲームに対しての楽しい思い出や共感、経験ですので、プレイをしてみるとわかってもらえると思います。期待して下さい」と語った。


(2012年 11月 10日)

[Reported by 勝田哲也]