ネクソン&CCP Games、日本初のプレーヤーカンファレンスを開催
ローカライズ体制を一新。「EVE Online」日本市場への再挑戦


10月16日開催

会場:青山スパイラルホール


「EVE Online」のイメージ

 株式会社ネクソンとアイスランドのCCP Gamesは10月16日、日本向けサービスを開始予定のSF MMOG「EVE Online」のプレーヤーカンファレンスを開催した。会場には約100名のプレーヤーが集まり、「EVE Online」クリエイティブディレクターTorfi Frans Olafsson氏によるプレゼンテーションや、プレーヤー間のディスカッションが行なわれた。

 「EVE Online」はアイスランドのゲーム開発企業CCP Gamesが開発・運営するオンラインゲームで、2003年のリリース以来、英語圏を中心としてワールドワイドのサービスを展開してきた。非常にユニークで手応えのある世界観・ゲーム性も相まって、サービス開始以来継続的にユーザー数を伸ばし続けている。月額課金制をとるオンラインゲームの中では数少ない成功例だ。

 最大の特徴は、全プレーヤーが単一のサーバー上でプレイするオンラインゲームになっていること。ゲームの舞台は無数の星系からなる広大な銀河であり、どの国からプレイしても、同じ宇宙である。同時接続数は数万人にも及び、単一のサーバー上での数字としては驚異的だ。その大人数のプレーヤー達が銀河を股にかけて交易・生産・戦争に勤しみ、互いに影響を与え合いながら、EVE宇宙のダイナミクスを作り出している。

 一方、日本では、本作のサービス言語が英語中心であったという経緯もあり、日本国内では知る人ぞ知る存在にとどまっていた。2007年よりソフトバンクBBとの間で日本向けサービスとパッケージ販売を行なう計画が立ち上がったが中途で頓挫。改めて今回、ネクソンとの提携を実現して再度日本への展開を試みるという流れになっている。

 今回、日本で初めて行なわれたユーザーカンファレンスでは、CCP Gamesが「EVE Online」を再び日本向けに展開しようとする理由や、前回の失敗から何が変わったのかといったことなど、本作を知るプレーヤーならば気になる点が語られている。本稿ではそのあたりを中心にお伝えしたい。



■ 「EVE Online」日本再上陸の経緯、ネクソンとの提携

ネクソン 運用部 運用1チームで本作の運営を担当する左留間正之氏。冒頭の挨拶を行なった
米国出張中のため参加できず申し訳ないというCCP Games CEOのHilmar氏。日本のプレーヤーに日本再上陸の経緯を説明した

 CCP Gamesとネクソンの提携は、よくあるゲームデベロッパーとゲームパブリッシャーの「作る」、「売る」という関係では説明できない。CCP Games自身が「EVE Online」のサービスを全世界で成功させてきた運営元でもあるからだ。

 では、敢えて日本のオンラインゲームパブリッシャーと提携した理由は何か。そのあたりはカンファレンス冒頭で流された、CCP GamesのCEO、Hilmar Veigar Petursson氏からのビデオメッセージで説明された。

 「2009年当時、わたしたちは日本のゲームマーケットに対する深い興味と、市場参入に向けての熱い思いを持っていましたが、プロジェクトを進めるうちに3つの点で決定的に準備不足であったことに気づきました」

「1番目に、日本語のように複雑で奥の深い言語を翻訳するためには、もっと優れた現地化プラットフォームが必要であったこと。2番目に、日本のゲーム市場で展開するためには現地パブリッシャーパートナーの協力が必要だったということ。3番目に、広大なEVE宇宙の中で新しいコミュニティを作っていくためには、日本プレーヤーのみなさんのご協力が必要不可欠だということです」

 CCP Gamesでは、日本語へのよりよい対応と、ドイツ語・ロシア語といった既にサポート済みの言語で発生している問題をトータルに解決するための、新しいローカライズ技術「Cerberus (セルベルス)」を開発したという。そのために、2年という長い時間がかかった。しかし、これにより、EVEの複雑性に起因する翻訳上の問題を解決し、ようやくCCP Games自身が満足できる水準の日本語版クライアントを提供する運びになったということだ。

 ビデオの中のHilmar氏は、その準備のために時間がかかり、既存の日本プレーヤーを待たせてしまったことを詫び、その上で、「日本でサービスを提供するべく、最良のパートナーを見つけることにも多くの時間を費やしました」と語る。

