新世代ミリタリーTPS「Spec Ops: The Line」プレビュー
人間のモラルと熱風吹きすさぶ砂漠戦を大胆に描いた意欲作


11月21日、22日開催

会場:Take-Two Interactive Asia本社



 Take-Two Interactive Asiaが主催した「Spec Ops: The Line」のプライベートイベントでは、開発元YagerのSenior Game Designerを務めるShawn Frison氏と、パブリッシャーである2K GamesのAssociate Producer Chris Thomas 氏の両氏によるデモンストレーションと最新トレーラーの公開に加えて、実際にゲームをプレイすることができた。早速「Spec Ops: The Line」のファーストインプレッションをお届けしたい。

【「Spec Ops: The Line」最新トレーラー】



■ ドイツ生まれの超リアル系ミリタリーTPS「Spec Ops: The Line」

「Spec Ops: The Line」のデモを行なってくれたYager Senior Game Designer Shawn Frison氏(左)と、2K Games Associate Producer Chris Thomas 氏(右)
ドバイの入り口に侵入者に対する見せしめのために死体が吊されている。第33部隊のテリトリーということだが……
砂嵐で視界がほとんど効かない状態に。この赤く見える描写は、実際の表現を真似たものだという

 「Spec Ops: The Line」のゲームコンセプトは非常に明確だ。世界でも有数の煌びやかな都市ドバイに謎の砂嵐が襲い、都市機能がすべて失われたとしたら、果たしてそこで何が起きるかという、壮大なIFにチャレンジしている。

 ゲームの舞台は、6カ月前に謎の砂嵐によって都市そのものが丸ごと壊滅してしまったドバイ。時代設定は特に明示されておらず、“近未来”としている。砂嵐がドバイを直撃する直前に、ジョン・コンラッド大佐率いる第33部隊が民間人避難支援活動に乗りだしたものの、その任務のさなかで部隊丸ごと消息を絶ってしまう。過去に例のない砂嵐は6カ月が経過後も続き、ドバイは世界から隔絶された状態になってしまう。栄華を誇った豪華な街並みもすべて廃墟と化し、今ではすべてが砂に埋もれてしまっている。

 そうした中、謎の遭難信号がドバイから発信される。これを受け、米軍はエリート特殊部隊デルタ・フォースをドバイに派遣することを決定する。かくしてプレーヤーはデルタ・フォースの部隊長マーティン・ウォーカー大尉として、複数の部下と共に、謎の遭難信号の発信元を突き止めるためにドバイに赴くことになるわけだ。

 しかし、実際にゲームを始めると、砂嵐で壊滅した都市を救援に向かうはずが、ドバイ上空でいきなりヘリ同士の空中戦が展開されたり、肝心のコンラッド大佐らしき人物は、ドバイの高層ビルのひとつのペントハウスで快適な暮らしを享受しているシーンが描かれるなど、米軍が描くストーリーと実情が乖離していることに気づかされる。この謎が謎を呼ぶ見せ方は、このゲームの特徴のひとつだ。

 ゲームはドバイ郊外の砂漠の中から始まり、もともとは道路だったが、現在は砂と大小の車両で埋め尽くされている空間を経てドバイに乗り込むことになる。ドバイに繋がる道の入り口付近で、武装化した難民と遭遇し、予想通り戦闘状態となる。ここからドバイへの道のりはチュートリアルとなっており、ゲームの基本的な移動操作やシューティング操作、そしてTPS特有のカバーリングアクションなどをマスターすることができる。

 ここで「Spec Ops: The Line」の基本的なインターフェイスを説明しておこう。本作のインターフェイスはTPSの王道である「Gears of War」シリーズに準拠しており、カバーリング、乗り越え、ダッシュなどはいずれもワンキーで簡単に行なうことができる。そして「Gears of War」シリーズにはない「Spec Ops: The Line」オリジナル要素として、仲間への指示が可能となっている。ワンキー(Xbox 360ではRBキー)でコマンドモードに移行でき、画面中央に表示される▽マークを任意の敵に合わせることで、味方が対象の敵を適切な攻撃手段でアタックしてくれる。あまり仲間に無理をさせて死亡させるとゲームオーバーとなるが、死亡の前段階として瀕死状態になるため、この状態なら救うことができる。

 「Spec Ops: The Line」はAIの優秀さもウリのひとつとしており、実際の試遊でも適度に自らの安全を確保しながら、遠距離の敵に対してはスナイパーライフルによる射撃、アーマー付きの固定銃座には手榴弾を投げ込むなど、適切なアプローチで敵を攻撃してくれた。部隊指揮のイメージとしては「Brother in Arms」(Ubisoft/Gearbox)シリーズに近い印象を受けた。「Spec Ops: The Line」では1度に1人の敵までしか攻撃対象に指定できないものの、AIが優秀なため、不便は感じなかった。「Gears of War」+「Brother in Arms」というのがチュートリアルをプレイした感じのザックリとしたイメージだ。自らもフルで戦いつつ部隊指揮も行なうというかなり慌ただしいプレイスタイルも可能だし、自らは後方にいて敵は味方まかせというお気楽プレイもある程度は可能な印象だ。

 グラフィックスはUnreal Engine 3.0を採用しており、現行最高水準のクオリティを実現している。とりわけストーリーの中核となっている砂嵐の表現は、いまだかつてないほどリアルで自然なもので、さらに砂嵐の強さの度合いによってエフェクトの量や質も大きく変わるなど、非常にこだわって描かれている。地表のオブジェクトを吹き飛ばすほどの砂嵐ともなると、実際の砂嵐のように視界全体に赤みが掛かり、人やオブジェクトはかろうじてシルエットが判別できる程度の極端に視界の狭い状態となる。ゲームとわかっていながら目を細めたくなるような、とにかく凄まじい画面だ。

 この砂嵐はプレーヤーの判断によって敵にも味方にもなるということで、砂嵐によるゲーム性の変化も本作の大きな特徴のひとつ。常に砂嵐が吹き荒れているだけでなく、降り積もった砂丘を利用してビルにのぼったり、突如、砂丘が陥没して地下に落とされたり、砂が積もったテントを撃つことでトラップとして利用したりなど、常に砂を意識したゲーム展開となる。ただ、ゲームとしての一定の快適さを維持するためか、熱波によって体調に異変が出たり、銃器が故障したり、あるいは砂に足を取られたりといったことはなく、こうした点は普通のFPSと変わりはない。先述したように視界が遮られる程度だ。この視界の制限はゲーム性的にかなりおもしろく、今回は試せなかったが、この砂嵐の中でのマルチプレイはかなり楽しそうだと感じた。

 なお、キャラクターは近年のFPSやTPSでポピュラーなヒットポイント制で、銃撃などの攻撃を受ける度に画面の外周から見えなくなり、次第に画面全体がモノクロになり、さらに射撃を受けると死亡するというもの。そして瀕死のダメージを受けても一定時間待機していると自然回復するというルールだ。


【「Spec Ops: The Line」最新スクリーンショット】
砂丘と高層ビルというドバイの地形をうまく生かしたレベルデザインが特徴的。ビルもかなり高いところまで上ったかと思えば、一気に地表まで下りたりなどかなり高低差がある



■ 謎の砂嵐によって壊滅したドバイ。救援に向かったデルタフォースがそこで見たものとは!?

高層ビルがひしめくメインストリート。砂に埋め尽くされてしまっている
ストーリー重視のゲームであるためか、カットシーンはかなり多い。このシーンはかなりおとなしめだが、本文でも触れたようにかなりエグいシーンも多い
燃えさかるように見える「ブルージュ・オーロラ」。今回のデモではここまで到達することはできなかったが、ストーリー上、重要な役割を果たすことは間違いなさそうだ

 さて、ドバイに侵入し、敵対してくる武装難民と交戦を繰り返しているうちに、第33部隊の一部がまだ生存していることを知る。そしてドバイ中の拡声器を通じて、ストーリーの鍵を握る正体不明の謎の人物である“ラジオマン”に遭遇することになる。彼はラジオを通じて難民に対して第33部隊への投降を呼びかけるが、味方なのか敵なのか、どこにいるのかはわからない。そのうち、無線機からは、CIAのエージェントが拷問を受けている様子が繰り返し流されるようになる。主人公ウォーカー大尉は、これはデルタフォースを帯び寄せる罠だと知りつつも、その現場を突き止めようと、ドバイのビル群を捜索していくことになる。

 このゲームで印象的なのは“情報操作”である。主人公ウォーカーや仲間たちはカットシーンはもちろん、行動中にもよく喋り、自分の想いを口にする。拡声器や無線機からも様々な人物が自らのスタンスを語り続ける。また、フィールドには音声が収録された「インテリジェンス」が残されており、これを通じてドバイの半年前から現在までのバックストーリーを知ることができる。とにかく溢れんばかりに多くの情報が錯綜し、どんどん状況が変化していく。これもまた新感覚だと感じた。