 「CCPは一筋縄ではいかない会社です。自分たちの理想を追求するためには一切の妥協を許さず、また、正しいと判断したときには思い切った軌道修正も行ないます。私たちのようなムズカシイ連中とうまく付き合ってくれる会社を探すのは非常に難しいのですが、その意味でも今回ネクソンにパートナーになっていただけたことを非常にうれしく思います」

 これが今回の提携におけるポイントだと言える。CCP Gamesは独自の哲学でゲームを開発し、提供する企業であり、「EVE Online」は全世界にひとつのサーバーで提供されるゲームだ。舵を取るのはCCP Games、ネクソンはその舵取りを助けつつ、「EVE Online」をプレイするためのチャンネルの一部を提供するという補完関係となる。

 またHilmar氏は、日本の熱心なプレーヤーに向けてもメッセージを送った。

 「わたしたちは日本のアクティブタイムに毎日のように熱心にゲームをプレイしてくれる、規模は小さいけれど気高い日本のプレーヤーグループを知っています。何年もの間、この小さな日本のコミュニティがイベントを開いたり、時として0.0宙域で大きな戦果をあげるのを見るたびに、凄くウキウキした気分になります」

「わたしは、ゲームを楽しみながら学習し、さらにその知識を他のプレーヤーに惜しみなく提供し、共有するという日本のプレーヤーの姿勢に深く感動し、感謝しています。暗く危険なEVE宇宙に住み始めたばかりの新人パイロットにとって、ベテランプレーヤーの助言ほどありがたいものはありません」

「初心者のためのコーポレーション(ギルド)、ブログ、Wikiなどなどは、弊社が日本サービスを準備していた何年かの間、EVE宇宙を生き抜いていくための大きな助けだったことは間違いありません。情熱を持ってEVEをプレイしてくださっているプレーヤーのみなさんに、活発でワクワクするような日本のEVEコミュニティをつくっていただけることを願っております」

 「EVE Online」は膨大な情報量と油断ならないダイナミクス、気が遠くなるほどの深みをもつオンラインゲームである。そのようなゲームではコミュニティでの情報・体験の共有が重要となることはHilmar氏の言う通りで、ネクソンによる国内向けサービスが展開されてからは益々コミュニティの重みが増して行くことだろう。

 その意味で、CCP Gamesが「EVE Online」の日本展開にあたり、まず既存ユーザーを集めてのカンファレンスを開いたことには大きな意義が感じられる。続いて、来日したCCP GamesのEVEクリエイティブディレクター、Torfi Frans Olafsson氏によるプレゼンテーション、Q&Aセッション、プレーヤー間のディスカッションが行なわれた。

【CCP Games CEO、Hilmar氏スピーチ】
Hilmar氏は「EVE Online」のローカライズエンジンを大幅に強化したことを紹介しつつ、日本の既存プレーヤーに対して熱いメッセージを贈った



■ クリエイティブディレクター Torfi氏が語る「EVE Online」

「EVE Online」クリエイティブディレクターのTorfi氏
EVE宇宙では無数のコーポレーションが星域を巡って競争を続けている
次期アップデートで弱体化されるというスーパーキャピタル船。小惑星規模の大きさを持つ
Q&Aセッションではネクソンの左留間氏も交え、「EVE Online」の今後についてトークが展開された

 続いて登壇したTorfi氏は、「EVE Online」のゲームデザインを統括する立場から、本作の特徴と開発哲学の紹介を行なった。

 およそ半年毎に大きなアップデートを繰りかえし、常に新鮮なゲームで在り続ける本作の開発哲学は、Torfi氏いわく、「数学に基づいている」という。EVE宇宙は全体として巨大な循環系をなしており、プレーヤーによる生産、流通、消費(戦争)のダイナミクスが常に動き続けている。その動きを分析し、適切なゲームデザインを施してより良いゲームに成長させていくことが根本にある。

 また、一見複雑に見えるEVEの宇宙を統べるルールは、意外と単純であることも語られた。Torfi氏が例に挙げたのは日本でポピュラーなボードゲームである囲碁。これ以上ないほどに単純なルールでありながら、どんな高度なPCゲームよりも複雑なゲームが展開する。EVEでも同じように、単純なルールから複雑で奥深い現象が起こりうるように丁寧にデザインされているのだという。

 Torfi氏はEVE宇宙において「異なるレベルのスケール感」を重視していることを挙げ、来年夏にプレイステーション 3でリリース予定のFPS「DUST 514」にも言及した。本作は「EVE Online」と同じサーバーに接続するゲームで、ただしプレーヤーは惑星上で戦う兵士のひとりひとりをプレイする。兵士たちはEVE宇宙に存在するプレーヤーによるコーポレーションに所属し、傭兵として戦うことができるのだ。兵士ひとりの戦いと、銀河系規模の巨大コーポレーションの戦いがリンクするわけである。

 今後のアップデート方針についても言及されている。今冬に予定されているアップデートでは、「Super Capitarl」クラスに属する船(タイタン級・巨大アライアンスしか所有できない小惑星規模の巨大船)を、ありていにいえば弱体化するという。それを始めとする変更により、日本にも多い少人数のコーポレーションがもっとチャンスを得られるようにしたい、とのことだ。

 プレゼンテーションの終わりには、現在開発中の最新クライアントの様子も紹介された。日本語クライアントといようりは「日本語にも対応したクライアント」という言い方が正確。チャットやアイテム名、船名などは英語のままだが、システム的に提供されているメニューや各種メッセージは余さず日本語化され、美しい日本語フォントで表示されている。ちなみに、次期アップデートで実装予定の、ステーション内部でアバターを操作するシーンも公開された。撮影禁止バージョンであり映像をご紹介できないのが残念な、良い出来だ。

 Q&Aセッションではユーザーから届けられたいくつかの質問に回答が与えられた。まず、既存ユーザーにとって気になる課金システムの変化について。これまでどおりゲームそのものはCCP Gamesから提供されるが、決済はネクソンIDを通じたものとなる。ただし詳細はまだ不明で、ネクソンポイントによるPLEX(月間パイロットライセンス、月額課金制のバックグラウンドとなるアイテム)購入が可能になることは明確にされた 。具体的な詳細については明らかになかったため、別途続報をお届けする。

 次に、「新しい船は登場するか?」という質問。これについては、最近行なわれたコンテストで選ばれたデザインの船を導入する意向だそう。ただし、新しい船がEVE宇宙でユニークな役割を果たせるかどうかがまず重要であるため、そう大量に新種の船を投入するつもりもないようだ。

 また、徒党を組まないソロプレーヤーがメインコンテンツとみなしているPvEコンテンツについて。EVE宇宙では他のMMOのクエストに似た「ミッション」という存在があるが、現時点でのエンドコンテンツとなっている「ワームホール内ミッション」、「インカージョンミッション」の双方ともにさらに質量を拡充していくという。

 Torfi氏はカンファレンスの最後に、ロシア、ドイツに続く特別な言語圏として日本にサービスが展開することで、EVE宇宙に大きな変化があることを期待していると述べた。また、ネクソンで本作の運営を担当する運用1チームの左留間正之氏は、国内サービスの日程を近いうちに発表したいと控えめに述べている。

 年内に予定されているという「EVE Online」の国内向けサービス。現状でもワールドワイド向けに提供されているゲームではあるが、日本語でのアクセスができるようになることで、ぐっと敷居が下がり、プレーヤーの裾野が広がっていくことだろう。その中で今後も、こういったユーザーカンファレンスが継続的に開催されていくことを期待したい。


【Torfi氏プレゼンテーション】
Torfi氏は「EVE Online」の開発哲学、世界観、ダイナミクス、スケール感など、ポイントを押さえつつ解説していった。日本展開への期待もただならぬものがあるようだ

【プレーヤーディスカッション】

イベントの最後に行なわれたプレーヤーディスカッションでは、会場に集まった日本プレーヤー達が「EVE Online」に期待する意見をぶつけあった。ほぼ全員で一致していたのはコミュニティを拡大したいということ。そのためには初心者がドロップアウトしないよう、情報環境を整備していく必要が指摘されていた。その中で、チュートリアルの拡充、日本人コーポレーションをアピールする場や日本人向けフォーラムの開設、日本人チャットチャンネルへのゲーム内での導線といったものが挙げられている。プレーヤー自身が真剣に討論した意見は、CCP Gamesおよびネクソンにもフィードバックされたようだ

【チャリティオークション】
CCP Gamesでは今回のカンファレンスに合わせ、日本の風景を舞台にEVE宇宙の艦船が躍動するCGアートを用意、会場内に展示していた。各作品はその場でオークションにかけられており、イベントの最後に落札結果が発表された。売り上げ総額の16万3,000円と、その同額が改めてCCPから拠出され、計32万6,000円が東日本大震災復興支援のため日本赤十字社に募金されるとのことだ




(C) 2003-2011 CCP hf.

(2011年 10月 18日)

[Reported by 佐藤カフジ]