 ゲームに登場する勢力は、主人公マーティン・ウォーカー大尉率いるデルタ・フォース、謎の砂嵐によって武装化した難民達、そして米軍の中でも最も多くの勲章を受けているといわれるコンラッド大佐率いる第33部隊の3つにわかれている。基本ストーリーは、ウォーカー率いるデルタ・フォースが第33部隊と生存している難民を救うというものだったはずだが、実際はドバイは敵だらけで、チャプターが進むと、武装化した難民に加えて、なんと第33部隊までが敵に回る。つまり、「Spec Ops: The Line」では、米軍対ゲリラ/反乱軍/武装難民といった構図に留まらず、米国の正規軍同士の戦闘が展開されることになる。

 体験プレイでは途中いくつかのチャプターを飛ばしながら進んでいったため、細かいストーリー展開はよくわからなかったが、チャプターを進めるうちにとにかく目についたのは死体の多さだ。しかも殺され方が惨い。見せしめに吊された死体や拷問を受けた上で殺された死体、まとめて焼き殺された凄惨な死体現場などなど、目を背けたくなるようなシーンが連続する。そこから見えてくるのは、砂嵐発生後の混沌とした状況と、第33部隊そのものの内紛、そしてコンラッド大佐そのものがドバイに混沌をもたらす首謀者であることが判明する。正直なところ、プレビューの段階で「ここまで謎を明かしていいのか?」とも思ったが、初出のスクリーンショットにも第33部隊が新たなドバイの支配者であることが示されており、おそらくここからさらにストーリーは二転三転するのだろう。

 デモの終盤、チャプター9では、“ドバイの支配者”であるコンラッドと直接コンタクトが取れ、「Spec Ops: The Line」のテーマであるプレーヤーのモラルを試されるシーンを体験することができた。コンラッドはビルの外に民間人と第33部隊兵士の2人の人間を生きたまま吊し上げており、ウォーカーにそのいずれかを殺すことを要求する。民間人のほうは水を盗み、第33部隊の兵士は水を盗んだ民間人を捉えたものの、その民間人の家族5人を殺害してしまった。どちらも有罪であり、そのいずれかを命を持って償わせろというわけだ。

 もちろん、2人を吊している周囲にはスナイパーを配置させており、ウォーカーらデルタフォース部隊も死と隣り合わせの状況となっている。私が決断を逡巡していると、Thomas氏が「どちらも殺さないという選択肢もある」と助け船を出してくれた。スナイパーらと交戦する、あるいは彼らを吊すロープを切って彼らを救出するといった選択があるという。

 筆者はロープを切って2人を救ってみることにした。ゆっくりロープに狙いを付けて撃ち抜くと、捕虜は砂丘に着地し、脱兎のごとく掛けだした。その瞬間、敵のスナイパーが射撃を開始し、短い交戦を経て、敵のスナイパーを撃退することに成功はしたものの、肝心の捕虜は2人ともスナイパーに殺されてしまっていた。筆者自身は2人を救うつもりでロープの切断を選択したが、その結果は無残なものとなってしまった。予想外の結末にショックを受けてしまった。

 Thomas氏は、「この局面は、大枠で言うとコンラッドの命令に従うか否かが問われています。従わなかったから結果として2人は助からなかった上、仲間も危険にさらしてしまった。これは正しい選択だと言えるのか。また、いずれか1人を殺すと、もう1人を助けることができるが、仲間たちの主人公を見る目は確実に変わる。正義とは何なのか、正しい選択とは何なのか。プレーヤーの決断が試されることになります」と解説してくれた。

 Thomas氏によれば、こうしたモラルが問われる局面はこのほかに複数用意されているという。定番のミリタリーものでありながら、これにまでになくディープで陰惨で複雑なストーリーが描かれる。今回のデモ&試遊では、マルチプレイについては一切わからなかったのでゲーム全体としての評価は下せないが、シングルプレイに限って言えば、非常にユニークで、プレイしがいのあるタイトルだと感じた。

 近年、新たなゲームの評価軸として重要視されるリプレイバリューについても、重要な選択によってカットシーンが変化するという点で期待できる。ダークファンタジーならぬ、ダークミリタリーTPSの誕生と言えそうだ。なお、開発者インタビューもお届けする予定なのでお楽しみに。


【Spec Ops: The Line】
こちらはE3 2010で公開されたスクリーンショット。「Spec Ops: The Line」は、ドバイを舞台にしたタクティカルTPS。基本的なバトルスタイルは遮蔽物をうまく利用しながら敵を撃破していくというものだ

□関連情報
【2011年10月3日】2K Games、エイリアンから世界を救う「XCOM」はなんとFPS!
ミリタリーTPS「SPEC OPS: THE LINE」もお披露目
http://game.watch.impress.co.jp/docs/news/20100617_375083.html

(2011年 11月 25日)

[Reported by 中村聖司]